日本図書館協会図書館の自由委員会大会・セミナー等2004年香川大会

全国図書館大会  第90回(平成16年度) 香川大会 第9分科会 図書館の自由 

とき:2004.10.28(木)

ところ:香川県社会福祉総合センター

テーマ:「図書館の自由に関する宣言」の50年 ―その歴史的意義と今後の課題―


大会への招待 (『図書館雑誌』vol.98,no.9より)

趣旨:
 1954年5月28日、「図書館の自由に関する宣言」主文が、第7回全国図書館大会および日本図書館協会総会で採択されてから50年を迎えた。
 1970年代以降続発した図書館の自由を侵害する事件を契機に、「図書館の自由に関する調査委員会」を設置、「宣言 1979年改訂」が1979年5月30日の総会で承認された。委員会では『宣言 解説』の刊行などにより自由宣言の普及・定着を図ってきた。
 近年は「人権またはプライバシーの侵害」の項の恣意的解釈や拡大解釈により「知る自由」が阻害される事例が多く起こり、図書館の姿勢が問われている。インターネットの普及、子どもの権利条約の批准、著作権法の改正等も踏まえ、新たな事例を加えて具体的な指針とするべく『宣言解説 第2版』を2004年3月に刊行した。
 本分科会ではこれを機会に「自由宣言」の歴史的意義をとらえなおし、今後への展望を探る。また、司書教諭の配置が始まった学校図書館における図書館の自由の課題をあらためて提起する。


◇報告「学校図書館と図書館の自由」

 報告者:鈴木啓子(JLA図書館の自由委員会委員・兵庫県立西宮今津高等学校)

 近年、学校図書館でも「図書館の自由」が認識されるようになってきたが、まだまだ、学校によっては利用記録が残る貸出し方式をとっていたり、電算化しても利用記録を残しているところがある。学校図書館と「図書館の自由」をめぐる問題について、愛知県立高校の禁書問題など今までの事例を報告する。
 また、「子どもの読書活動推進法」により「図書館の自由」がなおざりにされる危惧、減免措置による2単位履修の司書教諭の配置により「図書館の自由」がどこまで遵守されるか問題点をあげる。


◇基調報告「図書館の自由・この一年」

 告者:三苫正勝(JLA図書館の自由委員会委員長)

 この1年間の図書館の自由に関する事例をふりかえり、委員会の論議と対応を報告する。
<主な事例>
2004年3月『週刊文春』が、田中真紀子氏長女のプライバシー記事で出版差し止め仮処分命令とその取り消し判決、その間の図書館での取り扱い。同年5月の小泉首相訪朝の同行取材から日本テレビ排除とその撤回。同年3月3日船橋西図書館蔵書廃棄問題に関する訴訟で、新たな公貸権主張も認められず、著作者側の控訴棄却。同年3月18日杉並区防犯カメラ防止条例可決。

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◇座談会「自由宣言50年 その歴史と評価」

 出席者:石塚栄二、酒川玲子、塩見昇、土居陽子(以上元委員)、井上靖代(現委員)

 JLA自由委員会の各時代の委員が、宣言成立と1979年改訂の経緯、節目ごとの事件がその後の図書館へどう影響を与えたかを語る。そこから現在の、そして未来の図書館のあるべき姿への展望を開いていきたい。

 なお、宣言成立50年を記念して、『図書館の自由に関する宣言の成立』(シリーズ図書館と自由1)の複刻、及び図書館年鑑の記事を集成した『年鑑に見る自由宣言50年』を刊行予定である。参加者は是非入手して大会に臨んでほしい。


◇図書館の自由パネル展示「なんでも読める 自由に読める!?」

場所:高松市図書館(高松市昭和町1-2-20 電話087-861-4501)
期日:9月1日(水)〜10月31日(日) (休館日を除く)

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大会ハイライト(『図書館雑誌』vol.99,no.1より)

第9分科会/図書館の自由「図書館の自由に関する宣言」の50年−その歴史的意義と今後の課題−前川敦子

 1954年に「図書館の自由に関する宣言」が採択されてから今年で50周年となる。本分科会では「「図書館の自由に関する宣言」の50年」をテーマに,図書館における「宣言」の歴史的意義を再確認し,未来への展望を開くことを目標とした。
 午前中は,鈴木啓子氏(兵庫県立西宮今津高等学校)による報告「学校図書館と図書館の自由」と三苫正勝氏(JLA図書館の自由委員会委員長)による基調報告「図書館の自由・この一年」,午後は座談会「自由宣言50年 その歴史と評価」を行った。
 鈴木氏の報告は1981年愛知県立高校禁書問題に始まる学校図書館と図書館の自由に関する問題を網羅的に整理・紹介し,また資料選択にかかわる具体的な対応例にもふれ,学校図書館職員の配置や学校内での位置づけが,「図書館の自由」の保障を左右する課題であることを提起する内容であった。
 三苫氏の基調報告では,この1年間の図書館の自由に関する事例をふりかえり,委員会の論議と対応が示された。特に重要な事例として3月の田中真紀子氏長女プライバシー記事による『週刊文春』販売差止仮処分問題にふれ,出版の自由があまりにも安易に制限されたことへの危惧が強く述べられた。
 午後には「自由宣言50年 その歴史と評価」と題し,石塚栄二,酒川玲子,塩見昇,土居陽子(元JLA図書館の自由に関する調査委員),井上靖代(現JLA図書館の自由委員)の各氏を迎え,公開座談会形式で宣言の成立・歴史的意義と今後の課題を探る企画がもたれた。
 54年「宣言」採択当時の状況について,「逆コース」のなかでの「図書館の中立性」論議から「図書館憲章」起草の提案,総会での論議の状況が,フロアからの発言もまじえて語られた。「抵抗する」という文言にも,逆に図書館への圧力を生むことが危惧された当時の時代状況,総会当日の各館長らの論議の熱気などが伝わるものだった。
 その後,宣言が日常の実践課題からやや離れた存在にある時期が続く。宣言を実践する組織・体制の不在が「県立山口図書館図書隠匿事件」を期に検討され,宣言の趣旨の普及・発展,図書館の自由に関する事実の調査研究を責務として1974年「図書館の自由に関する調査委員会」が設置される。79年宣言改訂が行われるころまでを中心に,それぞれの方が具体的にどうかかわったかを,社会や図書館の状況を含めうかがうことができ,興味深い内容だった。
 最近図書館の自由にかかわる問題について,慣れや安易さ,また図書館外に答えを求める場面が見られる。研修も「自由」に関するものが減っていると座談会でも触れられた。本企画はそうした傾向を危惧する意味でもたれたものでもあり,参加者が40名と少なかったのは残念だった。しかし図書館の自由は決して所与のものではなく,「まもり,ひろげる」努力がなくてはならないことを強く感じることができる,意義深い内容だった。
 なお委員会では本座談会の記録を刊行する予定である。先に刊行した『図書館の自由に関する宣言の成立』(シリーズ図書館と自由1)の覆刻と『『図書館年鑑』にみる「図書館の自由に関する宣言」50年』とあわせてぜひ活用してほしい。

(まえかわ あつこ : 大阪教育大学附属図書館)

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