図書館利用教育ガイドライン_大学図書館版

日本図書館協会利用教育委員会編:1998年

あ行

アクセスポイント
検索ツールを用いる際に、手がかりとする言葉、または記号をさす。著者名、書名、それらの一部、キーワード、件名、分類番号、出版者、出版年等がある。利用者(特に学生)は何をアクセスポイントとするかが分かりにくい。したがって、指導の際に各検索ツールのアクセスポイントを指摘するだけでは充分ではない。自分の求める情報を表現するアクセスポイントをどのようにして探すかの指導が必要である。
オリエンテーション
大学コミュニティに新しく参加した人に対して、大学生活を円滑に送れるように案内するための様々なプログラムからなる行事のことをさす。当ガイドラインの領域2で言うオリエンテーションは、初来館利用者を対象とし、施設・サービスの基本的事項の案内を目的とする各種行事の総称で、館によりガイダンスや利用案内週間などと呼称は様々である。

か行

学科関連指導
ある学科目の学習・研究の過程において必要とされる情報探索法・整理法・表現法を学ばせる指導方式を指す。通常、教員から要請されて図書館員がその授業時間の一部を使って指導を行う。現在、多くの大学図書館が実施しているゼミ・ガイダンス等はこれに相当する。学生には課題解決という強い動機づけがあるので、「独立学科目」よりも指導効果が上がる。
学科統合指導
情報探索法・整理法・表現法の学習を大学の全体カリキュラムの中に組み込み指導する方式。最初から教員と図書館員が共通の目標のもとに協力して科目の計画・実行・評価を行う点で「学科関連指導」よりも相互依存度が高い。実際の指導は教員と図書館員の分業になる。大学教育と図書館利用教育の全面的な統合が実現される段階に当る。
協力体制
大学図書館において利用教育への学内協力体制を確立するには、教学機関との連携が最重要課題になる。そのためには教授会あるいは各種の委員会等、そして一般教員に対して、活発な広報活動を展開することにより、図書館の教育研究支援サービスの重要性・有用性への理解を広めねばならない。
大学に図書館学科や司書養成課程があればその教職員・大学院生も有力な協力者となる。利用教育を受けた学生の一部はいずれ大学院生になり教員になって次の世代の協力体制を担うはずである。図書館独自に実施できる利用教育プログラムがある程度成熟してきたら、次の段階として大学教育のカリキュラムの中に 図書館利用教育を定着させる方向への取り組みを目指すべきである。
そのためには大学経営サイドの理解と協力が要請される。事務局職員にも協力体制の一翼を担ってもらわなくてはならない。さらに一歩進めれば、実質的に各種の利用教育プログラムを総合的に企画立案する“推進本部”として機能するような組織の設置が必要になる。
図書館員にはその協力体制を支えるコーディネータとしての力量が求められる。こうして大学のすべての構成員が図書館利用教育に関心を持ち、重要性を認識し、協力者となるというのが理想の構図である。
検索ツール
必要な資料や情報を探すために用いるものの総称。OPAC、二次資料(書誌、目録、索引誌)、レファレンス・データベース等を指す。
現状分析
大学での情報教育のプログラムづくりに当たっては、自校のカリキュラムの現状分析だけでは十分でない。生涯学習の観点から初等・中等教育および社会教育・社内研修等の実態について把握し、入学前・在学中・卒業後を通しての大学生像を浮彫りにする必要がある。
広報
広報には領域1、領域2の図書館一般の紹介や自館の案内のためのものと同時に、領域3、領域4、領域5における個々のイベントを実施する際の告知・宣伝もある。
コミュニティ
大学コミュニティとは、図書館の設置母体である大学キャンパスまたはそこに集う理事者・教職員・学生を指す。大学の政策によっては、さらに広義に、卒業生、寄付者、支援者、地域住民等を含む。

