日本図書館協会図書館の自由委員会大会・セミナー等2001年岐阜大会

全国図書館大会 第87回(平成13年度) 岐阜大会 第9分科会 図書館の自由

とき 2001.10.25

ところ 岐阜県美術館ハイビジョンホール

テーマ 情報格差と図書館における知的自由


大会への招待 (『図書館雑誌』vol.95,no.9より)

 本分科会では、分科会テーマを「情報格差と図書館における知的自由」とし、下記のような報告者から、午前中には報告と概論としての課題提起を、午後には各論という形で未成年と情報提供についての課題を報告してもらい、そののち分科会全体で討論をおこないたいと考えている。技術的な面も含めて人々への情報提供という側面から図書館における知的自由について、フロアからの積極的な討論を求めたい。

○情勢報告“「図書館の自由」をめぐる最近の動き”

三苫正勝(JLA図書館の自由に関する調査委員会委員長、夙川学院短期大学)

 最近の図書館や出版界などをめぐる図書館と知的自由に関わる事例などを報告していく。

○概論“IT時代の図書館と知的自由−情報格差と著作権を中心に−“

福永正三(大阪市立大学)

 概して、IT機器の図書館への導入は、求める情報へのアクセスの容易性という点で、図書館利用者にプラスに作用した。ネットワーク環境への整備は、図書館間の格差解消に一定の役割を果たした面もある。しかし、その反面、IT機器の導入に遅れをとっている図書館の利用者に、あるいはIT機器を使いこなせない利用者に、このIT機器という便利なツールの出現が新たな情報格差を生み出す原因ともなった。すべての国民に情報への格差のないアクセス権を謳いあげる「宣言」の精神にてらして、われわれはこの事態にどう対処すべきなのだろうか。また、従来から著作権保護の要請が図書館資料の自由な利用を妨げてきたことは否定できないところであるが、IT機器はデジタル資料を中心に複製技術を飛躍的に進展せしめ、これが著作権処理をめぐる新たな緊張関係を図書館に求めることになった。著作権者の保護と折り合いをつけながら、IT時代にふさわしい解決への方策を、模索していきたい。

○各論(1)“インターネットの有害情報対策と図書館”

中村百合子(東京大学大学院教育学研究科博士課程)

 図書館への利用者用インターネット端末導入がはじまろうとしている。インターネットには光の部分と影の部分があることはよく指摘されており,影の部分についての対応策もしばしば議論されてきている。本発表では,さまざまなインターネットの影の部分が,図書館への利用者端末の導入にあたって具体的にどのような形で現われてくるのかを考えてみるとともに,それへの図書館としての対策にはいかなるオプションがあるかを議論したい。特に,影の部分の中でも,インターネット上の有害情報とそれへの図書館としての対策の議論が重要となる。インターネット上の有害情報については,社会においてまたは教育的な場において,なんらかの形での規制が必要との意見がある。法が制定されるなどして,社会または図書館がその規制を受け入れることにはどのような意味があるのか,考えてみたい。これまでの有害図書の規制と表現の自由に関する議論以上に複雑とも考えられるインターネットの規制の議論---図書館員が専門職として熟慮し,判断すべきはどの点なのかを指摘したいと思う。

○各論(2)“青少年有害情報規制と図書館の自由”

   山重壮一(目黒区立大橋図書館)

 都道府県の有害図書条例の実情、憲法との関係、さらに、国の青少年対策と有害情報規制の中央立法化との関係を考える。また、有害情報規制の根拠とされていることの検討と、青少年と図書館の自由の問題について整理する。

井上靖代(京都外国語大学)

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大会要綱より

基調報告◎図書館の自由をめぐる最近の動き

三苫 正勝(JLA図書館の自由に関する調査委員会、夙川学院短期大学)

 差別表現など問題になりそうな内容を含む資料に対する取り扱いについて、職制段階で逸早く提供制限を決めてしまう自己規制的対応が顕著である。判断を国民に委ねる民主主義の基本が無視されている事例は、大図書館に多い。

