図書館の本の「分類」と“NDC”
図書館の本は、歴史関係の本、文学関係の本など、分野によってまとめられています。具体的には「総記」「哲学」「歴史」「社会科学」「自然科学」「技術」「産業」「芸術」「言語」「文学」の10に分けてそれぞれがまとめられています。このことを「分類する」といいます。そして、分類した順番に並べるため、それらの分野に0から9の数字を振って、本もその順番に並べています。数字は「0総記」「1哲学」「2歴史」「3社会科学」「4自然科学」「5技術」「6産業」「7芸術」「8言語」「9文学」となります。
これが本を分類するために図書館で使われている「NDC」の初めの一歩です。NDCとは『日本十進分類法(Nippon Decimal Classification)』の英語名の頭文字をとったもので、正式名称よりもこの略称のほうがよく知られているようです。
NDCは、もり・きよし(森清 1906-1990)が考案し、1929年に刊行され、100年にわたって日本の図書館で使われている分類法です。現在も時代の変化に合わせて、日本図書館協会分類委員会がアップデートしています。現在(2025年)は、新訂10版(2014年12月刊行)が最新版です(図1)。

(図1)NDCの写真(『日本十進分類法 新訂10版』もり・きよし原編,日本図書館協会分類委員会改訂.日本図書館協会.2014.12.ISBN 978-4-8204-1413-1)
NDCの基本
NDCはその正式名称のとおり「十進法」を使った分類法です。「十進法」とは、私たちがいつも使っている数の表し方で、0から9までの10の数字を基本とし、10倍しながら桁数を増やしていく方法です。つまり、0~9のそれぞれを1~9と0に区分すると、00~99の100に区分できます。さらにそれぞれをまた1~9と0に区分すると、000~999の1000に区分できます。
NDCでは、最初に紹介した0~9の10の分野が1桁めにあたります。そして、例えば「4自然科学」を0~9に区分した40~49のうちの48が「動物学」、さらに48を0~9に区分した480~489のうちの489が「哺乳類」というふうに、数字の桁数を増やすにつれて、分野をどんどん細かく分類していきます(図2)。
なお、0には全体にかかわる総合的な本を分類することになっています。そのため、「総記」と呼ばれています。
最初の1桁を第1次区分といいますが、類目という言い方もありますので、1桁の区分を1類、2類、のように表すこともあります(参考:『日本十進分類法 新訂10版』第1次区分表(類目表)を参照)。
さらに2桁を第2次区分(綱目)、3桁を第3次区分(要目)といいます。これ以降は、それぞれの分野の必要に応じて、さらに細かく区分することもあります。このときは左から3桁めと4桁めの間に「.(ピリオド)」を入れて見やすくしています。例えば、さきほど見た「489哺乳類」には「489.56イヌ科」という分類があります(図2)。これらの数字を分類記号といいます。
図書館では、この分類記号を本のラベルに表示して、いろいろな分野の本を探せるようにしています。一般の図書館の蔵書は多いので、3桁以上の分類記号が使われている場合が多いようです。

(図2)NDCの区分のしくみ:「4自然科学」の例
どのように分類する?
本を分類するときは、まず最初にその本がどの分野に属するかで分類します。そのため、同じ犬について書かれた本でも、動物学としての犬は”489.56哺乳類のイヌ科”、ペットとしての犬は”645.6家畜.畜産動物.愛玩動物の犬”のように分かれてしまうことがあります(図3)。

