図書館における「防犯カメラ」の設置・運用について

  近年、公共施設や民間施設に、防犯カメラ(監視カメラ)を設置するケースが増えてきています。
 図書館は利用者個人の秘匿性の高い個人情報や思想信条に類する情報を様々な形で扱うサービス機関です。図書館での自由な読書を保障するためには、来館の事実(利用事実)も含めて、図書館の利用に関わる様々な情報をプライバシーとして適切に保護することが求められます。カメラを設置・運用するあたっては、こうした「図書館の自由」の観点からみて、設置目的の妥当性(根拠・目的)、設置方法・映像記録の管理方法などの運用基準を慎重に検討する必要があります。
 本委員会として、各図書館において設置・運用を検討する上で留意していただきたい点を以下の通りまとめました。

1.防犯カメラ設置に対する本委員会の見解について
 防犯カメラの設置においては、一般的には、その名称にあるように、資料の盗難、故意による毀損といった犯罪行為に対する「防犯」上の効果が期待されています。しかしながら、仮に設置後に事件が起きていないとしてもそれがカメラの設置の効果とは断言できませんし、カメラの設置によって犯罪行為が抑止されるという科学的な根拠が示されているわけではないという指摘もあります。
 近年、多くの自治体で、「カスタマーハラスメント防止条例」が制定されています。この条例には防犯カメラの設置が含まれることもあり、自治体が管理する公共施設である図書館において、利用者との対面業務が行われるカウンター付近へのカメラの設置が当然視される状況もあります。もちろん、図書館の自由の担い手である職員が特定利用者からのつきまとい・暴言などの被害にあわないようにすることは、その実現において非常に重要なことです。しかしながら、資料の盗難や毀損と同様、カメラを設置することでこれらの問題行動が抑止される保証はありません。また、防犯カメラには、問題行動を証拠映像として保全できる機能が期待されることもありますが、証拠の保全は複数人による目視やメモ等でも十分可能な上、あくまでも事後的な対応となりますので、根本的に職員の安全を保障しうる手段にはなりえません。
 カメラを設置するだけで終わってしまえば、図書館側が「労働者の安全管理義務」に違反したことになります。利用者の問題行動に対しては、対応を常に複数人で行う、管理職が注意を与える、といった対策がより有効であるという考え方もあります。
 防犯カメラの設置はあくまでも危機管理対策の一部に過ぎず、過度な期待は禁物です。まずは目の前の問題を解決する上で、防犯カメラの設置しか手段がないのか、利用者のプライバシーを侵害しないより抑制的な方法はないのか、といった点を慎重に検討するようにしましょう。

2.防犯カメラ設置の検討方法について
 図書館の危機管理は全ての職員が日常的に直面する課題であり、一部の職員が担うものではありません。防犯カメラの設置においては、管理職による職制判断によるのではなく、職員全員でその検討が行われなければなりません。
 また、図書館内部の判断だけでカメラ設置の是非を検討することは好ましくありません。パブリックコメントを通して利用者の意見を募ったり、図書館協議会や個人情報保護審議会などでの議論を通して、外部有識者に意見を求めることも大切です。

