令和6(2024)年能登半島地震について

この度、地震により亡くなられた方々のご冥福をお祈りいたします。
また、被災された皆様に心よりお見舞い申し上げ、一日も早く平穏な日々に戻る事をご祈念申し上げます。
日本図書館協会及び図書館災害対策委員会も微力ではありますが、支援を模索し、対応してまいります。
被災情報並びにお困り事がありましたら、メールにてご一報いただければ幸いです。
saigai★jla.or.jp
(★を半角@に換えてください。)








公立図書館の任務と目標

1989年1月 確定公表 2004年3月 改訂
日本図書館協会図書館政策特別委員会

はじめに

 日本図書館協会は,1979年の総会において採択した「図書館の自由に関する宣言 1979年改訂」において,「すべての国民は,いつでもその必要とする資料を入手し利用する権利を有する」こと,そして「この権利を社会的に保障することに責任を負う機関」が図書館であることを表明した。また,「すべての国民は,図書館利用に公平な権利をもっており,人種,信条,性別,年齢やそのおかれている条件等によっていかなる差別もあってはならない」とも述べており,われわれは,これらのことが確実に実現されるよう,図書館サービスの充実に努めなければならない。

 日本の公立図書館サービスは,1950年の図書館法によって「図書館奉仕」の理念を掲げはしたものの,その具現化には相当の年月を要し,ようやく1960~70年代に,『中小都市における公共図書館の運営』(1963年),『市民の図書館』(1970年)を指針として発展の方向を見いだした。図書館を真に住民のものにしようという意欲的な図書館員の努力,読書環境の整備充実を求める住民要求の高まり,それを受け止める自治体の積極的な施策と対応によって,図書館サービスは顕著な発展を遂げてきた。

 1980年代になると,いわゆる行政改革により,図書館はつくっても十分な職員を配置せず,その不足を嘱託,臨時職員などで補う自治体,さらには図書館法の精神に反して,公立図書館の管理運営を公社・財団等に委託するケースや司書を派遣会社に求める自治体が現れる。その上,1990年代には,生涯学習体系への移行,情報ネットワークの整備という,国の政策レベルの動向,さらには90年代以降構造改革,分権推進,規制緩和という政治や経済の動きを受けて,図書館経営に一段と複雑かつ巌しい様相が広がっている。

 先に述べたとおり,すべての国民に図書館利用の権利を保障することは,民主主義国家においては必須の条件であり,それは公の責任で果たされなければならない。こうした観点から,地方自治体が無料公開の図書館を設置し,管理運営することは,欧米先進諸国においては19世紀半ばに確立された伝統である。日本は,いまだこの原理に則った近代図書館を整備する途上にある。今なお図書館をもたない町村が6割にも及ぶという事実があるし,先進的な市町村といえども,すべての住民のニーズに応えられるという域には遠く,あるべき図書館サービスは形成過程だと認識することが至当である。

 もちろん,公立図書館の維持発展を図ることは,地方自治体及び地域住民の発意と責任に帰することであるが,「図書館事業の進歩発展を図り,わが国文化の進展に寄与する」という本協会の目的にてらして,協会会員の関心を喚起するとともに,それぞれの地域・職域における図書館サービス計画の立案に資することを願って,「公立図書館の任務と目標」を策定し公表することにした。

 当初,この文書の策定は,公立図書館である以上,少なくともこのレベル程度の活動は,という「基準」を提起することを意図して始められた。しかし,「基準」といえば図書館法にいう基準との混同を招く恐れもあること,さらに「基準」という言葉には数量的なものが意識される傾向が強いので,この語を使用しないことにした。

