日本図書館協会図書館の自由委員会大会・セミナー等2010年奈良大会

平成22年度 第96回 国民読書年・図書館法60周年 全国図書館大会 奈良大会 第7分科会 図書館の自由



大会案内

 (『図書館雑誌』vol.104,no.6 綴じ込み)

とき:2010年9月17日(金)

ところ:奈良県立大学 301号室

テーマ:図書館の自由から見つめる図書館と社会

 図書館の自由に関する宣言は、図書館が市民の知る自由、読む権利を保障することを宣言するものです。しかし、図書館資料へのさまざまなクレームに対抗し、きちんと資料を提供する力となり得ているでしょうか。本分科会では最近2年間の関連事例を概観するとともに、利用者からの特定ジャンル資料への排除要求、著者・出版者による自主回収への図書館の対応などをめぐって報告及び討論することにより、自由宣言の普及と深化を追求します。
 新自由主義による金融危機と厳しい雇用情勢のなか、社会の閉塞感は高まる一方ですが、自立した市民による民主的な社会の実現に、図書館の果たす役割はますます重要になっていることを確認していきたいと思います。


大会への招待

 (『図書館雑誌』vol.104,no.8 掲載)

第7分科会(図書館の自由)  「図書館の自由から見つめる図書館と社会」

 「図書館の自由に関する宣言」は、図書館が市民の知る自由、読む権利を保障することを宣言するものですが、図書館資料へのさまざまなクレームに対抗し、きちんと資料を提供する力となり得ているでしょうか。この2年間の事例をふりかえって報告・討議することにより、自由宣言の普及とさらなる深化を追求したいと思います。
 新自由主義による金融危機と厳しい雇用情勢のなか、社会の閉塞感は高まる一方ですが、自立した市民による民主的な社会の実現に図書館の果たす役割はますます重要になっています。利用する市民の立場から図書館の重要性を訴える活動にも注目し、手を取り合って進みたいものです。

□基調報告1「図書館の自由・この2年」山家篤夫(JLA図書館の自由委員会委員長)
 この2年間の図書館の自由に関する事例をふりかえり、委員会の論議と対応を報告します。
 主な報告事例
・国立国会図書館の法務省資料利用制限
・厚生事務次官殺傷事件と名簿の利用制限
・「児童ポルノ禁止法」と「有害図書」規制
・出版者による回収・削除

□基調報告2「出版流通の自由と図書館」 長岡義幸(インデペンデンツ記者)
 蔵書へのクレーム事例のなかには、少年容疑者の実名表記、差別用語への対処など出版・編集体制の弱体化という問題が隠されているのではないでしょうか。児童ポルノ禁止法、男女共同参画推進に関連して青少年条例での「非実在青少年」規制が取り沙汰される動きを出版界は、社会はどうとらえるのでしょうか。組織に属さない記者の眼で見る問題点をお話いただきます。

□事例発表1「堺市立図書館の『BL図書』規制をめぐって」 脇谷邦子(堺の図書館を考える会・同志社大学講師)
 堺市立図書館に寄せられた「BL図書」への非難と図書館の対応について、市民の取り組みを中心にお話いただきます。

□事例発表2「『BL図書』を考える」吉田倫子(ヤングアダルト・サービス研究会)
  非難された「BL図書」とは何だったのか、ヤングアダルト研究会が青少年に提供する資料について研究してきた立場で考えることをお話いただきます。

□事例発表3「静岡市立図書館における非難された蔵書の検討について」  田中邦子(静岡市立中央図書館)
 静岡市立図書館では、図書館の自由に関するスタッフマニュアルにより非難された蔵書への検討をしています。『タイ買春読本』への問題提起から始まって成熟してきた静岡市での取り組みの現在をお話いただきます。

□事例発表4「『私たちの図書館宣言』を作って」 草谷桂子(図書館友の会全国連絡会・静岡図書館友の会)  
 図書館友の会全国連絡会は2009年5月総会で「私たちの図書館宣言」を採択、利用者の求める図書館の姿を示して国会での院内集会を開催するなどして図書館の振興を訴えています。中核となって宣言の作成に尽力された草谷氏を迎え、2010年5月総会で採択された解説の作成の経過なども交えてお話いただきます。

□パネル「何でも読める・自由に読める」展示 
 このほど新しい事例を加えて改訂したパネルを会場に展示します。このパネル(B2横サイズ・12枚)は各地で利用していただけます。利用は無料で送料片道負担となります。関連資料とともに図書館での展示にご活用ください。

