図書館資料への反論文書の貼り付けについての考え方
2022年4月3日(2022年5月1日追記)
公益社団法人日本図書館協会図書館の自由委員会
御嵩町立図書館での寄贈本(杉本裕明著『テロと産廃:御嵩町騒動の顛末とその波紋』花伝社,2021)の取り扱いに関して,町の方針として,同書には事実と違うことが書かれているとして当事者による「反論文書を付け,閲覧できるようにする」予定であることが2022年3月9日以降,各メディアで報じられた。
「図書館の自由に関する宣言(1979年改訂)」では,「多様な,対立する意見のある問題については,それぞれの観点に立つ資料を幅広く収集する」,「正当な理由がないかぎり,ある種の資料を特別扱いしたり,資料の内容に手を加えたり,書架から撤去したり,廃棄したりはしない」としており,各メディアの伝える御嵩町の対応(予定)は,この考えに大きく反するものとなっている。
報道されているような反論文書を貼り付けて閲覧に供する行為は,「ラベリング※」に該当し,検閲行為となる。この点,当委員会は次のとおり考える。
1.図書館資料に対し,著者・出版者(著作権者等)以外の者が要求した見解(反論・批判)等を直接貼り付けるなどの措置は,利用者に予断を与えることにつながり,資料提供の自由を放棄する行為となる。こうした行為は図書館自身による検閲行為の一形式とみなしうるものであり,図書館はその要求を拒否すべきである。
2.特定資料への反論は,一つの独立した資料として展開されてこそ,固有の価値が生じるものであり,その資料の「付属品」のような形で行われるべきではない。図書館は,それぞれの資料を価値のある資料として収集し,利用者がそれぞれの資料に対等にアクセスできるように提供するべきである。
3.「ラベリング」は,通常,外部からの圧力によって図書館が図書館資料に施す状態の変更だが,本件の場合,圧力の主体がそのまま「ラベリング」の実施主体でもあるという,極めて異常な事態となっている。価値中立であるべき図書館の存続を揺るがす事案となりかねないものであり,憂慮している。
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※ラベリング:アメリカ図書館協会知的自由委員会の「ラベリング声明」第2版(1981年)は,「ラベリングとは,ある種の図書館資料に記入したり,資料を指定したりすることをいう。すなわち,偏見あるラベルを貼付したり,偏見ある方式で資料を隔離することを意味する」と定義している。
(追記)
同書は2022年4月8日より通常に貸出開始されている。御嵩町図書館は、反論文書があれば同書に添付することなく個別の資料として扱う方針である。なお、3月25日、御嵩町教育委員会の定例会では、反論文書を待たずに同書を蔵書とすることを決定している。これまでの報道内容と経緯については、当委員会が図書館長に伺い確認した。(2022年5月1日追記)