 すべての図書館が,この内容を達成し,さらに高いレベルの新たな目標を掲げ得る状況の速やかな到来を強く望むものである。

第1章 基本的事項

(公立図書館の役割と要件)
  1. 人間は,情報・知識を得ることによって成長し,生活を維持していくことができる。また,人間は文化的な,うるおいのある生活を営む権利を有する。
    公立図書館は,住民がかかえているこれらの必要と欲求に応えるために自治体が設置し運営する図書館である。公立図書館は,乳幼児から高齢者まで,住民すべての自己教育に資するとともに,住民が情報を入手し,芸術や文学を鑑賞し,地域文化の創造にかかわる場である。公立図書館は,公費によって維持される公の施設であり,住民はだれでも無料でこれを利用することができる。
    公立図書館は,図書館法に基づいて地方公共団体が設置する図書館であり,教育委員会が管理する機関であって,図書館を設置し図書館サービスを実施することは,地方公共団体の責務である。また,公立図書館は住民の生活・職業・生存と精神的自由に深くかかわる機関である。このような基本的性格にてらして,公立図書館は地方公共団体が直接経営すべきものであり,図書館の運営を他へ委託すべきではない。
(知る自由の保障)
  1. 住民は,あらゆる表現の記録(資料)に接する権利を有しており,この住民の知る自由を保障することは,公立図書館の重要な責務である。この責務を果たすため,公立図書館は,住民の意思を受けて図書その他の資料を収集し,収集した資料を住民に提供する自由を有する。住民の中には,いろいろな事情で図書館利用から疎外されている人びとがおり,図書館は,すべての住民の知る自由の拡大に努めなければならない。
(図書館の利用)
  1. 住民は,図書館の利用を通じて学習し,情報を入手し,文化的な生活を営むことができる。図書館の活用によって達成できることは多様であり,限りない可能性をもっているが,おおむね次のようなことである。
    1. 日常生活または仕事のために必要な情報・知識を得る。
    2. 関心のある分野について学習する。
    3. 政治的,社会的な問題などに対するさまざまな思想・見解に接し,自分の考えを決める糧にする。
    4. 自らの住む地域における行政・教育・文化・産業などの課題解決に役立つ資料に接し,情報を得る。
    5. 各自の趣味を伸ばし,生活にくつろぎとうるおいをもたらす。
    6. 子どもたちは,読書習慣を培い,本を読む楽しさを知り,想像力を豊かにする。
    7. 講演会・読書会・鑑賞会・展示会などに参加し,文化的な生活を楽しむ。
    8. 人との出会い,語りあい,交流が行われ,地域文化の創造に参画する。
(図書館計画)
  1. 公立図書館は,本来住民のために住民の意思を受けて設置され運営される民主的な機関であり,住民要求の多様化と増大,それに応える資料の増加にともなって成長発展するものである。したがって,図書館は長期・短期の計画を立案・作成し,その計画が自治体の施策として実行されなければならない。
(住民参加)
  1. 公立図書館は,住民の要求あるいはニーズに応える機関であって,その創設・増改築にあたっては,地域の住民の意向が十分に反映されなければならない。単に施設の面ばかりではなく,年次計画の策定,日常の図書館活動の企画についても,住民の参加が欠かせない。 図書館の発展をはかることは,まず図書館員の責任であるが,それとともに,住民の提起が図書館をより有意義な機関に育て,図書館の可能性を拡大していく。住民の制度的参加としては,図書館協議会が活用されるべきである。そういう公的な場も重要であるが,日常的な活動の中での利用者との対話,あるいは利用者との懇談会などを通じて,住民の要求をとらえ,その提案をいかす努力と工夫が肝要である。 図書館員は,住民参加の意義を正しく認識し,住民の要望・提案に誠実に対応しなければならない。
(図書館相互の協力)
  1. 住民が必要とする資料は多種多様であるために,単独の図書館が所蔵する資料だけでは,要求に応えられないことがある。一自治体の図書館はもちろんのこと,設置者を異にする図書館が相互に補完し協力することによって,住民の多様な要求を充足することが可能となる。
(図書館職員)
  1. 住民と資料を結びつけるための知識と技術を習得している専門職員を配置することは,図書館として不可欠の条件である。
  2. 図書館職員は,「図書館の自由に関する宣言」及び「図書館員の倫理綱領」を十分によく理解し,これらの宣言・綱領に則って業務を遂行することによって,住民の信頼を獲得し図書館の発展をはかることができる。

