日本図書館協会図書館の自由委員会大会・セミナー等1999年滋賀大会

全国図書館大会 第85回(平成11年度) 滋賀大会 第9分科会 図書館の自由

とき 1999年10月28日

会場 滋賀県立武道館

テーマ メディアの多様化と知る自由の課題 


大会への招待 (『図書館雑誌』vol.93,no.9より)

「『図書館の自由』って聞いたことある?」
「学生のとき習ったよ。図書館は資料収集の自由と資料提供の自由を持っていて、それから利用者のプライバシーとかも大切らしいね」
「ちゃんと知ってないと誰かに文句つけられたとき怖いね」
「でも、私らが考えなくても、何か問題があったら誰か上の人が決めてくれるでしょう」
 このような会話の経験はありませんか。
 「図書館の自由」は知る権利を保障する図書館の資料提供を支える基本理念であり、また「表現の自由」と表裏一体となって利用者の知的自由を守るものです。
 インターネットが社会へ急速に浸透したことにより、情報へのアクセスの保障や個人情報の保護についての関心も高まっています。このような現在、図書館における「知る自由」とそれを支える図書館員の役割がますます問われています。

基調報告: 図書館の自由をめぐる最近の動き

三苫正勝氏(JLA図書館の自由に関する調査委 員会・全国委員長)

 この1年間の図書館の自由に関する事例をふりかえり、委員会の論議と対応を報告します。
 関連した判決としては、タレントおっかけ本、富山の大浦作品、未成年者の実名記事、柳美里小説の公表差し止め等がありました。

事例発表:A県立図書館のリクエストへの対応について

 和田匡弘氏(名古屋市緑図書館)

 A県立図書館の利用者から、予約リクエストへの対応についての相談がありました。「公序良俗に反する」等の選書基準についての疑問、図書館員が検閲官となって資料を判断するのは図書館の使命を放棄することになるという内容です。
 県立図書館の対応は、資料提供しないとは言ってなく、購入できないという回答です。
 「リクエスト即ち購入希望」という利用者の視点と、「リクエスト即ち資料提供」という図書館の視点とのすれ違いもありますが、「公序良俗」をあげた選書基準についての問題点もあります。
 「図書館の自由」の観点からはどう考えればよいのか検討します。

事例研究:あなたならどう考えるか

 ここでは、日常的に起こり得るいくつかの事例について、参加者もその当事者となって対応していただきます。
 事例としては次のようなものの中から、参加者の関心の高いものを取り上げます。
 遺失物あるいは盗難の図書について警察から問合せがあったときの対応、学校図書館で生徒からのリクエストに対して教師からクレームがついたときの対応、裁判で問題になった本の取扱い、カウンターでの督促作業など。
 みなさん是非とも具体的な体験や意見を持ち寄ってください。そして助言と会場からの発言によって各人が問題点を発見して整理し、議論を深めていく場とします。

展 示  図書館の自由パネル展 (ピアザ淡海 2階ロビー、10月27〜29日)

 昨年に引き続き図書館の自由に関するパネルを展示します。国際人権年50周年の1998年に改訂したもので、内容は「趣旨」「自由宣言ポスター」「検閲の事例」「プライバシー侵害の事例」「年表」などです。戦前の検閲による『蟹工船』から、映画『耳をすませば』での名前の残る図書貸出しカードまで、図書館の自由の歴史をたどってください。

 (熊野清子:兵庫県立図書館)

このページの先頭に戻る


記録概要

基調報告 図書館の自由をめぐる最近の動き                

三苫正勝氏(JLA図書館の自由に関する調査委員会・全国委員長)

・昨年来の動き 一般にも流通する本に問題が起きる→図書館との関連が出てくる。有害図書 従来はエロ・グロだったが最近は自殺マニュアルの類いへと変化。
・盗聴法、児童ポルノ買春禁止法、国歌・国旗法、周辺事態法、情報公開法などが次々と論議され成立していく。情報公開法などでは図書館との関連も深い「知る権利」の明記については国より地方自治体が進んでいる。

・事例報告の変更について:「A県立図書館のリクエストへの対応」については、半年前に相談があり取り組んでいたが、図書館の自由の一番中心の課題ではなく、サービス・予約の問題だった。その後有害図書の規制の問題が表面化し、こちらが本来的に図書館の自由に関わる問題なので取り上げることにした。

