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2007年5月20日
社団法人日本図書館協会図書館の自由委員会委員長 山家篤夫
船橋市西図書館の蔵書廃棄事件について(対応報告)
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2006年4月7日、船橋西図書館蔵書廃棄事件の裁判が最終決着した。図書館の自由委員会は裁判記録を閲覧調査して常務理事会に報告し、裁判で廃棄を実行したとされた職員A氏は日図協の会員であり、日図協として説明・釈明の機会を設けるよう意見を述べた。第92回全国図書館大会第7分科会「図書館の自由」(2006年10月27日)でこのことを報告した。
11月2日、A氏から日図協を退会する旨の連絡が日図協事務局に届いた。
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常務理事会はA氏の退会届けの受理を保留し、12月12日、A氏に次の趣旨の文書を送り、説明と誠意ある対応を求めた。
1)A氏が「新しい歴史教科書をつくる会」会員らの著作を、集中的に除籍・廃棄したことについて、東京地方裁判所は、船橋市が事件の発覚直後に図書館職員に行った事情聴取記録を証拠として採用し、「本件除籍等は、原告つくる会らを嫌悪していた被告が単独で行ったものと認めるのが相当」であり、「周到な準備をした上で計画的に実行された行為である」とA氏の関与の事実を認定し、この事実認定は最高裁判決と確定判決に引き継がれた。この行為は、「図書館の自由に関する宣言」の前文、第1(資料収集の自由)の1項、2項、第2(資料提供の自由)の1項、2項に反し、また、「宣言」が示す図書館の社会的責任を自覚し、職責を遂行していくための自律的規範である「図書館員の倫理綱領」第1(図書館員の基本的態度)、第4(資料に関する責任)に反する。
2)この行為は、図書館界全体の信頼を低下させ、また、図書館員の社会的地位の向上と図書館事業の進歩発展を図る日本図書館協会の活動を阻害するものである。
3)日本図書館協会図書館の自由委員会が、上記裁判が提起される前に行った面会調査において、A氏は除籍した記憶はないこと、また除籍はパソコンの操作ミスである可能性が高いことを強調した。しかし判決は「本件除籍等は、決して一時の偶発的な行為ではなく、周到な準備をした上で計画的に実行された行為であることは明らかであり、単にパソコンの操作ミスなどで誤って除籍されたものではない」と事実を認定している。
4)A氏は日図協の長期にわたる会員でありながら、総会決議文書「図書館の自由に関する宣言」と同「図書館員の倫理綱領」に反し、裁判所が違法と認定するまでに甚だしく逸脱した行為を犯した。日本図書館協会の社会的評価と信頼を低下させたものと言わざるを得ない。
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今年2月6日付けで、A氏の代理人である弁護士2名の連署で、日図協理事長あての「回答書」が書留内容証明で日図協事務局に配達された。
回答書は、A氏が廃棄を行ったという裁判所の認定を否定するとともに、回答書が公開されれば氏の権利・利益が著しく侵害されるとして、公開を拒否している。
事件の主な経過
【2001年】
- 8月10〜26日 船橋市西図書館に勤務していた司書資格を持つ職員Aは、「新しい歴史教科書をつくる会」やこれに賛同する者等の著作107冊を、他の職員に指示して手元に集め、コンピューターの蔵書リストから除籍する処理をして廃棄した。
【2002年】
- 4月12日 産経新聞において、2001年8月ころ、船橋市西図書館に収蔵されていた「つくる会」会員の著書102冊のうち68冊が廃棄処分されていた報道され、これをきっかけに本件廃棄が発覚した。
- 5月10日 職員Aは、船橋市教育委員会委員長にあてて、本件廃棄は自分がした旨の上申書を提出し、同委員会は、同月29日、職員Aに対し6か月間減給10分の1とする懲戒処分を行った。
廃棄の対象となった図書のうち103冊は、7月4日までに職員Aを含む船橋市教育委員会生涯学習部の職員5名からの寄付という形で再び船橋市西図書館に収蔵された。残り4冊については、入手困難であったため、上記5名が、同一著者の執筆した書籍を代替図書として寄付し、同図書館に収蔵された。
- 6月5日 日図協は、本件廃棄は自由宣言の思想に反するとして船橋市図書館に再発防止・信頼回復措置を求め、自由宣言の普及に尽力する旨のアピールを公表した。
- 8月13日 著者8氏と「つくる会」は、本件廃棄によって著作者としての人格的利益等を侵害されて精神的苦痛を受けたとして、船橋市に対して国家賠償法1条1項に基づき、また職員Aに対して民法715条に基づき、慰謝料の支払を求めて東京地裁に提訴した。
【2003年】
- 9月9日 東京地裁は判決で原告の請求を棄却し、原告は控訴した。
【2004年】
- 3月3日 東京高裁は判決で原告の請求を棄却し、原告は上告した。
【2005年】
- 7月14日 最高裁第一小法廷は判決で船橋市に対する原告の請求を認容し、控訴審判決を破棄、東京高裁に差し戻した。
判決要旨:公立図書館は、住民に対して思想、意見その他の種々の情報を含む図書館資料を提供してその教養を高めること等を目的とする公的な場ということができる。そこで閲覧に供された図書の著作者にとって、その思想、意見等を公衆に伝達する公的な場でもあるということができる。したがって、公立図書館の図書館職員が閲覧に供されている図書を著作者の思想や信条を理由とするなど不公正な取扱いによって廃棄することは、当該著作者が著作物によってその思想、意見等を公衆に伝達する利益を不当に損なうものといわなければならない。そして、著作者の思想の自由、表現の自由が憲法により保障された基本的人権であることにもかんがみると、公立図書館において、その著作物が閲覧に供されている著作者が有する上記利益は、法的保護に値する人格的利益であると解するのが相当であり、公立図書館の図書館職員である公務員が、図書の廃棄について、基本的な職務上の義務に反し、著作者又は著作物に対する独断的な評価や個人的な好みによって不公正な取扱いをしたときは、当該図書の著作者の上記人格的利益を侵害するものとして国家賠償法上違法となる。
- 8月4日 日図協は、「今回の判決は、原告や社会全体からの当該職員と図書館に対する厳しい批判を代弁するものです。当協会はこのような事件によって図書館への国民の期待と信頼の根底を傷つけた責任を真摯に受け止め、全国の図書館と図書館員とともに「宣言」と「倫理綱領」を自律的に実践することを改めて表明します。」との声明を公表した。
- 11月24日 東京高裁は差戻し審判決で、原告の国家賠償請求を認容し、船橋市に原告1人当たり慰謝料3000円、の支払いを命じた。12月6日、原告らは賠償金額が低額であること不服として上告した。
【2006年】
- 4月7日 最高裁は上告を棄却した。
- 8月9日 船橋市は国家賠償法第1条2項に基づき、7月26日に職員Aに賠償金の全額補填を求め、同日納付されたと発表した。
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