令和6(2024)年能登半島地震について

この度、地震により亡くなられた方々のご冥福をお祈りいたします。
また、被災された皆様に心よりお見舞い申し上げ、一日も早く平穏な日々に戻る事をご祈念申し上げます。
日本図書館協会及び図書館災害対策委員会も微力ではありますが、支援を模索し、対応してまいります。
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認定司書への道

認定司書への道 第1回 〔座談会〕認定司書と理事長を囲んで

出席者:伊藤明美さん(認定司書第1005号,浦安市立中央図書館資料第一係長)

    湯川康宏さん(認定司書第1032号,飯能市立図書館副館長)

    塩見 昇(日本図書館協会理事長)

司 会:糸賀雅児(日本図書館協会認定司書事業委員会委員長)

場 所:日本図書館協会会館(2012年1月26日)

 

認定司書制度の意義

塩見理事長(以下,理事長) いまの図書館は管理運営問題がなかなか難しい状況にあります。結局は職員の問題に収斂していくのですが,決して明るい方向ではなく,職員にいろいろなしわ寄せが行っています。そのような状況の中で10年という長い図書館勤務年数を前提としている認定制度なので,はたして該当者がどれだけあるかが一つの懸念材料でした。

 正規の職員の公募採用は激減しているし,正規の司書職員自体も非常に少なくなってきています。その中で認定制度開始の決断をして,皆さんが第1期認定,そして先日第2期審査があったと聞いていますが,優れた司書を大事にしたいと思うし,こういう司書が増えることが,図書館事業そのものの発展につながっていくというアピールの意味合いもあります。私が昔図書館に勤めていた頃はもっと余裕がありましたが,現在は大変に忙しく,ゆとりを持って仕事をすることが大変難しくなっています。そのような中で論文を書いたりするためには,一度どこかで決断をしないと難しいものなんですよね。

 毎日やっている仕事そのものが図書館情報学の大事な出発点ですが,それを日常業務からいったん切り離して脇に置いて,対象化して見てみるというのは大事です。これは社会人大学院に行ったりすることと同様に大事なことだと思いますし,司書の生涯学習としても必要なことだと思います。自分の日常を対象化してとらえる,そのチャンスとして,結果的に認定されようがされまいが,申請してみようかと考えることが重要でしょう。この制度と認定された司書たちの将来というのを,同時に育てていく役割を協会は担っていかないといけないと考えています。

糸賀委員長(以下,糸賀) 日本図書館協会(以下,協会)が認定司書制度を実施するということは,司書一人ひとりの成長を後押しするとともに,図書館を設置する地方自治体に対してアピールする意味合いもあると思います。そのあたりのお考えもお聞かせください。

理事長 とても大事な視点だと思います。基本的に司書を大事にしないということがあらゆる館種に見られますから,設置母体に対して「こういう人が司書なんだ」「こういう人たちがいることによって図書館の事業が成り立つんだ」ということをアピールすることは重要でしょう。それに対して何ができたかと言われれば,まだ十分ではないが,確かにその点は課題です。これから協会の新年度の事業計画を作っていきますが,そういった視点も入れていく必要を感じています。

糸賀 専門職としての質のコントロールがきちんとできてこその専門職だと思います。司書資格を大学なり講習なりで一度取れば有効というのは,もはや今の時代通用しません。そういう意味では職能団体,専門職団体が,専門職の質のコントロールを一定程度やっていることを示すのは,顧客(利用者)を含めた外部の人たちに対してセルフ・コントロールができている業界であることをアピールする意味もあると考えています。

 

認定司書の申請動機

糸賀 まずは認定司書のお二人が担当する業務と申請の動機をお聞かせください。

伊藤 現在は,資料の受入れ発注を主に担当しています。児童担当も長かったですし,ハンディキャップや分館係長などもやってきました。

 図書館業務のスキルは現場経験を積むことで培われますが,認定司書制度はそれを評価してくれること,また長く司書として勤務するなかで,一度ここで自分を振り返って,客観的に見てみたいと思ったのが動機です。それと,申請の要件に研修受講というのがあるのですが,公費で受けさせていただいた研修もカウントされます。図書館員としての専門性を認定司書という目に見える形にすることで,地域や今までお世話になった方々に還元できるのであればと考え,申請しました。