第2章 市(区)町村立図書館

1 図書館システム

  1. 住民はだれでも,どこに住んでいても,図書館サービスを受ける権利をもっている。自治体は,その区域のすみずみまで図書館サービスが均質に行きわたるように努めなければならない。
  2. 一つの自治体が設置する複数の図書館施設は,図書その他の資料の利用または情報入手に関する住民の要求を満たすために有機的に結ばれた組織体でなければならない。このような組織を図書館システムという。 図書館システムは,地域図書館(以下「地域館」という)と移動図書館,これらの核となる中央図書館(以下「中央館」という)から成る。 自治体は,すべての住民の身近に図書館のサービス・ポイントを配置する。
  3. 住民はだれでも,身近にあるサービス・ポイントを窓口として,必要とする図書その他の資料を利用することができる。
  4. 住民はだれでも,身近なサービス・ポイントを通じて,レファレンス・サービスを受け,生活に必要な情報や文化情報などを得る。
  5. 図書館システムを構成するそれぞれは,独自に活動するのではなく,中央館をかなめとし,統一されたサービス計画のもとに,組織全体として最大の効果をあげるように活動する。
  6. 住民の大多数が地域館または中央館のサービス圏内におさまるように,必要数の図書館を設置しなければならない。その規模は,サービス圏内の人口に応じて定められる。 地域館及び中央館のサービス圏内に含まれない地域の住民に対しては,移動図書館の巡回を行う。 移動図書館は,図書館のはたらきを住民にとって身近なものとし,図書館システムの形成を促進するために重要な役割をもっている。
  7. 図書館は,地域館と中央館及び地域館相互間の図書館資料の円滑な流れを確保するために,必要な物流体制を整備する。

2 図書館サービス

  1. 図書館サービスの基本は,住民の求める資料や情報を提供することである。そのために,貸出,レファレンス・サービスを行うとともに,住民の資料や情報に対する要求を喚起する働きかけを行う。住民の図書館に寄せる期待や信頼は,要求に確実に応える日常活動の蓄積によって成り立つ。その基礎を築くのは貸出である。
  2. 図書館は,資料提供の機能の展開として,集会・行事を行うとともに,図書館機能の宣伝,普及をはかるための活動や,利用案内を行う。
    席借りのみの自習は図書館の本質的機能ではない。自習席の設置は,むしろ図書館サービスの遂行を妨げることになる。
  3. さまざまな生活条件を担っている地域住民がひとしく図書館を利用できるためには,その様態に応じてサービスの上で格別の工夫と配慮がなされなければならない。
  4. 乳幼児・児童・青少年の人間形成において,豊かな読書経験の重要性はいうまでもない。生涯にわたる図書館利用の基礎を形づくるためにも,乳幼児・児童・青少年に対する図書館サービスは重視されなければならない。
    また,学校図書館との連携をすすめ,児童・生徒に対して利用案内を行うとともに,求めに応じて学校における学習や読書を支援する。
  5. 高齢者の人口比や社会的役割が増大しているいま,高齢者へのサービスについては,その要望や必要に応じた資料,施設,設備,機材の整備充実に努める。さらに図書館利用の介助等,きめこまかなサービスの提供に努める。
  6. 障害者をはじめとして図書館の利用を疎外されてきた人びとに対して,種々の方途を講じて図書館を利用する権利を保障することは,図書館の当然の任務である。
  7. 被差別部落の住民への図書館サービスは,文化的諸活動や識字学級に対する援助などによってその範囲を広げる。
  8. アイヌ等少数民族並びに在日朝鮮・韓国人その他の在日外国人にとって,それぞれの民族文化,伝統の継承,教育,その人びとが常用する言語による日常生活上の情報・資料の入手は重要である。図書館は,これらの人びとへの有効なサービスを行う。
  9. 開館日,開館時間は,地域住民が利用しやすい日時を設定する。
(貸 出)
  1. 貸出は,資料提供という図書館の本質的機能を最も素朴に実現したものであり,住民が図書館のはたらきを知り,図書館サービスを享受し得る最も基本的な活動である。したがって図書館は,すべての住民が個人貸出を受けられるように条件を整える。
    そのために利用手続は簡単で,どのサービス・ポイントでも貸出・返却ができるようにする。貸出方式は,利用者の秘密が守られるものにする。一人に貸出す冊数は,各人が貸出期間内に読み得る範囲で借りられるようにする。
    貸出には,資料案内と予約業務が不可分のものとして含まれる。
  2. 図書館は,一人ひとりの利用者と適切な資料を結びつけるために資料案内を行う。その一環として,フロア・サービスが有効である。
  3. 図書館は,住民が求めるどんな資料でも提供する。そのためには,所蔵していない資料も含めて予約に対応できる体制を整える。
  4. 求めに応じて,読書グループや文庫などの団体や施設に対して貸出を行う。
(レファレンス・サービス)
  1. 図書館は,住民の日常生活上の疑問に答え,調査研究を援助するためにレファレンス・サービスを行う。
  2. 中央館や大きな地域館には,参考資料室を設ける。他のサービス・ポイントもレファレンス・サービスの窓口を開く。
  3. レファレンス・サービスは,図書館システム全体で,また相互協力組織を通じてあたるほかに,類縁機関,専門機関と連携して行う。
  4. 資料に基づく援助のほか,レファレンス・サービスの制限事項とされることが多い医療・法律相談などや資料提供を越える情報サービスも,専門機関や専門家と連携することによって解決の手がかりを供することができる。
(複 写)
  1. 図書館は,資料提供の一環として複写サービスを行う。
(集会・行事)
  1. 資料提供の機関である図書館が,住民の自主的な学習活動を援助するために集会機能をもつことの意義は大きい。自由な談話の場,グループ活動の場と,学習を発展させるための設備,用具を提供する。
  2. 資料提供の機能の展開として,展示,講座,講演会その他の行事を行う。
(広 報)
  1. 図書館の役割を住民に周知するため,館報,広報等によって宣伝するとともに,マスコミ等を通じて住民の理解を深めるよう努める。

