「日本十進分類法(NDC)新訂10版」試案-第2回説明会の概要
那須雅熙
◆はじめに
1995年8月に『日本十進分類法』(以下,NDCと略す)新訂9版が刊行されてから,既に
18年が経過した。日本図書館協会分類委員会(以下,委員会)では,2004年4月に故金中
利和委員長のもとで「改訂方針」が策定され本格的な改訂作業を開始し,2009年5月から
私がそれを継承した。これまで一定の検討が終わった新訂10版の試案については,類ごと
に『図書館雑誌』や委員会のウェブサイトに公表してきた。
2009年11月には,それまでに公表された試案(0,2,3,7類)および「情報科学と
情報工学の統合問題」「NDC・MRDFに関する検討」について中間報告会を開催し,貴重な
意見やご指摘をいただくことができた。そこでの課題は,『図書館雑誌』誌上1)で総括
し,爾後の検討に生かしてきた。
このほど残りの試案(1,4,5,6,8,9類)の公表と情報学および関連領域の検
討も終了したので,2013年11月12日に日本図書館協会会館研修室で「日本十進分類法(NDC)
新訂10版」試案第2回説明会を開催した。関東周辺の大学図書館,公共図書館の職員およ
び研究者を中心に38名の参加者があった。
◆説明会の概要
説明会には,試案を集大成した『日本十進分類法新訂10版 試案説明会資料』2)を用
意し,それを基に説明を行った。資料集は,各類についての試案を『図書館雑誌』や委
員会ウェブサイトに発表した時点から,さらに検討を重ね修正や追加を加えたものであ
る。懸案事項の「情報学」「情報工学」については,特に章立てをした。
最初に,私がNDC10版の構成,補助表,相関索引について現在の考え方を述べた。次い
で,1類,4類,5類,情報学および関連領域,6類,8類,9類の順に担当の各委員
が試案の概要を説明し,意見交換が行われた。以下にその概要を紹介する。
1.NDC10版の構成,補助表,相関索引等
刊行形式はどのようにするのか最終的に決定していないが,現在以下のような構成と
内容を考えている。冊子体は「本表・補助表編」「使用法・相関索引編」の二分冊刊行
とし,続いてMRDF版を刊行し,その付属資料として「新たな情報環境におけるNDC」を
作成しようと思う。内容は以下のとおりである。
(1)「本表・補助表編」
はしがき/分類委員会報告/目次/序説/各類概説/第1次区分表(類目表)/第2
次区分表(綱目表)/第3次区分表(要目表)-凡例,要目表/細目表-凡例,細目表
/一般補助表-凡例,各区分
(2)「使用法・相関索引編」
『日本十進分類法 新訂10版』の使用法/用語解説/序説・使用法・用語解説への
索引/相関索引-凡例,相関索引
(3)「新たな情報環境におけるNDC」(MRDF版付属資料)
『日本十進分類法 新訂10版』MRDF版の概要/MRDFの活用法/情報の知識体系化とNDC
新訂9版の「解説」を廃止し,「序説」と「使用法」に二分して,「序説」を簡潔に
し,かねてから要望されていた「使用法」については,分冊の「使用法・相関索引編」
に収録し「運用マニュアル」を可能な限り充実しようと考えている。ただ「マニュアル」
は時間との関係で,新規の出版物として企画した方がよいとの意見もあり,本編では最
低限の基本的な使用法の解説となるかもしれない。
補助表については,今回,試案を提示することはできなかった。以下のような論点に
対し十分に議論が尽くせたとは言えないので,引き続き検討し,早急に最終案をまとめ
たい。
(1)一般補助表について
名称,補助表の構成,共通細目の共通性/「人」の種類を扱う補助表の可能性
[1]形式区分
本表中に展開されている形式区分の機能,形式区分の短縮形/形式区分の適用優先順
位/形式区分援用の区分指示(例:801)等
[2]地理区分
2類の細目表との関係等
[3]言語区分および言語共通区分
8類の細目表との関係/「言語の集合には付加しない」の具体的指示等
[4]本表中に取り込まれた時代区分や地理区分の後の時代区分(2類の準用的細分)に一
定の基準を設定すること
(2)固有補助表について
固有補助表の追加事項/補助表として一般補助表とともに掲載すること等
近年,分類表は図書館資料の分類に留まらず,各種情報の組織化に適用される可能性
があり,またその効用も期待される。新たな情報環境におけるNDCについて,内容とと
もに提供方法も考慮する必要がある。例えばMRDFをどのようなエンコーディング方式で
提供するか,それに対応してどうNDCを構造化するかという改善が求められる。刊行に
関する諸条件や販売戦略にも配慮し今後十分な検討を行うことにしたい。
また相関索引については,細目表の検討に際して関連したものに限り,そのつど検証
し,吟味してきた。採録語の適合性,語数の増強,BSHやNDLSHの件名標目の導入・調整
や目録の作成・検索におけるそれらとの相互運用性の問題に留意しながら見直しを図っ
た。が,まだ相関索引全体の検討に着手できていない。今回は「細目表の改訂に関係す