・完全自殺マニュアル 1993 青少年の自殺現場に置かれる状況が各地で起きる。
→ 図書館が神経質になっている。中学生以下は親の承諾を要する等の例。
岡山県、三重県で有害図書に指定される。東京都では諮問しないという結論。これに対し都下の自治体からは知事に指定するよう要望が出ている。
・タイ買春読本 静岡市の図書館へ廃棄の要求 1994
問題図書が目に触れないのは問題だ、市民のグループの間での討論。→絶版を求める訴訟に発展。有害図書指定は、静岡県、三重県、和歌山県、埼玉県。
・柳美里「石に泳ぐ魚」(1994年雑誌『新潮』掲載)
私小説のモデル女性がプライバシー侵害の訴え、公表差し止めの判決。プライバシーを理由では初の判決。
・「剣と寒紅」は三島由紀夫の手紙を遺族が公表取り消しを求める。著作権があるとの判決。司法の判断として出版の差し止め。
それに対して図書館の反応は?都立:仮処分は当事者間の問題→図書館には及ばない。
閲覧停止、予約取り消しの館もある。
裁判所は出版者への回収命令→図書館は閲覧という反応もあり。
・タレント追っかけ本 「今後も出すな」というまだ出ていないものへの判決。法律家の間でも表現の自由に対する危機と捉える観かたあり。出版前に出版停止は『北方ジャーナル』事件あり。これをきっかけに「資料提供制限要綱」が出てきている。
神戸の連続児童殺傷事件、ポルノへの警戒心→暴力に神経質に。人権、思想、公序良俗、
著作権は直接利害関係者の申し出があった場合のみ:国立国会の内規
司法判断、青少年保護条例、一般に許容される社会規範、あいまいな表現
閲覧しない、収集しないのは問題多し。

予約:収集―提供 A県立図書館の事例
八百長リクエストの会、橿原市:教育長が判断(図書館長ではない)
・実名報道 少年事件 精神鑑定の有無 匿名と実名の揺れ動き
・富山美術館図録→作品を美術館が処分したことは行政の裁量範囲内だ。特別観覧の拒否は知る権利を不当に制限できない。天皇は国民に含まれる→プライバシーあるがこの写真はプライバシー認められない。との判決。
・ちびくろさんぼ
・「南京…」映画上映問題、川崎市は上映(1998)、柏市は取りやめ(1999)。
・インターネットでの毒物売買や詐欺、東芝クレイマー事件に多くのアクセスなどホームページの危なさ、住民票データ、電話帳データの売買など個人情報の危うさ。

このページの先頭に戻る


事例発表 有害図書指定の現状と問題点 

西河内靖泰氏(JLA図書館の自由に関する調査委員会・関東地区小委員会委員)

 「タイ買春」(静岡、三重、和歌山、埼玉指定)と、「完全自殺マニュアル」(群馬、岡山、岐阜、滋賀、秋田、和歌山、鳥取、石川、神奈川指定)は性格が異なる。
 悪のマニュアル等昔は表面に出てこなかったものが、最近は実用書のようなスタイルで出てきた。週刊誌、夕刊紙→図書の形→図書館に入る→問題になる。時代状況を反映している。
 指定理由(指定しない理由)「タイ買春」本の対象は大人:子どもがタイに行って云々は考えられない。みにくい現実の日本人の姿。現実を記録する意義、恥を直視する勇気、隠せばすむものではない。指定したからと言って実効性?買春はなくならない。
 どうせ入手困難、絶版にしたからといってどういう意義が?公権力で言論出版を制限。青少年保護条例で成人向けの図書を指定することで制裁的意識?それなら条例の目的を逸脱している。本に問題があるからといって批判の仕方は正当なやり方でない。言論で訴えていくべき、別の訴えで買春をなくすのが筋ではないか。
 「完全自殺」本が自殺へ導く効果は具体的に証明されていない。6年間で120万部売れているがみなが自殺しているわけではない、効果は薄い。管理で子どもを保護しようとしてもだめ。日本では自殺=悪とは考えられていない面もある。
 個人的な好き嫌いと図書館に必要か必要でないかはの議論は別の問題だ。
 図書館は利用者のためにある、資料の提供のためにある。提供の仕方を考える。