3 図書館資料

  1. 図書,逐次刊行物,視聴覚資料,電子資料などは,人類の知識や想像力の成果を集積したものであり,人びとの生活に欠くことのできない情報伝達の手段である。図書館は,すべての住民の多様な資料要求に応えるため,これらの資料を幅広く,豊富に備える。
    図書館は,住民が外部ネットワークの情報資源へ自由にアクセスできる環境を整備する。
  2. 資料構成は,有機的なつながりをもち,住民のニーズと地域社会の状況を反映したものでなければならない。とくに地域館では,児童用資料を豊富に備える必要がある。
  3. 資料は,図書館の責任において選択され,収集される。
    図書館は,資料の収集を組織的,系統的に行うため,その拠りどころとなる収集方針及び選択基準を作成する。これらは,資料収集の面から図書館サービスのあり方を規定するものであり,教育委員会の承認を得ておくことが望ましい。
    収集方針及び選択基準は,図書館のあり方について住民の理解を求め,資料構成への住民の参加と協力を得るために公開される。
  4. 住民に適切な判断材料を提供するため,政治的,社会的に対立する意見のある問題については,それぞれの立場の資料を収集するよう努める。図書館の収集した資料がどのような思想や主張をもっていようとも,それを図書館が支持することを意味するものではない。
  5. 地域館では,住民の身近な図書館として,日常の問題解決に役立つ参考図書,教養書,実用書,読み物など,その地域に適した図書を備える。また地域の事情に応じて外国語図書を収集する。
  6. 図書館は,住民の関心に沿って,幅広く多様な雑誌を選んで備える。また,地域の状況に応じて外国雑誌も備える。
  7. 図書館は,全国紙,地方紙,政党機関紙のほか,それぞれの地域の状況に応じて専門紙を備える。
  8. 図書館は,図書,雑誌,新聞のほか,CDや録音テープなどの音声資料,フィルムやビデオソフトなどの映像資料,CD-ROMなどの電子資料や写真,地図などを備える。また,視覚・聴覚障害者のために,点字図書,録音図書,大活字本,字幕付映像資料などの資料の収集にも努める。
  9. それぞれの地域に関する資料や情報の収集・提供は,図書館が住民に対して負っている責務である。そのため図書館は,設置自治体の刊行物及びその地域に関連のある資料を網羅的に収集するほか,その地域にかかわりのある機関・団体等の刊行物の収集にも努める。また,その地方で刊行される一般の出版物についても収集に努める。
    図書館が収集したそれぞれの地域に関する資料・情報については,より有効に活用できるよう,目録やデータベースの作成を行う。
  10. 住民の多様な資料及び情報の要求に応えるためには,公刊される資料の収集だけでは不十分である。図書館は,ファイル資料を編成したり写真資料,録音・録画資料を作成し,図書,小冊子などを出版する。あわせて,資料の電子化をすすめネットワークなどを通じて公開する。さらに,障害者のために,それぞれの必要な資料の製作に努める。
  11. 図書館は,すべての資料が利用者の求めに応じて迅速,的確に提供できるよう,統一的にその組織化を行う。
  12. 図書館は,住民がどのサービス・ポイントからでも,すべての所蔵資料を一元的に検索できるよう目録を整備する。目録は,常に最新の情報が提供できるよう維持されなければならない。
  13. 利用者が直接,自由に求める資料を手にすることができるよう,日常的に利用される資料を中心に,可能な限り多くの資料を開架にする。その排列にあたっては,利用者が資料をみつけやすく,利用しやすいような配慮が必要である。
  14. 図書館は,常に新鮮で適切な資料構成を維持し,充実させるために資料の更新及び除籍を行う。広域的に再利用が見込める資料については,県立図書館等への譲渡によって活用をはかる。

