日本図書館協会図書館の自 由委員会図書館の自由に関する宣言宣言解説2版刊行の経過「宣言解説」改訂について 

「図書館の自由に関する宣言 1979年改訂 解説」改訂について


宣言解説改訂の概要

 (2002.10.24 図書館大会第9分科会配布資料に一部修正を加えた)

1『解説』2003年改訂の意義 (「『解説』改訂の意義」の後に項目を追加)

 前回1987年の改訂以降、状況の変化は加速し、新しい事態が発生し、加えて宣言の重要な部分の趣旨の恣意的な解釈も見られ、それが定着しかねないおそれが出てきた。またマスコミを始めとして格段に社会的注目を浴び、法的側面から論議される機会も増えた。それらの試練を経て、論議されてきた成果をふまえて、今後の具体的な指針となりうるよう、解説を再度改訂することになった。
 改訂にあたって留意した諸点は、つぎのとおりである。
 (1) 館界の経験にもとづき新しい事例を取り入れることに努めた。
 (2) 「人権またはプライバシーの侵害」に関する厳密な定義
 (3) インターネットによる情報提供にかかわる問題
 (4) 子どもの知る自由をどう保障するか。
 (5) 多様化する著作権問題と図書館のかかわり
 (6) 住民基本台帳ネットワークにつながるICカードや学籍番号利用の危険性

2 1987年以降の情勢および事例

o司法判断と図書館の資料提供
o三大猥褻文書の復刊
o『ちびくろサンボ』絶版問題(1988年)
o富山県立図書館図録問題(1990年)
o国立国会図書館利用記録無差別押収(1995年)
o『タイ買春読本』回収要求(1995年)
o秋田県立図書館『KEN』閲覧停止要請(1996年)
o「群馬県立図書館資料提供制限実施要綱」(1996年)
o『フォーカス』問題(1997年)
o岡山県『完全自殺マニュアル』有害図書指定(1997年)
o青少年保護育成条例による有害図書指定強化の動き(1997年)
o福島次郎『三島由紀夫―剣と寒紅』(1998年)
o東大和市立図書館における『新潮45』の閲覧制限と閲覧請求訴訟(1998年)
o『クロワッサン』閲覧制限(2000年)
o柳美里「石に泳ぐ魚」出版禁止地裁判決(1999年)
o国立国会図書館「石に泳ぐ魚」閲覧完全禁止(2002)
 (これは考える目安としておおむねこんな事件・問題があったことを示したもので、記述・年代等は厳密ではありません。)

3 人権またはプライバシーの侵害 (書き換え)

 宣言第2(資料提供の自由)の1に「制限されることがある」場合の(1)に挙げてある「人権またはプライバシーを侵害するもの」の一句は、「これらの制限は、極力限定して適用」するべきことが強調されているにもかかわらず、安易に適用される場合が目に余る。特にこの項を具体的検討を加えず、漠然と、あるいは包括的に解釈して、論議ぬきに閲覧制限してしまう例が跡を絶たない。最近ではそれが定式化してしまっているようにさえ見える。各図書館での職員集団の論議による理論的対応を求める解説を試みた。

4 インターネット情報 (新規―第4の解説の「図書館と検閲」の次に加える)

 インターネットによる情報提供は図書館の資料提供として考えることにおいては大方の合意が得られているが、その混沌情報に起因するフィルタリングは、サーバ段階で設定されることに問題がある。今後ますます拡大するインターネットによる情報の提供に伴う問題を解説した。

5 子ども・若者への資料提供 (新規―第2の解説の「資料保存」の前に加える)

 子どもの知る自由、読む自由も保障されている。多様な対立する意見のある問題についても自らの判断を持てるよう、図書館はその阻害要因となってはならないことを解説した。

6 資料提供と著作権問題 (新規―第2の解説の末尾に加える)

 多様化する伝達媒体のなかで、著作権問題は至るところで発生している。その中から図書館の資料提供に関わる問題を取り上げる。

7 住民基本台帳、ICの問題 (新規―第3の解説の「貸出記録の保護」の中で加筆する)

問題を指摘されながら住基ネットが実施された。ICカードによる個人貸出を実施する図書館が増えてきた。大学における学籍番号との連結も問題も含め、防ぎようのない情勢になってきたが、改めて守るべき規範を提起する

8 その他

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『図書館の自由に関する宣言1979改訂解説』の改訂について

 (2002.10.24 図書館大会群馬大会分科会での検討および「図書館の自由委員会」での検討を踏まえて一部修正を加えた)


