日本図書館協会図書館の自由委員会大会・セミナー等2008年兵庫大会

全国図書館大会 第94回(平成20年度)兵庫大会 第7分科会 図書館の自由

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大会案内 (『図書館雑誌』vol.102,no.6 綴じ込み)

とき:2008年9月19日(金)

ところ:神戸学院大学ポートアイランドキャンパスB棟

テーマ:「Web2.0時代」における図書館の自由

Web技術や図書館システムの高度化に伴い、新たな機能の提案がされつつある。 
これまで「残さない」としていた貸出履歴を管理面・利用者サービス面からそれぞれ実装するケースが見られ、Amazonのようなレコメンド(関連書推薦)機能、ユーザ参加型のコミュニティ形成機能などが提起されている。一方、そうした機能がもつ、個人の思想・信条の自由に関わる利用の秘密が漏れるリスクを危惧し反対する声がある。「9.11」後のアメリカで図書館の利用履歴がFBIの捜査対象になったのは遠い過去の話ではない。
急速に変化する環境の中でこれからのサービスと「利用者の秘密を守る」視点を考えるために、必要な情報を整理・共有し、様々な立場から論議する場としたい。


概要(予定)

基調報告「図書館の自由・この一年」 山家篤夫(JLA図書館の自由委員会委員長) 

事例発表(1)利用者の秘密を守る : 歴史的経緯と事例(仮)  高鍬裕樹(大阪教育大学)
事例発表(2)web2.0時代の図書館サービス(仮)岡本 真(ARG 編集長)
事例発表(3)貸出履歴の利用に関する意識について(仮)佐浦敬之(筑波大学大学院図書館情報メディア研究科)
事例発表(4)図書館システムの動向と公共図書館の現場(仮)高野一枝(NECネクサソリューションズ)

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大会への招待 (『図書館雑誌』vol.102,no.8 掲載)

第7分科会(図書館の自由)  「Web2.0時代における図書館の自由」

 本年1月の東京都練馬区立図書館での利用履歴保存問題報道を契機として、Web上で「貸出履歴」に関する様々な論議が交わされました。その中には練馬のような汚破損対策として貸出履歴保存とは別に、Amazonのようなレコメンド(関連書推薦)機能やユーザ参加型のコミュニティ形成機能への期待、またそうした機能が「利用履歴を残さない」原則のもとでは実用化されにくいことへの批判が見られました。一方そうした「Web2.0」「Library2.0」的なサービスの中の「利用履歴の提供・活用」に対して、利用情報漏洩のリスクを伴い従来の「利用履歴を残さない」「読書の秘密を守る」原則とは相容れないものだという意見もあります。
現在、こうした論議に先立つ情報の整理や現状の理解は十分なものではありません。「貸出履歴」という重要でセンシティブな問題を扱うためには、新たな技術に関する情報やサービスへのニーズ、これまでの歴史的・社会的経緯を共通に理解し土台を作ったうえで、様々な立場や価値観を交えて十分に論議していくことが必要と思われます。
そうした意味で、今回の分科会は今後の論議の土壌作りを第一の目的としています。「Web2.0・Library2.0」といわれる進化するWebや図書館システム環境の中に、読書の秘密やプライバシーをいかに位置づけるのか、今後の持続的・生産的な論議の出発点として、会場参加者を交えた活発な論議が行われることを希望しています。

□基調報告「図書館の自由・この1年」山家篤夫(JLA図書館の自由委員会委員長)
 この1年間の図書館の自由に関する事例をふりかえり、委員会の論議と対応を報告します。
 以下について報告予定。
・練馬区立図書館の貸出記録保存問題
・『安来市誌』『伯太町史』の切り取り要求 など

□事例発表1「利用記録と利用者の秘密-歴史的概観・法制度から今後の展開へ−」高鍬裕樹(大阪教育大学)
研究者および自由委員の立場から「利用者の秘密を守る」流れ、特に貸出履歴の取扱に関する歴史的経緯や考え方を中心にお話いただきます。

□事例発表2「Web2.0時代の図書館サービス」
岡本真(Academic Resource Guide 編集長)
インターネットの学術利用をテーマに情報発信を行う立場から、「Web2.0時代」の図書館サービスの可能性、特に貸出履歴利用の可能性について、解説をまじえお話いただきます。