る索引語について努めて記述する」ことに留まった。
2.情報学および関連領域
情報学は,近年,特に進展が著しい学問分野であり,またパソコンや携帯型情報端
末の急速な普及により,この分野の出版点数は理論的なものから個別機器・機能の利
用法に至るまで膨大なものとなっている。
「改訂方針」では,「情報科学(007)と情報工学(548)の統合の可能性を検討す
る」とし,前回の試案説明会でもその方針に則った案を提案した。すなわち007/008
に統合する案と547/548に統合する二案を提示し意見を求めたが,それぞれに長短が
あり,明確な意見表明はなかった。その後委員会では改めて慎重な審議を行い,記号
的な統合よりも,「概念(観点)の明確化」により区分する考え方に切り替えた。
それに基づき,以下のような枠組みで整理した。
(1)情報学は学際的な分野であり,従来NDCが定義するところの情報科学,情報工学,
社会情報学や応用情報学の上位概念である。したがって,いわゆる「情報学一般」に
相当する部分は007に位置づける。また,主題分野を限定しない社会学的な観点(情
報ネットワークやその利用,社会的な関わり等)に関するものは,007.3を中心に位
置づける。
(2)工学・技術的な観点(機器設計や作成,操作解説,敷設等)に関するものは547
/548に収める。
(3)産業・経営・事業に関する観点(各種事業者に関するものやその歴史的経緯等)
に関するものは694に収める。
また,547/548または007のどちらかに関連図書を集中させることができるよう,
007のすべての分類記号に対応する別法を547.48および548に,逆に547.48を007.9
に,548を007.8に対応させる別法も用意した。
3.試案に対する質問・意見
質問・意見は分類法の理論的問題,個別主題の位置づけ,注記の文言等まで広範
囲にわたった。主な質問・意見は大略,次のとおりであった。その場で回答したも
のは回答とし,回答しなかったものについては委員会の見解を簡潔に述べた。特に
何も触れなかったものは,今後の課題として受けとめている。
(1)構成,補助表,相関索引等
・雑誌・ホームページ・配布資料における試案の各掲載基準は何か,また最新の
ものはどれか。
回答:雑誌・ホームページに検討を重ね修正や追加を加え資料を作成した。今後
も最新版としてホームページの維持・管理を行っていきたい。
・出版量の増減と分類項目の関係はどのように考えたのか。
回答:国立国会図書館や民間MARCの実績を精査し,適宜文献的根拠に留意した。
・注記における例示数が多くはないか(例:各主題のもとの哲学等)。
・補助表の運用により桁数が長くなった番号に対して,DDCやBC2のように3文字ご
とに空白を入れているように区切り指示が必要ではないか。
(2)情報学および関連領域
・「548.27 端末装置 →:548.295」
端末装置に含まれる「インテリジェントターミナル」と548.295のクライアント端
末に必要最小限の処理をさせるシンクライアント(Thin client)の区別はどうな
のか。
回答:役割が明確な端末は役割の方に分類する。パソコンの代替としてのシンク
ライアントはパソコンに分類するが,そうでなければここに含める。
(3)0類
・「015.93 児童・青少年に対するサービス」に「ヤングアダルトサービス」の
名辞を載せてほしい。
見解:「015.93 児童・青少年に対するサービス:児童サービス,ヤングアダル
トサービス」とする。
(4)3類
・同性婚は367.97の同性愛に収めるとなっているが,性同一性障害も含め,性同
一性の問題に正面から取り組んでほしい。
見解:性同一性および同性婚の問題は,367全体の中で検討する。
(5)4類
・462に収める博物誌・自然誌の概念をどう考えているか。
回答:博物誌,自然誌は動植物の範疇を超えるものであるが,従来のNDCの扱い
を踏襲した。
・基礎歯科学の497.1以下に口腔諸科学が新設されているが,493.71では「神経
科学.精神医学」の基礎医学は展開されていない。階層性や十進性における桁数
の問題をどう考えるか。
見解:出版点数が多いという理由で展開した。今後の他の分野での展開には,階
層性に留意し均衡を考える必要があろう。
・「493.764 躁鬱病」の躁鬱病と欝病とは異なる。項目名を「気分障害」として
はどうか。
見解:躁鬱病,欝病,躁病に関して,精査し判断したい。
・「493.73 脳・脊髄・神経系の疾患」は他の精神・神経疾患と区別できる明
確な名辞であるか。
(6)5類
・「519.79 化学物質汚染・・」は .7の産業廃棄物と同位(字上げ)にしたら
どうか。
回答:誤記であり,519.79と519.7は同位が正しい。
・584.7の注記「ここには,皮革製品〈一般〉を収める」は「・・・はここに収
める」にしてほしい,また〈一般〉の意味がよくわからない。
回答:注記の定型化を図る。また,「・・・〈一般〉」については多用しない
こととするが,この場合適切であるかどうかを検討したい。
