日本図書館協会図書館の自由委員会声明・見解等差別的表現と批判された蔵書の提供について(コメント)

「差別的表現と批判された蔵書の提供について(コメント)」について

2000年11月16日


ハリー・ポッター」シリーズの第2巻『ハリー・ポッターと秘密の部屋』(静山社刊)の文中に差別的表現があるとして、昨年末「口唇・口蓋裂の会」(会長・安田真理)から各地の公共図書館に対して、同書の「貸出しに関するお願い」の文書が送付された件で、日本図書館協会にも各図書館からの問い合わせが相次いでいます。特定の資料の取り扱いについては、「図書館の自由に関する宣言」などに照らし各図書館で十分論議した上で決めるべきことであることはいうまでもありません。

しかし、今回の事例は昨年10月に雑誌『クロワッサン』の記事に差別的表現があるとして全国図書館大会第9分科会で論議になったことに続く事例であり、差別的表現を含むとして批判された蔵書の取り扱いについての図書館界の論議を紹介することは各館で論議される際のご参考になるかと考え、お問い合わせを受けた際には図書館の自由に関する調査委員会がまとめた別掲のコメントをお示ししています。


差別的表現と批判された蔵書の提供について(コメント)

JLA図書館の自由に関する調査委員会


図書館界は1970年代から,部落差別や障害者差別をはじめ,差別を助長すると批判を受けた表現や資料の取り扱いについて論議を積み重ね,次のような共通の認識をつくってきました。
  1. 差別の問題や実態について人々が自由に思考し論議し学習することが,差別の実態を改善するうえでは必要なことです。
  2. 差別を助長すると批判された表現や資料を市民から遮断することは,市民の自由な思考や論議や学習を阻み,市民が問題を回避する傾向を拡大します。
  3. 言葉や表現は,人の思想から生まれ思想を体現するものです。差別を助長する,あるいは侮蔑の意思があると非難される言葉や表現も同様です。そして図書館は思想を評価したり判定する,あるいはできる機関ではありません。
  4. 批判を受ける言葉や表現は,批判とともにこの国の歴史的状況を構成しています。図書館は,ありのままの現実を反映した資料を収集・保存し,思想の自由広場に提供することを任務とし,また市民から期待されています。
  5. 批判を受けた資料の取り扱いについては,特定個人の名誉やプライバシーを侵害する場合以外は,提供を行ないながら住民や当事者の意見を聞き,図書館職員の責任で検討し合意をつくるために努力することが必要です。このことは,『ピノキオ』についての図書館界の真摯な論議の貴重な到達点です。

「図書館雑誌」第95巻第1号(2001.1)に掲載