【図書館の自由関係日録抄2000.10-2001.7】

2000年:――

10月6日 『クロワッサン』10月10日号(9月26日発売)に差別表現が見られるという理由で、発行元マガジンハウスが自主的に書店からの回収を決定、取次店を通じて返品を要請。日図協の助言で図書館への回収依頼はなかったにもかかわらず10月6日に新聞報道されると各地の図書館で閲覧制限が行われた。横浜市立図書館では管理職のみの判断で該当ページを取り外した。
  それに対して「行き過ぎ」の批判が起こり、2001年6月10日、「市民の知る自由と図書館の資料提供を守る交流集会」に発展。

10月27日 富山県立近代美術館コラージュ訴訟の上告審で最高裁判決。美術館の収蔵作品の特別閲覧の不許可は権利侵害と判断した一審の判決を覆した二審判決を是認し、上告棄却。

11月9日 最高裁は、福島次郎『三島由紀夫―剣と寒紅』に三島由紀夫の未公開の手紙を掲載したのは著作権侵害とする二審までの判決を支持して上告棄却。

11月28日 少年法改正。刑事罰対象年齢が16歳以上から14歳以上に引き下げられた。

12月6日 堺通り魔殺人事件(1998年1月)で『新潮45』誌上に実名と顔写真を掲載された男性(当時19歳)が新潮社側を名誉毀損で訴えた訴訟で、男性側は最高裁への上告を取り下げ、「凶悪事件では実名報道も正当」とする大阪高裁判決が確定。一審の大阪地裁は男性側の主張を認めたが、二審で逆転判決、男性側が上告していた。

2001年:――

1月10日 『ハリー・ポッターと秘密の部屋』 (静山社)に口唇口蓋裂者に対する差別的表現があると、口唇・口蓋裂友の会から図書館宛に、該当箇所削除前の版(初版65刷まで)の提供には「配慮を」との依頼。

2月 自由委員会「差別表現と批判された蔵書の提供について(コメント)」を『図書館雑誌』2月号に発表。

2月15日 東京高裁、柳美里「石に泳ぐ魚」 の出版、公表を禁止した一審判決を支持。

3月 参院自民党の青少年問題検討小委員会が前年4月に策定した「青少年社会環境対策基本法案」が国会に提出されようとしていることから、日図協も含め各界から批判声明が出された。

3月 「個人情報保護法案」が国会に上程されたが継続審議に。

3月23日 東京都中央区議会予算特別委員会で、公明党区議が同区立図書館に創価学会を批判した図書が何冊もあることを非難し、職員の人事異動を要求。これについて5月29日、共産党区議団は同区教育委員会に対し、「図書館の自由と言論出版の自由を守ることについての申入れ」を行った。公明党東京都本部も、質問を行った同党区議に対し「極めて不適切な発言であった」と「口頭で厳重注意」。

3月30日 東京都青少年健全育成条例改正。これまで不健全指定の対象が「性」と「暴力」に限定されていたのを「自殺や犯罪を誘発するおそれの強い図書類」まで含めた。

4月 政府は、2003年を目処に官民共用のICカードを発行する方針。2001年秋から全国21地域で実証実験を実施する。「住民基本台帳システム」に基づくものである。

4月2日 情報公開法施行。

5月 東京都杉並区は、改正住民基本台帳法(1999年8月制定)に基づく個人情報をコンピュータで一元管理する「住民基本台帳ネットワークシステム」の予算化を見送った。国は、2002年8月までにシステムの構築を予定している。

5月 小中学校などの教育現場でフィルタリングソフトの利用が増えている。文部科学省の調査によると、2000年3月末までに全国の公立小中学校・高校の99%にパソコンが配備され、その6割がインターネットに接続されていた。

5月25日 法相の諮問機関「人権擁護推進審議会」が答申、人権侵害を受けた被害者救済のための人権委員会(仮称)をつくるよう提言。日本新聞協会は6月6日、「取材・報道活動が制約される懸念」を表明。

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大会要綱より

基調講演「IT時代の図書館と知的自由−情報格差と著作権を中心に」

福永正三氏(大阪市立大学)