湯川 埼玉県立図書館に採用されて,児童サービスを除けば,ひと通りの業務をやってきました。数年前に県内の町立図書館に3年間副館長として出向しました。その後いったん県立に戻ったのですが,昨年から再び,県内の市立図書館に新館をオープンさせるということで勤務しています。

 志望動機は,「目に見える形にする」という点では伊藤さんと共通しています。図書館に入る前に不動産関係の仕事をしていまして,宅地建物取引主任者などの資格を持っていると,周囲からは専門知識があるということで頼りにしてもらえました。司書資格だけでは,まだまだそのように見てもらえません。いろいろな研修を受講することで確かに履歴は残るのですが,社会が認めてくれるような制度が何かないかと探していたところ,認定司書制度に出会ったので申請しました。

糸賀 単に司書の資格だけでは図書館に長く勤められないという危機感はありましたか。

伊藤 私の勤める市では,司書は行政職採用ですから,異動しないという保証はありません。

湯川 私は司書として採用されていますが,県立図書館の数が減るなど状況も変わってきています。人が余ってくるという状況になった時に,自分がいたい部署にいられるためには,やってきたことを見える形にしておけばいつか役に立つのでは,という気持ちがありました。

 

認定司書に期待すること

糸賀 理事長は,認定された司書にどんなことを期待されますか?

理事長 図書館がどういったものか,図書館の良さを広く社会に伝える必要があると思いますが,われわれが書いたり話したりするだけで変わるわけではありません。認定司書の皆さんに良い仕事をしていただいて,図書館サービスの実態から世の中に伝えていくことが大事です。身をもって司書の有り様を普及させていく中心的存在として,リーダーシップを発揮されることを認定司書の方々には期待しています。

糸賀 司書集団の中でのリーダー格は果たしてもらいたいですね。ご自身の勤務する図書館の中であとにつづく若手司書の模範であったり,教育委員会やその外側の人たちに図書館はこう頑張っているんだということが見えたりするような仕事をしていただきたい。自分が良ければよいということではなく,専門職として評価される司書を増やしていくという視点に立って,ご自身の図書館の内外で活躍していただきたいと思います。

理事長 申請のために初めて論文を書いた人がいる1)と思いますが,図書館の世界には書く材料はいっぱいあるし,発表の場も多いです。協会の『図書館雑誌』や『現代の図書館』に2?3年に一度くらいは自分の活動を対象化して,書くことを続けてほしいものです。そうすれば図書館界の雑誌も元気になりますし。

 

認定司書としての抱負

糸賀 理事長から認定司書への期待が寄せられましたが,お二人には認定司書としての抱負をお話し願います。

湯川 いまのお話に出ていたように,できれば人を育てるような方向でお手伝いができればと思っています。研修の講師とまではゆきませんが,実務で培ってきたものを教えることはしているので,できるだけそういう「育てる」というところで,経験を広く伝えていきたいと思います。

糸賀 それをもう少し外にも見えるような形で,やっていただけるとありがたいと思うのですが。実際,埼玉県で認定される司書を増やすとか,そのあたりどうですか。

湯川 私以外に誰も受けないとは思っていませんでした。県立図書館には私より優秀な人が大勢いるにも関わらず,受ける人が少ないというのは残念でなりません。

糸賀 司書は何か控えめというか,遠慮がちというか,自分で手を挙げようとしないので,湯川さんにもご尽力いただいて,ご自身の周囲でもぜひ多くの認定司書を出していただければと思います。伊藤さんはいかがでしょうか。

