令和6(2024)年能登半島地震について

この度、地震により亡くなられた方々のご冥福をお祈りいたします。
また、被災された皆様に心よりお見舞い申し上げ、一日も早く平穏な日々に戻る事をご祈念申し上げます。
日本図書館協会及び図書館災害対策委員会も微力ではありますが、支援を模索し、対応してまいります。
被災情報並びにお困り事がありましたら、メールにてご一報いただければ幸いです。
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平成30年北海道胆振(いぶり)東部地震 被災地図書館 現地調査

平成30年北海道胆振(いぶり)東部地震 被災地図書館 現地調査

※図書館雑誌2019年3月号に掲載するにあたり字句修正を行ったため、このページおよびPDFファイルも修正いたしました。
日本図書館協会 図書館災害対策委員会

1.北海道胆振東部地震の概要等について
 9月4日から5日にかけて台風21号が北海道を直撃。その翌日に地震発生。被害等について以下の状況だったことを報道やWEB等で確認ができる。
・発生日時:2018(平成30)年9月6日(木)3:07
・規模:M6.7(震源地:胆振地方東部)
・各地の震度:最大震度7(震度7は厚真町(あつま),6強は安平町(あびら)・むかわ町,6弱は札幌市東区・千歳市・日高町・平取町(びらとり))
・土砂災害:223件(土石流94件,がけ崩れ129件)
・人的被害:死者41人(札幌市・むかわ町・新ひだか町・各1人,苫小牧市2人,厚真町36人(大規模な土砂災害による))
・全半壊・一部損壊:10,134棟(全壊409棟,半壊1,262棟,一部損壊8,463棟)
・ライフライン:道内の44市町村・最大68,249戸断水,道内全域約295万戸停電
・文教施設 社会教育施設:14施設に被害報告あり
・国等の動き:災害救助法や被災者生活再建支援法の適用,激甚災害の指定(9月28日閣議決定),プッシュ型支援の実施,「被災市区町村応援職員確保システム」に基づき3町(厚真町・安平町・むかわ町)に対し7県から延べ2,951人の応援職員を派遣(10月7日をもってすべて終了)。
※「平成30年北海道胆振東部地震に係る被害状況等について(平成30年10月29日17:30現在)」内閣府 防災情報のページより抜粋
http://www.bousai.go.jp/updates/h30jishin_hokkaido/index.html


