令和6(2024)年能登半島地震について

この度、地震により亡くなられた方々のご冥福をお祈りいたします。
また、被災された皆様に心よりお見舞い申し上げ、一日も早く平穏な日々に戻る事をご祈念申し上げます。
日本図書館協会及び図書館災害対策委員会も微力ではありますが、支援を模索し、対応してまいります。
被災情報並びにお困り事がありましたら、メールにてご一報いただければ幸いです。
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第103回全国図書館東京大会第12分科会 出版流通 記録


2017年10月13日(金)9時~12時
国立オリンピック青少年記念センター309

書店と図書館の協同を求めて
~「公立図書館」における図書購入の実態」を中心に


基調報告「公立図書館における図書購入の実態」調査報告から
  大場博幸(文教大学文学部准教授)
報  告「地元の書店が本や雑誌を図書館に納入するということ」
  高島瑞雄(高島書房・日本書店商業組合連合会流通改善委員会図書館サポート部会部会長)
報  告「地元の書店から本を購入するということ」
  田中伸哉(白河市立図書館館長)
報  告「『公立図書館における図書購入の実態』調査報告を読んで
  永江朗(フリーライター・日本文藝家協会理事)
パネルディスカッション
  司会:瀬島健二郎(日本図書館協会出版流通委員会委員長、文化学園大学図書館長・教授)


分科会概要

 
出版物の売上げの減少に伴い、書店が減っています。2000年に比べ、2016年には約6割の1万3041店まで減少しました(アルメディア調べ)。当分科会では、今回初めて図書館の資料収集に欠かせない書店との関係を採り上げます。
 2016年度実施の全国の公立図書館を対象とした「公立図書館における図書購入の実態」調査では、割引率、装備、書店や書店組合との関係などが明らかになりました。著作物は再販制度の対象で図書はその代表ですが、入札に応じて割引納入されていたり、装備と組合せ定価で納入されるなどしている。また、多くの図書館が自治体内の書店や書店組合と取引して資料を集めています。
 初めて明らかになったこうした実態を基に、同じく地域社会において出版物を提供する役割を共有する書店と図書館の間での望ましい関係を求めて、報告を基に意見交換します。瀬島健二郎(日本図書館協会出版流通委員会)


基調報告


「公立図書館における図書購入の実態」調査報告から

    大場博幸(文教大学文学部准教授) 

1.多様な資料の収集と地域の書店の保護
 
  公立図書館の予算はここ20年ほど徐々に減額されてきている。予算削減の内訳としては、指定管理制度が典型的であるように、特に人件費がターゲットとなっていることが多い。一方で、資料費は一連の聖域であり、減額傾向にあるとはいえ、維持されるべきものと考えられている。しかしながら、現行の資料購入の方法は本当に合理的なのだろうか。調達方法に改善の余地がないかどうかについては、議論がほとんどない。資料購入について、検討がなされてもよいはずである。
 公立図書館の資料収集では、所蔵タイトル数が多ければ多いほど、多様なニーズに応えることができる。資料費が限定されているならば、安価に購入することでより多くのタイトルを揃えることができるだろう。端的にいって、寄贈での収集や古本の購入は合理的だろう(もちろん、社会的影響の点では議論の余地がある)。新刊ならば、購入時における割引率が高いほどよい。購入における安価さ、割引率の高さが、図書館にとって望ましいということは疑いえない。
 しかし、自治体によっては図書館の仕入先が、自治体域内の小売書店に限定されることもある。購入のすべてまたは一部を、自治体域内に事業所をかまえる書店または書店組合からにするのである。その理由が明示的に説明されることがまれであるけれども、域内の小売書店の保護のためであることは明らかであろう。そこで、域内の書店からの調達は図書館にとって望ましいものか、という疑問が起こる。
 おそらく、政令市以外の地方自治体の小売書店は零細であることが多いだろう。こうした書店を仕入先とした場合、大手小売書店からの購入と比べて、その割引率は低くなると予想される。そこには、図書館の目標と地域の産業振興との間にジレンマが横たわっている。
 そこで、以下では日本の公立図書館の資料購入の実態を調べてみることとする。

2.「公立図書館における資料購入の実態」調査

 この調査は安形輝(亜細亜大学)、大谷康晴(日本女子大学)、池内淳(筑波大学)、大場博幸の四名による共同研究である。1)

2.1.調査の概要

 
 2016年の7~8月に、図書購入についてのアンケート調査を行った。対象は、都道府県および市区町村の自治体の本館および中央図書館1,365館である。これは、2015年『日本の図書館』に掲載された図書館設置自治体すべてにあたる。有効回答数は1,042件で、回答率は76.3%となった。
 調査項目は「自治体内書店からの購入の有無」「割引の有無」「割引率」「書店組合経由の割合や金額」の四つである。あわせて、装備付きの納入かどうかについても尋ねている。 
 なお、一つ一つの回答には曖昧さが見られた。そのため、集計においては次のように処理した。頻繁にあった曖昧な回答のパターンとして、割引率や書店組合経由の購入割合の設問に関して「10~15%」のように幅を持たせることがしばしば見られた。この場合、平均値を代表値とした。また、「約」「およそ」「程度」など数値の幅に含みをもたせた修飾語は、削除して集計した。このほか、欄外コメント、メール、電話などは記録して、適宜参照できるようにした。

2.2.調査結果

・図書購入のさいの割引の有無
 はじめにどの程度の図書館が割引購入をしているのか調べた。結果は、「割引なし」の図書館が全体の2/3程度あり、「割引あり」が1/3であった。

 ・図書購入のさいの装備の有無

 割引においては装備の有無も考慮しなければならない。定価で購入していたとしても、装備付き納入ならば実質的に割引となる。まずは単純に装備付きかどうかを尋ねた。結果は、「装備あり」が4割弱、「装備なし」がおよそ6割となった。

