日本図書館協会では、「図書館における障害を理由とする差別の解消の推進に関するガイドライン」を作成しました。
図書館における障害を理由とする差別の解消の推進に関するガイドライン
公益社団法人日本図書館協会
(製作責任、障害者サービス委員会)
1 基本事項
(1)ガイドラインの目的
(2)ガイドラインの構成
(3)ガイドラインの更新
(4)対象となる図書館
(5)対象となる障害者
(6)対象となる業務、サービス
2 障害を理由とする差別と図書館に求められる対応
(1)障害を理由とする差別とは
(2)社会的障壁を除去するための合理的配慮と基礎的環境整備
(3)差別解消法の考え方と障害者サービスとの関係
(4)図書館における具体的取組み
3 不当な差別的取扱いの禁止
(1)不当な差別的取扱いの禁止と合理的配慮の提供
(2)図書館における不当な差別的取扱いの例
(3)図書館における不当な差別的取扱いにあたらないものの例
(4)図書館における社会的障壁の一例(合理的配慮または基礎的環境整備で対応するものの例)
4 合理的配慮
(1)合理的配慮の考え方
(2)過度な負担の考え方
(3)図書館における合理的配慮の例
5 基礎的環境整備
(1)基礎的環境整備の考え方
(2)職員の資質向上のための研修会
(3)施設設備の整備
(4)読書支援機器
(5)障害者サービス用資料
(6)サービス
(7)アクセシブルな図書館ホームページ・広報等
(8)規則・ルールの修正
6 ガイドライン実施のために必要なこと
(1)相談体制と合理的配慮の判断・調整を行う責任者
(2)都道府県立図書館の役割
(3)障害当事者(家族、支援者を含む)の参加
(4)障害のある職員の活用
用語解説
参考資料
(1)条約、法律等
(2)障害者権利条約と障害者差別解消法を学ぶために
(3)障害者サービスを学ぶために
「障害者の権利に関する条約」(通称「障害者権利条約」、以下「権利条約」という。)とそれを受けて制定された「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(通称「障害者差別解消法」、以下「差別解消法」という。)では、2016年4月から図書館等公的機関に障害者への合理的配慮の提供を義務付けている。(私立図書館などの民間の事業者には努力義務となっているが、差別解消法基本方針(閣議決定)により指定管理によるなどの公立民営の図書館にも合理的配慮の提供が義務となっている)
差別解消法の要点は、障害者を含むあらゆる人が、社会で平等に生きていくことを社会自らが保障することを目的とするもので、「不当な差別的取扱いの禁止」「合理的配慮の提供」「基礎的環境整備」により、障害を理由とする差別の解消を推進するものである。
この法の理念は日本社会の障害者に対するあり方を根本的に変えるものであり、公益社団法人日本図書館協会はその重要性を考え2015年12月「図書館利用における障害者差別の解消に関する宣言」を発表し、その推進に取り組む決意を示した。
しかし、合理的配慮の提供や基礎的環境整備という言葉は聞きなれないものであり、現場で実際にどのようなことが求められ、どのように対応すべきなのか不安の声も聞かれる。そこで、差別や合理的配慮の事例を示し、図書館での具体的な取り組み方法を明らかにすることを目的にこのガイドラインを作成した。
図書館には従来から「図書館利用に障害のある人々へのサービス」(障害者サービス)の実践例がある。これは、誰もが使える図書館に図書館自らが変わっていかなくてはならないという理念で行われてきたもので、権利条約の考え方は真にその活動を裏付けるものとなった。とはいえ、現状で一定水準以上の障害者サービスを実施している図書館はまだまだ少ない。図書館は差別解消法の施行を契機とし、積極的な取り組みを行うとともに、社会に対し範となることが求められている。
また、多くの図書館は地方公共団体に属している。さらに私立図書館も含め、国や地方公共団体が作成する差別解消法に基づく対応要領や対応指針(注1)により規定される。(これらについては参考資料を参照)そこで、本ガイドラインは合理的配慮の提供が義務付けられている公立図書館だけでなく、努力義務とされている私立図書館等を含むすべての図書館が取り組むべき具体的内容を示すものである。
ガイドラインは本文・用語解説・参考資料の三つからなっている。用語解説で説明している語句には注を付けた。また、参考資料に、より詳しいサービス内容が分かるものを挙げた。
ガイドラインは現時点での具体的取組みを示すものである。今後の事例の積み重ね、技術の進歩、社会意識の変化等に応じて適宜修正をしていく。また、実践の中で明らかになる問題点に対応していく。
