はじめに
8類「言語」は,グローバリゼーションにおいて重要な分野である。日本に関係の深い国
の言語,また少数言語への配慮も必要である。10版においては,言語学の進化に配慮しつ
つ,各言語の展開の充実に努めた。具体的にはアジアの言語,特に隣国,韓国と中国の言
語である朝鮮語,中国語の展開の充実をはかった。同様にインド諸語の展開も見直した。
なお言語共通区分を細目表に掲載し,その適用を表示することした。それに伴い,各言語
の下の言語共通区分に関する注記を削除した。さらに各言語の下に形式区分に関する注記が
あったが,形式区分は「原則として,あらゆる分類項目について使用可能」(9版「解説」
pxxiii参照)であるので削除した。
以下,順を追って,試案を重点的に述べる。
なお,本稿は,「日本十進分類法第10版試案の概要 -その7「言語」の部-」(『図書
館雑誌』2012年7月号掲載)で説明を省略した部分を含め改訂箇所についてより詳細に述べ
たものである。
801 言語学 Linguistics.Philology
*言語としての記号学,記号論は,ここに収める
記号学,記号論の言語学での分類を明記した。
801.019 数理言語学
*コーパス言語学は,ここに収める
項目名を,近年の用語であり,より広いと思われる「数理言語学」とし,資料数が増加
している,コーパス言語学を包含するよう注記した。
801.03 社会言語学[言語社会学]
社会言語学と言語社会学は異なる概念であるが,概ね言語社会学より社会言語学の方が,
広い範囲を含むと考えられ,また言語社会学は社会学の一分野という見方もあるので,項
目名としては「社会言語学」とし「言語社会学」を付記した。
801.04 心理言語学[言語心理学]
*認知言語学は,ここに収める
心理言語学と言語心理学は異なる概念である。言語心理学は心理学からの言語学へのア
プローチという見方もあるので,項目名としては「心理言語学」とし「言語心理学」を付
記した。また資料数が増加している,認知言語学を包含するよう注記した。
801.09 比較言語学
*対照言語学は,ここに収める
対照言語学は比較言語学とは,異なる概念であり,分類項目の新設が適当だが,対照言
語学は異なる言語を比較して研究する言語学なので,ここに収めることとした。
801.2 語源学.意味論[語義論]
項目名の「意味論」に類語の「語義論」を付記した。
801.5 文法論:形態論,構文論[統語論].言語類型論:孤立語,膠着語,屈折語,抱合語
言語の類型は孤立語等の形態による区分だけではないので,小項目名を削除した。
801.7 翻訳法.解釈法.会話法
*特定の言語の翻訳に関するものも,ここに収める
特定の言語の翻訳法は,図書の性格によってはそれぞれの言語に分類した方がよい場合も
あるので注記を削除した。
801.9 言語・文字によらない伝達:身振語,手文字,絵文字 →:361.45
*手話法,指話法,読唇術→:378.28
注参照を指話法のみの一方参照から手話法,指話法,読唇術の相互参照に変更した。
809.6 討論・会議法
*ディベートは,ここに収める(別法:各言語の会話に収める)
別法を変更した(817.8,827.8,829.178を参照)。
〈810/890 各言語〉
*各言語は,すべて言語共通区分が可能である 例: 829.372ベトナム語[安南語]
の語源,829.383クメール語[カンボジア語]の辞典,845ドイツ語の文法,858フ
ランス語の方言;ただし言語の集合(諸語)には付加しない 例:829.37モン・
クメール諸語の音声
*日本語,中国語,朝鮮語を除く各言語は,言語共通区分を英語に準じて細分しても
よい 例:843.3 独和辞典,855.5フランス語の時制 (改訂箇所のない注記は省略
した)
言語共通区分
-1 音声.音韻.文字
-2 語源.意味[語義]
-3 辞典
-4 語彙
-5 文法.語法
-6 文章.文体.作文
-7 読本.解釈.会話
-78 会話
-8 方言.訛語
言語共通区分は8類の各言語に共通して使用する区分であり,ここに掲載することとし,