 ・図書購入のさいの割引と装備

 続いて装備と割引のそれぞれの有無について尋ねた。「装備なし取引なし」の図書館は1/4弱あり、「装備あり割引なし」がおよそ4割、「装備あり割引あり」が1/3であった(残りは無回答)。「装備あり割引なし」を「装備相当分の割引」とみなすならば、3/4の図書館が割引を受けていることになる。

 ・自治体の書店経由での購入の有無
 次に、納入先の小売書店が図書館設置自治体の域内にあるかどうかについて尋ねた(このとき書店組合のケースも含む)。その結果、約8割の図書館が「域内」と答え、2割が「いいえ」と答えた。

 ・自治体内の書店で購入する場合

 しかしながら、購入するすべての書籍を域内の小売書店から購入しているわけではない。続いて、全購入数に占める域内書店経由のタイトル数の割合を出し、その割合を示す図書館数を集計した。「域内書店からの購入は1%未満」「1%~24%」「25%~49%」「50%~74%」「75%~99%」「100%」として階級をつくると、もっとも多かったのが「75%~99%」であり、300館を超えた。「100%」も100 館以上あった。これら以外すべては100館以下であった。ここから、大半を域内書店経由で買っている館と、そうでない館とに二極分解していることがわかる。
 
2.3.規模別の分析

 ・設置自治体別の割引率
 割引率についての結果を図書館の設置自治体別にクロス集計した。区分は「都道府県立」「区立」「政令指定市立」「市立」「町村立」の五つとした。「都道府県立」の6割、「区立」の8割、「政令指定市立」の5割がなんらかの割引を受けていた。一方、「市立」の7割弱、「町村立」の7割強が割引なしの購入であった。

 ・蔵書規模と割引

 次に蔵書規模別にクロス集計した。「蔵書冊数5万冊未満」「5万冊以上10万冊未満」「10万冊以上20万冊未満」「20万冊以上50万冊未満」「50万冊以上100万冊未満」「100万冊以上」の6区分とした。結果として、割引を受けている図書館の占める割合、および割引率が、蔵書規模に応じてともに高くなるという傾向が明らかになった。加えて、大規模館は割引率を非公開とする割合も高くなった。

 ・地域別の割合

 割引率に地域による差はあるのだろうか。「北海道・東北」「関東」「中部」「近畿」「中国・四国」「九州・沖縄」の6区分で割引率を集計した。関東では4割強の図書館が割引を受けており、他地域に比べて割引されている図書館の割合と割引率がともに高い。一方で、北海道・東北では定価購入が8割を超えている。関東の有利さは出版地からの距離のためだろう。都道府県別では、東京都の図書館がもっとも数多く割引を受けており、続いて栃木県が多かった。愛知県も栃木県と同程度であった。

 ・直営か委託か

 経営形態によって割引に影響がでるだろうか。直営館か指定管理館かで割引率をみた。結果、指定管理館のほうが一割ほど割引を受けている館の割合が低かった。すなわち、直営館のほうが割引を受けている。意外に見えるが、これは指定館の蔵書規模が直営館と比べて小さいことから説明がつく。おそらく全体としての購入数の影響が大きいと考えられる。

2.4.調査結果のまとめ

 装備付き定価購入を割引に含めるならば、8割弱の図書館が何らかの割引を受けていたことになる。また、購入全体に占める割合はどうあれ、8割ほどの図書館が自治体域内の書店を仕入先としていた。
 割引に影響すると考えられる要因は、図書館の蔵書規模と出版地への近さである。結果として、東京およびその近辺の図書館ほど有利な割引率で書籍を購入できることになる。

3.考察と議論

 調査によって、資料購入価格の図書館間格差を確認できた。ただし、格差を生んでいるのは、図書館の規模や出版地への近さであって、購入ルートであるとは言えないようだ。しかしながら、さらなる検討が必要であるとはいえ、大規模図書館であるならば自治体域内かどうかにこだわらず、大手小売書店を仕入先としたほうが高い割引率を期待できるということは言える。

 そもそも地元の小売書店を仕入先とすることのメリットはなんだろうか。図書館を納入先とすることができるならば、零細な書店でも経営を存続できる可能性が高い。また、その書店の経営者や従業員が地元で消費することにより、地域で経済がまわるという乗数効果も考えられる。いくら安価でサービスが良いとしても、納入業者が遠く離れた大都市にあるならば、地元へのそうした経済効果は期待できない。これはすなわち、図書館の予算を文化振興や教育振興のためではなく、「産業政策」として利用することを意味する。

 この論理は妥当なのだろうか。それは経済学的にみれば「比較優位」の原則に反するように見える。零細な書店を優遇することは、地域の資本と人材がより生産性の高い産業に使用されることを妨げ、効率の悪い産業のために消尽されるということに等しい。産業政策を認めるとしても、書店のような衰退業種の保護を正当化できそうにもない。なぜなら、それは将来、地元の経済を支える可能性のある「幼稚産業」ではないからである。さらに言えば、地域にある数ある業種のうち、書店が、それも特定の書店だけが保護されるべき理由を正当化することは難しい。仮にそれを保護すべきだとしても、それは図書館との取引によってなのだろうか。

 以上の問題に取り組むためには、もっと議論の蓄積が必要だろう。現状ではそもそも意見の表明自体が少ない。問題提起がなされないまま、書店の経営難という変化がすでにゆっくりと進行しているのである。

参考文献

1)     安形輝・大谷康晴・池内淳・大場博幸「公立図書館における図書購入の実態」『日本図書館情報学会研究大会発表論文集』No.64,p.103-106,2016.


