『日本会議の研究』(扶桑社)の出版差し止め仮処分決定について

2017年5月11日改訂版掲載

概略

2016年4月28日 菅野完著『日本会議の研究』(扶桑社、2016年5月発売)について、日本会議が扶桑社に出版停止を申入れ
5月 発売直後からベストセラーとなる
5月4日 生長の家の元幹部安東氏、扶桑社に対して同書により名誉を傷つけられたとして販売停止を求める仮処分を東京地方裁判所に申し立て
〔月日不明〕 安東氏、著者に対して同書の出版差止等・謝罪広告の掲載及び損害賠償を求めて東京地裁に提訴
2017年1月6日 東京地裁、同書の販売差し止め仮処分を決定
同日 扶桑社、在庫の出荷を停止、書店や取次会社からの回収はしない方針を表明
1月14日 扶桑社、指摘個所36文字を黒塗り(伏せ字)した修正版を販売
1月16日 日本出版者協議会が抗議声明
1月18日 扶桑社、仮処分決定を不服として東京地裁に保全異議と執行停止を申立て
1月24日 東京地裁、仮処分の執行停止申立てを却下
1月27日 一般社団法人日本書籍出版協会と一般社団法人日本雑誌協会が抗議声明
3月31日 東京地裁、扶桑社の保全異議申し立てに対して、仮処分決定を取消
同日 安東氏、決定を不服として東京高等裁判所に保全抗告を行う旨を表明


考え方

今回の出版差し止め仮処分は、図書館に対する閲覧制限や回収の命令ではないことから、図書館としての法的な対応責任はなく、特別の扱いを考慮する必要はない。


なお、「公刊物の表現に名誉毀損、プライバシー侵害の可能性があると思われる場合に、図書館が提供制限を行うことがあり得る」要件としては、以下を既に示している。
①名誉毀損、プライバシー侵害を理由とする頒布差し止めの司法判断(仮処分を含む)があり、②図書館にその判断が通知され、③申立人(被害者)が図書館に提供制限を求めてきたとき
(<参考意見>『文藝春秋』(1998年3月号)の記事について 1998年2月13日
http://www.jla.or.jp/portals/0/html/jiyu/bunshun.html


実際に被害者から対応が求められた事例としては、『図書館の自由に関する事例集』(日本図書館協会 2008)86~91ページ掲載「事例10 秋田県の地域雑誌『KEN』提供禁止要求」がある。


出版差し止め仮処分の事例としては、『図書館の自由に関する事例集』137~141ページ掲載「事例18 『週刊文春』出版差止め事件」がある。
これは、2004年の『週刊文春』3月25日号(3月17日発行)について、東京地裁が2004年3月16日に販売差し止めの仮処分命令を決定し,19日には文芸春秋の保全異議申し立ても却下、その後東京高裁は文春側の申立てを認めて3月31日に処分取消しの決定をした。処分取り消しまでの間も、裁判所の決定は図書館に対するものではないので通常どおり提供したところも多かった。一方、該当ページを袋綴じなどで閲覧できないよう加工したり、カウンターでの保管や複写禁止にしたところもあったが、これは自由宣言の第2資料提供の自由にかかわる。


経過詳細

(1)出版と提訴

菅野完『日本会議の研究』(扶桑社 2016.5)について、著者がツイッターで、発売日に「日本会議・椛島有三」氏から「直ちに出版の差し止めを求める」旨の「申し入れ書」が扶桑社に届いたと述べているが、日本会議は裁判所へ出版差し止めを求めておらず、新書としてはベストセラーとなっている。

一方、宗教団体「生長の家」元幹部安東巌氏は、同書によって名誉を傷つけられたとして同書の販売停止を求める仮処分を東京地方裁判所に申し立てた。また、同書によって名誉を傷つけられたとして出版差止等・謝罪広告の掲載及び損害賠償を求めて同地裁に提訴した。


(2)出版差止め仮処分決定

東京地裁は、2017年1月6日に同書の販売差し止めを命じる仮処分を決定、安東氏が真実ではなく社会的評価を低下させたと申し立てた6ヶ所のうち1ヶ所(約2行)について、この部分を削除しない限り販売しないよう扶桑社に命じた(平成28年(ヨ)第1284号)。

東京新聞の記事によると、「扶桑社は「当社の主張がほぼ認められた決定ではあるが、一部削除を求められたことは誠に遺憾だ」とコメントした。自社にある在庫は出荷しないが、既に書店や出版取次会社に配送された本は回収しない方針。」という。 (「ベストセラー「日本会議の研究」 異例の出版差し止め決定」『東京新聞』2017年1月7日 朝刊 http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201701/CK2017010702000127.html)