(熊野清子:兵庫県立図書館)

このページの先頭に戻る


大会ハイライト

(『図書館雑誌』 vol.104,no.12 掲載)

[特集]平成22年度(第96回)全国図書館大会ハイライト

第7分科会/図書館の自由 「図書館の自由から見つめる図書館と社会」

  「図書館の自由に関する宣言」 は, 図書館が人びとに対して読む権利, 知る自由を保障することを宣言するものであるが, この2年の間にも, さまざまなことが起こっている。

 基調報告1として, この2年間の図書館の自由に関する事例を振り返り, 委員会として議論したこと, 対応について, 国立国会図書館の 『法務省実務資料』 提供制限の解除について, 東京都をはじめとする青少年条例の規制強化について, 堺市立図書館における 「BL 図書」 の規制, 名簿類の利用制限についての4点の報告があった。 他にも 『最後のパレード』 をはじめ安易な出版回収が相次いだことも加えておく。

 続いて, 基調講演2として, 青少年条例での 「非実在青少年」 の規制が取りざたされる中で, 記者の立場から長岡義幸氏より, 出版物の規制とその問題点についてお話しいただいた。 出版物の規制には, 法による規制, 国や警察の指針, 都道府県の条例, 業界の自主規制などがある。 「表現の自由」 は 「流通の自由」 の保障なくしてはありえない。 図書館界としても注視していく必要があるだろう。

 事例発表として, 堺市立図書館の BL 規制に関して, 市民の立場からどう関わってきたのか, 脇谷邦子氏 (堺市の図書館を考える会) から報告をいただいた。 BL 図書とは何か?何故, BL 図書が攻撃されたのか。 学習会を開き, 何度も市に働きかけたが, 市民の側には明確な回答を得ぬまま今日まできているという。 歯がゆさを感じながらも見守り続けていくとのことだった。

  堺市の BL 問題を別の角度から取り上げると何が見えてくるだろうか。 ヤングアダルトサービス研究会より吉田倫子氏からは, その点についてお話いただいた。 まず, BL と呼ばれるジャンルの特性について解説があった。 続いて, 法的根拠のない特定ジャンルの資料に年齢制限を加えようとしたという問題点の指摘があった。 そしてそこから見えてくるのは選書の現場の思考停止ではないかと発表者は指摘している。

 さて, 自館の資料が攻撃されたり, 非難された場合, どのような手続きを取るべきなのか。 静岡市立図書館から田中邦子氏にその検討方法について紹介していただいた。 静岡市では 『タイ買春読本改訂版』 や少年法にかかる週刊誌の問題などをきっかけに 「図書館の自由」 検討委員会を発足させ, その後, スタッフマニュアルに 「資料収集及び資料提供の自由の制限」 の項目を設けている。 このことにより, 問題に直面した際に慌てず行動できるようになっているという。 過去の蓄積を現在に生かせるような仕組みになっている。

 最後に, 利用者の立場から, 図書館友の会全国連絡会からは草谷桂子氏から, 『私たちの図書館宣言』 とその宣言解説の作成過程について報告をいただいた。 『私たちの図書館宣言』 は2009年5月の図書館友の会全国連絡会総会で採択された。 草谷氏は中核となって宣言の作成に尽力されてきた方である。 図書館のあるべき姿を示そうと妥協せず活発な議論の末, できあがったのだという。

 今起っていることの問題点を把握し, 事例から学び, 「図書館の自由に関する宣言」 を追求した一日だった。 

(喜多由美子:八尾市立山本図書館)

このページの先頭に戻る


大会記録より

○基調報告@図書館の自由・この2年

山家 篤夫(日本図書館協会図書館の自由委員会委員長)

日弁連が昨年11月の人権擁護大会で「表現の自由を確立する宣言」を決議した。基調に「知る権利の保障」があり、注目すべきである。
基調報告中の法務省資料、東京都青少年条例、堺市「BL」図書、名簿問題を取り上げ、補足する。資料は27頁ある。