4 相互協力

  1. 図書館は,住民の要求する資料を必ず提供するために,各市町村の図書館が相互に協力しあうことが必要である。
  2. 相互協力は,資料の相互貸借,複写,レファレンス業務などサービス面で協力するほかに,資料の分担収集,保存及び索引の作成なども共同で行うものである。ときには職員研修,採用試験などにも及ぼすことができる。
  3. 図書館はまた,同じ地域内の他館種の図書館や類縁機関,専門機関と連携して,住民の資料要求に応えるよう努める。

第3章 都道府県立図書館

1 役割と機能

  1. 都道府県立図書館(以下「県立図書館」という)は,市町村立図書館と同様に住民に直接サービスするとともに,市町村立図書館の求めに応じてそのサービスを支援する。
    大多数の住民にとって,身近にあって利用しやすいのは市町村立図書館である。したがって県立図書館は市町村立図書館への援助を第一義的な機能と受けとめるべきである。
    県立図書館であるということを理由に,全く個人貸出を行わないとか,児童サービスを実施しないということがあってはならない。
  2. 県立図書館が有する資料と機能は,多くの場合,市町村立図書館を通じて住民に提供される。
  3. 市町村立図書館を利用するか,直接に県立図書館を利用するかは,住民各自がそのときの事情に応じて選択することであって,住民がいずれの方法をとった場合にも,図書館は十全に対応すべきである。
  4. 県立図書館と市町村立図書館との関係は,前者が後者を指導するとか調整するという関係ではない。
  5. 県ないし県教育委員会が図書館振興のための施策を立案する際には,県立図書館は,県内図書館の現状に関する資料及び図書館振興に関する資料を提供し,県としての政策立案に協力する。
  6. 県立図書館は,県内公立図書館の協議機関に加わり,その活動を援助する。

2 市町村立図書館への援助

  1. 県立図書館は,市町村立図書館の求めに応じて,資料を貸出す。この場合,原則として要求された資料は,すべて貸出すべきである。
    貸出期間は,市町村立図書館の貸出に支障がないように定める。貸出す冊数は無制限とすることが望ましい。
  2. 求められた資料を県立図書館が所蔵せず,しかも入手不可能な場合は,可能な範囲で所蔵館を調査し,請求館に通知する。
  3. 小図書館または創立時の図書館に対しては,一括して相当量の図書を貸出す。
  4. 市町村立図書館において調査不可能な参考質問を,県立図書館は調査し回答する。
  5. 県立図書館においても調査不可能な参考質問で,他館または類縁機関において回答可能と思われる場合は,その館・機関を紹介する。
  6. 市町村立図書館の児童サービスの発展のために,県立図書館は,選択のための児童書常設展示,児童サービスに関する情報の収集と伝達などの援助を行う。
  7. 県立図書館は,県域に関する書誌・索引あるいはデータベースを作成し,利用に供する。
  8. 市町村立図書館間の相互協力のために,市町村立図書館の求めに応じて,県立図書館はあらゆる援助を行う。
  9. 県立図書館は資料の提供,市町村立図書館間協力への援助,県内資料の収集,そうして市町村立図書館を知るために,定期的に巡回車を運行する。
  10. 県立図書館は資料保存の責任を果たすため,市町村立図書館の求めに応じて,それらの館の蔵書の一部を譲り受けて,保存し,提供する。
  11. 県立図書館は,県の刊行物を市町村立図書館に配布する。
  12. 県内公立図書館職員の資質・能力向上のため,県立図書館は,研究資料,研修の場を提供し,可能なかぎり経費を負担する。
  13. 県立図書館は,求めに応じて図書館,読書,郷土研究,その他の全県的な団体の活動を援助する。

