日本図書館協会図書館の自由委員会大会・セミナー等2006年岡山大会

全国図書館大会 第92回(平成18年度)岡山大会 第7分科会 図書館の自由

大会案内  大会への招待  大会要綱 


大会案内 (『図書館雑誌』vol.100,no.6 綴じ込み より)

とき:2006.10.27(木)

ところ:ピュアリティまきび 千鳥1

テーマ:今こそ図書館の自由を −「自由宣言」の定着をめざして

 改憲論議,教育基本法見直し論議がなされている。「図書館の自由に関する宣言」はその基礎を憲法の保障する表現の自由におき,国民の知る自由を保障するために資料収集と提供の自由をうたい,利用者の秘密を守り検閲に反対するものである。私たち図書館人は「自由宣言」をそのサービスのよりどころにしている。いっぽう,マスコミや利用者にはどのように受けとめられ,図書館に何を期待されているのであろうか。多様な角度から社会の中での「自由宣言」の位置づけを探り,その定着をめざす分科会としたい。


大会への招待 (『図書館雑誌』vol.100,no.9より)

第7分科会 図書館の自由 今こそ図書館の自由を −自由宣言の定着をめざして−

 戦後60年を経たいま,改憲に向けての手続きや教育基本法見直しが論議されている。局面によっては公立図書館の拠って立つところである図書館法にまで影響が及びかねない。「図書館の自由に関する宣言」はその基礎を憲法の保障する表現の自由におき,国民の知る自由を保障するために資料収集と提供の自由をうたい,利用者の秘密を守り,また検閲に反対するものである。 
 私たち図書館人は「自由宣言」をそのサービスの大きなよりどころにしている。いっぽうでマスコミや利用者にはどのように受けとめられ,図書館に何を期待されているのであろうか。多様な角度から社会の中での「自由宣言」の位置づけを探り,その定着をめざす分科会としたい。

◇基調報告「図書館の自由・この一年」

報告:山家篤夫(JLA図書館の自由委員会委員長) 

この1年間の図書館の自由に関する事例をふりかえり,委員会の論議と対応を報告する。
以下について報告の予定。
・個人情報保護法施行後の評価
・船橋市西図書館蔵書廃棄事件裁判判決確定
・図書館における住基カード活用についての調査
・国立国会図書館における「児童ポルノに該当するおそれのある資料」提供制限
・指定管理者制度の図書館導入

◇事例発表「アメリカの図書館は,いま」

報告:井上靖代(JLA図書館の自由委員会委員・獨協大学)

 報告者は2005年10月から一年間イリノイ大学で研鑽を積み,このほど帰国された。滞米中,各地の図書館を視察するほか,アメリカ図書館大会の知的自由委員会にも参加した経験からアメリカの図書館の現在を報告する。併せてIFLAソウル大会での論議も紹介の予定。

1. 愛国者法の延長とジョン・ドウ対ゴンザレス裁判 
2. RFID(ICタグ)と利用者の個人情報保護
3. マンガをめぐる焚書と検閲
 ・日本マンガ翻訳出版とマンガ収集提供に対するクレーム(デンバー図書館などの事例)
 ・イスラム風刺画と図書館(IFLAでの議論)
4. 展示や集会室,インターネット上の「図書館のひろば」をめぐる議論
5. 倫理綱領の見直し
アメリカ図書館協会のCode of Ethics(倫理綱領)の見直し
6. その他
 IFLAソウル大会での知的自由に関する議論の報告,エイズなど健康情報提供と知的自由など

◇パネルディスカッション「今こそ図書館の自由を」

 小川徹氏(元JLA図書館の自由に関する調査委員会委員長,元法政大学)による基調講演のあと,さまざまな角度から図書館の自由を論じ,今後の活力としたい。

○パネリスト紹介
佐々木順二氏は,東京の図書館をもっとよくする会代表。「図書館利用者の権利宣言」の提案『みんなの図書館』212(1994.12),「ふたたび「図書館利用者の権利宣言」の提案」『みんなの図書館』273(2000.1)などを通じ,利用者の立場から図書館への期待を語る。

 千野信浩氏はダイヤモンド社週刊ダイヤモンド編集部記者で,話題の書『図書館を使い倒す!』(新潮社2005.10)の著者。この本をきっかけに図書館員を対象とする講演も増えている。雑誌編集者として図書館のヘビーユーザーである氏の目に図書館の自由はどう映るのか,本音を語る。