●改訂のポイント

(章)宣言の採択・改訂とその後の展開(p.10〜)

@「図書館の自由をめぐる問題の新たな局面」(p.14〜)
 この節に続いて、次の一節を入れる。(p.16)

 1987年以降の新たな展開

 公立図書館の貸出の推移を見れば、1970年代の大躍進と90年代に入ってからの町村立図書館を中心にした進展期を経る中で図書館は社会の中での認知度を増していく。その結果として、つぎつぎに図書館の自由に関する事件が生起することとなった。
 1986年に始まる富山県立近代美術館における天皇コラージュ作品の処置をめぐる国民の知る権利訴訟は、作品の処置は管理者側の裁量に委ねられるという最高裁の判決(2000年)で、国民の知る権利に制約を加える結果になった。しかしそれはマスコミに大きく取り上げられ、社会の関心を呼んだ。それに関連する富山県立図書館図録問題は、1995年に判決が確定した後も後難をおそれた図書館が図録の所有権を放棄したままいまだに回復されず、自由宣言に背反する状態が続いている。
1988年には絵本『ちびくろサンボ』が人種差別であるとの批判を受けて、日本では絶版になった。しかしこの絵本が差別書であるかどうかはその後も論議が続いている。
1995年には、東京の地下鉄サリン事件捜査過程での国立国会図書館利用記録53万人分の無差別差し押さえも各界の批判を呼び抗議声明が出された。
1997年の神戸連続児童殺傷事件における少年被疑者の顔写真を掲載した『フォーカス』(同年7月9日号)、その検事調書を掲載した『文藝春秋』(1998年3月号)、1998年の堺通り魔幼児殺害事件を実名記事にした『新潮45』(同年3月号)など、問題となる報道が続発した際、その資料の提供について公共図書館がマスコミの注目を集めることになり、改めて図書館の自由のあり方が社会的関心のもとに問われることになった。東大和市においては、『新潮45』の閲覧制限は住民の知る権利の侵害であると訴訟が起された。
そのほか、『タイ買春読本』(1994年初版)『完全自殺マニュアル』(1993年初版)の廃棄要求や閲覧制限要求は住民の間でも論議を呼び、やがて有害図書指定の動きになり、図書館が時勢の「常識」の中で、図書館の国民の知る自由への取組みの姿勢が試されている。
1996年には秋田県で地域雑誌『KEN』が個人のプライバシー侵害を理由に頒布禁止の仮処分が決定され、申立人から県立図書館に利用禁止を求めて「警告書」が送付されるということが起こった。この場合は図書館に対して仮処分が決定されたものではないが、今後利用禁止を法的に求められた場合の対応が迫られている。
1997年には、タレント情報本の出版差し止め認められるということがあり、個人情報をめぐって、以後、出版の事前差し止めの法的判断の事例がいくつか出てくる。

A「『解説』改訂の意義」(p.16)
この節に続いて次の1節を入れる。

 『解説』2003年改訂の意義

 前回1987年の改訂以降、状況の変化は加速し、新しい事態が発生し、加えて宣言の重要な部分の趣旨の恣意的な解釈も見られ、それが定着しかねないおそれが出てきた。またマスコミを始めとして格段に社会的注目を浴び、法的側面から論議される機会も増えた。それらの試練を経て、論議されてきた成果をふまえて、今後の具体的な指針となりうるよう、解説を再度改訂することになった。
 改訂にあたって留意した諸点は、つぎのとおりである。
 (1) 館界の経験にもとづき新しい事例を取り入れることに努めた。
 (2) 「人権またはプライバシーの侵害」に関する厳密な定義
 (3) インターネットによる情報提供にかかわる問題
 (4) 子どもの知る自由をどう保障するか。
 (5) 多様化する著作権問題と図書館のかかわり
 (6) 住基ネット(住民基本台帳ネットワーク)につながるIC、学籍番号利用の危険性

(章)宣言の解説(p.17〜)
 (前文)

B「公平な権利」(p.20)
 この節の冒頭の3行を次のように変える。

現在、公立図書館がまだ設置されていない地方自治体があるし、1997年の学校図書館法の改正により、2003年度より司書教諭の発令が義務づけられることになったとはいえ、ひきつづき発令が猶予される12学級に満たない小中学校も約半数残される。専任の学校司書の重要性は失われない。

 第2 図書館は資料提供の自由を有する。(p.23〜)