・588.55の注参照「梅酒→588.58」に596.7もあったほうが良い。
見解:付加する方向で検討する。
(7)6類
・「630 蚕糸業」は,産業の衰退に対応して「[647] みつばち.昆虫」と同
じように,別法とすることによる縮小を考えているのか。
見解:将来の改訂ができるように準備を行った。
(8)7類
・フラワーデザインは花道に含めるべきではない。また793には「花道」とともに
「華道」の表記を入れてほしい。
見解:793は日本文化に関するものばかりではないので,「花道[華道]」と列記
することとする。
(9)8類
・〈810/890 各言語〉の注記に「各言語は,すべて言語共通区分が可能である
例:829.372 ベトナム語[安南語]の語源」とあるが,829.37 ベトナム語は言語
の集合に属する言語であるのに言語共通区分は可能なのか。これを行うと,今後諸
語のもとに位置づけられた個別語に新しい分類番号を与える場合,合成した番号と
バッティングしないか。
回答:一般補助表の言語区分との関係および「言語の集合には付加しない」の指
示について再検討を行う。
・日本語,中国語,韓国語,英語において言語共通区分に加える形で展開されて
いるもの(例:811.1の「発音」や814.4「熟語・慣用語」など)で,ある程度共通
性のあるものを,例えば言語共通区分に「-11 音声」や「-44 慣用語」のように
組み込めないか。
見解:言語共通区分で下位の共通性のあるものについては,補助表のなかで検討
する。
・「801.7 翻訳法.解釈法.会話法」における注記の「特定の言語の翻訳に関す
るものも,ここに収める」を削除したとあるが,言語共通区分の「-7 読本.解釈.
会話」を拡大解釈して各言語の翻訳に適用してもよいということか。
(10)MRDF版について
最後の全体の質疑応答・意見交換では,MRDFを現在の情報環境に見合った形で提
供してほしいとの強い要望が述べられた。
◆その後の意見・要望
さらに説明会の後の意見交換会や,その後にメールで寄せられた意見・要望につ
いても,併せてご紹介しておきたい。
・「145.7 意欲障害」は,「意欲の異常」から改めたとあるが障害という表現
は適切だろうか。
見解:辞書等を参考にしており,不適切な表現とは思えない。
・159.4の注記にある「ビジネスマン」は,ビジネスパーソンとすべきではない
か。
見解:「ビジネスパーソン[ビジネスマン]」と修正したい。289の「スポーツ
マン」や673.3の「セールスマン」にも同じ問題があり,今後検討する。
・170,180,190等の各宗教で項目名(例えば,「神道思想.神道説」,「仏教
教理.仏教哲学」,「教義.キリスト教神学」)の整合を取る必要はないか。
見解:各宗教独自の呼称があり,現状でよいと考える。
・290.38に「道路地図[ロードマップ]→685.78」という注参照があるが,2
類に分類するのが適切である。また「685.78 道路地図[ロードマップ]」は,
実態にそぐわない規定ではないか。
見解:「道路地図」には,道路の利用状況を示した「自動車交通量図」,道路
の現況を正確に表現した「道路現況図」等があり,ロードマップ,ドライブマッ
プと呼ばれる一般的な道路地図は後者に該当する。民間出版者から多数出版され
ている「道路現況図」は,旅行ガイドと密接な関係にあって,資料によっては
685.78に分類しがたいものもある。「主題図(9版では「特殊地図」)は各主題
の下に収める」というNDCの本則を維持しつつ,「道路地図」は29△038に収める
ことができるとする別法を設けることとする。
◆刊行までの予定
冊子体の刊行は2014年内を予定している。
それまでの2014年3月には日本図書館研究会,同情報組織化研究グループおよ
び科学研究費による活動を行っている書誌コントロール研究会の共催を得て「日
本十進分類法(NDC)新訂10版試案」関西説明会も開催する予定である。
資料集は別途,広く一般に頒布している。また日本図書館協会は,これに今回
の試案説明会および関西説明会の質疑も付して,年度末に施設会員(A)に配布
するとのことである。さらに多くの方々に一読していただき,ご意見,ご要望を
お寄せいただければ幸いである。
なおこれまでも,私立大学図書館協会東地区部会研究部分類研究分科会や,元
分類委員の古川肇氏を始め多くの方々から再三にわたり貴重なご意見をいただい
ている。委員会はこれらを遺漏なく整理し,再検討を加えることが必要な部分に
は適宜対処するとともに,残された期間,可能な限り諸課題の達成に最善の努力
をする所存である。今後とも引き続きご協力,ご鞭撻をお願いしたい。
注
1)那須雅熙「「日本十進分類法(NDC)新訂10版」試案説明会(中間報告)の
概要」『図書館雑誌』Vol.104,No.3,2010.3,pp.164-165
2)日本図書館協会分類委員会編『日本十進分類法新訂10版 試案説明会資料』
日本図書館協会,2013.11,92p
(なす まさき:JLA分類委員会委員長,東京農業大学学術情報課程)