このガイドラインは、図書館法でいう公立図書館・私立図書館の他、図書館同種の施設等、市民が利用するあらゆる図書館を対象とする。さらに、学校図書館や大学図書館、その他の学校にある図書館・室等も対象とする。
差別解消法で対象となる障害者は、同法第二条第一号では、「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」とされている。したがって、差別解消法が対象とする障害者は、いわゆる障害者手帳の所持者に限らない。また、著作権法第三十七条第三項に基づく障害者登録(注2)を行っている図書館も多いが、本ガイドラインの対象となる障害者はそれに限定されるものではない。
そして、図書館利用に障害のある人(図書館利用の社会的障壁のある人)は上記心身障害者に限らない。心身障害はなくても図書館利用に障害のある人(注3)は多数存在する。
そのため本ガイドラインでは、いわゆる心身障害者を中心に据えながらも、図書館利用に何らかの障害のある人すべてを対象とする。
図書館のすべての業務・サービスが対象となる。図書館サービスについては障害のない人が受けることのできるすべてのサービスが対象で、それらに対等なアクセス(実質的平等)を提供する必要がある。
権利条約第二条で「障害に基づく差別」を次のように定義している。
「障害に基づく差別は、障害に基づくあらゆる区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のあらゆる分野において、他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を認識し、享有し、又は行使することを害し、又は妨げる目的又は効果を有するものをいう。障害に基づく差別には、あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む。)を含む。」
この「障害に基づく差別」つまり「障害に基づくあらゆる区別、排除又は制限」には、障害を理由に直接的に図書館サービスが享受できないこと(明確な差別)の他に、図書館が意識しているかどうかに関わらず結果的に障害を理由に図書館サービスが受けられない状態も含まれる。さらに、「障害に基づく差別」に「合理的配慮の否定を含む」としている。これは合理的配慮の提供が努力目標ではなく、過度な負担ではないにもかかわらず合理的配慮を提供しないことも差別であることを示している。
差別解消法は、この権利条約の「障害に基づく差別」の考え方を基本理念として、第七条と第八条で「障害を理由とする差別」を規定し、その中で「不当な差別的取扱いの禁止」と行政機関に対する「合理的配慮の提供義務」(事業者に対しては努力義務)を定めている。
社会的障壁とは、差別解消法第二条(注4)で、「障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう」と定義されている。
図書館では、多くのルールやシステムが障害者を意識せずに作られてきた結果、障害者にとって社会的障壁となるものを多数持っている。これを除去する方法として、合理的配慮の提供と基礎的環境整備がある。
合理的配慮とは、個々の場面における社会的障壁を除去するための必要かつ合理的な取組みである。
基礎的環境整備とは、障害者が個別に合理的配慮の提供を求めなくてもよいように、あらかじめ施設・設備・サービス・ルール・研修による人材育成等を整備して、不特定多数の障害者が使えるようにしておくことである。
合理的配慮を必要とする障害者が多数見込まれる場合及び長期的な合理的配慮が必要とされる場合には、その都度の合理的配慮の提供ではなく、基礎的環境整備を行うべきである。このことは、中・長期的なコストの削減・効率化につながる。
目指すものは、基礎的環境整備が充実し、個々に合理的配慮の提供を求めずとも、可能な限り多くの障害者の図書館利用が保障されていることである。とはいえ、個々の社会的障壁を完全に除去することは困難であるため、基礎的環境整備で利用を保障できない場合は、合理的配慮の提供により障害者の図書館利用を保障する必要がある。
誰もが使える図書館に図書館自らなる、という考え方は本来図書館の基本的概念である。そして、権利条約や差別解消法の理念はこれと同じものであり、従来の障害者サービスを理論的に裏付けることとなった。つまり、図書館はすでに先進事例を持っているともいえる。