報告

地元の書店が本や雑誌を図書館に納入するということ

 高島瑞雄
 (高島書房、日本書店商業組合連合会流通改善委員会図書館サポート
 部会部会長)

 日本書店商業組合連合会(略称=日書連)は、前身の日本出版物小売統制組合全国連合会が昭和20年に結成して以来、70年を超える歴史を持つ全国唯一の書店人の全国組織(山口県を除く)である。所属員数は平成28101日現在で3,604名を数える。

 私が部会長を務める図書館サポート部会は、日書連が設けている8委員会のうちのひとつ、流通改善委員会の下部組織として、活動をしている。「日書連MARC」の発行元であり、全国の加盟書店から 公共図書館や学校図書館に関する相談事を受け付ける、駆け込み寺的な存在となっている。

 分科会のテーマが「書店と図書館の協同を求めて」とされていることには、率直に感動している。願わくばもう一歩踏み込んで「元書店と図書館の協同を求めて」としていただきたかったところである。

 昨年報告された『公共図書館における図書購入の実態』の調査結果を拝見して、自治体内の書店や書店組合がどの程度利用されているのか、装備付納品や割引(値引)はどの程度なのかという点について、地元書店の視点から感じたことをお話させていただく。

 アンケート集計結果の割引率については、噂で耳にしていた数字が挙がっており、「やはり!」というのが正直な感想である。ご存知のように一般的な書店の粗利益率は21%~22%と言われている。今回の最大の割引率24%~25%(装備なし)というのは、超大手書店並の粗利益率と同じであり、過去にあったコピー機や情報システム調達の1円入札などの事例を彷彿させられる。つまりまず落札しておいて、MARC代や装備費、指定管理費、人材派遣費などの付帯事業で収益を得た上で、次回以降は随意契約に持ち込もうとする手法と考えられる。但しその対象は、全国的に名の知れた図書館であることが肝心で、当該業者が納入契約を落札したという事実が、宣伝効果として価値があるかどうかがポイントになる。実際に知名度の高い図書館並みの対応を、地方の小規模図書館で実施しているとはとても考えられない。業者にとって不利益以外のなにものでもないからである。また、地元書店が同様の対応をするのは、とてもハードルが高いと言えよう。

 基本的に、一図書館からの営業利益(売上から仕入と経費を差引いたもの)は、資料費、運賃(配送料)、単価・冊数・判型(予算が同じならば、高単価・小冊数・小判型ほど経費は少ない)、調達コスト、営業訪問頻度、支払サイト等々によって変動する。資料費が巨額で東京都内にあり、注文品の単価は高額で(したがって冊数は少なめ)ほぼ在庫品から調達可能、営業は年間数回のみ、入荷後12カ月で振込入金という図書館が対象であれば、納入業者はかなりの収益が見込めるはずである。驚きの値引きが捻出される構図はそこにあると考えられる。

 装備については、装備費にばらつきがあるのは理解ができる。従って、「装備なし」マイナス「装備あり」という単純な計算では割引率の説明はつかない。なぜなら、フィルムやラベルの材料費を誰が負担するのか、誰が装備作業をするのか、どこで作業をするのかによってコストが変わってくるからである。例えば、書店や素納品した資料を、図書館側が人を雇って館内で装備作業し、その費用を書店・協同組合が負担しているケースが実際にあるのだが、正確を期すためにはこうした事例も考慮する必要があるだろう。また、意外に盲点となるのは、資料購入代金の平均単価である。ある公共図書館では、地元書店と大手図書館専門業者とで納入単価に大きな差があった。実はその納入単価の差だけで、大手業者は充分に装備費を捻出できていたのである。

 あえて「装備プラス納品」という形で考えるのであれば、私が思うに①装備材料を図書館から提供してもらって、フル装備をして定価納入、②装備費を別枠で予算化した上で、10%以内の割引(値引)というのが、地元書店としては経営上の限界ではないだろうか。

 次に、自治体内の書店・書店組合経由での購入割合について述べてみたい。自治体内の書店からの購入が、1%未満という回答が13.7%あったようだが、これは、多分に緊急性の高い資料や地元書店でしか入手できない資料を購入したものと考えられる。購入というよりはむしろ調達といった方が合っているかもしれないこのケースが、あまりに一方的な利用に見えてしまうのは私だけだろうか、なにしろ書店は1冊の納品のために、10冊記入できる5枚綴の伝票に1冊だけ書いて届けなければならないのである。

 また、25%未満の購入が8.1%というのは、おそらく雑誌ではないかと推察する。これは大手図書館専門業者が不得手な部門であり、こちらも何やら、言葉が適切でないかも知れないが「大手が中小書店に仕事を回してあげている」ようなニュアンスを感じてしまうのは私だけだろうか。

 また、大半(3分の2以上)の図書館が、資料の75%以上を、自治体内の書店・書店組合から購入していると回答しているが、果たしてこれが現実に即した結果になっているのかどうか、書店の立場からみると、いささか疑問を感じざるを得ない。全てとは言わないまでも、伝票上、形式上、あるいは表面上そうなっているだけかも知れない。

 『日本の図書館』とのクロス集計については、最初に述べたように、大手図書館専門業者や書店の営業利益から判断すれば、首都圏近郊、巨額な予算、面倒な注文が少ない(業者在庫で賄える)、そして恐らくは支払が早いという条件の揃った図書館の割引率が大きくなっているという現状は、大いに頷ける結果である。

 最後にまとめとして、主題の「書店と図書館の協同を求めて」について述べる。

 ある地方の書店協同組合と地元図書館の関係について特徴的な点をお話ししたい。その協同組合は地元図書館の大半の書籍・雑誌の注文を担っており、読者直接販売の書籍や高正味(仕切が高い)や定価仕入(利益が無い)の書籍も通常の書籍と同様、フル装備をして納品している。つまり、この注文だけを見れば、完全に赤字である。また、年間一時払いの雑誌も受けており、年度初めに立替払いをして、月々分割して請求をしている。また、他社に注文しても「品切」と処理された短冊が戻ってくる低価格の書籍や安価なコミックについても、仕入(協同組合が問合せてみると、何故か版元には在庫があるのだ)をして、もちろんフル装備で納入している。

