「日本十進分類法(NDC)新訂10版試案」関西説明会の概要
那須雅熙
◆はじめに
日本図書館協会分類委員会(以下:委員会)は,2014年3月11日,日本図書館協会,日本図書
館研究会,同情報組織化研究グループおよび書誌コントロール研究会の共催により,キャンパ
スポート大阪において「日本十進分類法(NDC)新訂10版試案」関西説明会を開催した。関西周
辺の大学図書館,公共図書館の職員および研究者を中心に97名もの参加者があった。
最初に日本図書館研究会理事の志保田務氏から,最後に同研究委員長の前川敦子氏からご挨拶
をいただいた。
東京での第2回説明会と同様に,試案を集大成した『日本十進分類法新訂10版 試案説明会資
料』1)を配布し,それを基に説明を行った。総合司会は小林康隆委員が担当し,まず私がNDC10
版の刊行計画を具体的に紹介するとともに,構成,補助表,相関索引について現在の考え方を述
べた。次いで,試案の概要を説明し,意見交換が行われた。各類報告および質疑応答は,中井万
知子(1,2,6類),大曲俊雄(3,4類),藤倉恵一(0,5類,情報学),坂本知(7,8,9類)
の各委員が担当した。
以下にその概要を紹介する。
◆試案に対する質問・意見・要望
質問・意見・要望は分類法の理論,個別主題の分析,評価,設定から実務的な問題まで広範囲
にわたり,活発な議論が展開された。主な質問・意見・要望は大略,次のとおりであった。その
場で回答したものは回答として示したが,今後さらに委員会で精査し最終的な判断を行うことと
したい。特に何も触れなかったものは,今後の課題として受けとめている。
(1)全体意見・要望
・「マニュアル(使用法)」の位置づけについて。
・版組とデータ管理について,9版の反省点を活かしてほしい。
・ナンバービルディングについて注記の表現を工夫できないか。
・分類規程については見直しが必要でないか。
(2)情報学および関連領域
・「007 情報学.情報科学」の注記で「経営・事業」「経営・事業者」と統一がとれていな
い。
回答:対応する。
・「情報環境・生態系」「プラットフォーム」「シンコンピュータシステム」など新しい概
念の位置づけがなされていない。
回答:他にも同様の事例がある。0類と5類どちらが適切かなど,問題も多様であるため残課
題として慎重に検討したい。
・仮想現実の位置づけは「007.1 情報理論」だけではない。
・クラウドコンピューティングの位置づけは「547.48 情報通信.データ通信.コンピュー
タネットワーク」ではなく「007 情報学.情報科学」の下位ではないか。
・情報学,情報工学,コンピュータ工学との関係性を整理できないか。
(3)0類
・「014.3 目録法」の注記に「典拠コントロールは,ここに収める」とあるが,主題書誌コ
ントロールも含めここが適切だろうか。
・〈014.34/.37 各種の目録〉とあるが,結局のところ「014.37 コンピュータ目録」に集
まるのではないか。
・〈014.7/.8 各種の情報資源〉は,交差分類を起こしているのではないか。NCR1987改訂
3版を参考にしたとあるが,それが問題であったから現在NCRの全面改訂が行われているので
ある。
・「014.77 視聴覚資料」にアナログ資料とデジタル資料が混在しているがそれでよいか。
回答:持ち帰り,慎重に検討する。アナログとデジタルは他にも影響するので簡単に解決で
きないかもしれない。
・「014.4 主題分析:分類法,件名標目法」の解説文はこれでよいという認識か。分類法,
件名法は主題索引法の下位概念であり,主題分析はその主題概念を明確にする方法ではない
か。
・「018.09 文書館.史料館」の注記にある「記録管理論」はファイリングなども入ると誤
解される。これでよいか。
回答:ほかにも「企業アーカイブ」などの問題もある。残課題として審議している。この問
題もきちんと整理したい。
(4)1類
・日本思想の時代区分の新設「121.7 昭和時代.平成時代」は,昭和時代の戦前・戦後で区
分するほうが適切でないか。
回答:日本思想史の近代を2期に区分するにあたり,年号で割り切って区分する方法を選択
した。
・「145 異常心理学」の下にある名辞「障害」は,9版の項目名である「異常」を改めたと
あるが同一のものか。
回答:他からも指摘があり,検討中である。
・「146.8 カウンセリング.精神療法[心理療法]」の精神療法は,精神医学との関係がわ
かりにくい。医学図書館はNDCと米国国立医学図書館分類表を併用しているところが多い。こ
の相関関係を示すものを用意してもらえないか。
回答:森田療法をはじめ,切り分けがわかりにくいところがあるので検討したい。
・「159.4 経営訓」は3類のビジネスに分類されることはないか。別法の余地はないか。
回答:9版で新設され,出版動向から見て切り分けられるとの判断だが,図書館によって別
法が必要であれば考えたい。
(5)2類
・中国史「夏」の時代はどう扱うか。
回答:検討した結果,今回は分類項目として設置しないという結論とし,古代として扱う。
・「223.5 カンボジア」は,ポル・ポト前後で大きな区分があるはずである。
回答:時代区分としては新しすぎ,現段階では1949年以降を新設している。
・「227.99 パレスチナ *パレスチナ問題は,ここに収める」の新設において,パレスチ
