著作権侵害を理由とする利用制限についての基本的な考え方
近年、図書館にあてて、未公開資料の無断掲載、出典を明記しない無断引用といった著作権侵害を理由として、出版社、あるいは関係者を名乗る個人からの利用制限を求める要望が届くケースが増えています。
本委員会では、このような著作権侵害を理由とする外部からの要求への対応について、基本的な考え方として、これまで以下のような文書を発信してきました。
・南亮一「著作権侵害の書籍の閲覧禁止要求があったときには・・・(こらむ図書館の自由)」『図書館雑誌』Vol.97,No.9, 2003.9
(
https://www.jla.or.jp/portals/0/html/jiyu/column03.html#200309)
・日本図書館協会図書館の自由委員会編『「図書館の自由に関する宣言」1979年解説』第3版, 日本図書館協会, 2022
(pp.43-44「2.23 著作権侵害が裁判で確定した図書館資料の扱い」)
基本的な考え方は上記の文書にある通りですが、最新の判例や著作権委員会との意見交換などをふまえて、本委員会の見解を改めてお知らせいたします。
(1) 図書館が購入した資料はその図書館が必要だと判断して収集したものであり、当該図書館の方針に従って提供することが原則である。図書館が資料の取り扱いにおいて何らかの制限を課す場合には、日本国憲法が定める知る権利の保障に制約が加えられることから、館ごとに定められた手順に従って検討し、適切に決定することが求められる。
(2) 図書館において、著作権侵害を理由として利用制限を検討するにあたっては、①裁判所の公的な判断があること、かつ、②著作者・著作権者と認められる個人・団体からの制限要請があること、がその要件となる。
(3) 「裁判所の公的な判断」とは、著作権侵害が確定したとする判決だけでなく、仮処分決定、未確定の第一審判決などの中間的判断も含まれる。また、著作権侵害の存否を争う訴訟について、裁判上の和解が成立し、著作権侵害の事実が和解調書に記載された場合には確定判決と同様の効果が生じることになる。
(4) 裁判所の公的な判断については、判決文、あるいは和解調書をもとにその内容を正しく把握する必要がある。また、著作権侵害の存否を争う訴訟において和解が成立しているとしても、著作権侵害の認定に至る前の段階で和解が成立していることもある。和解調書の内容から著作権侵害の存否が確認できない場合は、上記⑵①の要件を満たさないため、著作権侵害を理由として利用制限を検討する必要はない。
(5) 著作権法第113条では、著作権を侵害する行為によって作成された資料を「情を知つて、頒布し、頒布の目的をもつて所持」する行為について著作権侵害とみなすと規定している。したがって、裁判等において著作権侵害が確定した資料について、著作者等から図書館に対して利用制限の要請がなされた場合には、図書館での頒布行為を停止しなければならないということになる。ただし、ここで言う「頒布」とは、「貸出」「複製」を指しており、「閲覧」や「朗読」といったサービスに利用制限が及ぶことはない。
(6) 著作権法第18条第1項では、未公表の著作物について、公表するかしないかを決定できる権利が著作者に認められている。したがって、裁判所の公的な判断において公表権の侵害が認定されており、著作者と認められる個人・団体から図書館に対して利用制限の要請がなされた場合には、図書館においてその資料を利用者へ提供することは、貸出・複製の他に、閲覧・朗読なども含めて全面的に停止されなければならない。
(7) あらゆる情報へのアクセスを保障することを役割とする図書館では、何らかの制限を加える場合であっても、「より制限的でない方法」を検討することが求められる。上記(2)-①②の要件を満たす場合であっても、例えば、司法判断の内容を告知する文書を貼付した上で提供する、研究目的での利用は許可する、など、利用制限のあり方を要請者(著作者等)と協議を重ねた上で決定することが重要である。
(2024年9月14日公表)