●「図書館の自由」ってなんだろう?
みなさんの中に、「なんでそんなくだらない本を読んでいるの?」「そんな本は読んではいけません」「こっちの本を読みなさい」というようなことを誰かに言われた経験がある人はいないでしょうか? その時、あなたはどのような気持ちになりましたか? 悲しい気持ちになったのではないでしょうか?
ある本を否定することは、その本を読みたいと思った誰かの人格を否定することにつながります。どのような本を読むかは、それぞれの自由であり、お互いに尊重し合うことが大切です。
「人生は選択の連続」と言われますが、私たちがよりよい選択を行うためには、たくさんの情報が必要となります。進学、就職・転職・起業などの場面もそうですし、エネルギーや環境、安全保障などの社会課題の解決策を考える上でもそうです。
インターネット上には一見たくさんの情報があるように思えますが、「フィルターバブル」(図1)が生じることで、人々の視野がどんどん狭まっていき、社会の分断が進むことも最近では指摘されています。

図1 「フィルターバブル」のイメージ
(個人の興味や行動履歴に基づいてSNSのタイムラインの情報など自動的に選別される情報環境を言う。SNSにおいて、自分と似た興味関心をもつユーザーをフォローし合った結果、自分と似た意見にしか触れることができず、視野狭窄に陥ってしまう状況を、閉じた小部屋で音が反響する物理現象にたとえて「エコーチェンバー現象」とも言う。)
図書館は、みなさんのビジネスや学習、家事・育児・介護などの毎日のくらしに役立つ情報を手に入れたり、息抜きや楽しみのために読書をしたりする場所です。
図書館での読書を通して、誰もが自由に、かつ、多様な情報に触れることは、ひとり一人が個人として尊重され、平和で、安全で、公正な世の中をつくっていくための基本的な条件とも言えるでしょう。
図書館を通して、誰もが必要な情報(資料)を自由に手に入れるためには、図書館も同じように「自由」でなければなりません。
具体的には、
- ❶ 利用者のニーズや地域の特性などをふまえてさまざまな本(資料)を集め、
- ❷ その利用に制限をかけることなく、
- ❸ すべての読書を秘密(プライバシー)として保護し、
- ❹ 本(資料)を取り上げようとする圧力には屈しない、
ことが求められます。そして、
❺ 社会的な身分や年齢、性別やセクシュアリティ、人種・国籍、信教、経済状況などを理由に利用者が差別されないようにする、
ことも大切です。
このような毎日の図書館の自由な活動を支えるはたらきを、わたしたちは「図書館の自由」と呼んでいます。
●「図書館の自由に関する宣言」は「図書館の憲法」?
みなさんは、身近にある図書館で、こうしたポスター類(図2)を見かけたことはないでしょうか?


図2 自由宣言のポスター・ポストカード
※「利用・購入方法はこちら<リンク①>(卓上に飾ることができるポストカードも販売中)
このポスターには、日本図書館協会(JLA)がいまから約70年前にまとめた「図書館の自由に関する宣言」(以下、自由宣言)が掲載されています(1954年採択・1979年改訂)。「図書館の自由」の原則を広く伝えるためにつくられたもので、公共図書館だけでなく、学校図書館、大学図書館など、すべての図書館に基本的に妥当するものです。
自由宣言が新聞などで一般向けに紹介される際、「図書館の憲法ともいうべき自由宣言」「図書館の憲法である自由宣言」といった説明がなされることあがります。
わたしたちは、この「図書館の憲法」という言葉には2つの意味があると考えています。「憲法と同じくらい図書館界にとって大切なルール」という比喩(たとえ)を連想する人が多いと思いますが、ここではもう一つの意味に注目してみたいと思います。
次の図は、図書館にかかわる法律の体系を示したもです。

図3 図書館に関わる法体系
日本では、日本国憲法を最高法規として、そこで書ききれなかったことを基本法として定め、そこでも十分に書ききれなかったことをさらに個別法として展開します。図書館関係の法律には「図書館法」(公共図書館に関する法律)、「学校図書館法」(小中高校の図書館に関する法律)などがありますが、図3のようにかなり下の方にある法律なので、本来は流れ込んでいるはずの憲法のエッセンスが、それぞれの個別法の条文だけを読んでいても分かりづらい、という性質をもっています。
自由宣言には、その前文で「図書館は、基本的人権のひとつとして知る自由をもつ国民に、資料と施設を提供することをもっとも重要な任務とする」と掲げられています。日本国憲法は基本的人権を定めたルールブックですから、自由宣言が「基本的人権」「知る自由」という言葉をつかって、日本国憲法との深い結びつきを示していることがわかるでしょう。「図書館の憲法」という言葉が示すもう一つの意味は、「自由宣言」と「憲法」が「深く結びついている」ということになります。
自由宣言とは日本国憲法が図書館に求めるさまざまな役割を「見える化」したものであり、その役割を社会に広くアピールして、実現に努めることを広く約束したものと捉えることができるでしょう。自由宣言は、日本国憲法が目指す社会の実現において図書館が果たすべき役割を示したものであり、まさしく図書館にとっての「憲法」なのです。