1 情報格差と「自由に関する宣言」

1.1 憲法と「宣言」
1.2 IT時代の図書館と「宣言」
1.3 「公平な権利」と情報格差
「宣言」は憲法で保障された情報に関わる基本的人権を図書館において具現化するものである。例えば、「宣言」がイメージする一つの図書館像は、行政への住民参加を実質化する 知る自由を、図書館の資料と施設を提供することによって地域住民に日常的レベルで保障する社会的装置としての図書館である。
その図書館がいま、IT時代を迎えて新たな対応を強いられている。上のイメージとの関係で一例をあげれえば、公立図書館の設置するインターネット端末を通じて簡便に政治・行政情報を入手できる地域の住民とそうでない地域の住民との不平等は、地方分権化の流れのなかの自治体の自己決定・自己責任の名のもとに、だまって受け入れるべき事態なのだろうか。
ここでは、「宣言」が情報格差とどう向き合うことを図書館人に求めているかを概観する。

2 図書館における情報格差

2.1 情報格差の多様性
2.2 IT環境と情報格差
2.3 「望ましい基準」と情報格差
一口に情報「格差」といっても、中身は多様である。まず、図書館間の格差に分類できる。さらに前者は、図書館の設置主体の財政能力からくる容量格差と、個々の図書館における資料の運用格差に分けられよう。ここでは主として、IT環境への取り組みのあり方とオンライン系情報の有料性の問題、および情報源へのアクセス規制の問題を中心に概観する。
図書館利用者間の格差については、主として情報の収集・活用能力における格差に焦点を当てて、これに対する図書館のコミットの仕様を考える。
いずれもIT時代になって新たに生じてきた問題と従来から引きずってきた問題を含んでいるが、さまざまに絡み合う各様の格差の整理を通じて問題点を洗い出し、「望ましい基準」(文部科学省告示第132号)も視野に入れながら、各論の検討につなぎたいと思う。

3 図書館と著作権

3.1 現著作権法制と図書館資料
3.2 メディア環境の進展と著作権
3.3 図書館の役割の変容と著作権
図書館資料の自由で十全的な利用は、その複製化による利用をも含むはずである。好むと好まざるとに拘わらず、電子資料はますます図書館に溢れ、必然的にその複製を要求する。この点における図書館利用者と著作権者との利害の調整はもっぱら著作権法31条に委ねられているが、ファックスと公衆送信権との関わり一つを取り上げてみても、図書館をとり巻くメディア環境の進展のなかで、現法制が必ずしも十分な調整機能を果たしているとは言い難い。
そこで、電子資料の利用に関する平成15年の著作権法改正の見通しや「2005年の図書館像」(地域電子図書館構想検討協力者会議)も射程に入れて、図書館政策の一環としての図書館資料と著作権の問題を考え、その課題を探ってみたいと思う。
基底において、図書館の公共性とは何なのかが問われているのである。

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大会要綱より

各論1 「インターネットの有害情報対策と図書館」

中村百合子氏(東京大学院教育学研究科博士課程)

図書館において利用者用のインターネット端末の導入がはじまっている。インターネットには光の部分と影の部分があり、それらが具体的にどのような形で現れてくるのかを、利用者端末の導入にあたって、私たちはいったん立ち止まってよく考えてみる必要があるだろう。
インターネットの光の部分としては、インターネット上の情報の量と多彩さとそれらへのアクセスの容易さ、そして反対にインターネット上での情報発信の容易さ、などが挙げられよう。これらの特徴を備えて、インターネットはすでに情報源、情報メディアとして最も重要なもののひとつとなっている。そして、公立図書館が利用者にインターネットへのアクセスの保証であり、「持てる者」と「持たざる者」の間の情報格差の是正をも意味する。

他方でインターネットの影の部分としては、違法情報・有害情報の氾濫、様々なネット犯罪やトラブル、ゼキュリティーやプライバシー保護の困難さ、インターネット中毒や社会的不適応、知的所有権(著作権)の侵害、情報格差の拡大の可能性など、これもまた多岐にわたる。
そうしたインターネットの特徴が明らかになる中で、図書館への利用者用のインターネット端末の導入が先行した米国では、違法情報・有害情報への対策が非常に大きな論議となっている。インターネット上の有害情報については、そもそもの定義すら曖昧だというのに、市民の規制に対する要求は少なくないと考えられているらしい。しかし、法が制定されるなどして、社会とまた図書館がその規制を受け入れることにはどのような意味があるのか、今いちどよく考えてみる必要があるだろう。