 それ以外にも、児童図書展示会や学校司書の研修会、読み聞かせボランティアの講習会などに積極的に関わり、連携して地域の読書環境づくりに努めている。

 確かに大手図書館専門業者を使えば、図書館現場は業務が簡素化・システム化できるだろうし、総務省の言うところの「縮充」により指定管理者や人材派遣が増加するのもご時世なのかも知れない。

 だが一方では、北海道の留萌市のように書店が無くなり、市として東京から書店を呼び寄せたり、青森県八戸市のように市営の書店を開業したが、その利益は以運営費の3分の1しか稼げず、税金で穴埋めをする事態が起こっている。

 そうした中で、超党派の国会議員でつくる活字文化議員連盟内に設けられた「全国書誌情報の利活用に関する勉強会」は、2016428日付で答申を発表した1)。その中では、

   国会図書館は「選書用新刊情報」を作成し、書誌情報を作成する事業者・公共図書館・流通業者・研究機関などに無償で提供する。

   地方公共団体および公共図書館は、図書館への図書納入に関して、指定管理者が入札業者を兼ねることがないよう区分し、図書納入にあたっては地域書店を優先し、地域文化の活性化に努める。

   出版社は、地域書店の育成という観点から、競争入札の範囲などの見直しを検討する。

といった項目が、公共図書館の納入を取り巻く課題解決のための提言として挙げられている。

 これらが推進されれば、⑴ MARCの全国統一・無償化、⑵ 地元書店・書店組合の図書館納入事業への参加 ⑶ 再販維持(定価納入)による地元書店の健全経営化、が促進されることは言うまでもなく、日書連としては、これらの提言が実現されるよう同勉強会に申入れるとともに、側面から支援を行っているところである。

 私は、いま全国にある地元の書店は、大小問わず、公共図書館、学校図書館につぐ第3の図書館であると考えている。地元住民からすれば、図書館も書店も本があることには変わりなく、なにより書店は雑誌や新刊本に関して既存の図書館をカバーすることができる。地方自治体は地元書店を行政の経費が掛からない第3の図書館として大いに活用していただきたい。そして地元書店としては、第1・第2・第3の図書館が協力して、地域の読書環境や文化的環境を作り上げていくこと、それによって地元がこの先何十年も住民に誇れる公共図書館を維持し、文化的な匂いのする街として、存続していくことを目標にしていきたいと考える。

 結論として、地元書店が本や雑誌を図書館に納入するという事は、地元意識に基づいた情報や知識や人材を活用し、納入の融通性を利かし、資料収集(郷土資料も含む)の精度を高め、よりよい読書環境を公共図書館と協力して育み、数十年後にも地域住民に誇れる図書館、ひいては文化的香りのする地域を築き上げていくためには必要不可欠は条件と考える次第である。

 もちろん、その実現のためには地元書店の情報収集、集品力(資料調達力)、図書館との意思疎通に関する努力が欠かせないことは、書店として改めて肝に銘じておきたい。

【質疑応答】

会場から:書店商組合から購入することに否定的なご見解を述べられたと思うが、その中身をご説明頂きたい。

高島:否定はしていない。伝票操作だけで書店組合が間に入るというのは本屋ではないでしょう。実物納入があって本屋が成立つのであって、伝票に書店組合の名前が欲しい専門業者がいるから、書店組合の名前を書いて伝票を発行する業務でバックマージンをもらうということに関して否定ですと話した。本屋としての誇りを持つべきだし、実際に本を納入することで地力もつくし、書店と出版社との力関係も出てくる。それが無くて伝票操作だけの書店は、一寸違うのではないかと思います。

参考文献

1)   全国書誌情報の利活用に関する勉強会「これからの全国書誌情報のあり方についてーいつでも、どこでも、だれでも使える-(答申)」2016.04.28,

(答申全文)

http://www.jpo.or.jp/topics/data/20160615a_ipoinfo.pdf

(参考資料)

­http://www.jpo.or.jp/topics/data/20160615b_jpoinfo.pdf

(参照 2018.01.30


報告

地元の書店から本を購入するということ-白河市立図書館の図書購入の実際-

     田中伸哉(白河市立図書館館長)

はじめに

 図書館を構成する要素は職員、資料、施設、利用者である事は言うまでもない。その資料は、蔵書コレクションとして、職員が不断に行う選書・発注によって築かれて行く。しかし、どのような選書組織がどのような選書ツールを使い、購入をどのように行っているかは、自治体や図書館の規模、職員の構成などの諸条件によって異なっているのが現実である。

 本分科会では、新築移設し、開館して6年が経過した白河市の新図書館が、どのような方法で本を選び、地域の出版流通を構成するパートナーである地元の書店とどのように付き合ってきたかを報告する。

1.白河市の現況

 中世から東北の玄関口にある白河は、那須連峰を望む福島県の南部中央に位置している。白河市の中心部から県都福島市まで約90キロメートル、東京都心までは約185キロメートルの距離にある。平成17年に旧白河市、旧表郷村、旧東村と合併した現在の市域は、東西に約30キロメートル、南北に約30キロメートル、総面積は305.32平方キロメートルとなっており、約半分を山林が占めている。約61,300人、23,400世帯が暮らしている。

2. 白河市の図書館

 平成の合併当時、旧表郷村を除く12村には図書館が設置されていたが、新図書館の新築移設までは、運営の一本化が進まなかった。その原因としては、蔵書の多い旧白河市立図書館にコンピュータが導入されておらず、司書職員がリーダーシップをとって専門性を発揮できなかった事が考えられる。