しかしながら前述のように、その障害者サービスの実施率が低いのも事実である。すべての図書館は正しい理念による障害者サービスを実施すると共に、合理的配慮の提供という新たな手法を加え、図書館利用の差別を解消していかなくてはならない。
図書館では具体的に以下のように対応する。
①図書館の規則・サービス等で不当な差別的取扱いに当たるものがある場合、直ちに見直す。また利用者等から指摘を受けた場合も同様である。
②基礎的環境整備としてガイドラインに示されているもの(現在容易に実現可能なものを中心に提示している)を計画的に整備・実施する。
③利用者から図書館利用上の障壁を解消するよう求められた場合、まずは合理的配慮の提供により利用を保障する。多数寄せられた場合はもちろんのこと1回の依頼でも、規則やサービスの整備を進める。
④障害者からの相談に対応する職員を配置する。
⑤障害者からの依頼と合理的配慮の提供に差異が生じた場合に備え、より専門的・総合的に判断・調整ができる職員を配置する。
⑥コミュニケーションを確保するため、手話(注5)・点字・外国語のできる職員の配置、拡大文字・筆談・実物の提示・身振りサイン等による合図・触覚による意思伝達等の方法の取得に努める。
⑦障害ごとの特徴を知り、支援方法を習得する。
⑧図書館を利用していない障害者や図書館のサービス・資料を知らない障害者のために、積極的なPRを行う。また、新たなサービスを展開し多くの障害者に使ってもらえる図書館にする。
障害者に対する不当な差別的取扱いとして、障害を理由にサービスの提供を拒否すること、障害者でない者に対しては付さない条件を付けること等が考えられる。実際の図書館サービスではこのような明確なものは少ないが、結果的に利用を拒否していることがある。(下記事例を参照)いうまでもないがこの不当な差別的取扱いについては、それが分かった時点で速やかに解消しなくてはならない。
正当な理由があればサービスの不提供や障害者に特別の条件を設けることが許されるとされているが、その場合は、個別の事案ごとに十分検討し、正当な理由を利用者に説明し理解を求めなければならない。またその正当な理由が、主に利用者側の原因ではなく図書館側に原因がある場合は、できる限りその解消に努める必要がある。
なお、大活字本の別置・貸出期間の個別の延長のような、「障害者の事実上の平等を促進し又は達成するために必要な特別の措置」は、不当な差別的取扱いには当たらない。
図書館利用上の差別(社会的障壁)を除去する方法として合理的配慮の提供がある。差別解消法は、過度な負担ではなく合理的配慮の提供ができるのにそれを行わないことは差別であるとしている。つまり、過度の負担なく合理的配慮の提供が可能であれば、必ず提供しなければならない。
①障害を理由に入館を拒否する、障害者でない者には付さない物理的・時間的・人的・その他の制限を設ける(エレベーターがないことを理由に入館を拒む。支援者の同行を求める。身体障害者補助犬の来館を拒む等)
②図書館サービスや設備の利用を拒否するまたは何らかの制限を設ける(障害者サービス用資料(注6)を所蔵していないことを理由に利用を拒む。通訳者や家族の同行を求める)。
③各種催しの参加を拒否するまたは何らかの制限を設ける(特定の障害者の参加を断る、手話通訳者の手配ができないことを理由に参加を断る等)
①利用者と利用できる資料やサービスを検討するために個々の障害の状況を確認する。
②手話通訳者等の派遣手続きのため、講演会の申し込み締切を一般よりも前にする。
③個々の配慮にそれなりの時間と人数を要する利用者に対し、事前に来館日時の連絡を求める。または事前に調整を行う。
①新規登録に来館が必要。(来館できない障害者は利用できない)
②窓口貸出と閲覧しか行っていない。(同上)
③大活字本や購入可能な障害者サービス用資料がない(実際に利用できる資料がない)
④障害者サービス用資料の相互貸借を行っていない、職員が知らない(同上)
⑤エレベーターがない、段差があって入れない
⑥案内・サインが分からない、分かりにくい。
⑦職員が困惑した態度で対応する等、利用者に本当は利用してはいけないのだと思わせてしまう。
⑧新規登録の申し込み用紙に性別欄があり、その記入が必須になっている(性同一性障害等のトランスジェンダーの人の利用が困難)
⑨図書館カードに性別欄がある(同上)
3(1)にあるように、図書館利用上の差別(社会的障壁)を除去する方法として合理的配慮の提供がある。そして、合理的配慮の提供が可能であれば、必ず提供しなければならない。
