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『週刊朝日』2012年10月26日号掲載記事(佐野眞一氏による「ハシシタ・奴の本性」)についての見解

図書館は、資料を収集し提供することによって国民の「知る自由(知る権利)」を実体的に保障する機関ですから、正当な理由がない限り資料の提供制限をすることはありません。このことは日本図書館協会が総会で採択し、図書館が約束した「図書館の自由に関する宣言」に示されています。

この原則を踏まえたうえで、いわゆる「部落地名総鑑」のような差別のツールなど「人権またはプライバシーを侵害すること」が客観的に明らかなものについては、提供制限することがありえます。しかし、本件記事についてはこれらに該当するものではないと私たちは考えています。

「同和地区(被差別部落)」を特定していることが今回の記事の問題点であるかのような報道も見られましたが、同和地区を示す表現があるというだけで提供を制限する理由にはなりません。

橋下氏自身が同和地区の出身であることを公言しており、『新潮45』2011年11月号等でも本件記事と同様な内容が取り上げられているなど、いわば公知の事柄であってプライバシー上の問題性は低いと言えます。また、本件記事について橋下氏により出版差止の司法上の訴えがなされたり、図書館に対して提供制限を求められているものではありません。

差別的表現を含むとして批判される資料は、差別の問題点や実態について人びとが考え論議していくための材料になるものであって、そうした資料を住民から遮断することは、かえって人びとが差別の問題について認識を深める機会を奪うことにつながります。

また、本件記事をめぐっては、公人への論評のあり方と部落問題について社会に影響力の大きいメディアの姿勢が問われ、多くの報道と論評がなされています。このような社会の関心事についての情報を提供することは図書館の大切な役割です。

以上のことを踏まえ、当該資料の扱いについては各図書館で十分に論議したうえで主体的に判断すべきものであると考えます。

2012年12月24日

日本図書館協会図書館の自由委員会 委員長 西河内靖泰