扶桑社は、「当面の措置として、指摘個所(第六章(289頁)の36字)を抹消した修正版を販売」する旨を2017年1月11日付けで告知している。(「『日本会議の研究』(菅野完著)の修正版販売について」http://www.fusosha.co.jp/news/info/info_article/224)


(3)仮処分決定への対応

扶桑社は1月18日、仮処分決定を不服として東京地裁に保全異議と執行停止を申立て、東京地裁は1月24日、仮処分の執行停止を退けた。
日本出版者協議会が1月13日、一般社団法人日本書籍出版協会と一般社団法人日本雑誌協会が1月27日にそれぞれ抗議声明を公表した。


(4)仮処分決定の取消し

東京地裁は3月31日、「記述が真実でないと断じるには疑念が残る」などとして仮処分決定を取り消した。
債権者A氏は東京高裁に保全抗告を行い、また著者に対して出版差止等・謝罪広告の掲載及び損害賠償を求める本訴も東京地裁において審理中である(平成28年(ワ)第34935号)。


(5)解説記事等

仮処分決定については判例集未搭載であるが、山田隆司創価大学教授による解説記事がある。
販売差し止めの対象ではない電子書籍について、扶桑社が自主的に修正版を販売したことについて、桑野弁護士の問題提起がある。
篠田博之『創』編集長による解説記事がある。


関連記事

(1)に関連する記事

・「菅野完氏『日本会議の研究』(扶桑社)の発売日に、日本会議が「出版停止を求める申し入れ」を扶桑社に送付」『neverまとめ』https://matome.naver.jp/odai/2146186642025158801
・「日本会議、新書の出版停止求める 「内容に事実誤認」」『朝日新聞デジタル』2016.05.11. 22:52  http://digital.asahi.com/articles/ASJ5C4CB7J5CUCVL00F.html
・「出版停止申し入れの『日本会議の研究』 異常ペースで売れた」『NEWSポストセブン』2016.05.16 07:00(週刊ポスト2016年5月27日号)http://www.news-postseven.com/archives/20160516_412135.html
・「話題書『日本会議の研究』に関係者激怒「トンデモ本ですよ」」『NEWSポストセブン』 2016.05.27 07:00(週刊ポスト2016年6月3日号)http://www.news-postseven.com/archives/20160527_414940.html
・「話題の「日本会議」に関係者「実像は地味な文化活動ですよ」」『NEWSポストセブン』2016.05.28 07:00(週刊ポスト2016年6月3日号)http://www.news-postseven.com/archives/20160528_414973.html


(2)に関連する記事

・「日本会議本の出版差し止め」『共同通信』2017.01.06. 19:36 https://this.kiji.is/190048285732718075
・「「日本会議の研究」販売差し止め 地裁が扶桑社に命令」『朝日新聞デジタル』2016.01.06. 20:02 http://www.asahi.com/articles/ASK1662PPK16UTIL04Z.html
・「ベストセラー「日本会議の研究」に販売差し止め命令」『日本経済新聞』2017.01.06. 20:04 http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG06H8Q_W7A100C1CC1000/
・「「日本会議の研究」販売差し止め 東京地裁が仮処分決定」『産経ニュース』2017.1.6 19:46 http://www.sankei.com/affairs/news/170106/afr1701060025-n1.html
・「ベストセラー「日本会議の研究」名誉毀損 出版差し止め 東京地裁」『神戸新聞』2017.01.07.
・(解説)「出版差し止め 影響力の大きさ考慮 東京地裁 異例の決定/出版元と著者「極めて遺憾」/表現の自由の問題に詳しい梓沢和幸弁護士の話「表現の自由に大きな危機」」『神戸新聞』2017.01.07.
・「ベストセラー「日本会議の研究」 異例の出版差し止め決定」『東京新聞』2017.01.07.
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201701/CK2017010702000127.html
・「ベストセラー 「日本会議の研究」販売禁止の仮処分決定」『毎日新聞』2017.01.07. 07:10 http://mainichi.jp/articles/20170107/k00/00m/040/116000c
・「「日本会議の研究」販売差し止め 書籍差し止め請求の容認ケース少なく 背景に言論の自由」『産経ニュース』2017.01.07. 08:27 http://www.sankei.com/affairs/news/170107/afr1701070007-n1.html
・「あの『日本会議の研究』が出版差し止めに! 過去の判例無視、「表現の自由」を侵す裁判所の不当決定の裏に何が?」『LITERA 本と雑誌の知を再発見』 2017.01.10 http://lite-ra.com/2017/01/post-2840.html
・(社説)「出版差し止め 表現の自由の理解欠く」『朝日新聞』2017.01.12.
・「仮処分決定 差し止め要件緩和、出版界が懸念」『毎日新聞〕』2017.02.27. 東京朝刊 https://mainichi.jp/articles/20170227/ddm/004/040/023000c
・「『日本会議の研究』(菅野完著)の修正版販売について」扶桑社 2017.01.11. http://www.fusosha.co.jp/news/info/info_article/224
・「日本会議の研究 修正版販売へ 差し止め決定受け扶桑社」『毎日新聞』2017.01.11. 23:04 http://mainichi.jp/articles/20170112/k00/00m/040/113000c
・「「日本会議の研究」修正版で」『朝日新聞』2016.01.12.
・「扶桑社 差し止め本の修正版販売へ 「日本会議の研究」」『神戸新聞』2017.01.12.
・「「日本会議の研究」修正版の販売発表」『毎日新聞』2017.01.12. https://mainichi.jp/articles/20170112/ddm/012/020/078000c