C「わいせつ出版物」(p.26)
「このようにわいせつ文書とする判断基準は‥‥」以下を次のように変える。

『悪徳の栄え』は1969年、『四畳半襖の下張り』は1980年に最高裁で有罪判決を受けたが、その後これら3文書はいずれも無削除で公刊されている。このように、裁判基準がありながら、わいせつ文書も社会の常識が変化することによって許容されることになるのである。従って、わいせつ出版物の提供の制限も、時期をみて再検討されなければならないものである。

D「資料の保存」(p.27)
「1984年の広島県立図書館問題では、‥‥が切断破棄された。」に続いて、次の段落を入れる。

2002年には船橋市西図書館で「新しい歴史教科書をつくる会」会員の著書が、前年の夏に100冊以上集中的に廃棄されていたことがわかった。

 第3 図書館は利用者の秘密を守る。(p.28〜)

E「最近の事例としては、‥‥事件がある。」(p.29)を次のように書きかえる。

1995年3月に起きた地下鉄サリン事件捜査に関連して、警視庁は捜査差押許可状に基づき国立国会図書館の利用申込書約53万人分をはじめ、資料請求票約75万件、資料複写申込書約30万件を無差別に押収した事件がある。1年余の利用記録すべてである(注8)。
注8 JLA図書館の自由に関する調査委員会関東地区委員会「裁判所の令状に基づく図書館利用記録の押収―『地下鉄サリン事件』捜査に関する事例」 図書館雑誌 89(10)p.808−810

 第4 図書館はすべての検閲に反対する。(p.33〜)

F「図書館と検閲」(p.33〜)
 (p.34)「青少年を「有害図書」の影響から‥‥」の段落を次のように書きかえる。

 青少年を「有害図書」の影響から守るという趣旨の地方自治体で制定されている青少年保護育成条例についても、有害指定を個別規制から包括規制へと強化がすすんでいる。これらの規制強化は憲法上の論議をよんでおり、さらに国民の言論・表現及び出版の自由を侵すおそれのある「青少年有害社会環境対策基本法案」の立法化がすすめられている。

G「検閲と同様の結果をもたらすもの」(p.35)
 冒頭の「1985年に東京都世田谷区議会で、‥‥重ねる事件がおきた。」に続いて、次の文を追加する。

 その後も特定政党の批判記事を掲載した週刊誌を名指して図書館からの排除が要求がされることがあった。1999年末には、いくつかの区議会で、過激な性表現を理由に週刊誌を名指して図書館からの排除要求がされた。また2001年には、特定団体を批判した図書を所蔵していることを理由に、区立図書館の人事異動を要求した区議員もいた。

 再改訂版のあとがき(未着手)  

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●人権またはプライバシーの侵害

 宣言の採択時と異なり、プライバシーの権利が人権に含まれることに今日ではほとんど異論がないと考えられるから、この制限項目の文言「プライバシーその他の人権を侵害するもの」と読み替えられるべきである。そして「その他の人権」とは、名誉をはじめとして表現行為によって社会的不利益や(追加)精神的苦痛を余儀なくされる可能性のある人権を意味するものと解される。
 ところで、この制限項目については、いくつかの疑問点が指摘されている。ある資料が「侵害するもの」であるという判断基準はどういうものであり、その判断を誰がするのか、また、制限項目に該当する範囲が拡大解釈されることはないのか、利用の制限はどのような方法でおこなわれるのが適当か、などの諸点である。
 これらの疑問点について、これまでの事例を通じて得られた教訓や反省を踏まえて以下のような一応の解説をするが、さらに今後も広く各層の意見を集結し、なお一層の社会的合意の形成に努めるべきものである。
(a)まず「侵害するもの」であるという判断基準についてであるが、被害者の人権保護と著者の思想・表現の自由の確保とのバランス、および国民の知る自由を保障する図書館の公共的責任を考えれば、次のようになろう。
 (1)ここにいうプライバシーとは、特定の個人に関する情報で一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められ、かつ、公知のものでない情報に限定される。(注1)
 (2)問題となっている資料(以下、当該資料という。)に関して人権侵害を認めて出版の差し止め等を命じた司法判断があった場合に、図書館はそれに必ずしも拘束されることなく、図書館として独自の判断が必要である。(注2)
 (3)差別的表現は、特定の者のプライバシーその他の人権の侵害に直結するものを除き、制限項目に該当しない。(注3)
(b)その判断は誰がどのような手続きで行うのか。図書館内外の多様な意見を参考にしつつ、個々の図書館の公平で主体的な意思決定が求められる。
 (1)各図書館に資料の利用制限の可否・程度の検討、および利用制限を付した資料に関して再検討をおこなう委員会を設置しておくことが望ましい。小規模図書館においては、全館員による検討会を委員会に代えることができる。
 (2)委員会は全ての館員の意見が反映されるような組織であることを要する。
 (3)委員会または検討会は、当該資料に関して直接の利害を有する者および一般の図書館利用者の求めに応じて、意見を表明する機会を与えなければならない。
 (4)委員会は個別の資料の取扱いについて検討するのみでなく、館員に図書館の自由に関する情報と研修・研究の機会を提供することが望ましい。
(c)一般に、基本的人権のなかで優越的地位をもつ表現の自由は、制約がやむを得ない場合でも、その方法はより制限的でない方法によるべきである(Less Restlictive Alternqtiveの法理)裁判所が憲法の保障を受けないとした資料についても、図書館は被害を予防する措置として、当該司法判断の内容を告知する文書を添付するなど、利用の全面禁止より制約的でない方法を工夫することが求められる。
 参考文献:松本克美「名誉・プライバシー侵害図書の閲覧措置請求権について」早稲田法学vol.74no.3