このページの先頭に戻る


質疑応答

○堀 青少年保護条例の及ぶところ
・各館の内規で「県の有害図書指定されたものは提供しない」という条項を持つところあり。(群馬県の例)
・ 有害図書指定のはがきがくると「ああそうか」と思うだけ。県から市、教育委員会から図書館への圧力があるのか
・ 内規も要綱もないのに議論もせずに廃棄等するところがある=自主規制。必ず議論してから決めるべき。

○伊藤 静岡では各団体はどんな団体でどんな活動をしているのか紹介して欲しい。
・ カスパルは全国組織(アジア児童買春阻止を訴える市民団体)、静岡は脱退した。(第17集に資料を掲載する)

○ 高濱 両論併記だが判決が出たときどう扱うか、統一的な判断が欲しい。閲覧停止にしたためにあるいは閲覧させたために図書館が賠償責任を問われることはないのか。
・判決は出版社に対するものであり、図書館に法的に請求される段階にきていない。図書館がどう対応したかの蓄積を共有していく。図書館あいてに…社会的認知により判断。

○ 西尾 井上ひさし氏の妻の写真「フライデー」問題で、所蔵する図書館へ出版社が請求するよう求めたが、裁判所はそこまでは認めなかった例あり。
 情報公開条例に基づいて図書館での選書についての請求事例はあるか。
・情報公開請求1件事例あり。

○ 小川 情報公開条例に基づく請求あり。隣の自治体で資料を借りたい。断られた理由を聞き出そうとした。ほかに自分は図書館協議会のメンバーだが、その図書館の蓄積文書についても整理して情報公開請求に対応できるよう話している。

○ 三苫 選定理由を請求された場合の対応のために各地で要綱が出来ているらしい。公開されても答えにならないような答えになってしまう。

○ 山家 井上氏夫人についての1990高裁判決 名誉毀損、プライバシー侵害について雑誌社から図書館に対して付箋を貼るよう求めた事例。
 民法709条での賠償請求と723条「名誉毀損を回復する適当な措置を取ることができる」に基づいて注意書きの貼付要請があった。付箋を出版社が図書館に送付しても図書館が従うとは限らない、フライデーは保存期間が短く実効性がない、当時は肖像権が確固とした権利として確立していなかった、等の理由で認めなかった。
 これに対しては判決批判が殺到した。賠償の30万円は額が低すぎる、制裁的に多額にすべきだ。
 付箋をはるということは制裁の意義がある、図書館がその資料への支持・不支持を表明することになり、従うわけには行かない。

○前野 井上氏の事例で付箋添付はいいと思う。

○山家 図書館資料のあり方から709条の損害賠償、723条の名誉毀損関係に適当な措置、制裁のためにと言う付箋、謝罪広告・反論掲載も言論の自由を侵害。図書館資料は制裁をするものではない。
 柳美里「石に泳ぐ魚」判決では裁判所は図書館に対する請求への対応を悩んでいて、変化している。図書館としての考え方を言う必要がある。

○福永「図書館の力量」
 具体的な図書館に対しての損害賠償。「図書館資料の中の個人情報の保護」図書館雑誌論文。館種に関わらず提供制限するならルールを定めるべきだ。
 「大阪市立図書館の内規」も具体的にあきらかにして欲しい。各館の内規、規定をつき合わせて比較検討する中で、自由宣言にふさわしい内容に落ち着くのではないか。
 「青少年保護条例」による有害図書指定は、子どもは自由な判断能力ないとして囲い込みたいということだ。
 公刊された資料はあきらかにされるべきだ。ポルノや差別、自殺や人権侵害についても比較検討して議論して力量をつけるべき。
 裁判でラべリングを要求するのは自由だが、判決の効力は図書館が対象にはならない。被告がラベルを図書館に送付しても、図書館がラベルを貼付するかどうかはその図書館の判断による。部分社会のルールは広い意味の慣習法であり、それが裁判所にプレッシャーをかけることになる。部分社会のルールが確立していれば、裁判所は図書館の考えに従いなさい、司法はそれ以上及ばないという立場を取る。

このページの先頭に戻る


事例研究 1 事例5(学校図書館での「完全自殺マニュアル」のリクエストへの対応)について

・選書規準あいまい、専任の司書がいないような人事配置に問題あり。
・中学と高校で対応異なる、生徒の年齢差。
・ブックハンティングで書店での店頭購入、特に問題になっていない。
・実際に自殺者の出た学校では対応に苦慮。中学と高校でも違う。自校では政経の教科で取り上げ生と死について学習するきっかけになった。
・ 学校は各校ごとの教育の方針により運営されるため、図書館への自由に干渉が多い。養護教諭や司書は教員とは別の立場で、生徒の心の支えになる人間的に大きな役割がある。このようなリクエストは大事にしてほしい。

