日本図書館協会図書館の自由委員会大会・セミナー等2005年茨城大会

全国図書館大会 第91回(平成17年度)茨城大会 第7分科会 図書館の自由

とき:2005.10.27(木)

ところ:ホテルレイクビュー水戸「鳳凰の間」

テーマ:個人情報保護法の全面施行と図書館


大会要綱より

分科会概要報告


大会要綱より

分科会開催の趣旨

 2005年4月1日、「個人情報の保護に関する法律」が全面施行された。国の機関に適用される「行政機関個人情報保護法律」、独立行政法人や特殊法人等に適用される「独立行政法人等個人情報保護法律」も施行され、都道府県はじめ全国の自治体は個人情報保護条例の制定や見直しを進め、あるいは終えている。
 これらはどういう関係にあるのか、内容に違いはあるのか、図書館にはどう適用されるのかなど理解しにくいことは多い。また、法令条文の「個人情報」は「プライバシー情報」とは別概念と解説され、私たちがなじんできた「利用者の秘密」と法令の関係を理解するうえでややこしさを生じる。さらに「民間事業者」に適用される個人情報保護法のポイントである「顧客である個人情報」の取得・漏洩防止・保管管理の問題と、「顧客でない個人情報」を営利目的で取り扱う名簿業者の問題や、図書館が所蔵・提供する名簿等の問題とが同じレベルで報道されて、混乱を生じた。
 日本図書館協会は「図書館の自由に関する宣言」の主文第3「図書館は利用者の秘密を守る。」を1979年改訂で新設した。図書館の目的を従来の資料・利用者管理を脱し主権者・国民への資料提供へと転換する改革を始めた1960年代から、記録が残らない貸出方式の導入や入館票の廃止を進め、1965年の練馬テレビ事件、1974年東村山市図書館設置条例(利用者の秘密を守る義務を盛り込む)などのエポックを経てのことである。その法的根拠は従来、主に国家公務員法100条、地方公務員法34条に求められてきた。個人情報保護法制はより明確な法的根拠を示すものと考えられるが、「利用者の秘密を守る」ことの考え方や、個々のサービスを見直し創り出す契機としたい。
 なお、7月14日の船橋市西図書館・蔵書廃棄裁判の最高裁判決について、行政法、メディア法に造詣の深い山本順一教授に論評いただき、論議する。


◇基調報告「図書館の自由・この一年」 

  山家篤夫(日図協 図書館の自由委員会委員長)

この一年の図書館の自由に関する事例をふりかえり、委員会の論議と対応を報告する。

1 利用者のプライバシー・個人情報保護
 ・三重県立図書館13万3千人・全利用者の個人情報流出(10/17伊勢)
 ・高槻市立中央図書館、女性7人の登録申込書盗難(2/20読売)
 ・長野市立長野図書館 議論なく防犯カメラ/映像取扱い基準なし/「十分な説明必要」指摘も(信毎4/8)
 ・亡失図書報道関連で:5/12愛媛、5/30京都他多数報道
 ・同名異人判別のための生没年等のOPAC記載について/日図協目録委員会『個人情報保護と日本目録規則との関係について』2005/6/11(日図協HP)

2 ドラマの中の「図書館の自由」
 ・テレビ朝日12/8『相棒 第7話・夢を喰う女』世田谷区立図書館の司書が利用者の個人情報を刑事に伝える場面あり
  →日図協、テレビ朝日ほか各社団体に図書館のプライバシー保護に認識を求める申入れ:2/1
世田谷区職員労働組合教育分会、テレビ朝日に謝罪と訂正申入れ
 ・関西テレビ1/25『みんな昔は子どもだった』小学校の図書館の名前が残る貸出記録から物語が展開
  →学図研、「学校図書館と専門職員はプライバシーに配慮している」と善処を申し入れ3/1

3 プライバシー・名誉侵害表現
 ・金沢市立図書館、明治〜大正 罪名など受刑者名簿公開状態(4/14朝日・大阪版)
  →日図協、内閣府個人情報保護推進室に照会(図雑05.6)
 ・名簿閲覧 都道府県立図書館23館制限検討 個人情報保護に配慮(4/14朝日・大阪版)
 ・『官僚技官』(五月書房、2002)に関する図書館へ名誉毀損予防措置の申入れ
 ・『ちびくろ・さんぼ』復刊に関心 県内図書館、分かれる対応 貸出方式再び開架に(信毎4/8)

4 児童ポルノ
 ・「児童ポルノ」閲覧制限 国会図書館、摘発対象指摘受け(朝日7/17)
  →自由委員会、国会図書館訪問調査(9/2)
 ・児童ポルノの疑い120点、国会図書館が閲覧制限(読売9/6)

5 船橋市西図書館蔵書廃棄事件裁判
 ・最高裁判決 7/14
 ・日図協声明「最高裁判決にあたって」8/4(図雑05.9)
 ・女性司書、船橋市が35冊購入(産経7.21)

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◇特別講演「船橋市西図書館・蔵書廃棄裁判の最高裁判決について」

  山本順一(筑波大学図書館情報メディア研究科教授)