・国立国会図書館の法務省資料提供制限
1951年の日米安保条約締結を受け、52年に米軍駐留の条件や地位を定める日米行政協定が結ばれたが、犯罪米兵らの裁判権は駐留国・日本でなく米国にあるとした。これには当時政府与党からも厳しい批判があった。53年、NATOで同様の規程が廃止され、日米行政協定でも廃止したように見せかけたが、実質的に存続する密約が結ばれていた。国立国会図書館に所蔵する法務省作成資料はこの密約の存在と内容を裏付けるものだった。この米国側文書が米国公文書館で公開され、国際問題研究家の新原昭治氏が2008年5月に法務省資料の存在とともに公表された。7月に法務省は国会図書館に閲覧禁止を申し入れ、受け入れられた。
今年2月にこの制限措置が解除された経過は、資料の国会会議録、国立国会図書館へのヒヤリング記録をご参照願いたい。昨年6月の衆議院外務委員会では、河野太郎委員長が北米局長に核心部分の開示を迫る場面もあった。国立国会図書館としては、状況に変化があったので、独自に公開するということだった。
制限は解除されたが、ジャーナリストの斉藤貴男氏は国と国会図書館に損害賠償を求める裁判を継続しており、司法判断が出る可能性がある。
この事例は国の統治の透明性と図書館運営の関わりを提起している。2008年12月、IFLAは「透明性、適正な統治、政治腐敗からの自由に関するマニュフェスト」を発表した。民主的後発国を意識したものだが、本件の基本と関わると思えるので資料に入れた。

・東京都青少年条例の改正について
日図協は今年3月、標記条例改正案の修正と慎重審議を求め、都議会議長、都知事に意見書を出した。総務委員会審議の前に要求書を出した。
この条例案については、出版・流通関係団体、各種の創作者団体から、表現の自由を守る観点から多くの要望、意見、批判が公表されている。条例案はネット規制を柱の1つとするが、日図協はもう一つの柱である出版物・映像規制に絞って意見書をまとめた。
その問題意識は、@行政・政治の家庭教育への介入を進める危険性がある、A広範な性表現規制を行うことにおいて、条例が「行政の責務」を強調することは、「図書館の自由」を逼塞させかねない、である。
@について。条例案は、子どもの権利条約第18条の1「締約国は、児童の養育及び発達について父母が共同の責任を有するという原則についての認識を確保するために最善の努力を払う。父母又は場合により法廷保護者は、児童の養育及び発達についての第一義的な責任を有する。」及び、「家庭教育」を新設した教育基本法第10条は「父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を有する。」と相容れないと思える。
Aについて。「行政の責務」は、容易に「図書館も行政の一員」論と結びつき、検閲と図書館の自己規制を進めることが危惧される。司書有資格職員が著しく減少し、アウトソーシングの進行で不安定身分の館長・スタッフが急増している東京区部では、この危惧は現実性が高い。
日弁連は、治安施策でなく子どもの権利保護の施策を求める意見書をだしていたが、8月末にインターネット規制、フィルタリング強制を批判する意見書をだした。図書館界でもこれについて議論する必要があると思う。
本条例改正案は6月都議会で否決され、12月議会以降に持ち越される模様だが、東京近辺9都県がともに青少年条例の規制を強める動きがある。大阪、京都なども似たような動きがあり、注視する必要がある。
参考として、ファナティックな性表現・性教育批判が「政治的な主義、信条に基づき」と認定し、批判した都議とこれに同調した都教委職員を指弾した東京都立七生養護学校事件・東京地裁判決(2009.3.12)と、関連する都議会審議記録を資料に入れた。

・堺市立図書館の「BL」図書問題
自由委員会は堺市立図書館へのヒヤリングを2回行い、報告書(資料参照)は市立図書館にも提出した。
「BL」図書を市立図書館が実質排除する方針が2008年9月、市のHPに掲載され、「堺市の図書館を考える会」や一般市民、図問研などが批判を表明した。11月4日には上野千鶴子氏らが住民監査請求を行った。自由宣言は年齢によって資料提供の制限をしないと明言している。成人利用者にも特定分野の資料を提供しないというのは論外である。
「BL」図書排除方針の決定直後、自称市民が利用規制を求めた動機は男女共同参画への反感であることが判明した。住民監査請求申立の10日後、市立図書館は排除方針を撤回した。市立図書館(職員)の努力で解決されたと受け止めたい。また、論外といえる措置に至った状況について、図書館(職員)の発言を期待する。