また必要により各言語を英語に準じての細分も可能とした。なお-2は「語源.語義.意味」
だったが,「語義」を「意味」の類語とした。
810.2 国語史
*特定主題の歴史は,各主題の下に収める 例: 815.02日本文法史
注記の例示である「日本文法史」は形式区分-02を付加できるので改め,また「例:」以
下の表記法を統一した。
810.29 国語系統論
*日本語の起源は,ここに収める
注記を追加した。
812 語源.意味[語義]Etymology.Semantics →:810.2
項目名の「意味」に類語の「語義」を付記した(以下,同様の改訂については説明を省
略した)。
813 辞典 Dictionaries
*ここには,語彙に関する辞典を収め,その他の主題に関する辞典は,各主題の
下に収める 例:812.033語源辞典
*江戸時代までの辞典[古辞書] (例:節用集)は,813に止め細分しない
注記の例示である「語源辞典」は形式区分-033を付加できるので改め,また「例:」以
下の表記法を統一した。
817.8 会話
*話し方,演説法,対談・座談法,討論・会議法は,809.2/.6に収める
*ディベートは,809.6 に収める(別法:ここに収める)
注記を追加した。
822 語源.意味[語義]Etymology.Semantics
823 辞典 Dictionaries
*ここには,語彙に関する辞典を収め,その他の主題に関する辞典は,各主題の
下に収める 例:825.033文法辞典
注記の例示である「文法辞典」は形式区分-033を付加できるので改め,また「例:」以下
の表記法を統一した。
823.1 中中辞典 [新設]
.2 日中辞典 [新設]
.3 中日辞典 →:813.2 [新設]
*基本語彙の辞典は,ここに収める
.4 故事熟語辞典.慣用語辞典 [新設]
.5 類語辞典.同義語辞典.反義語辞典 [新設]
.6 古語辞典 [新設]
.7 新語辞典.時事中国語辞典 [新設]
.9 隠語辞典.俗語辞典 [新設]
中国語の「辞典」を英語と同様に展開できるよう項目および注記を新設した。
824 語彙 Vocabularies
*語彙に関する辞典→823
.3 基本語彙 [新設]
.4 熟語.慣用語 [新設]
.5 類語.同義語.反義語.同音語 [新設]
.6 古語 [新設]
*特定地域の古語に関するものは,828に収める
.7 新語.流行語.外来語.略語 [新設]
.8 児童語 [新設]
.9 隠語.俗語.階級語.遊里語 [新設]
*位相は,ここに収める
中国語の「語彙」を日本語と同様に展開できるよう項目および注記を新設した。
826 文章.文体.作文 Sentences. Styles. Compositions
*特定作家の文体論は,その作家の下に収める
*別法:中国語作文827.4
*商業通信→670.92
中国語作文に別法を設けた。
826.2 修辞法 [新設]
.3 修飾語 [新設]
.4 公用文→:317.922 [新設]
.5 論文 [新設]
.6 書簡文.日記文 [新設]
*商業通信→670.92
.7 式辞→:809.4 [新設]
.8 文範.文例集 [新設]
*ここには,総合的なものを収め,各主題に関するものは,.4/.7に収める
中国語の「文章.文体.作文」を英語と同様に展開できるよう項目および注記を新設
・移動した。
827 読本.解釈.会話 Readers. Interpretations.Conversations
.4 和文中訳 [新設]
*中国語作文は,826に収める(別法:ここに収める)
.5 中国語解釈.漢文解釈.中文和訳
.8 会話
*話し方,演説法,対談・座談法,討論・会議法は,809.2/.6に収める
*ディベートは,809.6 に収める(別法:ここに収める)
中国語の「読本.解釈.会話」を英語と同様に展開できるよう項目および注記を新設
および追加をした(827.7は改訂箇所のなかったので省略した。以下828,829.8,889の