(注1) 1979年改訂で「人権またはプライバシー」の項が設けられた際に念頭に置かれたのは、特定個人が被差別部落出身者かどうか調べる目的で作成されたいわゆる「部落地名総鑑」だった。旧身分を記載した戸籍などの行政資料や史資料も、結婚差別や就職差別のために利用され場合がある。これら資料の提供に当たっては、その文献的価値とともに利用目的に留意することが求められる。

(注2) 裁判所が人権侵害を認定し、加害者に被害の回復や予防のために命じる措置と、直接の加害者でなく国民の知る自由を保証する社会的役割をもつ図書館の利用制限の要否についての判断は別ものとして考えるべきである。
 ちなみに、『週刊フライデー』肖像権侵害事件(東京地判平元.6.23)において、当該資料の利用者への判決内容の告知(「警告」を変更)を内容とする付箋およびそれの貼付依頼文書を全国の主要図書館に対して送付することを原告が求めたのに対し、裁判所は人格権侵害による被害の存在を認めながら、「各図書館に対し前期措置(引用者注:付箋貼付の依頼)がとられたとしても、各図書館がどのような対応をとるかも不確定」で実効性にかけるとして、原告の要求を認めなかった。『新潮』1994年4月号所収の柳美里著「石に泳ぐ魚」の公表差し止めを命じた裁判の一審判決(東京地判平11.6.22)も、同様な請求を認めなかった。(追加)間接的ではあるが、司法自体が司法の立場とは異なる図書館側の独自の判断がありうることを認めているのである。

(注3)1976年11月、名古屋市の市民団体が『ピノキオ』を障害者差別の本であるとして出版社に回収を求めたことが報道され、名古屋市立図書館は全館の『ピノキオ』の閲覧・貸出を停止した。名古屋市立図書館は以後3年間にわたり、障害者団体、文学者はじめ幅広い市民の合意づくりに努め、1979年10月に提供制限を解除した。そして、批判を受けた蔵書の提供については、「明らかに人権またはプライバシーを侵害すると認められる資料を除き、資料提供をしながら市民と共に検討」するとして、次の原則を確認した。
(1)職制判断によって処理することなく、全職員によって検討する。
(2)市民の広範な意見を聞く。
(3)とりわけ人権侵害に関わる問題については、問題の当事者の意見を聞く。

※2001年10月、『クロワッサン』記事にと場労働者への差別的表現があったとして図書館の取り扱いがマスコミに取り上げられた。図書館の自由委員会は、それまでの事例検討を集約して見解を公表した。
(※全文を収録するか、巻末資料にすることを検討中)

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●インターネット情報(新規項目)