ナは歴史的・地理的空間を意味するのか,現在の位置づけを意味するのか。「パレスチナ問
題」の出版物には政治的なものがないか。
回答:主題の扱いにもよると思うが,パレスチナ問題を歴史的に扱ったものを収め,地域的
状況もここに収められると考える。
・「236.04 イスラム王朝時代 711-1479」の年代については,王朝とするならば756-1492
であり,711年からであれば1492年までを「イスラム支配下時代」とでもするべきであろう。
回答:年代に関しては他の箇所でも見直しを行っており,検討する。
・「289 個人伝記」の注記に「主な活躍国」という表現が必要ではないか。
回答:個人の地域の扱い方などの「人の問題」は,「使用法」などで全体的な対応をはかる
べきかと思っている。
(6)3類
・「341 財政学.財政思想」の注記に「*公共経済学は,ここに収める」とあるが,公共経
済学のsubjectは本来経済学なのに,財政学で扱われる問題を研究するというtopicから財政
学に分類するのは正しいか。
回答:持ち帰って検討する。
・外国語教育の「375.893 英語」は,小学校・中学校・高等学校で細分してほしい。
回答:細分について検討する。
・「375.9 教科書」が細分できたのはよいが,細分のナンバービルディングをわかりやすく
説明してほしい。
回答:ナンバービルディングについてはNDCの使用法でわかりやすく説明される予定である。
・376.8の入学試験とは別に,大学院入試だけ377の下に作ったのはなぜか。別法の余地はな
いか。
回答:大学院は性質上,高等教育の下に置くのが適当と考えた。別法の可能性も検討する。
(7)4類
・「448.9 測地学.地図学」の注記に「地理情報システム[GIS]はここに収める」とある
が,GISよりも空間情報システムの追加が求められるのではないか。
回答:持ち帰って検討する。
・「492.9 看護学.各科看護法.看護師試験」,特に「492.926 成人看護」を疾患別など
で区分できるようにしてほしい(日本看護協会の分類表を参考にするなどして)。
・摂食障害について145.72と493.745との差異は何か。項目も異なるようだが。
回答:参照関係や対象については最終確認する。
・難読症(ディスレクシア)について,位置づけを設けてほしい。「378 障害児教育」の
下か「493.7 神経科学.精神医学」の下か。
回答:慎重に検討する。
(8)5類
・9版の相関索引で「ワイン」は588.58(混成酒),「葡萄酒」は588.55(果実酒)を指
示しているのはおかしくないか。
回答:10版では試案のとおり,「ワイン」を588.55(果実酒)とし改善した。「葡萄酒」
を索引語とするかどうかは検討する。
・「ビール」「エール」の関係性について。エールはビールの下位ではないか。
回答:検討する。
(9)7類
・「726.101 漫画・劇画論.風刺画論」の注記に漫画の作品論は726.1にとあるが,文学
の区分と比べると荒っぽい区分でないか。
・「763.93 電子楽器〈一般〉.電子音楽」にデスクトップ・ミュージック(DTM)を入れ
てもらいたい。
回答:5類とも関係する。検討したい。
・「727 グラフィックデザイン.図案 →:007.642」について,あきらかに絵画とわか
っているものも007に分類するのか。グラフィックアートはどこに位置づけるものか。
回答:持ち帰って検討する。
・「774.2 歌舞伎史」の時代区分が文学と不整合である。
(10)8類
・北京漢語は「方言」と定義してよいものか。
・各言語の「辞典」にある「ここには,語彙に関する辞典を収め,・・・」という注記に
ついて,「語彙に関する辞典」を言語共通区分にも入れるようにしてほしい。
回答:同様の指摘は外部からもあり,検討中である。
(11)9類
・910.263および910.264という日本文学の昭和時代前期と後期の区分,ならびに「910.265
平成時代 1989-」の新設について,1類の日本思想のところと時代区分に差異が出ている
ことに疑問がある。
なお私から,懸案となっていた言語共通区分,文学共通区分における「言語の集合」の解
釈について,「諸語」とともに,「分類記号を複数の言語で共有している言語」についても,
今後の細区分に備え,言語の集合とみなして共通区分を使用しない決定を行ったことを報告
し,大方の賛同を得た。
◆おわりに
今回の質疑を掲載できなかったが,委員会は試案説明会資料にさらに改訂を加えた『日本
十進分類法新訂10版 改訂試案集』2)を作成し,昨年度末に施設会員(A)に配布した。さ
らに多くの方々に一読していただき,ご意見,ご要望をお寄せいただければ幸いである。な
お,試案説明会資料および改訂試案集に誤記等があり,委員会ホームページにそれぞれの正
誤表を掲載している。深くお詫びし,ご訂正をお願い申し上げる。
今後各類の確定を終えると,序説,使用法の執筆および校閲,ならびに相関索引の検討お
よび編集に入り,年内の刊行に向けて鋭意努力する所存である。引き続きご協力,ご鞭撻を
お願いしたい。
注
1)日本図書館協会分類委員会編『日本十進分類法新訂10版 試案説明会資料』 日本図書
館協会,2013.11,92p
2)日本図書館協会分類委員会編『日本十進分類法新訂10版 改訂試案集』 日本図書館協
会,2014.3,96p
(なす まさき:JLA分類委員会委員長,東京農業大学学術情報課程)