細目で記載のないものは改訂箇所がなかったので省略した)。
828 方言.訛語 Dialects
.1 北方語[北京語]:北京方言
.2 呉語[上海語]:上海方言
.3 [もん]語[福建語]:福州方言.厦門方言.潮州方言
*台湾語は,ここに収める(別法:828.5)
.4 粤語[広東語]:広州方言
.7 [びん]語[江西語]:江西方言 [新設]
.8 湘語[湖南語]:湖南方言 [新設]
中国語の有力な方言を網羅するよう項目を新設した。また項目名に類語と分類小項目
名を追加した。
829.1 朝鮮語[韓国語] Korean
*言語共通区分 例:829.11ハングル[諺文]
.11 音声.音韻.文字 [新設]
.111 音声.発音.音韻 [新設]
.112 漢字 [新設]
*漢字〈一般〉は,821.2に収め,ここには朝鮮語[韓国語]における漢字
の問題を収める
.115 ハングル[朝鮮文字] [新設]
.12 語源.意味[語義] [新設]
.13 辞典 [新設]
*こには,語彙に関する辞典を収め,その他の主題に関する辞典は,各
主題の下に収める 例:829.15033文法辞典
.131 朝朝辞典[韓韓辞典] [新設]
.132 日朝辞典[日韓辞典] [新設]
.133 朝日辞典[韓日辞典] [新設]
*基本語彙の辞典は,ここに収める
.134 故事熟語辞典.慣用語辞典 [新設]
.135 類語辞典.同義語辞典.反義語辞典 [新設]
.136 古語辞典 [新設]
.137 新語辞典.時事朝鮮語辞典[時事韓国語辞典] [新設]
.139 隠語辞典.俗語辞典 [新設]
.14 語彙 [新設]
*語彙に関する辞典→829.13
.143 基本語彙 [新設]
.144 熟語.慣用語 [新設]
.145 類語.同義語.反義語.同音語 [新設]
.146 古語 [新設]
*特定地域の古語に関するものは,829.18に収める
.147 新語.流行語.外来語.略語 [新設]
.148 児童語 [新設]
.149 隠語.俗語.階級語.遊里語 [新設]
.15 文法.語法 [新設]
.151 形態論.構文論[統語論] [新設]
*文章→829.16
.152 名詞.数詞 [新設]
.153 代名詞 [新設]
.154 形容詞.冠形詞 [新設]
.155 動詞 [新設]
.156 副詞.感嘆詞 [新設]
.157 助詞 [新設]
.158 敬語法 [新設]
.16 文章.文体.作文 [新設]
*特定作家の文体論は,その作家の下に収める
*別法:朝鮮語作文[韓国語作文]829.174
.162 修辞法 [新設]
.163 修飾語 [新設]
.164 公用文 →:317.921 [新設]
.165 論文 [新設]
.166 書簡文.日記文 [新設]
*商業通信→670.9291
.167 式辞 →:809.4 [新設]
.168 文範.文例集 [新設]
*ここには,総合的なものを収め,各主題に関するものは,.4/.7に
収める
.17 読本.解釈.会話 [新設]
.174 和文朝訳[和文韓訳] [新設]
*朝鮮語作文[韓国語作文]は,829.16に収める(別法:ここに収める)
.175 朝文解釈[韓文解釈].朝文和訳[韓文和訳] [新設]
.177 朝文読本[韓文読本] [新設]
.178 会話 [新設]
*話し方,演説法,対談・座談法,討論・会議法は,809.2/.6に収める
*ディベートは,809.6 に収める(別法:ここに収める)
.18 方言.訛語 [新設]
朝鮮語[韓国語]は図書が増加しており,言語共通区分より細かく展開できるよう
項目を新設した。
829.29 古アジア諸語[極北諸語]:ギリヤーク語,チュクチ語 Paleo-Asiatic:
Gijyak,Chukchee
*エスキモー・アレウト諸語→895.1
895.1の項目名の変更に伴い注参照を変更した。
829.31 ヒマラヤ諸語.西夏語 Himalayan languages. Sihia
*西夏語は,ここに収める
西夏語は死語であり,どの言語の系統に属するか不明の部分もあり,項目名から注
記に変更した。