このページの先頭に戻る


事例研究 2 事例6(週刊誌の購入についてクレームがついた事例)について

○渡辺 港区では館長レベルで騒いでいるが、綴じ込み付録をはずしてたり別置したりの件について読売新聞からはずすのは問題だと取材があり。
○春日市民 図書館の自由はこれでいいのか。20年前のものだ。収集提供の自由。
 ヘアヌードはよくないと思う。条例規則、全国足並みそろえているか?考え方が不整合。憲法にも公序良俗にも抵触。資料選定委員会、選書規準、文教委員から指摘。
○西河内 ヘアヌード問題は『週刊現代』の幸福の科学批判に対応して始まった経過がある。歴史的事実を踏まえて論議を。『週刊現代』『ポスト』などよく行政批判をしている、役所から記事を欲しいと言ってくるが図書館が保存していないと手に入らない。役所の管理職会議で論議されたこともある。
 性の商品化に議論はあるがその裏で失われるものも考えてほしい。
○東条 20年前の改訂で人権プライバシー侵害のものへの提供制限が盛り込まれた。
 「人権・プライバシー」の条項のない1954年の本文のみがよかった。これを楯にタブーを広げるのはよくない。部落問題の関連だったが今では逆手に取られている。図書館には何でもあるんだということを住民に認知してほしい。
○各館の事例紹介
名古屋:幸福の科学から陳情出た。議会には図書館から説明してそのままとなった。
○西河内 荒川区ははずしている。発行元の編集部に確認した上で。
 カウンター管理、別置、議論すべき、保存期間も問題。一部がよくないからと購入中止は筋違いだ。原則を踏まえておく。現場の応用が大手を振ってはびこる。
○山家 提供制限は厳格に限るべき。人権またはプライバシー侵害、わいせつの判決確定し通知のあったもの、寄贈者が公開を拒む。
 アメリカの権利宣言はデモイン市の選書規定から始まったので収集に重点あり。「具体的個人に具体的危険」の場合であって一般的な概念ではない。
 わいせつは175条にも引っかからないし、人権・プライバシーでもない。法的規制になじまない。図書館で何かあるとすれば、社会的配慮、他人の不快への配慮、子どもへの配慮(目に触れないようにするなど)の問題。書店でしているのと同様に棲み分けはどうか。東京都の青少年保護条例担当部課では「区分配置をしませんか」といわれた。提供のため区分配置などの努力を。
○三苫 採択されたときは雑誌の扱いについて館としての合意が必要。根拠、理由を職員集団としての司書がはっきりいえること。
○ 堀 問題になった雑誌や図書が数年後にどうなっているかも問題。

このページの先頭に戻る


事例研究 3 事例1(警察から利用記録について照会があったとき)について

○佐藤(国会)森永グリコ事件、深川殺人事件、地下鉄サリン事件と経験あり。利用記録53万人分、なぜそんなに保存していたのか。統計のため(現在は半年保存に変更)職員立ち会い、グリコ森永では立ち会いもせず警察に持ち帰らせてしまった。
 原則:正しい令状かどうか確認しメモを取る。図書館が捜査押収物を差し出す。「令状」の範囲以外を見せない。執行中は立ち会う。ことが必要。
○堀 犯人の遺留品と思われる本について利用者を教えて欲しいと警察。分館長その場で検索しかけた。意識がないとこうなる。(結局無断持ち出しの本だった)
○名古屋 20数年前、警察からの照会状にお断りの経験。
 傷害事件、路上に本、結局は無関係の落とし物だった。警察は法律の何を根拠に明かせないのかと聞いてくる。答えられず、とうとう明かしてしまった。
 対応は必ず複数ですること、断りは文書を出すことが原則。職員全員に周知、電話での対応も申し合わせる等が必要。
 照会書は警察署長の公印があるだけ、公印使用簿に記入するだけのことで、断っても罪に問われない。プライバシーを漏らして信用を失うよりはよい。捜査令状とは性格が違う。刑法35条に基づく「捜査差押許可状」は拒否すると公務執行妨害。
○池本 もっと大きな事件の場合、なんで協力しないのかと館長、学長などから圧力があるのではないかと危惧する。
○福永 宣言は根拠にならない。宣言を是とする意思が強固なら説得力を持つ。
 プライバシーは憲法13条の個人の尊厳として保護されている、民法上の公序良俗に反する場合は制限される。憲法13条で保障された人権は国、地方公共団体が守るもの。私人でも(公立図書館だけでなく私立図書館でも)人権侵害をおこなったら不法行為が成立する。
 一方、捜査への協力は一般的な国民の義務。自己の権利が侵害されない限り社会の秩序維持に協力する。
 この二つの比較考量により態度を決定する。図書館も協力できる範囲(プライバシーを侵害しない範囲)で協力。
 個人情報保護条例違反はひとつの根拠。
 図書館の公共奉仕義務、図書館の信頼維持義務、プライバシーを侵害しない義務、図書館資料を提供する義務
 令状は事件との関わりが強いと認定が済んでいる、犯罪の大小には関係ない。
○ 山家 宣言、国会職員法の守秘義務、公務員の守秘義務、個人情報保護条例の所管課に参考意見、