特に公立図書館において有害情報対策としてフィルター・ソフトを導入することの是非は、川崎良孝氏が指摘するように“図書館思想、司書職の専門的業務、図書館での日常業務に、そして歴史的に形成された公立図書館の存在目的に直接関わってくる”もので、そうした非常に根本的なところに立ち戻って考える必要がある、と同時に、現場では最終的にフィルター・ソフトを導入するかしないか、どちらかひとつの決断を求められるため、ただ思索と議論を重ねているだけでは不充分である。

これに対して、アメリカ図書館協会(ALA)はすでに、図書館の権利宣言(Library Bill of Rights)の反検閲の精神はインターネット上の情報の提供にあたっても変わることなく適用されるという解釈を明確にして、図書館のフィルタリングの導入に反対している。ただし他方で現場では、フィルター・ソフトを導入する図書館が増加しているというNCLS(National Commission on Library Information Science)による継続調査の結果もある。2000年度の調査では、25%の回答館がなんらかの形でフィルター・ソフトを導入していた。

そして、フィルタリング導入に関する公立図書館の選択については、米国では訴訟が続いており、”a lose-lose situation” つまり導入と非導入どちらを選んでも図書館の負け(敗訴)、などと言われるほど難しい立場に図書館は追い込まれている。起こされた訴訟の中でこれまでに結審に至ったものが2津ある。1977年ヴァージニア州メインストリームでの”Mainstream Loundoun et.al. v. Board of Trustees of the Loundoun County Library, et.al.”と1988年にカリフォルニア州のリバーモアでの”Katheleen R. v. City of Livermore, et. al.”である。両裁判では結局、フィルター・ソフトの導入に必要性は指示されなかった。ALAの強硬な反対の態度の表明もあり、フィルター・ソフトの導入は一見社会的にも否定される方向である。しかし、それでも、2000年12月15日には、1998年頃から繰り返し上程されてきた「公共・学校図書館がインターネットに接続するにあたり政府の資金援助を受ける場合には、端末へのフィルター導入を義務付ける」といった主旨の法案が、CIPA(Children’s Internet Protection Act)の一部に盛り込まれて法制化するなど、フィルター・ソフトを肯定する人々の動きも続いている。

以上のように、フィルター・ソフトによる情報提供の制限の問題は、有害図書と言論の自由に関するこれまでの議論以上に複雑かと思われる。しかし今後、図書館において利用者へのインターネット端末の提供が進む中で、情報の専門家である図書館員の判断が問われていくだろう。それに対して私たちは積極的に発言し、議論してゆかねばならない。

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大会要綱より

各論2 青少年有害情報規制と「図書館の自由」」

山重壮一氏(目黒区立大橋図書館)

1 都道府県の有害図書条例の実情

特徴として、基準が不明確で、網羅性はなく、特定の出版社や特定の雑誌が繰り返して指定される傾向などがあげられる。

2 青少年有害情報規制と憲法との関係

違憲という判断には必ずしもなっていない。

3 国の青少年対策と有害情報規制の中央立法化

3.1 脱「青少年対策」
青少年「対策」から青少年「政策」への転換が図られている。青少年「教育」との関係に注意するひつようがある。教育の独立性、教育行政の独立性の観点から問題があるともいえる。一方で、行政サービスの対象(一定の権利を行使し、一定の義務を担う住民)として青少年を認識する必要はある。
3.2 「教育改革」をめぐる論議
「人格の完成」を目指す教育から、「日本人」の育成を目指す教育へという主張が展開されている。教育基本法の改定が図られている。
3.3 情報法制の編成
住民基本台帳法、個人情報保護法等、情報をめぐる法制が編成されつつある。

4 有害情報規制の根拠を問う

4.1 「有害」とはなにか
「何にとって」有害であるかは必ずしも明確ではない。「規制」そのものに意味が見出されている。
4.2 特定の情報と犯罪行為との相関関係
犯罪行為に及ぶ可能性については、科学的な検定は不十分である。基本的には関係は逆である。つまり、「いわゆる有害情報に接しているから、犯罪行為に及ぶことが多い」のではなく、「犯罪行為に及ぶ人間は、いわゆる有害情報に接していることが多い」という関係である。
「犯罪行為」の原因は、「情報」そのものではなく、「情報処理」にある。具体的には、情報処理の基体となっている心、あるいは、脳の問題である。