合理的配慮とは、利用者からの依頼により、サービスやルールの必要かつ適当な変更及び調整を行うことで図書館の利用を保障しようとするものである。また、それは過度な負担でないこととされている。ただし、依頼そのものを出せない・出しにくい障害者もいることから、家族等関係者からの依頼にも応じることや、依頼がなくても積極的に合理的配慮を検討すること等、柔軟な対応が必要である。
合理的配慮は、個々の障害者の状況(年齢・性別・障害等)を考え、また、図書館の状況(人員・予算等)を踏まえ、合理的に考えて提供しうる方法で行うものである。
利用者からの依頼通りに合理的配慮を提供することが難しい場合、代替方法を検討する等、何らかの方法で図書館利用が保障できるように工夫する。また、過度な負担であると判断される場合も、利用者と前向きに対話を行い、代替方法を検討する。
合理的配慮の提供に当たっては、その依頼が本来の図書館業務に沿ったものであるかどうかに留意し、図書館事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないことに注意する。
なお、合理的配慮は職員が直接提供するものであるが、個人の責任で提供するものではなく、図書館の組織として判断・対応する。
過度な負担に当たるかどうかは、以下の要素を参考に、利用者の状況や図書館の状況に
より、個別に客観的に判断する。過度な負担と判断した場合は、その理由を利用者に説明して理解を求める。
なお、判断においては、具体的な検討をせずに過度な負担を拡大解釈する等して、法の趣旨を損なうことがあってはならない。また予算人員については、図書館単独の予算だけではなく地方公共団体の規模等も考慮し判断する。
①事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か)
②実現可能性の程度(物理的・技術的制約、法的・制度的な制約、人的・体制上の制約)
③費用・負担の程度
④財政・財務状況
提供すべき合理的配慮は状況に応じて個別に判断するものであり、全ての場合において
ここに挙げる配慮が必ずしも提供できるとは限らない。あくまでも参考例である。
①来館、移動支援(近くの駅・バス停からの送迎、館内の移動補助、車いすの介助等)
②物理的環境への配慮(段差・階段で車いすを持ち上げる、高い書棚にある資料を取って渡す、通路の障害物を取り除く、施設設備の簡易な改修等)
③意思疎通の配慮(手話、点字、音声・拡大文字、筆談、実物の提示、身振りサイン等による合図、触覚による意思伝達等)
④館内設備の使用補助(館内利用端末、視聴ブース、コピー機等)
⑤ルールの変更(貸出期間の延長、貸出点数の緩和、利用登録方法の拡大、戸籍名以外の公に用いている氏名の使用等)
⑥サービスそのものの利用支援(登録申込書の代筆、内容や目次等簡易な読み上げ、代行検索、自宅に出向いての貸出等)
⑦催しへの配慮(多様な申し込み方法、座席の事前確保、配布資料の拡大・音訳・点訳・データでの提供、手話通訳手配、筆記通訳(注7)手配等)
⑧資料へのアクセスについての配慮(障害者サービス用資料の購入、支援機器の購入等)
基礎的環境整備はあらかじめ障害者を含むさまざまな利用者が利用できるように、図書館の施設・設備・資料・サービス等を整えることをいう。研修等による職員の資質の向上も欠かせない。
基礎的環境整備は新館開館時はもちろん、図書館の中・長期計画に入れ込む等して計画的に実施していく。また技術の進歩等に合わせて適宜修正していく。
さらに、基礎的環境整備を充実させることで、より高次の合理的配慮の提供が可能となることも重要である。今まで合理的配慮の提供が難しかった事例や満足のいく利用を保障できなかった場合でも、一歩進んだ合理的配慮の提供が可能となることがある。
基本的な取り組みとして、全職員の資質向上のための研修等を行う。以下に例示する。
①権利条約や差別解消法と障害者サービスの考え方
②さまざまな障害やその支援方法、コミュニケーション手段
③障害者サービス(資料・サービス)の具体的方法
実際の研修会の内容や講師等については、都道府県立図書館あるいは日本図書館協会等に相談することができる。
障害者・高齢者が円滑に図書館を利用できるよう、施設・設備の改善と整備に勤める。
高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(通称「バリアフリー新法」)の施行令第十条から第二十三条で定められた「建築物移動等円滑化基準」や国土交通省の「ユニバーサルデザインの考え方を導入した公共建築整備のガイドライン」等が参考になる。以下の点に留意する。