2.被害が大きかった主な図書館(室)と特記事項
 今回の現地調査のヒアリングとその際受けた資料提供,WEB等によれば,道内の公共図書館は,全域停電により,多くの図書館で休館を余儀なくされた。その中で,図書の落下や施設の被害は,震源地周辺の3管内(胆振・日高・石狩)に集中したことが確認できる。
(1)安平町→人口7,975人,世帯数4,167世帯(11月末現在),面積237.1k㎡
 【1】追分公民館図書室(蔵書約2万冊)
  図書の落下多数(書架等の被害は無し)。入室不可対応で希望に応じ避難者に貸出対応。
 【2】早来公民館図書室(蔵書約4万冊)
  図書の落下多く,図書室の入口も落下した図書で開かない状況。書架がいくつか倒壊。ゆがんだ書架と床の間に挟まって取り出せない本があった。
  ※【1】,【2】は避難所となり職員は災害対応のために復旧作業ができず,ボランティアや道立図書館等の協力を得て配架。10月16日再開。
(2)厚真町→人口4,610人,世帯数2,156世帯(10月末現在),面積404.6k㎡
 【1】青少年センター図書室(11月24日訪問)(蔵書約4万冊)
  ほとんどの図書が落下。開架部分の書架は床固定されており転倒はなく,閉架部分は書架が転倒し立入禁止。10月1日再開。
 【2】厚南会館図書室(蔵書約3,700冊)
  書架1台転倒,一般書の上段部分を中心に,蔵書の25%ほど落下。10月3日図書室再開。
  ※落下図書の配架等は,委託・嘱託・臨時職員で復旧作業。
(3)むかわ町→人口8,179人,世帯数4,230世帯(10月末現在),面積711.4k㎡
 【1】四季の館まなびランド図書室(蔵書約3万6000冊)
  プールや文化施設・道の駅等で民間事業者が管理運営。
  開架スペースの照明一部破損,天井一部剥離,書架転倒,図書の落下。11月1日再開。
  ※地震直後から本来業務を優先し,災害業務は未従事。
 【2】穂別図書館(11月25日訪問)(蔵書約3万冊)
  博物館(アンモナイト,むかわ竜の化石等を展示)複合施設。液状化により,場所によって数cmから最大15cm以上,地盤と建物やマンホール等との間に差が生じていた。ただし地盤沈下に伴う,建物の沈下は確認できていない。また,経年劣化も含め外壁の小規模なヒビ,ズレ,剥落が確認できた。館内のほとんどの書架が転倒破損。図書はその際,落下したが破損はほとんどなし。破損書架の撤去や落下図書の梱包については,むかわ町災害ボランティアセンターや一般社団法人北海道ブックシェアリング等の応援を受けて行われた。現在休館中で早くて4月復旧の見込み,希望者には貸出しを行っている。
(4)平取町→人口5,094人,世帯数2,575世帯(10月末現在),面積743.09k㎡
 ○平取町立図書館
  「ふれあいセンターびらとり」(役場・児童館・視聴覚ホール等)3Fに図書館,移動図書館車(4ステーション)。
  開架8割~9割の図書が落下(蔵書約7万3000冊),棚のズレ。9月13日再開(9月から始めた毎週水曜日20:00までの夜間開館は休止)。
(5)そのほか図書館の被害状況と対応について
 【1】日高町立門別図書館郷土資料館→約2万5000冊落下(蔵書約10万7000冊),書架転倒数本,側板外れ2本。9月11日から再開。
 【2】新ひだか町図書館→約3,000冊落下(蔵書約9万冊),9月8日から再開。
 【3】石狩市民図書館→約1万3000冊落下(蔵書約28万2000冊),9月7日から再開。
 【4】滝川市立図書館(市役所併設)→市内停電時に,非常用電源が備え付けられている市役所のロビーに携帯電話の充電のため市民が殺到。その際,充電を待つ市民のため本を運び込み,貸出しを行い,市民からの感謝の声が新聞報道される(北海道新聞空知版10/6)。
<被害状況等の参考資料>
 ・被害状況については 北海道立図書館『あけぼのつうしん No.64』(2018年12月21日発行)を参考 《https://www.library.pref.hokkaido.jp/web/publish/qulnh00000000eyl-att/vmlvna0000009z1t.pdf
 ・蔵書については 北海道の図書館 統計‐平成29年4月1日現在‐(4)利用状況(資料費・蔵書関係・利用状況)を参考
http://www.library.pref.hokkaido.jp/web/relation/hts/vmlvna0000007olq-att/vmlvna0000007op4.pdf
 ・一般社団法人北海道ブックシェアリング「北海道胆振東部地震による図書館の被害状況について」,「特集 地震と図書館 北海道胆振東部地震に学ぶ」『ぶっくらぼ 第8号』2018.12.

3.訪問した厚真町青少年センター(図書室)(以下「厚真町」と記載)とむかわ町穂別図書館(以下「穂別図書館」と記載)の被害の傾向と状況,災害後の対応等について
 被害の傾向や状況等については,先に記した通りで,ここでは現地調査での共通点を特記しておきたい。被害の状況は以下の点が共通していた。
・施設は「被災建築物応急危険度判定」の判定ステッカーは貼られておらず,現在使用されている。
・スプリンクラーが設置されておらず,誤作動による水濡れ被害がなかった。
・早朝の地震のため,施設内での人的被害がなかった。
 次に発災後の対応等で,共通して見られたことは以下の三点であった。
・図書館職員も町の職員として,避難所等の業務に従事していた。
・移動図書館が活躍。災害時は日頃の業務からの機転で,必要としている住民や避難者に本が届けられた。厚真町では発災12日後から,移動図書車(ライトバンに200~300冊程度の図書を積載し,平時から運用)を利用し町内7か所の避難所を巡回。初期は訪問時間のミスマッチから利用は少なく,避難者が震災の片付等から避難所に戻る時間に変更し利用を図る工夫をしたという。穂別図書館では,移動図書館車はないが,平時から公用車(ライトバン)を使い希望世帯やケアハウスに貸出し,地域の郵便局や子育て支援施設に図書を設置していたという。発災後まず,避難所2か所にブックトラック1台と共に図書を設置。次に,広報をしながら希望者には個人貸出をしたという。また,放課後子どもセンター,子ども向けイベント(木育プレーパーク)等で貸出し,子供や高齢の方々から喜ばれたとのことである。
・災害資料収集の姿勢と必要性の認識。現地調査の中で,どのような資料を対象として残していくか,両町の担当者からそれぞれ質問があり,情報交換が行われた。
 特筆事項としては,発災後から閉館している穂別図書館には,復旧や開館を望む住民の声や職員の災害対応への感謝の声が寄せられ,停電解消と共に来館された方へは, 貸出しや災害関連のレファレンスなど求めに応じ可能な範囲で対応しているという。これは,saveMLAK の「安全な開館のために~東北の図書館員からのメッセージ~」(http://savemlak.jp/wiki/SafeReopening)からの,「余震が続く中での開館の危険性の考慮」や「部分開館,移動図書館,団体貸出」を知った上での対応かは不明だが,それらが実践されていた。