(3)に関連する記事

・「日本会議本の出版差し止めに異議 扶桑社申し立て」『京都新聞』 2017.01.18. 18:15 http://kyoto-np.co.jp/politics/article/20170118000106
・「「日本会議の研究」販売差し止め、扶桑社が異議申し立て」『朝日新聞デジタル』2017.01.18. 19:11 http://digital.asahi.com/articles/ASK1L5KNXK1LUTIL03K.html
・「日本会議の研究」販売差し止めに抗議 日本出版者協」『朝日新聞デジタル』2017.01.13. 18:02 http://digital.asahi.com/articles/ASK1F5RSVK1FUCLV01D.html
・「出版差し止めに抗議 「日本会議」本巡り出版協」『日本経済新聞』2017.01.14. 01:05 http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG13HCI_T10C17A1CR8000/
・日本出版者協議会「東京地裁による『日本会議の研究』販売差し止め決定に抗議する」2017.01.16. http://shuppankyo.cocolog-nifty.com/blog/2017/01/post-493b.html
・「日本会議の研究の販売差し止めに抗議 書籍出版協会など」『朝日新聞デジタル』2017.01.27. 18:50  http://digital.asahi.com/articles/ASK1W4RSRK1WUCVL01S.html
・日本書籍出版協会 出版の自由と責任に関する委員会、日本雑誌協会 人権・言論特別委員会「東京地方裁判所による『日本会議の研究』出版差し止め命令に抗議する」2017.1.27. http://www.j-magazine.or.jp/doc/20170127.pdf


(4)に関連する記事

・「『日本会議の研究』東京地裁仮処分決定の取消しについて」扶桑社2017.03.31.  http://www.fusosha.co.jp/news/info/info_article/241
・「菅野完氏著「日本会議の研究」 販売差し止め仮処分決定を取り消し 東京地裁」『産経ニュース』2017.3.31 20:16 http://www.sankei.com/affairs/news/170331/afr1703310047-n1.html
・「日本会議の研究」販売認める=差し止め仮処分取り消し-東京地裁」『時事ドットコムニュース』2017. 03.31. 21:41 http://www.jiji.com/jc/article?k=2017033101382&g=soc
・「「日本会議の研究」仮処分を取り消し 販売差し止め巡り 東京地裁」『朝日新聞デジタル』2017.04.01. 05:00  http://digital.asahi.com/articles/DA3S12871013.html
・「「日本会議」本の出版認める 東京地裁、判断を一転」『日本経済新聞』2017.04.01. 00:06  http://www.nikkei.com/article/DGXLZO14797250R30C17A3CR8000/


(5)に関連する記事

・山田隆司「15万部が販売済みの書籍『日本会議の研究』に対する出版差止め」(新・判例解説Watch 憲法no.126)『TKCローライブラリー』2017.04.07掲載 文献番号z18817009-00-011261475
https://ls.lawlibrary.jp/commentary/pdf/z18817009-00-011261475_tkc.pdf
・桑野雄一郎「「日本会議の研究」販売差し止め命令、電子書籍版の扱いはどうなる?」『弁護士ドットコムニュース』2017.02.05. 08:52 https://www.bengo4.com/saiban/1139/n_5640/
・「極めて異例な1年近く経ての仮処分『日本会議の研究』差し止め決定の大きな波紋」『創』47巻4号 2017.04. p.34~35.
・篠田博之「『日本会議の研究』差し止め決定の大きな波紋」『yahoo! JAPANニュース』2017.03.08. 12:57 https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170308-00010000-tsukuru-soci
・篠田博之「『日本会議の研究』販売差止め取り消しは大事なニュースだが、今の報道はわかりにくい」『yahoo! JAPANニュース』2017.04.01. 23:03 https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20170401-00069429/
(この項、新聞記事等へのリンク確認はいずれも2017年5月11日)


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