①図書館までのアクセス: 最寄り駅からの視覚障害者誘導用ブロック、障害者用交通信号付加装置(音響式信号機等)等
②サイン・案内:点字・ピクトグラム(注8)の併用、文字のサイズ・フォント、分かりやすい表現、色彩の配慮、掲出の位置等
③出入り口や館内の移動経路:入り口のスロープや誘導チャイム、インターフォンの設置、館内の視覚障害者誘導用ブロック(点字誘導ブロック)、段差の解消、エレベーター等
④閲覧スペース:車いすが移動可能な書架間、閲覧机やカウンターの高さ等
⑤対面朗読室、障害者読書室:車いす利用者や障害児とその保護者等も利用できるものが望ましい
⑥館内放送・掲示板:電子掲示板・フラッシュライト・音声案内等、聴覚・視覚障害者に配慮したもの
⑦駐車場・トイレ:車いすその他の障害者に配慮したもの
以下の機器類を設置するとともに、その使用方法に習熟し利用者に案内できるようにする。必要により複数用意し貸し出しを行う。
①活字資料の読書を支援するもの:老眼鏡、拡大読書器、ルーペ、書見台、リーディングトラッカー(注9)、音声読書器等
②障害者サービス用資料を利用するためのもの:DAISY再生機、タブレット端末等
③パソコン利用のためのもの:音声化ソフト、画面拡大ソフト等
障害者サービス用資料には市販され購入できるもの(注10)と、公共図書館や視覚障害者情報提供施設(点字図書館)等により製作されたものがある。製作されたものは全国的な相互貸借システム(注11)等を活用して借り受けることができる。市販されているものは僅かだが、積極的に購入して利用してもらう。販売も製作もされていない資料については、国立国会図書館や都道府県立図書館に製作を依頼できる場合がある。また、自ら製作している図書館が多数ある。
大学図書館及び学校図書館においては個々の学生・児童生徒の状況に合った資料
を購入、または製作する。なお、学校教育における小中学校の教科書については国が無償提供する拡大教科書や非営利団体とボランティア団体が提供するマルチメディアDAISY教科書がある。
障害者サービス用資料の特徴や対象となる利用者、提供方法、利用方法に習熟し、個々の利用者に適したものを提供する。
①主な資料:大活字本、音声DAISY、カセットテープ、マルチメディアDAISY、テキストDAISY、テキストデータ、点字資料、布の絵本、LLブック(注12)、字幕・手話入り映像資料、アクセシブルな電子書籍等
②特に購入したいもの:大活字本、DAISY資料、点字つき絵本、布の絵本、LLブック 等
③相互貸借で相当数入手可能なもの:音声DAISY、点字資料
なお、主に視覚障害者が利用する資料には点字による装備を行う。
障害のある利用者に対し、一般資料や障害者サービス用資料を以下の方法で提供する。
なお、多くの障害者は来館そのものが困難な場合が多いので、提供方法を工夫する。(実際のサービス方法については、参考資料を参照)
①閲覧:読書支援機器、障害者サービス用資料、その他合理的配慮の提供
②対面朗読(対面読書):印刷物を利用するのが困難な人が対象
③一般図書・視聴覚資料の郵送貸出:来館が困難な人が対象
④点字・録音資料の郵送貸出:視覚障害者には無料の郵送が可能
⑤職員による宅配サービス:来館が困難な人が対象(主に市町村立図書館)
⑥アクセシブルな電子書籍の配信サービス(注13)
⑦手話によるおはなし会の開催
⑧その他、図書館により実施できるもの:施設入所者へのサービス、入院患者へのサービス、アクセシブルなデータベースの提供等
①アクセシブルな図書館ホームページ:作成においてはJIS規格「JIS X 8341-3:2016 高齢者・障害者等配慮設計指針―情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス―第3部:ウェブコンテンツ」を参照
②点字・拡大文字・音声・やさしくわかりやすい利用案内、目録等の作成
③手話・外国語・点字のできる職員の配置
図書館サービスの規則やルールは、障害者を意識せずに作られてきたものがほとんどで、それにより社会的障壁につながっているものがある。障害者からの依頼を受ける前に、全体を見直し、規則・ルール等を修正することが望ましい。ただし、指摘を受けるまで気づかないこともあるので、その場合なるべく早く修正する。(修正が難しい場合は少なくとも合理的配慮で対応する)
例 「来館による利用登録」→郵送・電話、FAX等による登録方法を追加
例 新規利用登録用紙の性別欄→性別欄を削除するか、記入を任意としそのことを明記
①案内窓口