 その後、新刊準備に移行する中で、表郷地区に地域館が設置され、現在の4館体制となり現在に至っている。なお、大信と東の地域館には、旧村時代から移動図書館があり、各地域の学校等を訪問している。

 約33万冊の蔵書で、年間資料費約4千万円、年間63万冊を貸出し人口当たり10冊を超えた。

3. 白河市の書店

 白河市の旧市街地には元々書店が多数あり、出版も手がけるほどの書店もあったが、市街地が寂れ、後継者も育たない中で書店も減少し、現在はチェーン店を除くと家族経営の3店舗が書店組合を構成している。

 旧館時代は書店組合といっても、各々の店がそれぞれの方法で受注し納品しており、集品や装備も店ごとに工夫を任されているため、納品のスピードや事故伝票の精度がまちまちだった。

4.旧館時代の課題とコンピュータ導入の準備

 旧館では数年掛けて蔵書MARCの準備を行ってきたが、市立図書館とは別の組織が作業を行った。ベースは大阪屋MARCで、システムの選定は大信と東の図書館が先行して導入していた事も考慮されたと考えられる。

 サーバを持たずにデータセットアップを行っている事にも影響され、資料発注時の請求記号など所蔵情報の決定は、データを抽出し白河市指定の仕様によって加工する業者の作業が終わってからになるため、地元で装備を行っている書店も請求記号待ちのタイムラグが大きく、納品スピードは思うに任せなかった。

 旧館は選書の組織がなく、ツールも決まっておらず、職員が分配された予算に合わせて選書発注を行うため、重複などの問題もあり、体系的なコレクションづくりは大きな課題だった。また請求記号の決定という図書館の主体的に行わなければならない面での力量不足と書店の負担が大きいという問題があった。

5.新館開設に向けてー集書の基本的な考え方

 これまでの問題点を踏まえ、地元の書店とは、単に本を購入する相手に止まらず、出版流通を地元で担うパートナーであることをお互いに確認しあう事が大切であると考えた。また、蔵書コレクションを構築する選書は、司書が地域と住民を知り、資料提供を行うための大切な仕事である。そのためには、

  書店組合の構成員である各書店の業態を尊重し、MARCによる集品(取次、組合)の囲い込みが起こらないように図書館側の業務を組み立てる必要がある。MARCナンバーは決してユニークではなく、ISBNをキーにする事で書店の帳合が違うことは解決できる。

  地元で装備ができる環境を書店組合が協力しあえるように、相談し努力する。

  見計らいは難しいので、客注で本が入手できるように出来るだけ早いタイミングで選書できるようなツールを整備する。

  請求記号などの所蔵情報等のローカルデータは図書館側が主体性を持って指示できるような力量、仕組みを整える。

  規模の違いがあっても蔵書は森羅万象。予約リクエストや相談などを通じて、ジャンルの穴を発見し、埋めて行くことは、本を知ることの大切な作業なので、新刊だけでなく既刊もじっくり選ぶ。

6.書店とのつきあい

 20094月に白河に赴任して大切にしてきたこととして、書店に顔を出しコミュニケーションをとる事であった。

 図書館と書店の関係は、お世辞にも理想的な姿とは言えない状態であったが、地元の書店で装備が可能で何とか複数の書店が商売を続けているという現状に可能性があると考えた。ネットワークやコンピュータ技術は小規模な事業者にも恩恵が有り、図書館現場に今後どういう方向性があるのか、書店からは何が求められているのか、ざっくばらんに話し合ってきた。手探りであったが、例えば発注短冊や発注リスト、発注データのやり取り取扱いなど手作りの関係を築く努力をしてきた。

7.選書会議

 選書に関する会議は新館開館時よりの課題であった。当館は、司書に分類で選書から廃棄まで(買替えまで)分担させているが、老若男女様々な要求に応えるためには、担当者相互の議論は欠かせないものであると考えている。

 なぜ選んだのか?その主題あるいはそこに含まれる言葉についての意味は?お互いにその場の議論を共有することで、一冊ごとに新しい発見があり、自分の中に抽斗が増えることが窓口での自信につながる。また、市民の求める棚作りをイメージしながら、書架分類を調整できる事も大切である。開館して1年を過ぎた頃から続ける毎週木曜日の14時~16時までの2時間は楽しく厳しい場となっている。

 見計らい選書が現実的に難しいため、情報から本を選ぶためには、ツールも重要である。当館では大阪屋新刊MARCJAPAN MARCの一部を週単位で表計算ソフトに取込み表にしたものを、職員が分担ごとにチェックし大きめのディスプレイで情報を共有し合議しながら選んでいる。そのシートでは帯の内容等や書き込まれたコメントも参照しながら作業を行えるように工夫されている。

8.書店組合

 書店により納品の頻度、時間、質などばらつきがあったが、それを解決するためには、地元書店が装備を完全に地元でまかなえる事が必要と考え、書店組合に対して働きかけを続けていく中で、各書店の協力関係が進み、今年度から実現することとなった。

 もちろん各書店の帳合を使う前提で話を進めていただき、相互扶助の観点も大事にしながら、無理の無い範囲の方法を追求して頂いた結果、伝票の一本化による省力化が実現し、何か相談事があればお互いに近いのですぐ話ができる事は地域の図書館としてのメリットは大きいと言える。地元に出版流通の流れが作り出せる事で、書店も図書館も高めあえる関係が重要である。

9.さいごに

 昨年度末の統計ではようやく住民一人あたりの貸出冊数10冊を記録することができた。新館の準備に当地に来て8年という短い期間で築き上げる事ができたことはまだまだ少ない。また、書店も跡継ぎの問題を抱えている。