4.北海道立図書館の災害時の対応について
 北海道立図書館はアスベスト対策工事のため仮設への移転を控えていた。地震発生の数日前からの台風により敷地内樹木が倒木,停電,公共交通機関等は混乱していた。このため,地震発生時に職員は,参集に苦慮し,停電と断水,通信障害に苛まれたという。地震の被害は,ガラス2枚の破損,資料の落下(主に第二書庫3・4層で1割未満と思われる),第一書庫は落下なし。
 市町村(146設置/179自治体)への対応として,まず被害の把握に努めたという。2011年頃から,各市町村に対する電話での情報収集を改め,市町村から随時道庁に提供更新される「被害まとめ」を活用しており,今回もこの方法によった。理由として,職員は災害対応で現場不在や多忙で音信不通となりやすいこと,市町村は社会教育施設として既に,道庁に被害報告済みであることを考慮した対応という。しかし今回,台風と地震の被害が錯綜,通信障害で参考にできないことから,震度が大きかったむかわ町,厚真町,安平町等と個別の情報交換,道内14地区の図書館協議会のうち,揺れの大きかった日高地区と石狩地区の事務局から情報提供を受けたという。
 被害状況の発信は, 市町村には登録サイトの「北海道図書館ポータル」で提供し,一般向けにはホームページで,「開館の有無」を提供した(後日,被害状況や復旧の様子を公開)。
 市町村から求められた支援としては,安平町から再配架と除籍選定の要望があり3日間ほど職員が支援,穂別図書館からは避難所への配本用の図書100冊貸出依頼,安全対策で書架の設置についての相談を受けたという。

5.さいごに
 現地調査の中で,防災科学技術研究所との共同調査だったことから自然現象の説明が得られた。道中,丘陵地の至る所で土砂崩れや倒木,厚真町の土砂災害の現場では,息を飲むほどの規模だったが,その発生の主な原因は,震源地と周辺は,火山灰を大量に含んだ地盤だという。また,東日本大震災における,公立社会教育施設災害復旧費補助金の業務経験のある宮城県職員の熊谷氏から,災害復旧の国庫補助事業についての説明や助言も受ける機会を得られた。図書館,災害をキーワードとして,それぞれの専門分野からの視点が入った現地調査となり,多くを学ばせていただいた。
 北海道立図書館,北海道ブックシェアリングやキハラ株式会社等は,それぞれ丁寧に情報を集め検討し,市町村の活動を支えていた。
 最後に,訪問先が限られたこともあり,皆様からの情報提供を引き続きお願いしたい。

6.訪問日程等
(1)期間:2018年11月24日(土)・25日(日)
(2)訪問日・場所等
《11月24日(土)》
 【1】厚真町青少年センター(公民館図書室)10:00~
 【2】ブックストリート(江別市大麻東町・大麻銀座商店街)15:00~
 【3】北海道立図書館 15:40~
 【4】情報交換(一般社団法人北海道ブックシェアリング:荒井宏明代表理事・竹次奈映主任)18:30~
  団体の活動,東日本大震災,北海道胆振東部地震の支援活動について
《11月25日(日)》
 【5】厚真町土砂災害現場 9:45~
 【6】むかわ町穂別図書館 11:20~
(3)被災状況調査員:5名
 【1】図書館災害対応研究会* 熊谷慎一郎(宮城県)・堀田弥生(防災専門図書館)
  *同会事務局:防災科学技術研究所
 【2】国立研究開発法人防災科学技術研究所 鈴木比奈子
 【3】日本図書館協会図書館災害対策委員会委員 加藤孔敬(名取市立図書館)・西野一夫
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