さ行

CAI
Computer Assisted Instruction の略語。予めコンピュータに組み込まれた学習プログラムを学習者が個別的に対話しながらたどる形で学習を進められる教育支援システムのこと。
自館の特徴
その図書館らしさ。図書館という機関にとって「人格」に当るもの。ライブラリー・アイデンティティとも言い、施設、資料、図書館員、サービスの総体がひとつの個性的な存在感を持つことを指す。サインや広報媒体、帳票類、窓口応対なども含めて、利用者の五感に触れるすべての要素が、統合的に企画 ・管理されている状態が理想となる。図書館利用教育の実施に当たってはコミュニケーションの土台となる。
情報教育
狭い意味の「コンピュータ教育」ではない。情報の生産・流通・検索・獲得・加工・保管・消費・表現・評価などあらゆる側面に関する知識・技能の習得を支援する教育、すなわち情報リテラシー教育を指し、図書館利用教育はその一端を担う。
情報源
印刷媒体、AV資料だけでなく、データベースや通信ネットワークを通じての外部情報機関をも含む。
情報探索ストラテジー
有効で効率的な探索を行うため、探索開始に先だって、どのような情報源やツールを用い、どのような順序(流れ)で進めていくかを、情報ニーズや探索目標に基づいて規定した計画案(戦略)。
情報ニーズ
情報ニーズは調査・研究や学習の際に生じるものだけでなく、生活の様々な場面で必要になる情報へのニーズ全般を指す。needsは需要であり、潜在需要と顕在需要がある。要求demandsは利用者自身によって意識され表明された需要であるが、必ずしも本人の真の需要を正確に反映しているとは限らない。 したがって図書館が利用者の真の需要を把握するためには、調査と分析が必要になる。
情報の特性
メデイアの持つ特性、また情報発信の年代・地域・社会状況・発信者(源)の持つ特徴と限界等を指す。学問分野ごとに情報の生産、流通、消費の形態は異なり、それぞれ固有の特性を持つ。さらに学説や学派ごとの特性も、学習・研究の前提的な知識である。
情報の評価
多種多様な情報が氾濫する現代においては、真に有用な情報を獲得するためには、その特性を理解し、新しさや確かさなどを適確に評価できるだけの判断力が必要とされる。その評価は利用目的によって変わる。情報源を確定し,発信者の視点・立場と信頼性,作成時期の新しさや妥当性,情報の取り扱い範囲,扱い方,正確さ,客観性,出典表示の有無,情報収集方法,形態面での使い勝手のよさ等が判断の材料となる。
情報の窓
<窓>というコンセプトは重要である。たとえ今は蔵書が貧弱でも、相互協力やデータベースの利用によって、利用者が思っているよりはるかに広範囲で高度な情報提供サービスが可能になる。「まず蔵書の充実をしてから利用教育を始める」などという先後論は成立しない。図書館は単独に存在しているのではなくて、世界中に張り巡らされたネットワークに向けて開いているひとつの窓のようなものだという印象を与えたい。
情報倫理
情報の入手や発信には、他の社会的行動と同様に倫理(モラル)が要求される。不正コピー問題、侵入・改変問題、自由と規制の問題等を考える前提として、情報教育の根底には常に、他者の人権、プライバシー、著作権を尊重するという情報倫理が意識されていなければならない。
自立
自立とは、自らの動機に基づき、習得した知識・技能を用いて、主体的に、目的を達成できる能力を身に着けた状態をいう。自立的利用者という概念は「図書館員の助けを借りなくても図書館を利用できる成熟した利用者」を指す。
これは図書館員が不必要になるという意味ではない。なぜなら、利用者が次々と自立していく一方で、新しい初級利用者も毎日来館し続け、また情報環境の急激な変化の中でその知識・技能が絶えず陳腐化するからである。
この意味で自立という課題は大学教育の中で完結するものではなく、大学入学前から卒業後の全期間を貫く継続的な生涯学習の目標理念である。図書館員にとっては、自立促進の成果として、例えば領域2のクイック・レファレンスの件数の比率が低下して余力が生まれるが、領域3、4、5の専門的サービスへのニーズは高まる。利用者の自立は図書館員の専門性を高める必要条件なのである。
セグメント化
マーケティング用語。マーケテイングにおいては「市場を、顧客の所得、地域、嗜好、年齢、職業等、およそ販売に影響を与える要因をすべて考慮にいれて細分化し、それぞれの特性に応じたきめ細かい商品政策」を行っている。これは大学図書館にもぜひ応用したい手法であり、利用度(未来館者/初来館者/反復利用者、等)、利用者区分(学部学生/大学院学生/教員/職員、等)、利用目的(自習/調査/娯楽、等)、専門分野など様々な区分要素による利用者の細分化が考えられ、サービス計画立案の基礎になる。
組織的
組織的にとは個人の思いつきや努力によるのではなく、図書館全体、またその設置母体である大学の組織全体が公式の業務として、その人的資源を総合的に活用して、計画的にプログラムを組み行うことを指す。
少数のニーズ
図書館は、潜在的利用者も含めたすべての個人を利用者として尊重しなければならないが、特に大学内の地位や、身体的、社会的、経済的、政治的、思想的、宗教的、言語的、民族的、文化的等の様々な意味での弱者やマイノリティへの配慮は欠かせない。大学の国際化、情報化、地域開放という流れの中で、図書館の利用者は一層多様化することが予想される。留学生、帰国学生、編入生、外国人教員・研究者、非常勤 職員、障害者等が持つ少数者のニーズに対しては、より一層きめ細かなサービスを提供しなければならない。

