日本図書館協会図書館の自由委員会大会・セミナー等2000年沖縄大会

全国図書館大会 第86回(平成12年度) 沖縄大会 第9分科会 図書館の自由

とき 2000.10.26

ところ 沖縄県

テーマ 豊かな資料提供を求めて 沖縄の社会と図書館


大会への招待 (『図書館雑誌』vol.94,no.9 より)

○基調報告「図書館の自由」をめぐる状況
 三苫正勝(JLA図書館の自由に関する調査委員会委員長)

○講演「沖縄の図書館−復帰前後を中心に」
  講師 大城宗清(元沖縄県立図書館長)

○シンポジウム「沖縄の社会と図書館」
 パネラー : 内原節子(石垣市立図書館長)
      知念信正(元具志川市立図書館長)
      中村誠司(名桜大学助教授)
      三木 健(琉球新報社常務取締役)
      吉川安一(前沖縄県立図書館長)
 コーディネイター : 伊藤松彦(鹿児島短期大学名誉教授)

 米軍政下で沖縄県民は,例えば教育委員会公選制のように,自治と民主主義の取り組みの果実を実らせてきた。そして1972年の本土復帰。日米安保に位置づけられて存続した米軍基地を重く背負う沖縄で,図書館員は県民の心の飢えを癒し,知的自立と自前の文化を根づかせる“住民のための図書館”をつくる運動に支持者を広げていった。
 1980年代に入り,沖縄では『中小レポート』が掲げる“住民のための図書館”が次々と開館し,現在,全10市および16町中の6町,27村中の5村の図書館が県立図書館と連携して活動している。
 「図書館の自由に関する宣言」が図書館の奉仕目的として掲げる国民の表現の自由・知る自由は,強い政治的機能をもつことから,政治的・社会的に不安定な状況では,政治的な理由から抑圧の対象とされる。が,表現の自由・知る自由は,人が人としての尊厳やアイデンティティを得て自立することに不可欠の権利として,基本的人権の中で特別の位置が確認されてきたものである。
 政治,経済,文化のさまざまな局面で困難と屈折を強いられる沖縄で,憲法と図書館を結びつけた『中小レポート』に基づく図書館づくり,豊かな資料提供がどのように進められてきたのか,また,進められようとしているのかを学びたい。

○講演講師

○シンポジウムのパネラー

(山家篤夫/やんべあつお : 東京都立日比谷図書館)

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大会ハイライト (『図書館雑誌』vol.95,no.1 より)

第9分科会◆図書館の自由  豊かな資料提供を求めて −沖縄の社会と図書館−(佐藤毅彦)

 当分科会は3部構成で行われた。
 第1部では,三苫日図協図書館の自由に関する調査委員会全国委員長が,図書館の自由をめぐるこの1年の動きを報告した。冒頭,最近の特徴として,短期間で決着せずに継続・展開する事例が目立つことが指摘された。とりわけ,富山県立近代美術館天皇コラージュ訴訟における,作品非公開を容認する控訴審判決(後に上告審判決もこれを支持)に対しては,知る権利への逆風として深い憂慮が表明された。さらに,継続・展開事例として週刊誌の性表現に対する恣意的な排除要求や,東京都の『完全自殺マニュアル』不健全図書指定に向けた動き,複数政党が進めている有害図書指定法制化の動きなどが紹介された。また,最新事例として,『クロワッサン』自主回収に伴う図書館の自己規制の例が紹介され,ピノキオ問題における「検討の3原則」を再確認すべきことが強調された。
 第2部では,元沖縄県立図書館長の大城宗清氏が,「沖縄の図書館―復帰前後を中心に」と題する講演を行った。大城氏は,米軍統治下の立法院図書館,医学図書館から復帰後の県立図書館に至るまで,一貫して,一般住民を含む利用者に対する資料提供の拡大に努めてこられた。
 図書館員が図書館員としての仕事をすることで利用者に求められ,図書館が育てられること,図書館員が誇りを持てる図書館こそが図書館の自由の実現であることなどを,ご自身の経験に照らして力強く語られた。
 第3部では,「沖縄の社会と図書館」と題するシンポジウムを行った。パネラーは,吉川安一前沖縄県立図書館長,知念信正前具志川市立図書館長,内原節子石垣市立図書館長,中村誠司名桜大学教授,三木健琉球新報社常務取締役の5人,コーディネーターは,『沖縄の図書館−戦後55年の軌跡』の編集代表である伊藤松彦鹿児島短期大学名誉教授がつとめた。
 米軍統治下においては,琉米文化会館が,アメリカ文化の最先端を紹介する一方で政策的意図に基づく資料提供を行い,あるいは公共図書館の発展を阻害するものであったことや,民衆の自律的言論が統制されていた実態が語られた。
 復帰後の沖縄各地の図書館については,地方文化や産業の支援,地域史づくり,地方誌の収集・提供など,それぞれに特色ある活動が紹介された。
 最後に伊藤氏が,沖縄では図書館法は28年の歴史しかないことを指摘し,1980年代以降めざましくなった沖縄の図書館の活動は,米軍統治下で沖縄県民が蓄積した自治と自立の力に支えられたものだったと総括して,当分科会は終了した。
 当分科会の参加者数は69名で,昨年と比べると30名ほど減少した。このことは,図書館の自由については,特に具体的問題への対処方法を求めている関係者が多いことの表れかもしれない。
 今回当分科会は,昨年までと若干趣向を変え,沖縄の図書館が,資料提供の場を確保するため,情報・資料を住民のものとするために行ってきた具体的な活動を紹介してもらうことを眼目とした。いずれの内容も充実していたため,消化不良のきらいはあったものの,出席した図書館関係者に元気を与えてくれる分科会になったと思う。

(さとう たけひこ : 国立国会図書館)

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