□事例発表3「貸出履歴の利用に関する意識について」佐浦敬之(筑波大学大学院図書館情報メディア研究科)
 修士論文「利用履歴の活用に関する意識調査:新たな図書館サービスに向けて」をもとに、利用者・図書館員それぞれの意識の差異などを含めお話いただきます。

□事例発表4「図書館システムの動向と公共図書館の現場」高野一枝(NECネクサソリューションズ)
システムエンジニアとして図書館システムの開発に携わっておられた経験から、システム開発のこれまでと今後の動向、主に公共図書館現場での利用実態をお話いただきます。

□全体討議 「『Web2.0時代』の図書館の自由にむけて」 
西村一夫(松原市民松原図書館)の司会により、事例報告者と会場参加者をまじえて「Web2.0時代」における図書館の自由を考えていきます。みのりある論議になりますよう、関心をお持ちの方はぜひ広くご参加下さい。

(前川敦子:大阪教育大学附属図書館)

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大会ハイライト (『図書館雑誌』vol.102,no.12 掲載)

第7分科会(図書館の自由)   「Web2.0時代」における図書館の自由

 今年度の第7分科会(図書館の自由)は4人の異なる立場の講師から情報提供いただき、「利用履歴の活用」と「読書の秘密を守る原則」に関する情報を共有化し、これからの図書館サービスを論議する場として設定した。参加者はのべ74名(午前65名、午後54名)。

 基調報告では、山家篤夫氏(日図協図書館の自由委員会委員長)が1年間の図書館の自由に関する事例を概観した。図書館法改正、練馬区立図書館の貸出履歴保存問題、国立国会図書館の米兵裁判資料の利用禁止措置問題、堺市のボーイズラブ図書問題などが報告された。国立国会図書館に対しては立法府としての独立性が求められること、同館が内規や利用制限に関する秘密性を高めていることへの懸念が述べられた。

 事例発表では、高鍬裕樹氏(大阪教育大学)は、歴史的経緯の中で秘密を守るべき相手として想定されてきた「公権力」に対しては、現在も「利用履歴を保持しない」ことが唯一の秘密保持方法であると述べた。一方、個人情報と切り離した形でのレコメンドやオプトインによる当人への貸出履歴譲渡などは新たなサービスとして可能性を持つが、その場合も(誤解も含めて)利用情報が開示されるかもしれないという恐れが自由な言論活動への「萎縮効果」を招きかねない点を指摘。公的機関としての図書館は、利用履歴の活用を望む人へのサービス導入によって、望まない人の利用を阻害しないよう慎重な検討が必要と述べた。

 岡本真氏(Academic Resource Guide 編集長)は、利用情報を活用したレコメンドについての説明とともに、自身のこうした提案に対する図書館業界からの反応は、一部の同調・反発を除き「無反応」であると述べた。サービス向上や利便性と情報漏えいのリスクとは二律背反のトレードオフの関係にあり、問われるのは図書館・図書館員自身が何を実現したいのかというビジョン。「図書館の自由」を盾に思考停止に陥らず、我が事として考える必要性を指摘した。

 佐浦敬之氏(筑波大学大学院図書館情報メディア研究科)は、進行中の調査結果をもとに貸出履歴の利用に対する利用者の意識を報告。8割の回答者が貸出履歴の保存を容認する一方、図書館への求めとして、個人を特定されないこと、利用目的の明示が必要、公開範囲は自分のみとするものが多数などの結果が示された。

 高野一枝氏(NECネクサソリューションズ) は、図書館システム開発の動向、公共図書館現場から寄せられるさまざまな要求を紹介し、貸出履歴の活用はシステム開発の問題ではなく、図書館がどのようなポリシーで利用者情報を扱うのか、責任と覚悟をふまえて何を選択するのかの問題であると指摘した。

 全体討議では様々な意見があったが、フロアからは講師への質問が多く、提案・応答はやや少なく感じられた。講師陣から指摘された多くの課題が、自分たちの問題として十分認識されていない現状の裏返しにも思われた。今回の分科会はスタートラインであり、今後も継続した論議が必要だが、論議だけのためのものではない。図書館運営の担い手として、責任ある意思決定や説明を行うための、知識と実践力を早急に高める必要があることを強く感じた分科会であった。

(前川 敦子:大阪教育大学附属図書館)

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