 大学や専門図書館ではもちろんのこと、公立・学校図書館でもインターネット接続、利用者への端末開放は個人の「知的自由」確保の手段である。インターネット上の情報を図書館内で提供することは、電子情報社会での情報格差を解消する手段のひとつとして位置づけられ、その導入と活用が積極的に行われるべきである。
 インターネット情報提供は図書館資料提供として考えられ、制限条件についても年齢などによって設定されるべきものではない。特に、公立図書館におけるサーバ段階でのフィルタリングの導入は、未成年者のみならずすべての人々の「知る自由」「知る権利」を阻害するものとして認識されるものである。また、学校図書館や大学図書館でのフィルター・ソフト設定については、教育の場における情報選択能力や批判判断能力といった情報リテラシー育成の機会をも阻害することになる。利用時間制限などの図書館におけるインターネット情報利用条件については、図書館資料におけるものと同じく、図書館職員集団と利用者との合意のうえ決定すべきものである。
 なお、フィルタリングとは、フィルター・ソフトの導入などによって、語句表現を設定してアクセスできないようにしたり、あらかじめ作成機関等が画像などを確認したサイトごとにブロックしたりしたものなど多様なものがある。問題は、誰がどのようにして、どのような基準で設定しているか公開されておらず不明な点が多いことである。さらに、「すみわけ」選択可能な端末ごとの設定よりも、図書館外のサーバーなどにあらかじめ設定されて包括設定されている場合が問題である。

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●子ども・若者への資料提供(新規項目)

 子どもや若者たちにも、「知る自由」である「読む自由」は保障されており、その「読む自由」を保障するためにも「読書の秘密」は守られる。「読む自由」は印刷媒体のみならずインターネットのサイトを「読む」ことや、映画や音楽といった視聴覚資料情報を「読む」ことも含む。「読む」ことは情報選択能力や情報批判・判断・活用能力といった情報リテラシー育成の基本である。特に、学校図書館は、子どもたちの「読む自由」を守るために貸出方式をはじめとして、教師や親にも子どもたちの人権を認識してもらい、「読む」ことの意義を理解してもらう努力をおこなう重要な場である。  
 「子どもの権利条約」(児童権利条約 1994年批准)にみるように、何を読むか、何を読みたいかである「読む自由」は子どもたち自身の意見表明であり、図書館はそれを保障すべきである。宣言の前文の5に述べているように、子どもや若者たちも、図書館利用に公平な権利をもっている。年齢を理由とした図書館施設・資料利用制限や、極端な「良書主義」(注1)は図書館員の自己規制につながる可能性がある。 子どもたちは、知的好奇心をもち、多様な対立する意見のある問題について、それぞれの観点にたつ資料にもとづいて、情報・資料を理解し、批判し、判断し、自己意見をもつ地域市民として、これから成長していく存在である。図書館は子どもたちの、その健やかな成長の保障をおこなうべき存在であり、阻害要因となってはならない。
(注1)極端な「良書主義」とは、(以下定義を追加予定)

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●資料提供の自由と著作権(新規項目)

 資料提供の自由については、宣言本文において3つの制限項目が掲げられているほか、その内在的制約として、著作権法の規定に則った範囲内で行うことが要件となっている。
 しかし、著作権制度においては、著作権者の所在又は個々の著作物の権利が消滅しているか否かについての確認手段というような、取引の円滑化を図るために必要不可欠な手段がほとんど整備されていないため、著作権法は、事実上「規制」と同じような働きをすることとなる。
 このような状況の下において、図書館の利用者に対する情報提供の自由を確保しようとするためには、著作権を制限することが必要不可欠となる。
このため、著作権法においては、31条において図書館等におけるコピーサービスを条件付きながら図書館等が行うことを許容し、37条において視覚障害者向けの著作物の利用を許容し、38条において非営利・無料の場合の上演、演奏、貸与等を許容しているのである。
 ただ、迅速な情報提供を実現するための図書館資料の利用(コピーのファクシミリ等による送信等)、入手困難な図書館資料の利用(絶版本に掲載された個々の論文全体の複写等)、通常の手段では図書館資料にアクセスできない者(視覚障害者、読字障害者、肢体不自由者等)に対するアクセスの保障のための手段としての利用(公共図書館等による録音図書の作成等)のような、著作権者に及ぼす経済的利益の損失の度合いもほとんどなく、また、その利用が公益に適っている利用に関しては、著作権の制限は行われていない。とくに、後者については、これらの者に対する迅速な資料提供が不可能となる点から言って、これらの者への「見えない障壁」となっている点からも問題であると思われる。
 これらの利用については、文化庁において行われている図書館等における著作物等の利用に関する検討において、図書館側の参加者から要望事項として出されており、権利者側との協議事項ともなっている。利用者に対する情報アクセス権の保障の観点からも、これらへの対応を積極的に行っていかなければならない。