 今後も、オーソドックスに資料提供を追求できるフレッシュな館の運営には、地元の出版流通を担う書店との関係が大切であり、古い街並みに良く似合うと感じている。


報告

『公立図書館における図書購入の実態』調査報告を読んで

   永江朗(フリーライター、日本文藝家協会理事)

1.図書は立地する地域の書店から購入すべきである。

 納税者のひとりとして考えると、公共図書館の図書はその図書館が立地する書店から購入すべきだと思います。じぶんが収めた税金はじぶんが住む地域で使われるべきだと思うからです。A市の市民が納めた税金が、A市の図書館を通じて、B市に本拠を持つ書店に支払われるというのは、A市の市民としては納得できないでしょう。

 図書館は購入する図書の選択を主体的におこなわなければなりません。どんな本が出ているのか)あるいは出る予定があるのか)を把握し、どの本を何部購入するのかを決定する。これができない図書館員に存在意義はありません。一昔前であれば、図書館と書店、零細書店と大手書店のあいだには、得られる出版情報その他に差があったかもしれません。地元の零細書店では十分な情報が得られないので、地域外の大手書店に頼るということもあったでしょう。また図書だけでなく書誌情報の入手といった課題もあったでしょう。しかし、ITが進歩した21世紀にそんないいわけは通じません。公共図書館が地元の書店以外から図書を購入しなければならない理由はありません。どんな小さい書店でも、観光されているあらゆる本を調達することができます。立地する市町村に書店がなければ、隣の町の書店から購入すればいいのです。

2.図書は定価で購入すべきである。

 書店経営者と話していて、たびたび話題になるのが「入札」です。書店業は利益の少ない商売です。粗利率は22%~24%といったところでしょう。2001年に21千店あった書店は、2016年には14千店を割り込みました。閉店の理由はさまざまですが、利益率の低さもそのひとつである。本屋では食えない、食えないから我が子にも跡を継がせられない。カフェを併設したり雑貨を扱ったりする書店が増えているのは、書籍・雑誌の利益が薄いからである。定価で本を売っていてもわずかな利益しかないのですから、それを「入札」によって買い叩かれてしまうと、書店は生きていけません。適正な利益があるべきです。実際、超薄利にもかかわらず図書館に図書を納入している書店は、経営規模が大きくてスケールメリットがあるか、図書販売以外のビジネスー事務用品の納入や簡易印刷などーで利益を確保できるからだ、という陰口も聞かれます。書店専業で経営規模の小さな店は、入札に参加することもできません。地域に書店を残すためにも、公共図書館の図書は地元の書店で、定価で購入するべきだと考えます。

3.新刊市場で流通している図書は新刊で購入すべきである。

 いわゆる「ツタヤ図書館」についてスキャンダラスに報じられたように、公共図書館が古書を購入するのはいかがなものかと思います。もちろん新刊市場に存在しない絶版本や品切重版未定の本はしかたありません。しかし新刊が入手可能であるにもかかわらず古書を購入して閲覧・貸出に提供するのは、著作者。著作権者として納得できません。古書を販売されても、著作権者には経済的な利益がないからです。わたしは「複本問題」はとるにたらない問題だと考えていますが、しかししれは「複本もまた購入されている(印税が支払われている)」という前提があるからです。新刊市場にあるものを古書で購入するのでは、その前提が崩れます。

 図書館が資料を購入するにあたっては、著作物の再生産が行われるよう、出版社や著作権者にも正当な利益が分配されるべきです。図書館では複数回の利用が想定されているわけですから、図書館用の本はその分を上乗せした価格に設定することも選択肢としてはありえるでしょう。

4.新刊市場で流通している図書の寄贈を一般市民に求めるべきではない。

 図書館によっては、多数のリクエストがある図書について、一般市民からの寄贈を呼びかけている館も存在します。これも3と同じく、著作権者としては経済的利益がないわけで、不愉快です。繰り返しますが、公共図書館は、新刊市場にある図書は定価で購入すべきです。それ以外の手段は、他に選択の余地がない場合にのみ、例外的に用いられるべきです。

5.京都・桑原武夫文庫事件をめぐって―図書館員の能力が落ちている。

 わたしは1で、図書館は図書の選定と購入を主体的に行うべきであると主張しました。また、その能力がない図書館員に存在意義がない、とも言いました。しかし、実際のところ、公共図書館員がそれにふさわしい知識と見識をもっているのか、はなはだ疑問持つことも多々あります。その典型例が、ことし、京都市で起きた桑原武夫氏寄贈資料の廃棄事件でしょう。資料の重要性、とりわけ個々の書目ではなくひとまとまりのコレクションとして保存することの重要性を図書館員が理解していなかったことにも驚愕しましたが、廃棄を指示した図書館員に対する処分の甘さにも呆れました。文筆を生業とする者からすると、なぜ懲戒解雇とならないのか不思議です。かって公共図書館について無料貸本屋と揶揄する向きもありましたが、図書館員が専門性を持って考えたり判断したりすることを放棄して、たんなる図書館作業員になっているのではないかと危惧します。

6.除籍情報を公開すべきである。

 桑原武夫文庫事件をきっかけに思ったのですが、新着図書の情報発信には熱心でも、除籍情報については積極的に公開していない公共図書館が多いのではないでしょうか。「ご自由にお持ち帰りください」コーナーに並んではじめて除籍を知ることも。図書館の図書は住民の財産ですから、その行方についてもきちんと公開すべきです。また、除籍・廃棄されるにいたった経緯(貸出実績、汚破損の度合い、内容の陳腐化など)も、じゅうぶんに公開すべきです。除籍・廃棄を透明化し、検証することで、新たな図書購入についても検討することができるでしょう。もちろん、著作者としては、じぶんが書いた本が除籍されると知ればショックでしょうが。また、除籍した本を市民に無料で渡すのではなく、館外のどこかに保存しておく、複数の公共図書館が共同で保存する施設を持つ、といった改善策も必要でしょう。東京都の多摩エリアで検討されている「多摩デポ」のような試みは参考になります。