図4 自由宣言の役割・日本国憲法との関わり
●図書館は本当に「自由」なの? 皆さんの身近な図書館は「自由」ですか?
図書館をめぐる環境は時代とともに変化し、利用者の増加を背景として、図書館と社会との関わりもどんどん強くなってきています。そうした中で、「図書館の自由」の原則を実現しようとすることが、かえって、一部の人たちから反感を買ってしまうこともあります。
これまでにも、『ちびくろサンボ』という絵本や、『完全自殺マニュアル』、『はだしのゲン』、『絶歌:神戸連続児童殺傷事件』などの本に対して、“差別や犯罪を助長する”、“子どもたちに悪影響”、“図書館で買わないでほしい・廃棄してほしい”、といった声が起こったことがありました。
こうした声は、ある特定の本を読ませたくないだけでなく、“この本を読ませたい”、“他の本よりも優先的に買ってほしい”という形で図書館に届く場合もあります。2022年に起こった、文部科学省からの北朝鮮拉致問題に関する図書充実の協力要請という出来事はその一例と言えるでしょう。
他にも、図書館では、警察から、“犯行現場に図書館の本が落ちていた。加害者のものかもしれないので、貸出をした利用者を教えてほしい”というような照会の電話がかかってくることもあります。コロナ禍では、感染拡大防止を求める声もあり、体温測定カメラで顔写真を撮影したり、入口で身分証を確認したり、氏名と来館時間を記入してもらうなど、来館記録を残すような動きも広がりました。学校図書館では、読書指導に熱心なクラス担任の先生から、“子どもたちがどんな本を読んでいるか、どのくらい本を読んでいるか知りたい”、という要望を受けることも少なくありません。同じような質問は保護者から公共図書館に寄せられることもあります。

図5 「図書館の自由」をめぐる問題を報じるさまざまな新聞記事の見出し
すべての基本的人権がそうであるように、図書館が保障する「知る自由」という権利もまた、わたしたちの「不断の努力」によってしか、それを保持することはできません(日本国憲法12条)。自由宣言には、ポスターに記されている「主文」とともに、「全文」(副文)<リンク②>がつくられていますが、この副文の後半でも、「われわれは、図書館の自由を守る努力を不断に続ける」と記されています。
「図書館の自由」を実現していくためには、利用者のみなさん、市民のみなさんがお互いの読書を尊重し合いながら、その価値を実感できるような図書館活動が継続的に行われていくことがなによりも大切です。
もし身近な図書館を利用する中で、「不自由」に感じることがあれば、小さなことでも、ぜひ図書館にその声を届けてください。難しい問題もありますが、「図書館の自由」という考え方を中心に、図書館のあり方をみんなで一緒に考えて続けていきましょう。
●「図書館の自由委員会」って?
わたしたち図書館の自由委員会は、「図書館の自由」を守り、広げていくことを目指して、1975年に発足し(※注2)、図書館の自由をめぐるさまざまな問題に対して、各地の図書館からの相談対応<リンク③>や意見交換を行ったり、委員会サイトで見解<リンク④>を示すなど、図書館のあり方を考えるための活動を続けています。
この他にも、ニューズレターの発行<リンク⑤>、事例をもとにした報告書<リンク⑥>や解説書<リンク⑦>の出版、各地の研修会等への講師派遣、パネル展<リンク⑧>やポスター展<リンク⑨>など、様々な活動を行っています。
委員会の活動内容についてはこちらのページ<リンク⑩>で日々発信していますので、「図書館の自由」にご関心のある方はぜひご覧ください。


図6 自由委員会の普及活動(出版物、ニューズレター)
※注2 「図書館の自由に関する調査委員会」としてスタートし、2000年に「図書館の自由委員会」と名称が変更された。
<リンク>
- ①「図書館の自由に関する宣言 1979年改訂」掲示について
- ②図書館の自由に関する宣言
- ③図書館の自由委員会(ページ下部に問い合わせ先あり)
- ④図書館の自由に関連した声明・見解・要望
- ⑤「図書館の自由」ニューズレター もくじ
- ⑥これまでの刊行物(事例集へのタグ)
- ⑦これまでの刊行物(解説書へのタグ)
- ⑧図書館の自由展示パネル利用のご案内
- ⑨図書館総合展パネル(新規)
- ⑩委員会サイトのトップ
書いた人:日本図書館協図書館の自由委員会
2025年5月●日公開