館内に障害者やその家族からの相談・依頼を受け付ける窓口を置く。通常は一般カウンターでそれらに対応する。そのため、全職員に基礎的な対応方法を周知する。また相談は来館だけでなく、手紙・電話・FAX、電子メール等でも対応できるようにしておく。
カウンターに「利用にお困りの方からの相談を受け付けています」等の案内をするのが望ましい。簡易な相談や案内は全職員が行えるようにする。
図書館に障害者サービスの担当者を置き、担当者を中心に障害者サービスを実施すると共に、必要により障害者からの相談に対応する。(基本②の「責任者」とは別)
また、障害のある利用者は障害者のためのサービスや資料を知らずに、具体的な依頼がなされないことが多い。図書館は積極的にサービスを案内し、合理的配慮を検討する。
②相談体制と、合理的配慮の判断・調整を行う責任者(以下、責任者)
利用者からの依頼が合理的配慮では対応できない場合等、説明や調整に時間がかかるような時は、責任者を中心とした図書館全体で対応する。相談はプライバシーの保護等の理由から別室で行うこともある。
責任者は、図書館全体のサービスを把握しているとともに、合理的配慮の理念をよく理解し、障害者サービスに熟知している者の中から館長が任命する。責任者は館全体の障害者対応に責任を持つ。また、計画的に職員研修を行う。責任者を中心に障害者サービス計画や対応を検討する委員会を設置することができる。
学校や大学では、特別支援教育コーディネーターの配置や障害学生支援室の設置等、学校全体としての相談窓口と体制を整えている場合が多い。図書館はそれらと緊密に連携して対応する。
都道府県立図書館は域内の市区町村立図書館の障害者サービスを支援する。具体的に以下のようなものがある。なお、支援を行うためには、まず自らが障害者サービスを実施し、そのノウハウを持っていることが求められる。
①域内職員研修会の開催
②運営相談や見学への対応
③障害者サービス実態調査の実施
④障害者サービス関連資料の収集、サービスマニュアル等の整備
⑤障害者サービス用資料の製作
障害者のための図書館サービスを向上させるためには、障害当事者の協力を得ることが重要である。障害者のことは当事者に聞くべきであるし、具体的なサービスや支援についてのこまかい助言を受けることができる。新たなサービスや機器の導入にあたっても、実際に障害者が求めているものを行わなくてはならない。障害者サービス実施計画等を作成する時は必ず意見を聞く。
図書館協議会委員に障害者を加える、利用者懇談会の開催、障害者団体との相談、障害者施設に出向いての意見聴取等、さまざまな方法を検討する。
また、図書館で、障害者に関するセミナー・障害者サービス資料展・DAISY再生機の体験会等を開催し、障害者に来館してもらい、直接意見を聞く方法もある。
障害のある職員が図書館にいることでサービスの質が向上する。それは、利用者に沿ったきめ細かなサービス・配慮が行えるからである。さらに障害のある職員は障害者サービスを比較的長く担当することが多く、専門知識を蓄積することによりサービスの継承・発展につながる。
また、障害者と共に仕事をすることで、周囲の図書館職員の障害への理解が深まり、実際の支援方法の習熟にもつながる。
健常者の認識で障害者を判断することなく、採用実績のある図書館での障害のある職員の実際の勤務状況等を参考に、積極的に職員雇用を検討する。
国や自治体が作成する、差別解消法に基づく障害者への対応を規定するもの。対応要領は所属する職員向け。対応指針は所管する事業者向け。差別解消法でその作成が求められている。ガイドラインなどの名称のものもある。(参考資料(1)条約、法律等 5.と6.を参照)
「図書館の障害者サービスにおける著作権法第37条第3項に基づく著作物の複製等に関するガイドライン」の4項、5項、別表1及び別表2に基づいて行う障害登録のこと。視覚障害者等を特定し登録する。
http://www.jla.or.jp/portals/0/html/20130902.html
身体障害者、精神障害者、知的障害者、発達障害者、高齢で利用に障害のある人、入院患者、いわゆる寝たきり状態の人、施設入所者、受刑者等矯正施設入所者、妊産婦、病気やけが等による一時的な障害状態、外国人・日本人で日本以外の文化的背景を持つ人、戸籍上の性別に違和感を持つ人(性同一性障害を含む)等
これらに障害のある児童生徒が含まれることはいうまでもないが、特に差別解消法に関する内閣府の基本方針では、「障害児には、成人の障害者とは異なる支援の必要性があることに留意する。」とある。
・権利条約「第二条 定義」