3 図書館資料

  1. 県立図書館は,住民のあらゆる資料要求に応える責任と,市町村立図書館の活動を支える資料センターとしての役割を果たすため,図書,逐次刊行物,電子資料,マイクロ資料,視聴覚資料のほか,障害者用資料など,多様な資料を豊富に収集し,保存する。あわせて,住民や市町村立図書館が外部ネットワークの情報資源へ自由にアクセスできる環境を整備する。
  2. 県立図書館の資料は,児童用資料を含み,すべての主題分野を包括するとともに,それぞれの分野では有機的なつながりをもった構成でなければならない。
  3. 県立図書館は,資料の収集を組織的,系統的に行うため,収集方針及び選択基準を作成し,公開する。
  4. 県立図書館は,国内で出版される図書,とりわけ県内の出版物を網羅的に収集するほか,外国で発行される図書についても広く収集に努める。
  5. 県立図書館は,外国で発行のものも含め,あらゆる主題の雑誌を収集する。また,新聞についても,全国紙,地方紙,政党機関紙のほか,専門紙をできるかぎり幅広く収集するとともに,外国の新聞の収集にも努める。
    これら逐次刊行物の保存については,県立図書館はとくに留意する必要がある。
  6. 県立図書館は,その県及び関係機関,団体の発行する資料の収集に責任をもつほか,市町村立図書館の協力を得て,各地の地域資料も収集する。
  7. 県立図書館は,地域の要求に応えるため,ファイル資料,写真資料,録音・録画資料を作成し,図書,小冊子などを出版する。あわせて,資料の電子化をすすめネットワークなどを通じて公開する。さらに,障害者のために,それぞれの必要な資料の製作に努める。
  8. 日々の増加図書を含むすべての所蔵資料の検索を容易にして,その円滑な利用をはかるため,県立図書館は自館所蔵資料のデータベースを作成し,維持する。また,郷土資料目録など必要な総合目録の作成にも努める。
  9. 県立図書館は,所蔵資料の充実に努め,除籍は最小限にとどめる。

4 相互協力

  1. 県立図書館は,市町村立図書館に充実した援助ができるように,近隣の県立図書館,及び各種図書館・類縁機関と常に連絡を保ち,協力する態勢をつくる。そのために,それらの機関の所蔵資料,保有情報の実態を把握し,協力を得られるよう努める。
  2. 県立図書館は,自館所蔵資料のデータベースを公開するとともに,県内の市町村立図書館や大学図書館等のデータベースとの横断的な検索も容易にできるようにする。
  3. 県立図書館は,関連する近隣地域の情報を提供できるように,近隣の県立図書館及び類縁機関と,それぞれの地域に関する資料及び書誌,索引を交換,収集する。

第4章 公立図書館の経営

1 公立図書館経営の理念

  1. 公立図書館の経営は,図書館計画に基づき職員,経費,施設の適切な措置の上で,継続的・安定的になされる必要がある。
    運営においては,不断に計画・評価を組み込んで,地域住民の要求に応える体制を維持しなければならない。

2 職 員

  1. 公立図書館の職員は,住民の知る自由を保障し,資料と人とを結びつける使命を自覚し,住民の資料に対する要求に応え,資料要求を拡大するために,最善の努力をはらう。
  2. 職員は,図書館運営に参画し,自由に意見を述べるよう努める。館長は,職員のさまざまな意見・発想をまとめ,館運営に生かすよう努めなければならない。
  3. 専門的な資質・能力をもった専門職員が中心となって運営することによって,図書館は住民の生活に不可欠な施設となることができる。
    図書館を設置する自治体は,司書(司書補)を専門職種として制度化すべきである。その内容は次のとおりである。
    1. 司書(司書補)資格をもつ者を,公開公募の試験によって採用する。
    2. 専門職員は,本人の希望または同意によるほかは,他職種へ異動されない。
    3. 専門職員には,昇任の機会が適正に与えられる。
  4. 館長は,公立図書館の基本的任務を自覚し,住民へのサービスを身をもって示し,職員の意見をくみあげるとともに,職員を指導してその資質・能力・モラールの向上に努める。
    このため,館長は専任の経験豊かな専門職でなければならない。
  5. 図書館の専門職員となろうとするもののため,資格取得に多様な道が開かれていることが望ましい。
  6. 図書館職員としての能力を高めるため,すべての職員に研修の機会が与えられる。とくに専門職員は自ら学習に努め,基礎的教養と専門的技量を高める努力を怠ってはならない。
    館長は研修・学習のための便宜をはかり,各専門団体の行う研究会等への職員の参加を奨励する。
  7. 夜間開館や祝日開館への住民の要求が強くなってきている。これに応えるためには,開館時間内でのサービスに格差が生じないよう,職員体制の整備が必要である。

