日本図書館協会図書館の自由委員会図書館の自由に関する宣言>1954年(原案)

「図書館の自由に関する宣言」(案)

1954年全国図書館大会に提出された図書館憲章委員会の原案


基本的人権の一つとして,「知る自由」をもつ民衆に,資料と施設を提供することは,図書館のもつとも重要な任務である。

(一)近代民主主義社会の原則は,民衆の一人一人が自由な立場で自主的に考え行うことによつて,その社会の動向と進歩とが決定されることである。
 従つて,社会の担い手としての民衆は,「知る自由」を基本的人権の一つとして保有している。
 それと共に,その権利を正しく行使する社会的責任をもつている。

(二)図書館は,民衆のこの権利と責任に奉仕するものであり,その収集した資料と整備した施設とを,民衆の利用に提供することを根本の任務としているところの,近代民主主義社会にとつてその構造上不可欠の機関である。

図書館のこのような任務を果すため,我々図書館人は次のことを確認し実践する。

1 図書館は資料収集の自由を有する。

(一)図書館は民衆の「知る自由」に奉仕する機関であるから,民衆のいろいろの求めに応じられるように出来るかぎり広く偏らずに資料を収集しておく必要がある。
 ここに資料に関する図書館の中立性の原則が存する。
 この中立性の故に,図書館は資料収集の自由を有する。我々図書館人は,この自由を守るため,障害になると思われる次のことに注意する必要がある。

(二)我々の個人的な関心と興味から偏った資料の収集をしてはならない。

(三)同時に,外部からの圧迫によつて,或る種の資料を多く集めたり,反対に除外したりしてはならない。

(四)又,著者の個人的条件例えば思想的,党派的,宗教的立場の故に,その著書に対して好悪の判断をすべきではない。

(五)このように図書館の資料収集は,自由公平な立場でなされなければならないが,図書館の予算には限度があるので事実上無制限に資料の収集をすることは出来ず,そこに我々による選択が加えられることになる。
 然しこのように我々によつて選択収集された資料に対して,我々図書館人はいちいち個人的に思想や党派や宗教上の保証をするものではなく,それは資料として価値があると認めたが故に,自由で客観的立場で選択収集したものである。
 資料としての価値の判定については,我々は自ら誤らないように努力すると共に,広く社会からの援助を期待する。

2 図書館は資料提供の自由を有する。

(一)中立の立場で自由に収集された資料は,原則として,何ら制限することなく自由に民衆の利用に提供されるべきである。

(二)勿論資料の性質によつては,例えば貴重な資料とか公開をはばかる種類のものとかは,必ずしも無制限の自由に放任さるべきでないことは当然である。
 然し思想その他の正当でない理由によつて,或る種の資料を特別扱いにし,書架より撤去したり破棄したりすることは望ましいことではない。

(三)外部からこのような圧迫があつた時,我々は民衆の支持の下に,資料提供の自由の原則を守るべきである。

(四)又,図書館の施設,例えば集会室,講堂等についても,原則として,すべての個人や団体に対して,平等公平に開放され自由な利用に提供さるべきである。

3 図書館はすべての不当な検閲に反対する。

(一)一般的に言つて,色々の種類のマス・コムニケーションの資料を検閲し発禁する等の弾圧手段は,或る政策を強行する早道のように思われるが,このような措置は,民主主義社会になくてはならない弾力性,即ち民衆の批判力をなくするものであり,民主主義の原則に違反する。

(二)このような資料の一方的立場による制限は,資料の収集と提供の自由を本質として有する図書館の中立性の前提をおびやかすものであるが故に反対する。

(三)それと同時に,図書館に収集された資料も不当に検閲されて提供の制限を受けるべきではない。

(四)更に図書館の一般的利用状況については別であるが,利用者個人の読書傾向など個人的自由を侵すような調査の要求は,法律上正当な手続きによる場合の外は拒否する。

図書館の自由が侵される時,我々は団結して,関係諸方面との協力の下に抵抗する。

(一)我々が図書館の自由を主張するのは,民衆の知る自由の権利を擁護するためであつて,我々自身の自由の権利のためではない。
 図書館の自由こそ民主主義のシンボルである。この認識の下に,我々は図書館の自由が侵される時,それが日本のどの地点で起ろうとも,そこで戦つている仲間に向つて全図書館界の総力を結集して援助しうるように,組織を形成する必要がある。

(二)それと共に,図書館の自由が侵される時は,独り図書館のみでなく,広く社会そのものの自由が侵される時であつて,社会を不安にし意見の発表をいじけさせ,一方交通のマス・コムニケーションによって民衆に盲従を強いることになる。
 自由に放任しておくと好ましくない結果が生ずるおそれがあると考える人もあるようだが,たしかに自由の途は迂遠にして時に危険を伴うこともあろう。
 然し一方的立場による弾圧によつて,社会が不自由になり弾力性を失うことの方がより危険である。よつて我々は図書館の自由が侵される時,広く教育・出版・ジャーナリズム・映画・ラジオ・テレビ・著者その他のマス・コムニケーションの関係各方面と密接に連絡提携し協力して抵抗する。

(三)然し何よりも我々の味方は民衆である。民衆の支持と協力なくして我々の抵抗は無力である。
 そして民衆の支持と協力は,我々が日常活動に於いて民衆に直結し,民衆に役立つ生きた図書館奉仕を実行することによつて,獲得することが出来るのであるから,我々はこの点をよく認識し努力する。


(注)1954年5月28日,主文のみが採択された。主文のうち字句が修正されたのは結語の最終部分であり,「関係諸方面…」以下が「あくまで自由を守る。」と改められた。