「障害に基づく差別」とは、障害に基づくあらゆる区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のあらゆる分野において、 他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を認識し、享有し、又は行使することを害し、又は妨げる目的又は効果を有するものをいう。障害に基づく差別には、あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む。)を含む。
「合理的配慮」とは、障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。
・差別解消法「第二条 定義」
一 障害者 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。
二 社会的障壁 障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。
聴覚障害者のコミュニケーション手段の一つ。手指の動きや表情などを使って視覚的に表現する言語。日本では日本手話、日本語対応手話、その中間型の手話がある。日本手話は、ろう者が日常的に用いる「言語」である。単語を並べる規則、意味など文法は独自なもので、単に日本語の文法順に手話の単語を表したものではない。日本語対応手話は、手話の単語を日本語と同じ順で表現したもの。中間型手話は「日本手話」と「日本語対応手話」の両方の要素を取り入れた手話で、日本語を基盤に持つ中途失聴者、難聴者に使われる。中間型手話を日本語対応手話に含める場合もある。
通訳者派遣の依頼方法は地域によって異なる。自治体の福祉関係部局や、社会福祉協議会、聴覚障害者情報提供施設などに問い合わせる。
大活字本、拡大写本、音声DAISY、カセットテープ、マルチメディアDAISY、テキストDAISY、テキストデータ、点字資料、布の絵本、触る絵本、LLブック、字幕・手話入り映像資料、音声解説付映像資料、アクセシブルな電子書籍等
聴覚障害者に対して、話している内容をリアルタイムで文字として伝えるもの。対象者が1~2名程度であれば、筆記通訳者が横で話の内容を紙に書いたり、パソコンで入力し画面を見てもらう。それ以上の人数の場合は、拡大投影機などを用いスクリーンに画面を投映する。話し言葉の速さに追いつくため、文章を要約するので「要約筆記」という言葉を用いることもある。通訳者の依頼方法については、注5参照。
「絵文字」とも呼ばれる、情報や注意を示すために表示される視覚記号(サイン)。文字による文章で表現する代わりに、単純で視覚的な図で表現される。
読書補助具の1つ。タイポスコープやリーディングスリットともいう。これを用いることで、本のページや文書の特定の行に焦点を当てながら読み進めることができる。市販製品もあるが、図書館で自作することも容易である。もともとは視覚障害(視野狭窄や黄斑変性など)のある人の読書補助具であったが、現在では、ディスレクシアのある人にも有効であることが分かっている。
購入できるかどうかは、「図書館の障害者サービスにおける著作権法第37条第3項に基づく著作物の複製等に関するガイドライン」別表3で出版状況等が確認できる。購入可能なものは前向きに購入・受け入れする。また、これ以外でも障害者等が利用可能な資料があれば積極的に購入する。
「国立国会図書館サーチ」や「サピエ」。これらの障害者サービス用資料のデータベースサイトを通じて、全国の各機関の障害者サービス用資料の所蔵情報を検索でき、その多くは全国的な相互貸借システムを通じて借り受けることができる。資料製作を行っている公共図書館や視覚障害者情報提供施設はもちろん、製作を行っていない図書館や学校・大学図書館でも資料の貸出を依頼することができる。資料によってはその電子データが提供されているものがあり、データを直接ダウンロードできる。
・国立国会図書館サーチ(NDL Search) 障害者向け資料検索
http://iss.ndl.go.jp/#search-handicapped
・サピエ
http://www.sapie.or.jp/
LLはスウェーデン語のlattlastの略で、やさしく読みやすい本のこと。幼児・児童向けの絵本などではなく、青年期以降の知的障害があったり、日本語を母語としない人などに向けて、やさしく読みやすい形(やさしい日本語、絵や写真、ピクトグラムの組み合わせが多い)で年齢相応の内容を届けようとするものである。LLブックの出版はまだ少ない。
