日本図書館協会図書館の自由委員会声明・見解等差別扇動本とされる蔵書の提供について 


日本図書館協会 図書館の自由委員会は,「OoA.Against.Racism」から,協会の担当事務局あてに出された後掲の「公開質問状」を受けとりました。

そこでは,差別扇動本とされる蔵書の提供に関連して,日本図書館協会が掲げ,その普及に力を注いできた「図書館の自由宣言に関する宣言」(以下,「宣言」)に対して,とくに<「宣言第2-1-(1)「人権またはプライバシーを侵害するもの」>条項についての,質問者の認識が述べられています。

この「宣言」同条項についての委員会の見解は,以下に述べるとおりです。

これは以前から示していることで,あらためて示すものではありませんが,確認の意味で提示するものです。


差別扇動本とされる蔵書の提供について

2015年6月

公益社団法人 日本図書館協会
図書館の自由委員会
委員長 西河内 靖泰

日本図書館協会は,「図書館の自由に関する宣言(1979年改訂)」(以下「宣言」)を総会決議し,図書館の設置運営の基本原則について提示しています。

蔵書の提供については,「宣言」第2-1で,「国民の知る自由を保障するため,すべての図書館資料は,原則として国民の自由な利用に供されるべきである。図書館は,正当な理由がないかぎり,ある種の資料を特別扱いしたり,資料の内容に手を加えたり,書架から撤去したり,廃棄したりはしない。」と言明し,特定個人の「人権またはプライバシーを侵害するもの」や,「わいせつ出版物であるとの判決が確定したもの」など以外は,市民の自由な利用に供することとしています。

「宣言」第2-1-(1)の「人権」を広く解して市民のアクセスを制約することは,「国民の知る自由」という基本的な権利を,資料と施設の提供によって保障することをもっとも重要な任務とする図書館としては、慎重であるべきです。
宣言第2-1-(1)の「人権またはプライバシーを侵害」について,「侵害するもの」と判断する基準を,「被害者の人権保護と著者の思想・表現の自由の確保とのバランス,および国民の知る自由を保障する図書館の公共的責任を考え」,「差別的表現は、特定個人の人権の侵害に直結するものを除き,制限項目に該当しない。」と規定しています(『「図書館の自由に関する宣言1979年改訂」解説 第2版』25〜26頁)。

2000年には,これまでの検討事例を集約し,「差別的表現と批判された蔵書の提供について(コメント)」(別掲)を発表しました。

なお,資料の収集・提供・保存において,公立図書館は教育機関として自主的・自律的に判断するもので,当協会が個別の資料について収集の可否や提供の方法を指示することはいたしません。

以上


差別的表現と批判された蔵書の提供について(コメント) 2000.11.16 


図書館の自由に関する宣言(抜)

図書館は,基本的人権のひとつとして知る自由をもつ国民に,資料と施設を提供することをもっとも重要な任務とする。

(略)

 第1 図書館は資料収集の自由を有する

1 図書館は,国民の知る自由を保障する機関として,国民のあらゆる資料要求にこたえなければならない。
2 図書館は,自らの責任において作成した収集方針にもとづき資料の選択および収集を行う。その際,
 (1) 多様な,対立する意見のある問題については,それぞれの観点に立つ資料を幅広く収集する。
 (2) 著者の思想的,宗教的,党派的立場にとらわれて,その著作を排除することはしない。
 (3) 図書館員の個人的な関心や好みによって選択をしない。
 (4) 個人・組織・団体からの圧力や干渉によって収集の自由を放棄したり,紛糾をおそれて自己規制したりはしない。

(略)

第2 図書館は資料提供の自由を有する

1 国民の知る自由を保障するため,すべての図書館資料は,原則として国民の自由な利用に供されるべきである。
 図書館は,正当な理由がないかぎり,ある種の資料を特別扱いしたり,資料の内容に手を加えたり,書架から撤去したり,廃棄したりはしない。
 提供の自由は,次の場合にかぎって制限されることがある。これらの制限は,極力限定して適用し,時期を経て再検討されるべきものである。
 (1) 人権またはプライバシーを侵害するもの

(略)


2015年5月12日受信

「マンガ嫌韓流」閉架願いについての「公開質問状」

日本図書館協会 図書館の自由委員会事務局様

私達は「反差別・反レイシズム」で活動を行っている「OoA.Against.Racism」の者です。
私達は先月19日に晋遊舎で発行された「マンガ大嫌韓流」に関してその内容が特定の社会的少数者である「在日韓国・朝鮮人」らに対する差別と偏見と排除を意図して煽る内容であるとしこれらの出版物に対する抗議を展開しております。
その中で「マンガ大嫌韓流」の作者 山野車輪氏の同様の著作である「マンガ嫌韓流」が各地域の図書館に置かれていることに関して,「閉架措置」を求めていくと同時に「図書館の自由」という目標に活動されている「日本図書館協会」の見解についてお聞きしたいと考え「公開質問状」と言う形で文章を送付いたします。
私達は特定の社会的マイノリティである「在日韓国・朝鮮」の方々への攻撃を目的とする「マンガ大嫌韓流」を始め「嫌韓流」シリーズを「閉架措置」にするよう求めてます。
それは「公共の福祉」を鏡見(ママ)て社会的少数者であっても公的・社会的に不利益であってはならないと考えているからにほかなりません。
「公的」施設である「図書館」において現状で展開される差別を意図的に煽動する目的な書物を置くことは特定の「社会的少数者」の公的,社会的不利益をもたらすと考えております。
私達は「図書館の自由に関する宣言」
http://www.jla.or.jp/library/gudeline/tabid/232/Default.aspx
『第2 図書館は資料提供の自由を有する」1(1) 人権またはプライバシーを侵害するもの』に照らし合わせ「マンガ嫌韓流」シリーズはこれらに該当すると考えております。
日本図書館協会の見解をお願いします。

   ※同文は <日本図書館協会 図書館の自由委員会様宛へ「マンガ嫌韓流」閉架願いについての「公開質問状」>(http://ooaagainstracism.tumblr.com/post/118770365284)として公開されている。


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