3.防犯カメラの設置方法について
 慎重な検討の上、防犯カメラを設置することが決定した場合には、設置方法についても慎重な議論を行いましょう。
 例えば、資料の汚破損や盗難といった問題が頻発する場合に、証拠保全のために撮影を行う必要があるとしても、いわゆる「死角」に設置すれば十分であり、カウンター周辺など、複数人の職員の目が常に行き届くような場所に設置する必要はありません。カメラ映像を記録する場合、特にトラブル事案が発生していなければ、情報の流出や目的外利用を防ぐためにも、できるだけ早く消去するようにしましょう。
 また、カメラを設置する場合は、図書館の自由の観点から、資料と利用者が一緒に映らない(利用者が資料を手にとっている姿は映さない)ように配慮し、カウンター周辺や書架・閲覧席にはカメラは向けず、どうしてもカメラを向ける理由があるとしても、手元の資料がクリアに映らない程度まで解像度を下げるといった配慮を行い、特定の利用者と資料ができるだけ結びつかない形での記録がなされるべきでしょう。
 日本国内の図書館では、施設管理権(施設の治安を保持する権限)の下で、館内撮影を全面禁止している図書館が多いと思われます。利用者への録音や撮影は禁止するのに、なぜ図書館側の動画撮影は認められるのか、という疑問や不満を利用者に抱かれないように、カメラを設置していること利用者に対し、わかりやすく周知することも大切です。
 防犯カメラの中には、過去に迷惑行為を犯した人物を登録し、来館時に自動検知できる「顔認識ソフト」を備えた機種も最近はリリースされています。しかしながら、そうした図書館による監視行為は、教育施設が本来果たすべき役割を放棄するものであり、「防犯」の目的を超えていると当委員会では考えています。同カメラの設置の注意点については、個人情報保護委員会ウエブサイト(https://www.ppc.go.jp/news/camera_related/)に詳しく書かれています。
 図書館が防犯カメラを設置できる範囲は敷地内に限定されなければなりません。ブックポスト周辺、自転車置き場、駐車場の出入り口など館外を撮影する場合、通行人は図書館利用者ではなく、撮影の合意(オプトアウトを含めて)を取ることは不可能であるため、公道などが映り込まないように注意しましょう。

4.防犯カメラ運用規則の策定について
 図書館は、思想・信条等の機微な情報を扱う機関ですから、防犯カメラを図書館に設置する際には、自治体全体で運用されている防犯カメラ運用規則に依拠するのではなく、映像記録の保有期間をできるだけ短くする、設置場所・設置数、撮影範囲は目的達成のために必要最低限にとどめるなど、利用者の人権保護により配慮した、図書館独自の運用規則(基準)を定めることが大切です。
 運用規則には、以下のような点を明記することで、利用者への説明責任を果たすようにしましょう。

  1. ① 管理責任体制 (管理責任者・操作担当者、秘密保持のための職員研修体制など)
  2. ② 具体的な設置目的 (特定利用者の行動追跡・監視、読書傾向・思想信条に類する情報の収集を目的としないこと、目的外利用を禁止することなど)
  3. ③ 合目的的な設置方法 (設置場所・台数・解像度・撮影範囲など)
  4. ④ 肖像権・プライバシーへの配慮 (本人同意を得るためのカメラ作動中の表示義務)
  5. ⑤ 記録(録画)の有無 (録画する場合は、保有期間、保管方法、保管場所、視聴するための手続き、持ち出し・外部提供・共同利用の禁止、保有期間終了後の確実な消去方法など)
  6. ⑥ 外部提供に関する対応 (捜査機関等の外部から求められた場合の対応など)
  7. ⑦ 本人からの開示要求・苦情への対応方法
  8. ⑧ 定期的な効果の検証 (年度ごとの報告義務、外部有識者によるチェック、設置上の効果が期待できない場合は撤去するなど)

<参考資料>

  • 日本図書館協会図書館の自由委員会編 『図書館の自由に関する宣言 1979年改訂 解説』 第3版 日本図書館協会 2022 p.50 (2.29 利用事実)
  • 鈴木章夫 「図書館と防犯カメラ-図書館にふさわしい運用基準を」(こらむ図書館の自由)『図書館雑誌』Vol.109,No.1(2015.1) https://www.jla.or.jp/committees/jiyu-iinkai/column-jiyu/column-jiyu2013-2016/#201501 
  • 鑓水三千男 『図書館と法』 (JLA図書館実践シリーズ12) 改訂版増補 日本図書館協会2021 p.335-337 (Q13 図書館に監視カメラを設置して問題はないでしょうか?)
  • 図書館政策企画委員会『こんなときどうするの?』改訂版編集チーム編 『みんなで考える こんなときどうするの? : 図書館における危機安全管理マニュアル作成の手引き』 日本図書館協会 2014 p.23ほか

(2025年7月14日公表)