829.35 ビルマ語.ロロ語[彜語] Burmese. Lolo
ロロ・ビルマ語群の代表的な言語である「ロロ語」を索引語から項目名とした。
829.6 ドラビダ諸語:タミル語,テルグ語 Dravidian languages: Tamil, Telugu
*インド諸語→829.8
「インド諸語」への注参照を追加した。
なおNDCでは,外来語の[v]の音の片仮名表記は「バ」行と「ヴ」が混在して
いるが,3類試案(322.38参照)の表記に合わせ,9版の「ドラヴィダ諸語」を「ドラ
ビダ諸語」に変更した(以下,同様の改訂については説明を省略した)。
829.8 インド諸語 Indic
*インドの言語→802.25;ドラビダ諸語→829.6
.81 オリヤー語.マラーティー語.グジャラート語.ロマニー語[ロマ語],シ
ンディー語 Oriya. Marathi.Gujarati.Romany.Sindhi [新設]
*.83/.89以外のインド諸語は,ここに収める
.84 ウルドゥー語 Urodu [新設]
.85 ウルドゥー語,パンジャーブ語,アッサム語,ベンガル語 Urodu. Punjabi.
Assamese. Bengali
.86 ネパール語 Nepali [新設]
.87 シンハラ語 Simhala [新設]
.88 サンスクリット[梵語].ベーダ語 Sanskrit.Vedic
インド諸語に対する分類を検討した結果,多くの言語を項目に新設する必要があっ
た。しかし9版の体系を出来るだけ維持することに努め,限られた項目の新設,項目
名の移動・追加をおこなった。またインド諸語の展開において項目にできなかった言
語に対する注記を移動し変更した。さらに「ドラビダ諸語」への注参照を追加した。
829.98 その他のイラン諸語:アベスタ語,オセット語,パシュトー語,クルド語
Avestan,Ossetic,Pashto,Kurdish
832 語源.意味[語義]Etymology.Semantics
833 辞典 Dictionaries
*ここには,語彙に関する辞典を収め,その他の主題に関する辞典は,
各主題の下に収める 例:831.4033アクセント辞典
注記の例示である「アクセント辞典」は形式区分-033を付加できるので改め,また
「例:」以下の表記法を統一した。
840 ドイツ語 German
*840.1/.8:形式区分 例:840.2ドイツ語史
*841/848:言語共通区分 例:845ドイツ語文法
形式区分は,原則としてあらゆる分類項目について共通して使用する区分である
ので,削除することとした。また,言語共通区分を8類の冒頭に置いたことに伴い,
ここからは削除した(以下,同様の改訂については説明を省略した)。
850 フランス語 French
*850.1/.8:形式区分 例:850.31フランス語学の書誌
*851/858:言語共通区分 例:858フランス語の方言
859 プロバンス語 Provencal
860 スペイン語 Spanish
*860.1/.8:形式区分
*861/868:言語共通区分
870 イタリア語 Italian
*870.1/.8:形式区分
*871/878:言語共通区分
880 ロシア語 Russian
*880.1/.8:形式区分
*881/888:言語共通区分
889 その他のスラブ諸語 Other Slavic languages
*スラブ諸語〈一般〉は,ここに収める
.7 ソルブ語[ベンド語] Sorbian
894.8 コイサン諸語:コイ語,サン語 Khoisan:Khoi,San
小項目名を「ホッテントット語,ブッシュマン語」から変更した。
895.1 エスキモー・アレウト諸語:エスキモー語[イヌイット語],アレウト語
Eskimo-Aleut:Eskimo,Aleut
*古アジア諸語→829.29
言語学での呼称の変化に伴い項目名を見直し小項目名を追加した。
899.3 イード.ボラピューク.オクツィデンタル.ノビアル Ido.Volapuk.Occidental.
Novial