パネルディスカッション

【パネリスト】

 大場 博幸(文教大学文学部准教授)

 高島 瑞雄(高島書房、日本書店商業組合連合会流通改善委員会

       図書館サポート部会部会長)

田中 伸哉(白河市立図書館長)

 永江 朗 (フリーライター、日本文藝家協会理事)

【司会】

 瀬島健二郎(日本図書館協会出版流通委員会委員長

       文化学園大学図書館長・教授)

司会:講師の発表に補足される事を、まずお話し下さい。

大場:僕以外の発表のおかげで、
会場が図書館は定価で本を買うべきだという雰囲気になっている。けれども、図書館の財政状況を考えると、敢えて「安く多く買う」方向を支持したい。
 そもそも、図書館に地元書店を保護する責任があるかどうか疑問である。もちろんそのような関わり方はあってもよいと思うが、図書館の力で地元書店を救うなどということはできないのではないか。地元書店を生き残らせるほどの費用は、図書館には出せないだろう。
 一方で、出版産業の維持は、図書館が考えるべきことだと思う。究極的には、出版社や著作権者への対応ということになる。しかし、小売までを含めた現状の流通ルートについて、今後も維持すべきだとは考えない。

高島:地元書店を大事にしなければならないことについて、根拠となる数字を示した
い。大手書店は、地元書店よりも2%ほど入ってくる掛け率が安い。入札の場合の出版社の最終卸値は、地元書店は6掛ほどだが、大手は5.5掛を切ってくることもある。出版社は定価の5%利益率が下がると、収益は8から9%下がる。地元書店がなくなって、大手書店や専門業者、Amazonとかがその版元さんの主な流通の窓口になる。そうすると、その版元は淘汰される、或いは完全に飲み込まれる。図書館も読者も本屋も非常に困る状況が発生してくるだろう。
 
多様性を持つということは、ローカルの書店を育ませることが大切であることを理解して頂きたい。それにより、地元書店は大手書店や専門業者には見つけられない本を地元の図書館に納入出来る。地元書店を共存させていくことは必須であるということで話をさせて頂いた。

田中:蔵書コレクションを構築していく司書の力量がしぼんでいってしまうのは図書館の死活問題と思う。決まり切ったツールだけでの選書だと、多様な考えや意見が反映された蔵書にならない。11冊丹念に見て選ぶということが司書の集団に求められている。また、見計らいという限られた条件でも同じような懸念がある。地元書店と連携し、客注での入手を工夫していくことで可能になる事もある。そういう関係を白河図書館と書店の間で8年の時間と労力をかけて作りあげた。
 出版物の多様性、読書の多様性には、売れ筋や消費される読書だけではないものを図書館に入れていかないといけない。私は手軽に取れる文庫本も図書館にあって良いと思っているのですが、それだけではありません。奥行きと幅がある蔵書が作っていける司書の集団の選書会議であって欲しいし、そのためには11冊キメ細かく買っていく作業の積み重ねが選書だと思う。1年分するとあるジャンルの特定のものは自動で入って来るというのは、小さな規模の図書館には有難いけど有難迷惑でで、どこの図書館に行っても同じような本が並んだつまらない棚になっているのではと思います。私は図書館の立場からそういうことに連携してもらえる書店さんとの関係を作ってきたという事を一番言いたい。皆で図書館を鍛えていかないと、図書館もダメだろうなと思います。

永江:何が何でも書店の利益を守れという書店至上主義ではない。読者のために、本のために、を優先順位の1位とすべき。そのために、本の出版流通システムはどうあるべきか、12年ではなく、10年、20年の長期間の視点をもって考えていくことが必要だ。
 予稿で触れているが先ほど全然触れなくて、1つ思っているのは利用者からすると図書館にどのような本が入り、捨てられているかが、見えない。新たに入ってきた本はわかりやすい館もあるが、もうすぐ除籍しますという情報はあまり開示されない。廃棄すべきかどうかについて、もっと再検討されてもよい。限られた予算を沢山本を買いたいという図書館員の思いも分かるが、今ある本をどのように有効活用するのかも、考える必要がある。
 京都市立図書館による桑原武夫寄贈コレクション廃棄問題の重大さを、書き手としては重く受け止めている。一図書館員の判断で桑原武夫の資料が永久に失われた。私は図書館員より古書店のおやじの方が見識があると思っている。しかし、何らかの理由で我々は図書館に託さなければならないわけです。お金、所蔵点数、利用者数など、数字に置き換えられることと置き換えられられない事があることを図書館員には十分に検討して頂きたい。

司会:会場から質問をお受けします。
質問:雑誌の購入で図書館が入札を導入せざるを得ない状況になっている場合、図書館に望むことは何か。
高島:入札しない様にしてくれ、ということですね。図書館というより首長を始め行政そのものに対し、地元の書店を大切にするという観点で入札を行わない、とトップが言えば済む話と思う。これは独占禁止法の中に書いてある、あるいは取次と書店の間の再販維持契約の中に入札という項目がある為に起きている。しなければならないとは、どこにも書いていない。そこの首長さんの文化的水準かなと、僕は思います。