伊藤 もちろん職場で仕事をがんばって,市民の皆さんに恩返ししたいというのはあるのですが,認定司書連絡会2)として館種や専門領域が異なっても,日本の司書の地位を少しでも高めるための政策提言のようなものができるようになれればと思っています。

糸賀 それはぜひともやっていただきたいですね。

伊藤 最初に理事長がおっしゃったように,図書館界はたいへん厳しい状況にありますね。いま自分は異動しないから大丈夫だ,っていう状況にはどこの職場もないと思います。たまたま自分のしたい仕事を図書館という職場でできているという幸せな状態を,これからあとに続いていく人たちのために確立していくというのが大事な仕事だと思います。

 

申請を躊躇している司書へのメッセージ

糸賀 十分要件は満たしているはずなのですが,申請するのをためらっている司書も多いようです。そういう認定申請を躊躇している方たちの背中を押してあげるようなメッセージをお願いします。

伊藤 私は“司書の社会的使命とは,自らが働く自治体に対して負うだけのものではないはずである”3)という一文に共感を覚えました。自分の地位だけを守ればよいのではなくて,図書館や読書を通じて,人々の生活が幸福になることのお手伝いをするのが,司書だと思います。ですから,自分たちの地域だけではなくて,その周りにもそうなってほしいと。図書館員全体の地位向上のためにも,あるいは,外の地域の人たちにもっと良い図書館サービスを経験していただくためにも,まずは認定司書に申請しませんか,とお伝えしたいですね。

湯川 伊藤さんのおっしゃるとおりですが,それでもお尻の重い方は動かないんですね(笑)。苦労して認定されても何かメリットがあるの?というような自分本位の発想が先に立ちますから。しかし,ベテランとは,自分だけではなく後輩を育てていかなければならない,そういう段階にいる者だと思います。つまり,損得を抜きにして,そういうことをやらなければならない社会的立場にいるわけです。だからこそ認定司書に申請してほしいのです。利己的な動機でもよいと思います。申請することで必ず何かが変わるということが経験的に言えます。申請するという行為自体が自分だけではなく司書全体のためにも役立つはずです。ですから,立派な志がなくても申請するという勇気自体が立派なことで無駄にはなりませんよ,とお声がけしたいです。

糸賀 図書館に勤め始めたきっかけは,本が好き,図書館が好きということかもしれませんが,もう少し周囲や社会全体に対する目も開かれていって当然だと思います。そんな使命感をもった司書が増えるように私ども認定司書事業委員会も努めていきたいと思います。

 

認定司書制度の今後

糸賀 最後に,協会理事長として,この認定制度を今後どういう方向で育てていくか,お聞かせください。

理事長 日本図書館協会は純然たるプロの団体というわけではないですけれども,図書館の社会的地位向上は大きな課題だし,図書館で働いている人やそのもののもっている良さがまだまだ理解されていない,伝えきれていないと感じます。その点も含めて図書館の存在意義を社会的に強めていくのが,協会の重要な仕事としてあるはずです。それを支えているのが司書で,その中心に認定司書がいるということをわれわれ自身が確認し,それを広げていく姿勢を強調することによって協会の基本的使命の中に認定司書を位置づけてとらえていく必要があると思います。認定された皆さんには,ぜひとも職場の仲間から,利用者の人たちから,司書として信頼を得られるはたらきをお願いします。

 今日はいろいろなお話を聞かせていただいたので,皆さんのお仕事に期待したいし,それが協会の力になるようにお知恵も貸していただきたい。そして,ぜひ協会への積極的な参加をお願いしたい。認定司書連絡会に今日のことも伝えていただいて,協会を身近に感じる機会につなげていただければと思います。皆さん,ありがとうございました。

 

1)第1期認定時で,申請のために書き下ろした論文で認定された司書は11名(全体の30%)

2)認定司書の間で自主的な連絡・情報交換のために設けたネットワーク上の組織名

3)“認定司書制度の開始にあたって”図書館雑誌,104巻,7号,p.424,2010年.

 

[NDC9:013.1 BSH:図書館員] 

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