 本年(2005年)7月14日、最高裁第一小法廷(横尾和子裁判長)は、この国の図書館界に大きな衝撃を与える判決を下しました。インターネットをのぞくと、いろいろ勝手な議論が横行しています。この問題については、憲法21条の保障する‘表現の自由’は健在のようです。
日本図書館協会も、「船橋市西図書館蔵書廃棄事件裁判の最高裁判決にあたって(声明)」(2005.8.4)を公表しています。
 この事件では、ベテラン司書が勤務する図書館に所蔵されていた「新しい歴史教科書をつくる会」の会員たちの著書を集中的に廃棄したということが問題とされました。地裁・高裁段階の判決には、根底に図書館蔵書をどうするかは図書館側の自由裁量に属するものだとの認識がありました。今回の最高裁判決は、このような下級審の考え方を否定し、東京高裁に破棄差戻しました。今回の最高裁判決は、公共図書館と利用者の関係にとどまらず、‘情報と思想のひろば’を構成する著作者との間の緊張関係についても考えるべきことを指摘した、民主主義的な‘図書館法理’の形成に道を開く判決だと思います。いささか遅きに失する観がありますが、日本の図書館界は、外部の既成の権威に法の解釈と法理形成を委ねるのではなく、みずからの内部に関係する法の解釈と法理形成に積極的に参加できる‘権威’を育てるとともに、その立法過程への関与を確保すべき時期にあるのだろうと思います。この事件を手がかりとして、じっくり考えるプロセスの入口になればと願っています。


◇基調講演「個人情報保護法制と図書館」

  新保史生(筑波大学大学院図書館情報メディア研究科助教授)

 「個人情報を大量に扱っていると、一件づつのデータが重要であるという意識がマヒし、その結果漏洩等の危険性がでてくる。個人情報保護法は名称こそ保護法だが、保護と利用のバランスの取れた適正取扱いを求めるのがこの法律の目的であり、個人情報保護の制度は個人情報に対する常識的な理解と判断を求めるものである。」(日本電信電話ユーザ協会主催の講演-2004.6-より)。
 個人情報保護法制に図書館はどう向かい合うかをテーマとして、具体的な事例をケーススタディでの内容でお話しいただきます。
参考:「図書館と個人情報保護法」(『情報管理』2005年3月号)


◇事例報告「個人情報保護法制と大学図書館」 

  藤倉恵一(文教大学越谷図書館)

 大学図書館の中でも、特に私立大学においては民間事業者であるため、個人情報の保護については保護法の完全施行に前後して学内で取りざたされたところが多い。だが、学内の雰囲気は「学生情報の保護」「成績情報の保護」に関心が集中し、学内研修では「それでは、図書館が心がけるべきことはなにか」という疑問に対しては、一般論としての「利用者の情報を流出・漏洩しないようにする」という以上の指針はなかなか出てこなかった。
 現場の大学図書館員が気にかけているのは、大学図書館に特有の事柄に対する妥当性や対策なのである。たとえば、「督促者氏名の掲示」や「ILL(図書館間相互協力)に伴う受付館への利用者情報の伝達」などに関心が集中する。さらに、名簿の取り扱いについては報道の影響か過剰に反応し、同窓会名簿はともかく学術研究上欠かすことのできない資料までも提供制限するような事例まで出てきている。
 一方で、昨今の大学図書館は経験ある専任職員が図書館外へ異動したり退職者の補充がなされなかったりと、業務委託化が進みつつある。マニュアルの範囲にとどまらない個人情報の保護が大きな課題となろう。


◇事例報告「個人情報保護に関する新潟県内公共図書館アンケート調査の結果から」

  富岡哲也(新潟県立図書館)

 今年4月1日から全面施行された個人情報保護法に関連して、個人情報保護への関心が高まっており、図書館の現場においても対応のあり方が問われている。同法の対象は民間企業が管理している個人情報であり、図書館はまた別に、各自治体の条例等によってその取扱いを規定されている。
 これらの現状を踏まえ、個人情報保護と図書館サービスについて調査・研究を行うために、当県図書館協会(事務局:県立図書館)では6月に研究集会を開催した。
 今回は、それに際して実施したアンケートの結果を中心として、当県内の公共図書館の状況を報告する。


◇事例報告 神奈川県の個人情報保護条例に対する学校図書館の取り組み

  宮崎聡(神奈川県立金沢総合高校司書)


◇図書館の自由パネル展示「なんでも読める 自由に読める!?」

場所:茨城県立図書館 エントランスホール
期日:10月12日(水)〜11月6日(日) (休館日を除く)

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分科会概要報告

 平成17年度第91回全国図書館大会・茨城大会において、第7分科会「図書館の自由」は「個人情報保護法の全面施行と図書館」をテーマに、10月27日、ホテルレイクビュー水戸「鳳凰の間」で開催された。参加者は約100名で、例年にくらべ大学図書館関係の参加者が多かったようだ。
 概要は次のとおり。

(1)基調報告「図書館の自由、この一年−事例と取り組み」  山家篤夫(日図協 図書館の自由委員会委員長、東京都立中央図書館)

