2025図書館総合展「市民と図書館の未来プロジェクト」フォーラム報告

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第27回(2025年度)図書館総合展「市民と図書館の未来プロジェクト」フォーラム報告

 公益社団法人日本図書館協会は,「市民と図書館の未来プロジェクト」(以下,本プロジェクトとする)を2025年度に立ち上げた。その背景には,『市民の図書館』(日本図書館協会,1970)の発刊から四半世紀を経た現在,時代状況にあった公共図書館政策論が求められていることにある。主査は嶋田学(京都橘大学)である。本プロジェクトの趣旨や活動内容などの詳細については,同協会のWebページをご参照いただきたい。

 7月下旬に開催された本プロジェクト第1回ミーティングの後,おおむね月1回のペースで『市民の図書館』への問題意識や課題に関して議論を重ねてきた。これらの議論を踏まえながら,本プロジェクトの趣旨を広報すること,政策提言のための意見交換をすること,そして何よりも多くの図書館関係者による議論を広げていくことを目的に,第27回(2025年度)図書館総合展において「市民と図書館の未来プロジェクト」フォーラム(以下,フォーラムとする)を開催した。

フォーラムの導入
  • 日時:2025年10月24日(金)10:30~12:00
  • 会場:図書館総合展(パシフィコ横浜)第1会場(F201)

 当日は午前中の開催にも関わらず175名もの参加者に来場いただき,会場はほぼ満席となった。公共図書館のみならず,学校図書館,大学図書館,専門図書館の関係者をはじめ,図書館友の会の皆様,企業関係者,大学教員,学生など幅広い参加者が集まったことから,本プロジェクトへの関心の高さがうかがえる。

 フォーラムでは,はじめに岡部幸祐(日本図書館協会)による主催者挨拶ののち,本プロジェクト主査の嶋田よりメンバーの紹介と趣旨説明が行われた。嶋田は『市民の図書館』における基本的な理解を踏まえながら,「市民と図書館」という視座と『市民の図書館』によるコレクション構築の考え方のほか,これまでに議論を重ねた本プロジェクトメンバー9名による「論点提起」も提示した。加えて,参加者への事前アンケートに基づき,「本プロジェクトへの期待や取り組んでほしいこと」,「あなたにとって市民と図書館はどのような関係であってほしいか?」について一部を紹介した。

グループワーク

 続いて,本プロジェクトメンバー・是住久美子(田原市図書館)の進行によるグループワークへと移った。参加者が座っている周囲3-4人前後でミニグループをつくり,アイスブレイクののち,本プロジェクトにおいて検討すべき論点に対する意見交換へと進んだ。会場内が最も賑やかになった時間帯であった。このミニグループにおける活発な意見交換ののち,各グループで出された意見を会場全体でシェアする時間へと移り,多くの参加者から挙手が相次いだ。会場内でシェアいただいた主な内容は次の通りである(一部を抜粋・要約)。

  • 都道府県立図書館と市区町村立図書館との関係性について
  • 博物館関係者,市民,企業など,幅広いセクターの関係者との議論について
  • 出版文化や読者を育むという視点からのコレクション構築,電子書籍の導入について
  • 町村の図書館設置率の低さ,読書バリアフリーについて
  • 潜在的利用者をどのように掘り起こしていくのか,利用者懇談会など市民との対話の場をどのようにつくるのか
  • 地域のなかで関係人口をいかに増やしていくのか
  • 「市民」とは何か,「市民」概念の問い直しについて
フロアとの意見交換

こうした内容を会場内でシェアした後,最後に本プロジェクトへの質疑応答へと進んだ。参加者から挙手が相次ぎ,終了時刻の12時ギリギリまで進められた。会場内でご意見をいただいた主な内容は次の通りである(一部を抜粋・要約)。

  • 図書館のなかの議論に留まることなく,生涯学習施設や文化施設なども含め,幅広い分野の関係者の意見を聞くことも必要ではないか
  • 学校図書館や子どもたちに近い図書館関係者の意見も聞く必要がある
  • 本プロジェクトの論点をどのように設定するのか。広い領域ではなく,むしろ何かテーマを絞る必要があるのではないか
  • 図書館友の会をはじめとする市民の意見を聞くなど,市民目線で対話をしていくことも必要ではないか
  • 首都圏のような大都市ではなく,地方都市の市や,地方の町村に暮らす住民の姿は射程に入っているのか
  • サービスの対象ではない「市民」の定義・イメージの再考と,多様な団体や機関との連携も視野に入れる可能性について

これら本フォーラムにおける意見は,会場前方のホワイトボードにて,本プロジェクトメンバーによって可視化しながら進められた。

フォーラム終了後

 フォーラム終了後に寄せていただいたアンケートには,「皆さんの熱量の高さに驚いた」,「立場を超えて、相互理解を促しながら、対話することの大切さにつき、参加者の気づきがあり、それを共有することの意義を感じた」など,本フォーラム開催への好意的な意見が寄せられたほか,「必ず早く提言をまとめてほしい」,「図書館の未来の指針のひとつとなるものを形づくるプロジェクトとなりますことを期待します」など,本プロジェクトへの期待も多数寄せられた。その一方で,子どもたちにとって近い存在である学校図書館との連携に対する指摘のほか,市民の目線で図書館のあり方を考えるべきであること,理想を語ることも大事だが現実から乖離しないことも重要であることなど,本プロジェクトに対する要望も多数寄せていただいた。

 今回のフォーラムは,本プロジェクトについて広くオープンに議論する初めての「場」であった。受付,進行,撮影,マイクランナーなど,すべて主査の嶋田をはじめとする本プロジェクトメンバーの手づくりによる開催であったが,本プロジェクトに対する期待と熱い思いのあるすべての参加者による後押しをいただいた。本プロジェクトメンバー一同,フォーラムに参加されたすべての皆様へ感謝申し上げる。

市民と図書館の未来プロジェクトロゴマーク

(文責)市民と図書館の未来プロジェクト
  石川敬史 (十文字学園女子大学)