5 青少年と「図書館の自由」(青少年の教育に必要なもの)

5.1 本当の意味での人権教育を
ポルノ、暴力、自殺といった問題は人権に関わる問題で、人権尊重の教育が正しく推進されることが必要であって、情報規制によっては何も解決しない。
5.2 メディア・リテラシーのトレーニング
情報を批判的に分析し、主体的な総合判断ができれば、特定の情報の影響下に置かれることはない。そういう訓練を教育の場で行うことが必要である。
5.3 論理的思考力と情操教育の重要性
「心の教育」が文部(科学)省の教育政策となった。これが、いわゆる「道徳」教育推進の根拠にもたってきている。しかし、心というものが外に存在するものではなく内に存在するもので、論理的思考力と情操の基体となっていることを確認する必要がある。

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大会ハイライト  『図書館雑誌』vol.96,no.1より

図書館の自由 情報格差と図書館における知的自由 (井上靖代)

 近年増加傾向にあった本分科会は,今年度参加者数64名と減少した。しかし,図書館と知的自由をめぐる事例は減少したわけでもなく,さらに新しい側面から課題をなげかけてきている。今年度は図書館における電子情報提供について,図書館の自由の観点から,著作権や「有害情報」,未成年への情報提供などの課題が報告された。
 まず,JLA図書館の自由に関する調査委員会全国委員長の三苫正勝氏から,この1年間の図書館や社会における知的自由をめぐる事例について報告した。前年度大会直前におこった事例のひとつとして,雑誌『クロワッサン』提供制限について,図書館でどのような対応がなされたのかという調査と,全国各地の図書館での動きをもとにしてその一連の流れを説明した。管理職が,図書館職員全員参加による十分な討議を経ずに,提供規制決定・実施をおこなっている事例が少なからずみられたことに対する憂慮を表明した。また,全国的にもその対応がマスコミからも注目された事例として『ハリー・ポッターと秘密の部屋』の事例や,数年来法律的な判断を求められつづけてきている富山県立近代美術館コラージュ訴訟の結審の事例なども報告した。
 つぎに,元大阪市立大学法学部の福永正三氏から「IT時代の図書館と知的自由−情報格差と著作権を中心に−」と題して,電子情報提供と「知る自由」との関連や著作権を法律面から分析するなど,図書館員とは異なる視点から報告した。
 午後には二人の方から報告発表があった。
 まず,東京大学大学院生の中村百合子氏からは「インターネットの有害情報対策と図書館」と題して報告発表があった。フィルタリングの定義や問題点など,その導入に関して,アメリカでの事例をひきながら整理報告した。すべてそのまま受け入れるか,まったく拒否するのかという対応よりも,その開発・導入に図書館や図書館員が参加していくことも必要ではないかとの問題提起をした。さらに,インターネット上での有害情報に関して,情報リテラシー教育の必要性や図書館のおすすめウェブ・サイトのリンク集であるホワイト・リストの作成,図書館でのインターネットやフィルタリング導入への図書館員参画,法制化や政策化への注意喚起など具体的な対策を提案した。
 つぎに,目黒区立大橋図書館員であり,ヤングアダルト・サービス研究会代表でもある山重壮一氏が「青少年有害情報規制と「図書館の自由」」と題して,東京都など全国各地での青少年保護育成条例変更の動きや国の政策などの状況について説明したあと,青少年が成熟していく過程として,メディア・リテラシー訓練や人権教育,それに情操教育の必要性を主張した。
 そのあとの質疑応答では,電子情報も当然のことながら,印刷資料の図書館側の選択・収集・提供について,個人図書館利用者にどのような対応をするのかという基本にたちもどった議論が行われた。この日の報告発表とは別に地元の図書館利用者から,予約制度に関連して個人の購入要求に図書館はどう対応するのかについて発言があって,それに議論が流れ焦点がまとまらず,消化不足となった観が否めないのは残念であった。

(いのうえ やすよ : 京都外語大学)

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