日本図書館協会図書館の自由委員会資料室・声明見解>加害少年推知記事の扱い(提供)について 

 加害少年推知記事の扱い(提供)について(2007年5月総会承認)

 2006年10月の常務理事会で、表記のことについて、下記「自由委の考え方(骨子)」を広く会員に知らせ、協会としての共通認識を形成するとされた。1997年の『フォーカス』の加害少年推知報道に当たっての見解(1998年の『文藝春秋』に当たっての参考意見も)は協会名で出したものであり、常務理事会も論議し関与するとされた。その後、第31期2007年度第1回総会(2007年5月25日)において承認された。


自由委の考え方(骨子)

 図書館は一般に資料・情報を提供することで図書館が処罰されたり損害賠償を命じられる場合以外は提供する。加害少年の推知報道については提供することを原則とする。「原則」と言う理由は、各図書館の自主的判断を尊重するからである。

【説明1 少年法と表現の自由の関係】

(1) 少年法61条が禁じる加害少年の推知報道について、1997年の神戸児童連続殺傷事件の「フォーカス」報道を契機に議論が深められてきた。「少年の保護」は「表現の自由」に優越するかどうか、関係法令の解釈、少年保護法制のあり方、報道倫理などが多角的に論議されてきている。諸外国の状況レポートも蓄積されてきた。

(2) 61条が倫理規定にとどまるのか、損害賠償請求権の根拠になるのか。従前、「刑事責任は生じないが、プライバシーの権利侵害として民事上の責任を負う」(竹田稔「名誉・プライバシーに関する民事責任の研究」1982)との見解に反論はなかった。
堺少年事件報道損害賠償請求事件の大阪高裁判決(2000.2.29・確定「判例時報」1710) は、61条が少年に実名報道されない権利を与えているかについて、否定的に判示した。
長良川リンチ殺人事件報道損害賠償請求事件の最高裁判決(2003.3.14「判時」1825)は本人推知報道の範囲を限定し、表現の自由への配慮を示した。

(3) 61条は報道機関に関する規制であり、出版物の流通・頒布主体を規制・処罰する法ではない。図書館の提供制限については表現の自由さらに知る自由を狭める萎縮との批判がある。

(4) 少年法22条(少年審判の非公開)に関して、日図協は『文藝春秋』1998年3月号掲載の検事調書記事の扱いについての「参考意見」で、記事に関わる法的問題は開示した者の責任に帰せられるべきで、報道を提供する側に法的規制はなく、提供制限の理由を見出せないとし、その上で3要件(頒布禁止の司法判断があり、Aそれが図書館へ提示され、B被害者からの提供制限要求がある場合のみ、一定の提供制限があり得る」)を提示した。

【説明2 図書館が提供することの意義】−図書館は司法判断とは独自に提供について判断する(宣言解説26-27)としたことの具体的理由−

(1) 図書館は、法に基づき職務として資料を収集提供し、もって知る自由(表現の自由) を保障する機関である。(宣言前文)

(2) 重大な犯罪事件は「公共の利害」であることに加え、報道を契機として多くの議論が立ち上がる社会的関心事であり、図書館は「考えるために読みたい」市民へ関連資料を積極的に提供する機関である。(宣言第1-1、2-(1)〜(4))

(3) 資料・情報はいろいろな観点や考え方で読まれるもの。図書館は資料・情報を支持や批判するものでなく、提供する機関である。(宣言第1-2後文)
(文責: 山家)

参考:徳山工業高専学生殺害事件に関連した雑誌、新聞の記事について (2006.9.13)
2015年2月6日、まえがきを更新。