3 経 費

  1. 公立図書館の予算は,その果たすべき任務に比して,一般にあまりにも過少である。予算の拡大充実は住民の要求と支持,それを背景にした図書館の強い確信と実践によって達せられる。
  2. 公立図書館は,住民の納める税によって維持される。したがって図書館の予算は最大限に効果をあげるよう編成されるべきである。
  3. 過少な経費は,住民に失望感を与える図書館をつくり,結果として無駄となる。一定水準以上のサービスを維持するに足る経費を予算化することによって,住民に役立つ図書館となることができる。
  4. 委託などによって,予算額が縮小し,節約されたかのようにみえる場合がある。しかし現実にはサービスの遅れや質の低下が現れたりする例が多い。 予算の効率は,住民サービスの質と量を基準に測るべきであり,最終的には住民の評価がその適否を決定する。

4 施 設

  1. 図書館建築には,図書館側の構想が反映されていなければならない。そのためには,住民の意向もとりいれた図書館建築計画書を設計者に提示することが不可欠である。
  2. 図書館は,単独施設であることが望ましい。立地条件・地理的事情や運営方法により複合施設となる場合は,図書館の理念及び運営方針を設計に反映させ,図書館施設としての機能を損なわないよう,また,独立して管理・運営ができるようにしなければならない。
  3. 図書館は住民の生活動線上にあり,立地条件のよいことが重要である。建物は明るく,親しみやすく,利用者が気軽に使える施設でなければならない。
  4. 館内は,利用者にとってわかりやすい構成であり,図書館員にとっても働きやすい施設でなければならない。また,館内全体にわたって障害者が利用できる施設にすべきである。

第5章 都道府県の図書館振興策

  1. すべての市町村に,計画性に裏づけられた公立図書館サービスの実態をつくりだすことは,それぞれの自治体の責任であり,広域自治体である都道府県及び都道府県教育委員会(以下「県」という)は,すべての県民が十分な図書館サービスを享受できるよう,その振興をはかる責務を負っている。
  2. 県は,県下の図書館振興をはかる行政の所管を明確にし,施策にあたっては県立図書館との連絡を密にし,県図書館協会などの協力を得る。
  3. 県は,県下すべての市町村に図書館が設置され,そのサービスが一定の水準以上に達するよう助成する県としての図書館振興策を策定する。
    振興策の策定にあたっては,県下の図書館専門職員,専門家,市町村関係者の協力を得るとともに,住民の意思を反映したものとなるよう努める。
  4. 県が策定する図書館振興策には,おおむね次のような内容が考えられる。
    1. (1) 市町村における図書館サービスの望ましい目標の設定。
    2. (2) 市町村に対する図書館施設(移動図書館を含む)整備補助制度の設定。その実施にあたっては,図書館法に基づく国の基準や県が独自に定める一定の要件を満たしていることを条件として,補助を行う。
    3. (3) 市町村立図書館の活動が一定の水準以上を達成できるための資料購入費補助制度の設定。
    4. (4) 市町村立図書館の活動の充実に役立つ設備・機器等の購入の助成。
    5. (5) 県下公立図書館職員の研修と交流の機会の設定とそれに要する経費助成。
    6. (6) 県民に対する図書館に関する情報・資料の提供。
    7. (7) 公立図書館未設置自治体に対する啓蒙,情報・資料の提供。
    8. (8) 市町村立図書館の活動を援助するための県立図書館の整備・充実。
  5. 県下の図書館振興のために県立図書館は,第3章第2節に掲げる援助を行うとともに,図書館についての情報・資料を県民,市町村及び市町村立図書館に提供する。
  6. 未設置自治体,とりわけ設置率が低位にとどまる町村に対して県立図書館は,図書館設置を促すような計画的働きかけを行う。未設置自治体の住民を対象とする補完的サービスを行う場合は,それが県の振興策の一環としての位置づけをもち,市町村独自の図書館サービスの始動によい刺激となるようなものでなければならない。