・名簿類の提供について
2008年11月の厚生省次官等殺傷事件直後に行われた名簿類の閲覧制限は、数ヶ月経過する中で冷静な論議が行われたと考えたい。資料には国立国会図書館と都立図書館の取扱い方針を載せている。共通するのは、被掲載者の許諾が確認されずにその住所が記載・刊行され、その後一定期間を経ていないものについて何らかの利用制限を行うということだ。一方、国会図書館の場合は、文書で閲覧申請・許可制とし、都立の場合は利用記録が残らない方法をとった。
真摯に論議された方針だとしても、民主主義社会の前提である情報の自由な流通を担う図書館は、やむなく制限するとしても、その措置を不断に見直すことが求められる。北海道新聞8月16日に、札幌の郷土史家が市立図書館を通じて国会図書館に収蔵されている旧軍人名簿の貸出申請を断られたという記事が載った。ひとり国会図書館の問題でなく、私たちみなが考えていく材料としたい。

・最後に、自由宣言の「利用者の秘密を守る」に関して問題提起したい。
ある市立図書館のHPのプライバシーポリシーに“読書事実については、憲法35条に基づく令状がなければ開示しない”旨書いている。読みようによっては、いつ登録したが、本を借りたのはいつかというような利用事実についでは刑事訴訟法197条2項や507条の照会には原則的に応じるとしているようだ。だとすれば総務省など国の「義務あり」とする解釈とは馴染むが、自由宣言の意図とは異なる。米国各州の図書館プライバシー法を山本順一教授が紹介されたもののまとめを資料に入れた。個人情報保護法制の保護から「利用者の秘密」はこぼれるのではないか、図書館条例はじめ別個の保護法令が必要ではないだろうか。
学校図書館界では、読書・生活指導のために貸出履歴を保存・活用することの功罪が論議されてきたが、最近、生徒の貸出冊数を成績評価の材料にすることの問題を山口真也先生が提起され、論議されている。
貸出履歴の利活用が論議される中、考えていきたいと思う。

(追加資料 目次)

○国立国会図書館の法務省資料の利用制限解除について  p1-8
・常務理事会への自由委員会報告 2010年3月24日 図書館の自由委員会委員長 山家篤夫 p1-5
・米軍事件の資料、全面開示 国立国会図書館が閲覧禁止解除 共同通信 2010.4.01 20:13 p5-6
・日米行政協定 改定案、あす調印 刑事裁判権 属地主義に 毎日新聞 1953(昭和28).9.28 夕刊 p6
・IFLA 透明性、適正な統治、政治腐敗からの自由に関するマニフェスト p7-8
○東京都青少年条例改正について p9-13
・「東京都青少年の健全な育成に関する条例の一部を改正する条例」について(要請) 2010年3月17日 日本図書館 協会理事長 塩見昇 東京都知事、東京都議会議長あて p9-10
・東京都治安・青少年対策本部からの回答(4/23付 一部) p10
・東京都の家庭市民生活への姿勢−都立七生養護学校への性教育介入事件 p11
  ・2009.3.12 東京地裁判決 当裁判所の判断より
  ・東京都議会2003.02.14 第1回定例会記録より抜粋 
・「東京都青少年の健全な育成に関する条例」のインターネット利用環境の整備に関する改正案についての意見書 2010年8月20日 日本弁護士連合会 p12
・日弁連意見書の参考資料 「東京都青少年の健全な育成に関する条例」改正案から抜粋 (インターネット利用に係る保護者等の責務) p13」
○堺市立図書館における「BL(ボーイズラブ)図書」の規制について(報告) 2009年11月25日 日本図書館協会図書館の自由委員会 p14-20
○名簿類の提供について 東京都立図書館/国立国会図書館  p21-24
・東京都立図書館の対応  p21-23
 ・都立図書館における名簿類の取扱いの変更について(2009年2月9日付け 教育長プレス発表)
 ・個人情報の記載されている名簿類の取り扱いについて・具申(2009年2月9日付け 資料取扱委員会委員長が館長に提出) 
・国立国会図書館の対応 p23
 ・政府職員名簿の利用停止の解除及び名簿類の利用の許可制導入について 平成21年6月30日(記者発表用資料) 
・戦争の悲惨さ伝えたいが・・・個人情報保護 調査を難しく 埋葬記録や旧軍人名簿 非開示資料増える 北海道新聞 2010年8月16日 p24
○図書館利用事実についての警察、検察からの照会への対応 p25-27
・事例(2009年図書館の自由委員会への相談)
 1 個人情報保護法制の目的外利用禁止の例外規定「法令に基づく場合」
 2 「自由宣言 第3 図書館は利用者の秘密を守る」は
 3 対応を考える(1)利用記録の秘密の重要性を説明する (2)照会の必要性を確認する (3)図書館条例や管理運営規則に「利用者の秘密保持」を入れる
・IFLA Google Book 和解案に関する欧州委員会への声明

このページの先頭に戻る