多くの障害者や高齢者も使える電子書籍のこと。残念ながら現状ではアクセシブルなものがほとんどないが、改良を進めているベンダーもある。アクセシブルな電子書籍の配信は自宅でそのまま利用できるため、障害者にとって大きな可能性を持っている。
(1)障害者の権利に関する条約(略称:障害者権利条約) - 外務省
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinken/index_shogaisha.html
(2)障害者基本法(昭和45年5月21日法律第84号) - 内閣府
http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kihonhou/s45-84.html
(3)障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号) - 内閣府
http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/law_H45-65.html
(4)障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針 - 内閣府
http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai/kihonhoushin/honbun.html
(5)関係府省庁における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応要領 - 内閣府
http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai/taioyoryo.html
(6)関係府省庁所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針 - 内閣府
http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai/taioshishin.html
(1)『障害者の権利条約と日本 概要と展望 増補改訂版』 長瀬修・東俊裕・川島聡/編著 生活書院 2012.10 978-4-903690-98-8
(2)『概説障害者差別解消法』 障害者差別解消法解説編集委員会/編著 法律文化社 2014.3 978-4-589-03600-1
(1)『1からわかる図書館の障害者サービス 誰もが使える図書館を目指して』 佐藤聖一/著 学文社 2015.2 978-4-7620-2521-1
(2)『障害者サービスと著作権法 JLA図書館実践シリーズ26』日本図書館協会障害者サービス委員会・著作権委員会/編 日本図書館協会 2014.9 978-4-8204-1409-4
(3)『本と人をつなぐ図書館員 障害のある人、赤ちゃんから高齢者まで』 山内薫/著 読書工房 2008.1 978-4-902666-15-1
(4)『多様性と出会う学校図書館 一人ひとりの自立を支える合理的配慮へのアプローチ』 野口武悟・成松一郎/編著 読書工房 2015.7 978-4-902666-35-9
(5)『読みやすい図書のためのIFLA指針 (ガイドライン) 改訂版 IFLA専門報告書 第120号』 国際図書館連盟特別なニーズのある人々に対する図書館サービス分科会/編・日本図書館協会障害者サービス委員会/監訳・日本障害者リハビリテーション協会/訳 日本図書館協会 2012.6 978-4-8204-1205-2
(6)『LLブックを届ける やさしく読める本を知的障害・自閉症のある読者へ』 藤澤和子・服部敦司/編著 読書工房 2009.3 978-4-902666-20-5
(7)『障害者の読書と電子書籍 見えない、見えにくい人の「読む権利」を求めて』 日本盲人社会福祉施設協議会情報サービス部会/編 小学館 2015.3 978-4-09-388413-6
(8)『高齢社会につなぐ図書館の役割 高齢者の知的欲求と余暇を受け入れる試み』 溝上智恵子・呑海沙織・綿抜豊昭/編著 学文社 2012.9 978-4-7620-2319-4
(9)『聴覚障害者に対する図書館サービスのためのIFLA指針 第2版』 ジョン・マイケル・デイ/編・日本図書館協会障害者サービス委員会聴覚障害者に対する図書館サービスを考えるグループ/訳 日本図書館協会 2003.3 4-8204-0229-3
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作成日:2016年3月18日