質問:納品はするものの発注書を取次に投げっぱなしにし、品切れ連絡の取次からのFAXを図書館に持ってくるだけという書店も見受けられ、問題と考えている。どのような問題の背景があるか。また、対応策があるか。
高島:対策は、その書店をやめて良いと言いたい。書店としての誇りが無い。品切れの場合、34つのルートを当たって探します。それでも無ければ、申し訳ないと言います。極端な場合、他の本屋に行って買ってきます。それは何故かと言うと、無いと言われたくないからです。定価で買ってきてでも納めると言うのは敵対する相手がいるから、負けたくないという意思があるからです。版元にも取次にも、市内の本屋にも無いと分かれば、無いと言います。それを一番分かっているのは、図書館のカウンターの方です。「あそこの書店に有ったのに何故無いんだ」と、常に受けている。僕らはそれをカウンターで言わせないために頑張っているので、図書館が書店さんを叱咤激励して欲しいし、書店もまず自分で自助努力するという事しか無いと思います。

質問:白河市立図書館の年間資料費4,000万円は、人口に対しきちっと確保されているなと思うが、開館当時から維持されているのか。
田中:その予算額になったのは2年前からです。それまでは2,000万円とか2,500万円です。背景としては、白河市長は本の力とか大切さを理解され、図書館をとても高く評価しています。市民からの図書館の良い評価が伝わり、それが行政的な評価につながり、本だけは買わなければだめだと言って措置していただいている。今後は次第に自治体の財政状況が難しくなっていくので、こおれからが正念場だと思っています。

質問:白河市立図書館の選書会議は、司書全員が参加しているのか。
田中:選書メンバーは常勤の公務員でやっている。嘱託職員と臨時職員は、間接的にそれに絡みます。こういうのが不足していますと、そういう話をして、担当の分野の職員とやり取りする。でえすから、直接会議の場には出ませんけれども、その後のフィードバックが常勤職員から彼らに有る。司書全員が参加した選書会議をしたいと思うが、25人集めて行うのは現実的ではない。図書館の職員集団をどのように運営するかということになる。

質問:永江先生に貸出冊数とか登録率とか、教育委員会や首長への報告・予算等のために、図書館は数字にこだわらなければならない状況に有る事をお伝えしたい。
永江:それについては、十分に承知しいているつもりです。数字に置き換えられない部分で行政と交渉して、どう予算を引き出していくかという、行政マンとしての図書館員を育成していかなければならないと考えます。

司会:最後に、この会のまとめの発言をお願いします。

大場
:図書館と小売書店の関係ですぐに具体的なアイデアが有るわけではない。僕の出身地は愛知県の小牧市です。小牧市はお金が沢山あります。60億円のツタヤ図書館を建てても多分大丈夫だと思われる所で、高速道路が3本走っていて、トラックターミナルや工場が沢山あり、法人事業所税が沢山入っている。工場誘致が失敗しても何とかなるというお金持ちの市です。それでも書店の数は減りました。工場や働く場所があるので若い人が沢山来るのですが、書店の栄枯盛衰がある。新古書店が増えた。新刊書店で生き残っているのは昔からの教科書を扱っている書店です。その書店で買いたくなる本が有るかと言えば、それはなくて、私が実家に帰ると本は名古屋で買うか、弟は実家暮らしでアマゾンで買うかというような状況です。自治体財政が小売書店を支えるということもありえるように思う。

高島:本を定価で購入しいたい、安く買いたいという敵対する図書館と書店の関係というよりも、地元の利用者、或いは読者のために本屋を残しつつ、図書館も内容なり多様性が有るものをそろえる為に地元書店を有効に活用する方向にシフトしてもらえれば、まだまだ入札だとか値引きだとか厳しい状況ではあるが、20年、30年後に良い図書館と地域環境が保持されるまではと期待しています。

田中:白河市立図書館がお願いしいている3書店は、一所懸命取り組んでいる。教科書も扱っていてえ、存続しいている。白河市でやっていることは、どの図書館でもできると思う。昔と違ってパッケージ化された選書から発注までの流れではなくても、工夫次第でできる。11冊丁寧に選書して、11冊が相手なんでとなって欲しい。
 本を購入する時、役所は鉛筆とか下敷きとかと同じように「同じものだから安くなるだろう」と考える癖がある。図書館で買っている本は11冊が皆個性の塊で、11冊がバラバラで多品種少量生産だという事をしっかり伝えないとダメです。お仕着せの購入しいステムを使い続けていると、自分たちはどんどん力が無くなって行くぞ、という危機感が、今、書店との関係では出来上がったかな、という気がします。

永江:今、出版産業は壊滅的状態、ほとんど死んでいる、と言って良いと思う。単に公共図書館とその資料の納入をどうするかという事でどうにかなるという事ではない。優先すべきは何かを、まず考えなければいけない。今あるシステムを根底から破壊していく事も視野に入れて、ゼロベースで検討していくべきだと思います。
 その為には、図書館の無料利用は金科玉条として守り続けるべきなのか?博物館や美術館は入場料があるのに、なあぜ図書館は無料であるべきかも、根底から問わなければならないし、或いは定価販売制についても、出版社が小売価格を決定するという事にどれほど正当性が有るのかという事もキチンと考えねばならない。書店が食えなくなっているのは、出版社が価格を決めているからです。4割の書店がこの10年間で減ったけれど、責任の大半は出版社の値段の決め方と利益配分の在り方にあると思う。もちろん、一番大きいのは大手の書店に小さな書店が食われていくということによって、書店が疲弊しいていくという事態が進んだ。それをもたらしたのは書店組合の弱体化ということが非常に大きく、書店にも責任が無いと言えません。
 本を次世代に繋げていくためにも、読者が様々な資料に触れるたあめにも、何をすべきか、あらゆる前提を取り払って、議論していく必要があると思っています。


参加者数115

運営委員:小熊 美幸(国立国会図書館)

     大場 博幸(文教大学文学部准教授)

     瀬島健二郎(文化学園大学図書館長・教授)

     湯浅 俊彦(立命館大学文学部教授)

     吉野 友博(元荒川区立南千住図書館)

 
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