た行

チュートリアル
図書館員や教員、大学院生のテイーチング・アシスタント等による個別指導時間のこと。
独立学科目
他の学科目と同様に、受講すれば単位が与えられる情報利用教育の科目である。基礎的・一般的な情報探索法・整理法・表現法を対象とするものと、専門分野に関する情報探索法・整理法・表現法を対象とするものとがある。変則的には司書養成課程の一部として行われる場合もある。一定の時間をかけて宿題、実習、かつ評価を行うので知識・技能の定着化には効果的ではあるが、学生の直接の情報ニーズに合致しない場 合、動機づけが弱くなるという弱点もある。
図書館
近年、大学においては図書館という名称が消えつつあり、情報センターまたメディアセンター等と称されるようになってきた。名称はどうであれ、ここでいう図書館とは各種メディアの資料・情報を収集・組織し利用に供することにより、人々の知る権利を保障するという図書館機能を持つ社会的機関全般を指す。
図書館員の専門性
図書館利用教育担当者の専門性には、従来言われてきた「図書館員の専門性」に加えて、教育的指導の能力や、館内の横断的なプロジェクトの実行管理能力が必要である。

は行

パスファインダー
ある特定のトピック(主題)に関する資料・情報を収集する際に、関連資料の探索法を一覧できるリーフレットのこと。最近はデータベース形態で提供されるものもある。網羅的な文献リストや一般的なガイドブックとは異なり、あくまで具体的限定的なトピックの探索法を簡便に示すことを狙った道案内である。
パブリシティ
宣伝的な情報をジャーナリズムに提供して、無料で一般的な記事や番組の形で報道してもらうことを指す。有料の広告とは違って、メディア側が素材の取捨選択と報道のし方を判断するので、ニュース性・話題性が要求されるが、その分だけ受け手側の信頼感も高い。
評価
評価する主体によって、図書館による自己評価、大学構成員による評価、大学外の第三者による評価に区分される。評価のポイントを計画と実行の過程に置く形成的 formative 評価と、目標到達に置く総合的 summative 評価がある。
ブラウジング
必要な資料を特定してから、その入手に向かうことが情報探索の基本ではあるが、漠然とした目的で、あるいは無目的で、書架を眺め歩いたりランダムに資料を通読すること、つまりブラウジングには思いがけない情報探索の効用がある。

ま行

マスメデイア教材
指導に使用する教材としては、図書館あるいは大学の内部で自作したものだけでなく、情報教育関連の雑誌の特集記事、テレビ番組、市販ビデオソフトなども大いに活用するべきである。
マニュアル
サインの維持管理マニュアルや、オリエンテーションのツアーマニュアル、教材の準備マニュアル、授業の指導マニュアルなど、標準化のために様々な種類が必要である。
目的と目標
目的とは理念的・抽象的な終着点 (goals) を指し、目標とは図書館利用教育の個々のプログラム(具体的な企画の実施計画)の測定・評価可能な到達点 (objectives)を指す。

や行

予算
図書館利用教育に関する予算には、人件費や、使用機器、消耗品などの諸経費の全てを含まねばならない。人件費には、指導担当図書館員だけでなく、臨時職員、嘱託職員、委託職員、そして協力を依頼する学内他部署職員の拘束時間さらには担当者の研修費、講演会を企画すれば講師謝礼も必要である。また通常の利用のための参考ツールは資料費として計上されるが、図書館利用教育の教材としての参考ツールの予算も、実習で利用者が手にすることができる数量分を別途確保しておく必要がある。

ら行

利用案内
パンフレット、リーフレットなどの印刷紙媒体を図書館界では「利用案内」と称することが多いが、誤解や混乱のもとになるので呼称を工夫したい。文字通りの語義では、「利用の案内」は5つの領域のそれぞれの中に存在している。物理形態としてはパンフレット、リーフレットだけではなく、掲示、放送、ビデオ、パソコン、コンピュータネットワーク、テレホン・サービスなど様々な形で「案内」が可能である。