いわゆる「公貸権」(新規項目

 ここ数年、出版不況を背景として、文芸著作者、出版者、書店といった書籍の製作・流通に携わっている側から、図書館が利用者に対して行っている貸出しによって出版物の売上げが減少し、経済的損失が発生しているという声が出始めている。その典型的なものが「無料貸本屋論」、「複本問題」等と言われるものである。
 そして、この問題の解決方法としては、例えば、「新刊本の貸出しを一定期間行わない」とか「1館当たりの所蔵冊数に上限を設ける」といったものが挙げられる一方で、いわゆる「公貸権」を日本に導入すべき、という声が、文芸作家の団体から上がっている。
 この「公貸権」とは、public lending rightという文言を和訳したものであるが、要するに、図書館における図書等の貸出回数や所蔵数に応じ、その図書等に掲載された著作物の著作者に金銭を給付するという制度全般を示す概念である。
 この「公貸権」をもって、「欧州先進国において導入されている制度」とよく喧伝されているが、現在13カ国において導入されているに過ぎず、また、北欧諸国では、著作者等の経済的損失を補填するためでなく、自国の文化や文芸活動を振興するために設けられたものである。また、「公貸権」を設けた趣旨も各国によって異なるため、先進国において導入されたからと言って日本で導入しなければならないということにはならない。それどころか、安易にこの制度を導入することにより、例えば資料購入予算の削減や、貸出しの抑制につながるおそれもある。
 このような弊害も考えられる以上、この「公貸権」の導入への動きに関しては、図書館界としても十分注意を払って対応しなければならないものと思われる。

●著作権侵害が裁判で確定した図書館資料の取扱い(新規項目)

 著作権侵害が裁判で確定した図書館資料について、その原告から図書館に対し、その閲覧を禁止するよう要請が来ることがある。この場合においても、資料提供の自由を利用者に保障する観点から、法的に許容される範囲において最大限の利用を保障する必要があるため、安易にその要請に応じてはならないことは当然のことである。
 著作権侵害によって作成された著作物については、著作権法第113条により、それを「情を知って頒布し、又は頒布の目的をもって所持する行為」をもって、著作権を侵害する行為とみなされることとされている。そして、この場合の「頒布」とは、「有償であるか又は無償であるかを問わず、複製物を公衆に譲渡し、又は貸与すること」をいうこととされている。
 したがって、著作権侵害によって作成された図書館資料の場合には、少なくとも、@その図書館資料が著作権侵害によって作成されていたことを知っていて、なおかつ、Aその図書館資料のコピーを提供するか、貸し出すときに限って、はじめて違法行為の疑いが生じることになる。
 すなわち、図書館において、その図書館資料が著作権侵害によって作成されていたことを知らなかったときには、このような要請に従う必要はないが、要請状に確定判決文が添付されていたときには、一応@の要件を満たすこととなり、違法行為となる可能性が生じることとなるのである(このような見解に対しては、そもそも海賊版の流通防止を目的に設けられたこの規定がこのような場合にまで適用されるのかという根本的な疑問が生じ得ることとなる)。
 仮にこのような見解を採用した場合には、Aに掲げた行為を行うことはできなくなるが、それ以外の行為、すなわち、閲覧サービスや朗読サービス等まで違法行為となる可能性は存在しない。
 したがって、仮に著作権侵害によって作成された図書館資料の場合であったとしても、その閲覧を禁止することは、利用者への資料提供の自由を保障する観点からは、行き過ぎた措置であると言わざるを得ないものと思われる。

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●第3 図書館は利用者の秘密を守る。(p.28〜)

「貸出記録の保護」(p.30)
 「日野市立図書館の…」以下を次のように変える。

 2002年8月に住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)が稼動したが、上記「基準」及び「見解」に明示したように、住民基本カードを図書館利用カードとして利用したり、住基ネットに利用者情報データベースをリンクしてはならない。また、他のICチップを利用した図書館利用カードを導入するにあたっても、利用資料の情報を蓄積するようなことがあってはならない。
 大学等において、学籍番号を利用者コードとして利用する事例が増えているが、この場合も、学内の他のデータベースとリンクしてはならない。日野市立図書館の「コンピュータ導入の原則」などにも学び、利用者のプライバシーを侵害しないよう慎重な運用が望まれる。
 個人情報保護法(行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律)や各自治体の個人情報保護条例を厳格に遵守し、必要最小限の個人データのみを扱って他にリンクしないシステムを形成するほか、運用する職員の意識を常に啓蒙しなければならない。
※注 「コンピュータ導入に伴う利用者情報の保護」(『図書館の自由に関する事例33選』p178-183)


(「啓蒙」の用語は不適切として、他の表現に変更予定)

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