 利用者のプライバシーに関連して、三重県立図書館における利用者情報の流出、高槻市立中央図書館利用者登録情報盗難事件、長野図書館の防犯カメラ無断設置問題などを報告、目録委員会の見解「個人情報保護と日本目録規則(NCR)との関係について」にも触れた。金沢の図書館で受刑者名簿が閲覧できる状態になっていたことから、全国的に名簿の取り扱いについて混乱が見られた。住基カードの図書館カードとしての利用について、状況把握する必要がある。
 ドラマの中の図書館の自由に関連して、テレビ朝日「相棒」、関西テレビ「みんな昔は子供だった」への世田谷区、学校図書館問題研究会の取り組みが紹介された。これについては、質疑のなかで、問題となったドラマのビデオや脚本を日本図書館協会で保存しておく必要性が提起された。
 個人情報保護法制と図書館の関係については、各自治体の個人情報保護条例では図書館で公開する資料は対象外であることが紹介された。金沢の図書館で受刑者名簿が閲覧できる状態であったことを端緒として、全国的に図書館での名簿の扱いについて混乱が生じている、自主規制をあおるような報道がなされた。
 提供制限の要求については、『歯科・インプラントは悪魔のささやき』では和解条項を示しての谷口歯科からの廃棄、貸出・閲覧中止の要求がなされ、『官僚技官―霞ヶ関の隠れたパワー』では名誉毀損についての紙片貼付の要求がある。かつて絶版とされた『ちびくろさんぼ』の復刊が話題となった。
 国立国会図書館で「児童ポルノ」の閲覧の制限が始まった。これはインターネットのウェブサイト網羅収集を検討する中で出てきたものらしい。委員会として国立国会図書館に状況を聴取している。
 「アガリクス本」が虚偽誇大広告にあたるとして出版社の役員らが逮捕されたが、かつて問題とされた『こんな治療法もある』と同様に保存はしておくべきだろう。
 船橋西図書館蔵書廃棄事件の最高裁判決については資料を参照。このあと山本順一先生に詳細な検討を講演していただく。
 少年の実名顔写真掲載する『週刊新潮』の提供については、『新潮45』についての大阪高裁判決を参考に判断。高裁判決を報道する社としない社があった。
 サイバー犯罪条約を受けて「共謀罪」創設の法案が国会に提案されているが、国によるインターネットの規制強化もなされることになる。IT安心会議(インターネット上における違法・有害情報等に関する関係省庁連絡会議)ではフィルタリングソフトの普及促進についての文書を出している。

(2)講演「船橋市西図書館・蔵書廃棄裁判の最高裁判決について」  山本順一(筑波大学図書館情報メディア研究科教授) 

 高裁の判決では蔵書の廃棄についての裁量は図書館にあるとしたが、最高裁では、図書館は利用者と著者双方に情報と思想のひろば(公的な場)位置づけ、廃棄によって著者の利益が損なわれたとした。このことは市民にとっても資料の収集・廃棄について権利利益を持つと解釈される。今後、慣習ではない収集・廃棄基準が必須となってこよう。

(3)講演「個人情報保護法制と図書館」  新保史生(筑波大学大学院図書館情報メディア研究科助教授)

 個人情報保護法の趣旨は生存する個人を識別できる情報について、この法律に書かれているとおりに取り扱うよう、判断を要しないルール化を図った法であり、過剰反応をしないことが肝要である。図書館における個人情報の取り扱いについては、プライバシー保護と個人情報保護が混同しないよう、明確に分けて考える必要がある。

(4)事例報告「個人情報保護法制と大学図書館」  藤倉恵一(文教大学越谷図書館)

 私立大学は民間事業者であることから、施行時には法に照らして学生情報の保護等は議論され研修なども行なわれてきた。しかしこと大学図書館では従来から図書館の自由に関心が薄く、保護法への対応をめぐって混乱が起こっている。昨今の業務委託化の影響もあり、さらに図書館の自由の意識の高揚を求められよう。

(5)事例報告「個人情報保護に関する新潟県内公共図書館アンケート調査の結果から」  富岡哲也(新潟県立図書館)

 2005年4月に個人情報保護法が全面施行されたあと、名簿閲覧についての朝日新聞の記事から、県内の図書館に混乱が見られたため、県の図書館協会で山家篤夫氏を講師に研修会を開催した。その際のアンケート調査の結果から報告があった。

(6)事例報告「神奈川県個人保護条例に対する学校図書館の取り組み」  宮崎聡(神奈川県立金沢総合高等学校 学校司書)

 神奈川県個人情報保護条例は1990年と全国的にも早い制定で、参考になる事例がなかった。ニューアーク式からブラウン方式など履歴の残らない貸出方式に転換したが、当時はコンピュータの利用はほとんどなかった。その後パソコン、インターネットが普及し、県立高校等で個人情報漏洩が続いた。県教委が対策を講ずる必要性があり、また行政情報化、教育の情報化の中で、2005年4月には教育委員会ネットワークが稼働した。神奈川県情報セキュリティポリシーが定められ、図書館での貸出情報の重要度は第1段階に位置づけられている。

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