就任に際して
大谷康晴(おおたに・やすはる) 日本女子大学文学部
第31期図書館情報学教育部会長に選任された日本女子大学の大谷康晴です。よろしくお願い申し上げます。
第28期(2013-2014年度)から第30期(2017-2018年度)にかけて小田光宏先生が部会長として就任されていた時期は,日本図書館協会の映像事業問題に端を発した財政上の危機,そして公益法人への移行と法人そのものが大きく揺れ動いていました。さらに学校図書館のほうで,学校図書館法改正(2014年)から学校司書モデルカリキュラムの公表(2016年)とこちらも大きく変革した時期でした。このうち,特に公益法人の移行により,本部会独自の会計を持つことができなくなり,毎年の部会交付金をベースとした運営を余儀なくされました。
極度の緊縮財政を強いられた大変な時期であったにもかかわらず,指定寄附を広く募ることで,財政の基盤を確保していただいた小田前部会長,そして過去の幹事のみなさまには心から御礼申し上げたいと思います。ありがとうございます。そして,お疲れさまでした。
さて,このように一定程度の財政上の基盤を固めていただいた上で,現在の文部科学省の動向を改めてみてみると,東京オリンピック開催のために人員が割かれていること,組織再編が2018年10月に行われたこともあり,図書館情報学教育に関わる動きは小康状態にあるように思われます。
しかしながら,司書教諭の省令科目は最後の改正から20年が経過しています。情報通信技術,教育のあり方に関する動向を見ていると,時代に合わなくなってきているように思われます。また,司書(司書資格の取得のために大学において履修すべき図書館に関する科目)についても本格的な施行は2012年からですが,改正の議論を開始したのは2007年になります。
「図書館の設置及び運営上の望ましい基準」も「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」が2001年に成立した後,現在の基準に改正されたのは2012年ですが,実質的な議論は2009年度にほとんど終わっていました。近年の文部科学行政は,比較的短いスパンでさまざまな制度の改正を図っている事実があります。このように考えると,いつ図書館情報学教育にかかわる制度的議論が開始されてもおかしくないということになります。その時になって慌てて理論武装しようとしても間に合わないので,部会としても日ごろから図書館情報学教育に関する知見を深めて,実効性のある意見として出せるようにしておく必要があります。
以上の点に鑑み,教育部会としては,以下のように考えたいと思います。まず、私たちは大学において図書館情報学の教員ですが,同時に研究者でもあります。思いこみや信念に基づくものではなく,エビデンスに基づいた議論を行わなければなりません。この点から日本の図書館情報学教育の実態の把握に努めたいと思います。
次に各地のみなさまのさまざまな情報を共有することを推進したいと思います。2018年度より開始した図書館情報学FDプログラムでは参加者がお互いのノウハウを共有するような活動を取り入れています。この活動を通じて私たちも先生方の実践例を共有して制度的な議論に反映します。
また,こうした情報の共有には教育課程のあり方も含まれます。少子化が進む中で大学もさまざまな改組・改革が進むことと思います。司書課程単独で生き残れるのか疑問であるという消極的な動機だけではなく,さまざまな学問と連携していく中で図書館情報学教育のさらなる広がりを求めていくという積極的なアプローチも必要になってくると考えます。2019年度活動部会総会終了後に開催した第1回研究集会で,小田光宏先生に青山学院大学で新設された学部における専門科目としての図書館情報学教育についてお話をお願いしたのもこのような問題意識に立っています。
以上のように今期においては図書館情報学教育の実態の把握と,会員相互のさまざまなレベルでの情報の共有を目指して活動していきたいと存じます。会員のみなさまにおかれましては,ぜひ図書館情報学教育部会の活動にご協力賜りますようお願い申し上げます。
(2019.7.1掲載)