図書館システム整備のための数値基準

 公立図書館の数値目標について,旧版までは一委員の試案というかたちで掲載してきた。この間,日本図書館協会では「図書館による町村ルネサンス Lプラン21」(日本図書館協会町村図書館活動推進委員会著2001)を発表し,そこで公立図書館の設置と運営に関する数値基準を提案した。これは「日本の図書館1999」をもとに,全国の市町村(政令指定都市及び特別区を除く)の公立図書館のうち,人口一人当たりの「資料貸出」点数の多い上位10%の図書館の平均値を算出し,それを人口段階ごとの基準値として整理した上で提案されたものである。

 そこで今回の改訂にあたっては,「Lプラン21」の数値基準を改訂するかたちで,「日本の図書館2003」によって新たに平均値を算出し,これをもとにした「数値基準」として提案することとする。

 「目標値」としてではなく,達成すべき「基準値」としたのは,ここに掲げられた数値がそれぞれの人口段階の自治体において,すでに達成されたものであるからである。少なくとも図書館設置自治体のうち,10%の自治体にあっては住民がこの水準の図書館サービスを日常的に受けているのであり,住民にとって公立図書館サービスが原則的には選択不可能なサービスであることからも,ここで提案する数値はそれぞれの自治体において早急に達成されるべきものであると考えている。

 なお,ここに掲げた「数値基準」は「日本の図書館2003」に基づくものであり,今後は最新版の「日本の図書館」によって算出された数値を基準にするものとする。

システムとしての図書館

 ここで掲げている数値は自治体における図書館システム全体を対象としたものである。自治体の人口規模や面積,人口密度等に応じて地域館や移動図書館を設置運営し,図書館システムとしての整備を進めていくことが必要である。

図書館の最低規模は,蔵書50,000冊

 図書館が本文書で掲げるような図書館として機能し得るためには,蔵書が5万冊,専任職員数3名が最低限の要件となる。このとき,図書館の規模としては800㎡が最低限必要となる。これは地域館を設置する場合においても最低限の要件である(末尾に添付の資料参照)。

[延床面積]
人口6,900人 未満1,080㎡を最低とし,
人口18,100人 までは1人につき0.05㎡
46,300人 までは1人につき0.05㎡
152,200人 までは1人につき0.03㎡
379,800人 までは1人につき0.02㎡を加算する。
[蔵書冊数]
人口6,900人 未満67,270冊を最低とし,
人口18,100人 までは1人につき3.6冊
46,300人 までは1人につき4.8冊
152,200人 までは1人につき3.9冊
379,800人 までは1人につき1.8冊を加算する。
[開架冊数]
人口6,900人 未満48,906冊を最低とし,
人口18,100人 までは1人につき2.69冊
46,300人 までは1人につき2.51冊
152,200人 までは1人につき1.67冊
379,800人 までは1人につき1.68冊を加算する。
[資料費]
人口6,900人 未満1,000万円を最低とし,
人口18,100人 までは1人につき796円
46,300人 までは1人につき442円
152,200人 までは1人につき466円
379,800人 までは1人につき229円を加算する。
[年間増加冊数]
人口6,900人 未満5,574冊を最低とし,
人口18,100人 までは1人につき0.32冊
46,300人 までは1人につき0.30冊
152,200人 までは1人につき0.24冊
379,800人 までは1人につき0.17冊を加算する。
[職員数]
人口6,900人 未満6人を最低とし,
人口18,100人 までは100人につき0.025人
46,300人 までは100人につき0.043人
152,200人 までは100人につき0.041人
379,800人 までは100人につき0.027人を加算する。
基準値の算出例

たとえば人口50,000人の自治体の場合,必要な延床面積の算出は,下記の計算により,3,161㎡となる。

1,080+((18,100-6,900)×0.05)+((46,300-18,100)×0.05)+((50,000-46,300)×0.03)=1,080+560+1,410+111=3,161

1989年1月 確定公表 2004年3月 改訂
日本図書館協会図書館政策特別委員会

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