 才津原哲弘氏は福岡県苅田町立図書館や滋賀県能登川町立図書館(東近江市立能登川図書館)の設立・運営に携わる中で,いかに図書館サービスを進めてきたかを語る。

 加藤容子氏は,学校図書館先進県岡山にあって岡山市立岡北中学校図書館の司書を務める。司書のいる学校図書館でのサービスを追求する中から,図書館の自由について語る。

コーディネーターは三苫正勝・JLA常務理事,図書館の自由委員会委員がつとめる。

◇関連行事:図書館の自由パネル展示

場所:岡山県立図書館 期日:10月26日〜29日 

この項目の先頭に戻る

このページの先頭に戻る


『平成18年度第92回 全国図書館大会 岡山大会要綱』より

第7分科会 図書館の自由  会場 ピュアリティまきび 千鳥1

<分科会開催の趣旨>

 改憲論議,教育基本法見直し論議がなされている。「図書館の自由に関する宣言」はその基礎を憲法の保障する表現の自由におき,国民の知る自由を保障するために資料収集と提供の自由をうたい,利用者の秘密を守り検閲に反対するものである。
 私たち図書館人は「自由宣言」をそのサービスのよりどころにしている。いっぽう,マスコミや利用者にはどのように受けとめられ,図書館に何を期待されているのであろうか。多様な角度から社会の中での「自由宣言」の位置づけを探り,その定着をめざす分科会としたい。

<基調報告>「図書館の自由・この一年」 
山家篤夫(JLA図書館の自由委員会委員長・東京都立中央図書館)

 2005年全国図書館大会以降の図書館の自由に関する動きや事例,および「日図協図書館の自由委員会」(以下,自由委員会)の取り組みを報告する。

1. 個人情報保護法施行後の評価

 2005年4月完全実施された個人情報法保護法については,個人情報の重要性に対する認識が高まったという評価の一方,社会的有用情報の隠蔽に「自己情報のコントロール権」を利用したり,分断社会,覆面社会,監視社会など一律・機械的な個人情報隠しの弊害が様々に指摘され,また,不正取得された個人情報の使用を被害者が阻止する上で法制は無力という批判もある(国民生活審議会HPの「個人情報保護部会におけるヒアリングの概要」で,日本新聞協会,日弁連,東京都町会連合会,連合,消団連等の意見を掲載)。
 図書館に関しては,過剰反応にミスリードする朝日新聞の調査報道があったが,その後,公共図書館の個人情報を掲載した名簿の閲覧や複写の制限を疑問視した報道が見られる。 
 日図協は『図書館のための個人情報保護ガイドブック(図書館実践シリーズ3)』(藤倉恵一著 自由委員会監修)を2006年3月に刊行した。

2. 船橋西図書館蔵書廃棄事件の裁判確定

 船橋西図書館図書廃棄事件で,最高裁は2006年4月7日,賠償金額を不服とした「新しい歴史教科書をつくる会」と作家7人の上告を退ける決定をし,原告1者あたり3千円の差し戻し審・東京高裁の判決が確定した。
自由委員会は,一審東京地裁以降,裁判所が本件除籍に思想的背景を認める根拠とした書証(甲13号証)等裁判記録を閲覧・検証し,常務理事会に報告する予定。

3. 住基カードの図書館カード利用

 総務省の「住民基本カードの利活用手法等に関する検討会」(2005年3月設置)が2006年3月17日,“住基カードの普及には,各種証明書の自動交付事務や検診などとともに図書館カードとしての利用など,多目的利活用が有効である”という報告書を公表した。
 自由委員会は4月,同報告書があげている22館にその方法などを問い合わせ,20館から回答を得た。「カード空き領域に利用者IDを書き込む」が15件(内1件は広域利用),利用者番号印刷が4件。利用者数が多いのは,前者で約20人,後者で約500人。

4. 児童ポルノ提供制限

 国立国会図書館は,2005年7月に臨時的措置として児童ポルノ該当資料を閲覧制限した。その後,法律専門家からの意見聴取,出版・流通業界の自主規制状況調査等を行って検討し,@館が児童ポルノに当たるか否かを判断できないという主張は許されず,児童ポルノ取締ではなく児童の人権侵害回避として提供制限する,(2)当該資料を保存することは正当業務行為でうる,と結論した。2006年4月1日に,児童ポルノの提供制限に関する内規を施行した。

