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2008 年12 月

名簿等の利用規制について

(社)日本図書館協会

 元厚生事務次官等の殺傷事件に係る職員録等の図書館における取り扱い問題について、本協会は、以下のような考え方を基本に対処している。

 理由のいかんを問わず、かかる 殺傷事件は民主主義を破壊する許しがたい行為であり、報道されるように図書館資料がその行為にかかわって使用されたとすれば、まことに遺憾なことであり、残念な事態というほかない。

 だがそのことから直ちに図書館の資料や情報の提供に問題があるかの議論が生じるのは、的外れである。図書館は資料や情報を提供することにより、人々の知る権利を保障し、自由な判断を支えることを基本的な使命とする機関であり、資料や情報がもたらす影響、好ましからざる結果を排除することに一義的な役割を負うものではない。資料や情報は、誰が、どのような目的で使用するかによって、いかようにも使われ、様々な結果をもたらすものであることは周知の事実である。図書館が収集した資料は、原則として自由な利用に委ねられるべきものである。

 被疑者が国立国会図書館において被害者の住所等を調べたというマスコミ報道があり、少なからぬ図書館で対応が迫られる状況が生じた。連鎖的な事件も予想されるとして、厚生労働省から関係者の個人情報を特定できる名簿類の閲覧に特段の配慮を求める要請も出された。緊急避難的に厚生省職員の住所録に何らかの利用規制がとられたことは、苦衷の対応として理解できないことではない。しかし、その対応が過度にわたり、常態化することはあってはならない。

 名簿類の扱いには個人情報の保護ということで微妙な側面があり、難しい判断を求められる資料であることは確かだが、名簿類の社会的有用性と、使われ方による好ましくない結果とを同列に置いて判断することは、先に述べた図書館の基本的な存在理由に照らして妥当でない。

 何らかの利用規制を行う場合には、利用者に対してそのことの理由が説明されること、規制期間の明示、解除についての検討が必要である。今回、電話帳にまで規制を広げた対応も伝えられるが、それは図書館本来の役割を放棄した過剰反応の窮みであり、速やかな是正を望みたい。