日本図書館協会図書館の自由委員会大会・セミナー等2002年群馬大会

全国図書館大会 第88回(平成14年度) 群馬大会 第9分科会 図書館の自由 

とき 2002.10.24

ところ 群馬市町村会館

テーマ 国民の知る自由をめぐる状況と「自由宣言1979年」解説の改訂


大会要綱より

趣旨 日本図書館協会図書館の自由委員会では『「図書館の自由に関する宣言1979年改訂」解説』(1987年刊行)の改訂を計画しており、本分科会ではまず委員会から改訂の試案を示し、その試案に対する参加者からの意見を出していただきます。活発な議論をお願いします。
 また、「メディア規制法案」や船橋市西図書館蔵書廃棄問題等、この一年の図書館の自由に関わる事例についての報告・議論を行います。


◇情勢報告「図書館の自由に関わる事例この一年」

 報告者:山家篤夫(JLA図書館の自由委員会副委員長・東京都立日比谷図書館)

 昨年8月に起き、今年4月に明らかになった千葉県船橋市の西図書館であった蔵書の廃棄問題など、この一年の図書館の自由に関わる事例について、概観します。


◇講演「メディア規制をめぐる状況」

 講師:北村肇(毎日新聞記者・元『サンデー毎日』編集長)

 いわゆる「メディア規制三法案」(個人情報保護法、青少年有害社会環境対策基本法、人権擁護法)を中心に、メディア規制をめぐる現状を、元『サンデー毎日』編集長の北村肇氏にお話ししていただきます、メディア規制の問題は、知る自由(知る権利)を保障する機関である図書館にとっても重大な関心事です。これらの法案の問題点や、とりまく状況と図書館サービスへの影響について考えていきます。

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◇報告「「自由宣言」解説改訂委員会試案について」

 報告:三苫正勝(JLA図書館の自由委員会委員長・夙川短期大学)

 「図書館の自由に関する宣言」1979年改訂が採択されてから20余年。同年、宣言改訂の趣旨を普及することを目的とした解説を刊行し、87年には解説の改訂版『「図書館の自由に関する宣言1979年改訂」解説』を刊行しています。今回は2度目の改訂です。
 この間、図書館のおかれている状況は大きく変わり、新たな指針を求められてきた事例もいくつかありました。また、宣言文を本来の趣旨をはずれ拡大解釈する危惧すべき傾向も見られ、このまま放置できない状況も生じています。
 本来ならば、宣言そのものを改訂すべきとの意見もありますが、当面は現状に対処するための必要最小限の改訂を実施することを計画しました。
 委員会としての改訂にあたっての留意点は以下のようなものです。

 (1) 「人権またはプライバシーの侵害」のより厳密な定義
 (2) 1987年以降の図書館をめぐる問題
  ・『フォーカス』問題等、神戸自動連続殺傷事件以降の一連の少年法がらみの報道問題
  ・住基ネットやICカードなどの利用問題
  ・船越市西図書館蔵書廃棄問題
 (3) 軋轢を生じやすい著作権法と「図書館の自由」の問題
 (4)インターネットの普及によるフィルターソフトの問題
 (5)子どもと「図書館の自由」をめぐる問題
 (6)日本図書館協会および委員会、海外の図書館団体が発表した見解などの収録
 (7)その他、関係法令等

 分科会を契機に、参加者の皆さんからの積極的な意見をいただき、改訂作業に反映させていきたく思います。

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※改訂関係資料はこちら


大会ハイライト (『図書館雑誌』vol.97,no.1 より)

第9分科会/図書館の自由 国民の知る自由をめぐる状況と「自由宣言1979年」解説の改訂 (西河内靖泰)

 毎年のことだが,図書館大会の直前に図書館の自由に関わる重要な事件が起きるような気がしてならない。今年もその例にもれず問題になる事例(『石に泳ぐ魚』問題)が起きている。今年の図書館界は,図書館の自由に関わる,大きな二つの事件で『自由宣言』に掲げられた「図書館の自由」の意味があらためて問われたように思う。
 さて,今年の当分科会は,これらの事例に関しての報告から幕をあけた。最初に山家篤夫JLA図書館の自由委員会副委員長(東地区委員長)が図書館の自由をめぐるこの一年の主要事例の報告を行った。例年だと網羅的に報告するのだが今年は次の3点に絞って報告された。 [1] 千葉県船橋市西図書館蔵書廃棄事件, [2] 芥川賞作家柳美里氏の小説『石に泳ぐ魚』の出版差し止め最高裁判決と図書館の閲覧提供制限問題, [3] 東京都東大和市立図書館の雑誌(『新潮45』)閲覧禁止措置取消訴訟についてである。
 船橋市西図書館の事件に関しては,『図書館雑誌』で,JLA図書館の自由委員会から関係者のヒヤリングをもとにした報告がされているが,事件の詳細については,いまだ判明してない部分もあり,委員会より,詳細が明らかにされるものとの期待が参加者には高かった。だが,山家報告では,事件の関係者からのヒヤリングには一定の限界があって,一応の経過はわかるものの,除籍・廃棄の動機など,明らかになっていないことも多く,その内容は『図書館雑誌』掲載の報告の範囲内を越えなかった。そのため,参加者から委員会に対し,厳しい意見も出された。
 『石に泳ぐ魚』は,最高裁での判決後直ちに国立国会図書館が閲覧制限措置をとり,ほかの図書館に波及していることから,JLAは同図書館に対して,閲覧を制限する必要はないとの見地から質問書を出したことが報告された。
 また,東大和市立図書館の訴訟に関して,訴訟にいたる経緯と一審・二審判決の問題点について説明があり,本事例が公共図書館の憲法上の位置付けを考えるうえで重要な事例であることが指摘された。
 午前中の後半は,北村肇・毎日新聞社長室委員(元新聞労連委員長・元『サンデー毎日』編集長)による「『メディア規制法』の背景」についての講演が行われた。メディア規制の背景や流れ,法案が成立してしまうとどんな影響が社会に出てくるのか,メディア規制の動きに対して,新聞社をはじめとするメディア側の取り組みなど,ジャーナリスト・新聞人ならではの事例を紹介されながらわかりやすく説明していただいた。会場からの質問に丁寧に長く自分の考えを述べられるなど,時間に制約があるのが残念なほどの充実した内容であった。
 午後は,『自由宣言』解説の改定について,自由委員会試案を各担当者が紹介し,参加者からの意見を求めた。『自由宣言』解説の改訂の必要性や「人権またはプライバシーを侵害する」資料の閲覧制限に関する問題等を中心に,活発な意見交換が行われた。
 当日の参加者は,40名弱。報告された事例はマスコミ等で大きく報道され,図書館の自由に関する社会的関心が高まっている状況で,近年の自由の分科会では最も少ない参加者であった。マスコミからの取材と参加が最も多い大会であったにもかかわらず,分科会参加者が少なかったことが図書館自身の関心の度合いを反映しているとするのなら,寒々としたものを感じている。

(にしごうち やすひろ : 荒川区立南千住図書館)

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