5. 指定管理者制度の図書館導入

 日本図書館協会は2005年8月に図書館への指定管理者導入について,サービスの有料化等から批判的な見解を公表した。導入に関する論議が各地で進む中で,図書館の自由に関連して,選書の自律性確保や,捜査に関する照会(刑訴法197条2項)はじめ利用者のプライバシー保護について制度的保障が希薄なことへの指摘が見られる。
 「図書館の自由宣言」は,住民に直接的に責任を負い続ける公立図書館の運営原則である。個々のサービスおよび図書館サービスの方針作成,評価,経営監督を私的部門に移管することの問題を提起していくことが求められている。

このページの先頭に戻る

<事例発表>「アメリカの図書館は,いま」
井上靖代(JLA図書館の自由委員会委員・獨協大学経済学部経営学科助教授)

 2005年9月から2006年7月までイリノイ州中部にあるイリノイ大学に滞在し,アメリカ図書館協会年次大会やイリノイ州図書館協会年次大会,さらにアメリカ図書館協会知的自由委員会の会議に参加した。
 現在,アメリカ図書館協会や図書館界が抱える知的自由の課題を報告し,日本での議論の参考としたい。さらにIFLAソウル大会でFAIFEで討議された国際的な知的自由の課題をも報告したい。
以下の項目について報告する予定である。

1. 愛国者法の延長とジョン・ドウ対ゴンザレス裁判

 2006年になって愛国者法がさらに延長された。図書館側からの政治的働きかけがやや功を奏し,図書館を配慮した変更があった。その変更点の司法判断のひとつがジョン・ドウ対ゴンザレス裁判である。愛国者法はインターネット上の情報入手を可能にしているが,サーバーをアメリカにおいている日本のサイト(例えば朝日新聞など)も捜査対象になることから,国際的な影響があると考えたほうがよい。変更点について報告したい。
・配布予定資料:愛国者法変更点について

2. RFID(ICタグ)と利用者の個人情報保護

 RFID利用についての実態とALAとしてのガイドラインが公表され,決議声明として理事会で承認された。日本でのICタグ導入は拡大しているが,知的自由の面からそのように検討されているだろうか。サンフランシスコ図書館が作成したチェック・リストや,このICタグ導入に関するALAの声明文を参考にしながら,検討(導入ずみの図書館は再検討)をしてほしい。
・配布予定資料:サンフランシスコ図書館作成 RFID導入にあたってのチェックリスト
アメリカ図書館協会作成 RFID利用のガイドライン

3. マンガをめぐる焚書と検閲

・日本マンガ翻訳出版とマンガ収集提供に対するクレーム(デンバー図書館などの事例)
・イスラム風刺画と図書館(IFLAでの議論)
 数年前から欧米で日本マンガが翻訳出版され公共・学校・大学図書館では注目され,多くの図書館では所蔵資料としているが,ボーイズ・ラブ系やロリコン系のマンガの翻訳出版が多く,現場にはクレームが寄せられている。
 デンバー図書館ではスペイン語訳のマンガにクレームがつけられ,マンガ資料そのものよりスペイン語利用者へのクレームと関わっての知的自由の事例となっており,類似事例が増加する可能性は高い。また,イスラム風刺画をめぐるヨーロッパでの議論など,マンガの背景にエスニック問題があることを注目する必要があるだろう。
・配布予定資料:アメリカ図書館協会その他関係団体作成 マンガ選定ガイドライン
・イスラム風刺画議論関係資料

4. 展示や集会室,インターネット上の「図書館のひろば」をめぐる議論

 集会室の利用や展示,インターネット上での図書館の「限定的ひろば」での図書館活動について,事例が増加する傾向にあり,資料提供(貸出し)や情報提供(レファレンス)とは別の「思想のひろば」としての図書館活動と知的自由について議論がおこっている。
・配布予定資料:アメリカ図書館協会作成 集会室利用についての声明など

5. 倫理綱領の見直し

 アメリカ図書館協会のCode of Ethics(倫理綱領)の見直し議論が高まっている。9.11以降,図書館員自身の倫理について再検討すべきという議論が広まり,改定作業がはじまっている。

6. その他

 IFLAソウル大会での知的自由に関する議論の報告,エイズなど健康情報提供と知的自由など

このページの先頭に戻る

<パネルディスカッション>今こそ図書館の自由を−「自由宣言」の定着をめざして

 「図書館の自由に関する宣言」は1954年の採択から半世紀,79年の改訂からも四半世紀を超え,図書館の基本理念を表明するものとして図書館界では一応の定着を果してきた。一部の利用者にもある程度認知されてきたようにも思える。しかし利用者の多くや一般住民に知られているとはいえない。
 一方,図書館を使いこなしている利用者からは,自由宣言は図書館の側から作られていて,利用者の立場が十分汲み入れられていないという意見も聞かれる。そのため利用者の側から「図書館利用者の権利宣言」が提案されてもいる。
 自由宣言が図書館界で常識化するにつれて,現状は逆に条文だけの上滑りな適用が行われて,理念が見失われてきつつあるかに思われる。改めて利用する立場,主権者である住民の立場から自由宣言に光を当てて見直し,図書館に活力を得たい。