(図3)「分野」で分類するとは?「犬」の場合
図3のように、”犬の生態”に関する本は「動物学」、”犬の飼育”に関する本は「畜産業」の「愛玩動物」に分類されるということですね。同じ犬なのに別々に置かれていると不便なこともありますが、動物としての哺乳類は哺乳類としてまとめ、家庭におけるペットはペットとしてまとめようという考えです。
また、NDCの本には、ことばで引けるようになっている「相関索引」があり、例えば「犬(いぬ)」を見ると、分野ごとの分類記号が探せるようになっています。
なお、それぞれの図書館では、蔵書の規模によって何桁まで分類記号を使用するかを決めたり、その図書館の利用者が利用しやすいように、一般的な分類記号とは異なる記号を選択したりする場合もあります。
上級編:分類記号の組立て
ここでは一歩進んで、NDCならではの分類記号の工夫について、少し詳しく紹介します。
<地域を表す「地理区分」>
「日本の経済事情」や「日本の映画」など、分類記号に国や地域を表す記号を含めたいときがあります。このようなときのために分類表の本体とは別に「地理区分」の表が用意されていて、この表にある記号を付加しています。例えば経済史・事情を表す記号は”332”で、日本を表す地理区分の記号は”1”ですので、つなげた”332.1”は日本の経済史・事情となります。同様に、各国の映画の記号が”778.2”ですので、”778.21”は日本の映画、のようになります。
「地理区分」の記号の例 -1 日本
-2 アジア.東洋
-3 ヨーロッパ.西洋
-33 イギリス.英国
-34 ドイツ.中欧
-35 フランス
日本の経済は? 332(経済史・事情.経済体制)+ 1(「地理区分」の日本)→332.1
フランスの経済は? 332(同上) + 35(「地理区分」のフランス) → 332.35
同じように、
日本映画史は? 778.2(映画史.各国の映画) + 1 → 778.21
フランス映画史は? 778.2(同上) + 35 → 778.235
<「言語区分」と「8言語」・「9文学」>
世界には数多くの言語があります。そのため、NDCには「地理区分」と同じように、各言語を表すための「言語区分」が用意されています。「言語区分」では、”1″が日本語、”2″が中国語というふうに各言語に数字を割り当てています。
「言語区分」の記号の例 -1 日本語
-2 中国語
-3 英語
-4 ドイツ語
-5 フランス語
「8言語」は、例えば”81″は日本語、”82″は中国語、”83″は英語というふうに区分されており、「言語区分」と共通の区分になっています。
「9文学」は、まず「言語区分」を使って文学を区分します。例えば”91″は日本文学、”92″は中国文学、”93″は英米文学となります。
さらに、文学には小説、詩、エッセイなどいろいろな形式があります。そのため、「文学共通区分」という表が用意されています。
「文学共通区分」の記号の例 -1 詩歌
-2 戯曲
-3 小説.物語
-4 評論.エッセイ.随筆
例えば日本語の小説は、”91″の日本文学に「文学共通区分」の”3″を加え、”913″になります。同様に、日本語のエッセイは”914″です。
それではフランス語で書かれた小説は、どのような記号になるでしょうか?
9(文学)+5(「言語区分」のフランス語)+3(「文学共通区分」の小説)で、”953″になります。
このように分類記号の組立てを説明すると、かえってややこしく思われるかもしれません。しかし、例えば「地理区分」の”1″は日本、「言語区分」の”1″は日本語に使用することで、なるべく「日本」という共通性をもたせ、覚えやすいようにしているのもNDCならではの特徴になります。ほかにも共通する記号を使っているところがありますので、探してみてください。
◎そこでクイズです。 次の本の分類記号は?
(ヒント:上級編にある記号を使ってね。)
(1) 「アジア経済はどこに向かうか」
(2) 「ドイツ映画の誕生」
(3) 「中国の名詩」
さいごに
ふだん書架や検索機などの目録検索システムで請求記号を見て本を探すときには、このような分類法の構造を知らなくても困りませんが、分類記号の成り立ちがわかると、本を探すときに何か新しい発見があるのではないでしょうか。少しでも興味を持っていただけたら、お近くの図書館でぜひ『日本十進分類法』を手に取って、本の分類の世界をのぞいていただきたいと思います。
参考:
◇『日本十進分類法 新訂10版』第1次区分表(類目表)
第1次区分表(類目表)
0 総 記 General works
(情報学,図書館,図書,百科事典,一般論文集,逐次刊行物,団体,ジャーナリズム,叢書)
1 哲 学 Philosophy
(哲学,心理学,倫理学,宗教)
2 歴 史 History
(歴史,伝記,地理)
3 社会科学 Social sciences
(政治,法律,経済,統計,社会,教育,風俗習慣,国防)
4 自然科学 Natural sciences
(数学,理学,医学)
5 技 術 Technology
(工学,工業,家政学)
6 産 業 Industry
(農林水産業,商業,運輸,通信)
7 芸 術 The arts
(美術,音楽,演劇,スポーツ,諸芸,娯楽)
8 言 語 Language
9 文 学 Literature
◇もっとよく知るために
『NDCの手引き:「日本十進分類法」新訂10版入門』小林康隆編著,日本図書館協会分類委員会監修.(JLA図書館実践シリーズ.32).日本図書館協会.2017.4.ISBN978-4-8204-1700-2.
分類委員会ホームページ URL
◎クイズ回答
(1)332.2 332(経済史・事情) + 2(「地理区分」のアジア)
(2)778.234 778.2(映画史.各国の映画) + 34(「地理区分」のドイツ)
(3)921 9(文学)+2(「言語区分」の中国語)+1(「文学共通区分」の詩歌)
利用している図書館の目録検索システムで検索してみてください。もしも図書館がこれらの本を所蔵していたら、目録データにどんなNDCがついているか確認しましょう。
(日本図書館協会分類委員会)