◇基調講演「今こそ住民のものとしての図書館の自由を」
小川徹氏(元JLA図書館の自由に関する調査委員会委員長,元法政大学)

(1) はじめに
 「図書館の自由に関する宣言」は,図書館・図書館員が利用者にむかって,さらに社会にむかって,自分たちはこういう原則に則って仕事をします,と宣言したものです。そういうものとして長い時間をかけて次第に直接の利用者に,そして社会にそれなりに認識・理解されてきました。
 しかし近年,残念なことに図書館でこの原則を担うべき職員をめぐる環境が変わってきて,今や担い手の弱化は目を覆うばかりになりました。「宣言」の担い手をどのように考えればいいのでしょうか。

(2) この宣言は,図書館が自らに課した規律ですが,それだけに止まりません。宣言は利用者,社会が図書館に求める原則でもあるという性格をもっています。
 「宣言」が情報を取り扱う機関のみならず,個人にも守るべき指針としての内容をもっているからです。

(3) 図書館はこういう原則に基づいてサービスを提供しますといい,これに依存してサービスを享受する利用者,という受動的な利用者を前提とした「宣言」ではなく,住民が積極的にかかわって図書館のサービスのあり方を考え,そのなかで図書館の自由にかかわる原則をつくりあげ,それに基づいてサービスが行われる,そういう図書館の,図書館の自由に関する原則であってほしい。

(4) 宣言は「図書館は資料収集の自由を有する」といいます。「資料収集の自由」を守るために,これまでそれぞれの図書館ではいろいろ工夫もし,苦労も重ねてきたと思いますが,住民からみると,偏見かもしれませんが,それは公共図書館では司書の聖域を守るためのものかとも思われます。そこに市民が参加する,ということは許されないことなのでしょうか。

(5) 終わりに。
 どうみてもこれまでの(今でも?)JLAは,住民からみると内向きの業界団体です。今大変な時だけに,ウイングを広げて社会に語りかけるようにすべきなのではないか,そのなかで宣言について語り,対話をしていくことが必要なのではないかと思います。

このページの先頭に戻る

<パネリスト紹介>

佐々木順二

東京の図書館をもっとよくする会代表
・「ふたたび「図書館利用者の権利宣言」の提案−新しい状況下,21世紀に向けての修正私案 『みんなの図書館』 通号273 2000.1
・公権的解釈の範囲を逸脱・乱用−図書館法第17条についての専門委員会報告 (小特集 図書館の無料原則を考える−電子情報の利用)  『図書館雑誌』  93(2) 1999.2
・公立図書館の無料公開を守るために (特集 無料の原則と「電子化資料」の導入について) 『みんなの図書館』 通号260 1998.12
・「権利としての図書館」をめざして−図書館建設から図書館づくりの運動へ 『みんなの図書館』 通号239 1997.3
・国立国会図書館利用記録等押収事件の問題点と提言−「図書館利用者の権利宣言」の提案者として考えたこと 『図書館雑誌』  91(2) 1997.2
・宮本孝一氏の「公共図書館の利用をめぐる市民の権利宣言・試案」を読んで感じたこと 『みんなの図書館』 通号243 1997.7
・「図書館利用者の権利宣言」の提案 『みんなの図書館』 通号212 1994.12

千野信浩

ダイヤモンド社週刊ダイヤモンド編集部記者
・『図書館を使い倒す! : ネットではできない資料探しの「技」と「コツ」』 新潮社 2005.10(新潮新書)

才津原哲弘

東近江市立能登川図書館長。千葉県八千代市立図書館,福岡市民図書館,福岡県苅田町立図書館を経て,滋賀県能登川町立図書館建設準備室長,同図書館長・博物館長,自治体合併により現職。
・いのち響きあう「乾千恵・書展 月・人・石」の日々--琵琶湖のほとりの町から 『ヒューマンライツ』184,185,187,188 2003.7〜11
・『図書館栄えて物書き滅ぶ』とは本当のことか−琵琶湖のほとりの小さな町の図書館から 『図書館雑誌』 97(9) 2003.9
・琵琶湖のほとりの町から 小さな町の図書館・博物館づくり 『みんなの図書館』 通号 272 1999.12
・九州,福岡から−福岡の図書館を考える会発足の次第報告を兼ねて(実感的報告) 『みんなの図書館』 通号132 1988.5

加藤容子

岡山市立岡北中学校図書館
・今とどけたい司書のいる学校図書館-小学校 『子どものしあわせ』 通号576 1999.7
・後藤竜二作品と中学生 『子どもと読書 』335 2002.9・10

コーディネーター
三苫正勝

日本図書館協会常務理事,図書館の自由委員会・委員。元夙川大学教授,元枚方市立図書館長。
・図書館と知的自由−自由宣言50年 『図書館界』 57(4) 2005.11
・『「図書館の自由に関する宣言1979年改訂」解説』の改訂について 『図書館雑誌』 97(9) 2003.9
・日本における「図書館の自由」の展開:公共図書館を中心に 『夙川学院短期大学研究紀要』 24 2000.3
・公共図書館の日常活動における「図書館の自由」の諸問題について (第21回研究大会<特集>)− (日常生活における「図書館の自由」の問題<シンポジウム>) 『図書館界』 32(3) 1980.9

このページの先頭に戻る

<パネリストよりひとこと>

佐々木順二

 これから数年後,あるいは数十年後,「そのときあなた方は,何をしたのですか」と,きびしく問われる事態がいま進行しているのではないかと危惧する昨今である。
 最近の公立図書館の「民間委託」や「指定管理者制度」への流れは,図書館の危機である。
 いま,私たちは戦争中の日本の図書館が,「帝国図書館」を頂点とした「思想善導」の教育機関になってしまった暗い歴史を改めて考える必要がある。当時の「図書館人」といわれていた人々はそのとき何をしていたのか。その教訓から学ぶことは多い。
 「図書館の自由」そのものが脅かされつつある今日,改めて図書館利用者の権利を教育基本法「改正」問題との関連で明らかにしたい。

千野信宏

 入り口に「図書館の自由に関する宣言」を掲げている図書館に行ったとき,違和感を感じたことが宣言について考えるきっかけだった。言葉は大変立派である。ただし,宣言の相手は権力であると理解するのが普通の感覚だろう。それを利用者に読ませて何の意味があるのだろうか。違和感は,そのことだ。
 さらに宣言は,図書館は利用者から無条件の信任を得ているということが前提になっている。本当に無条件の信任なんて得ているのだろうか?なぜ図書館と利用者の間に揺るぎない関係があると信じられるのだろうか。
 図書館が新たな一歩を踏み出すために必要なことは,利用者との関係を振り返ることではないか。自由宣言の在り方と限界について,議論を深めたいと考えている。

才津原哲弘

 『日本の図書館2005』によれば,2004(平成16)年度の全国市区町村立図書館の設置率は,62.9%,うち市区立は98.2%,町村は46.6%である。町村では実に50%以上の884の自治体,市区では14の自治体に図書館がない。町村で75万4千人,市区で77万7千人,合計833万1千人が図書館のない町で暮らしている。しかも一見,ほとんどの市区に図書館があるかに見える市立図書館の大半が,市民の日常的な利用に不可欠な分館の整備などができていないため,市民の大半にとっては実質的に図書館が無い状態だ。国民の知る自由を保障するための柱である「資料収集の自由」も「資料提供の自由」も,現実に図書館を利用できてのことだ。この観点から論議に参加したい。

加藤容子

 学校図書館は,利用者が未成熟な子どもであっても,あらゆる資料へのアクセスを保障することを基本にしている。子どもたちが責任をもった発信や行動をするには,調べ考え判断する自由な学びが欠かせないからだ。
 学校図書館の蔵書は,「よい本」と認められたものばかりではない。多種多様な意見や考え方を反映した資料を提供している。入れるべきではないと問題になることもある。しかし,子どもたちはそれらと出会い,「わかった!」と喜びを感じたり,知らないことや学ぶべきことがたくさんあることを自覚し,学ぶ意欲につながったりしている。
 学校図書館では,図書館の自由にどう取り組んでいるかを報告する。

<関連行事>図書館の自由パネル展示
主催:JLA図書館の自由委員会 会場:岡山県立図書館多目的ホール 期日:平成18年10月26〜29日

 司会 田中敦司(名古屋市立緑図書館) 
 運営委員 熊野清子(兵庫県立図書館)
 分科会連絡員 中畑友希(岡山県立図書館) 原弘江(岡山県立図書館)

この項目の先頭に戻る

このページの先頭に戻る