このページの先頭に戻る


大会ハイライト 『図書館雑誌』vol.94,no.1より

第9分科会 図書館の自由 メディアの多様化と「知る自由」の課題  (西河内靖泰)

 本分科会の参加者は96名。ここ数年,図書館の自由にかかわる問題を扱う本分科会は参加者が多いが,これは「図書館の自由」の問題が,個々の図書館員にとって具体的な判断を求められる事件や問題として目の前にあるという現状を反映しているためだろうか。
 本分科会は3部構成。第1部は三苫正勝・JLA図書館の自由に関する調査委員会全国委員長が,この一年間の図書館の自由をめぐるさまざまな動きについて報告した。報告は最初に「通信傍受法」・改正「住民基本台帳法」「情報公開法」など,一連の,市民の知る権利・プライバシーを守る権利にかかわる重要な法律の成立のことについて触れた。このような政治的環境の大きな変化と歩調を合わせるかのように有害図書指定問題,『石に泳ぐ魚』,タレントの「追っかけ本」,「実名報道」問題など,図書館の自由に関連するさまざまな問題が社会的に取り上げられることが目立ってきており,図書館がどう対応するかについて,マスコミも含め注目を浴びるようになっていることが強調された。
 第2部では,西河内靖泰・JLA図書館の自由に関する調査委員会関東地区小委員から,青少年健全育成条例に基づく有害図書指定の現状と問題点について,『タイ買春読本』『完全自殺マニュアル』を題材に発表した(大会要綱では事例発表「A県立図書館のリクエストへの対応について」となっていたが,諸事情により変更された)。この発表では,これらの本に対する有害図書指定の現状紹介とそれらの動きの背景説明や批判を行った後,図書館としての対応を考えるうえでの原則について言及した。ポイントは,(1)どのような判断をするにしても,不十分な情報や憶測,圧力などによって態度を決めるのではなく,図書館の対応が説明できるよう,事実関係,背景を調査したうえで主体的に判断すること,(2)図書館の使命は資料を提供することにあるのだから,提供の仕方には一定の制限はあるにしても,提供そのものを拒否するのではなく,どのように提供するか考えることが図書館員の責務である,という点だった。
 午後に行われた第3部では,事例研究として,(1)学校図書館で「問題となるような本」のリクエストがあった,(2)一部週刊誌の購入を中止せよと要求があった,(3)警察から「誰が借りているか教えてほしい」との問い合わせがあった,の3件を分科会用に作成した事例集より選択し題材にして,図書館での対応をどう考えるかを,司会のリードで分科会参加者による意見交換を行った。
 最後に,三苫委員長が,図書館への関心の高まりは,一方で図書館の本来的使命に対する理解不足による不当な圧力をも伴ってくる,そのような状況の中で,市民の知る権利を保障するために,図書館員はもっと力をつけねばならないと総括して,分科会は終了した。
 ところで,運営側として反省点がある。本分科会のテーマは「メディアの多様化と『知る自由』の課題」を掲げていたが,基調報告で関連事項に若干触れるにとどまり,事例発表や論議にならなかったことである。全体として論議も活発でなかった。問題についてよくわからないせいもあろう。たしかに「図書館の自由」は現場では判断の難しい問題だろうが,結局は「自由宣言」の原則を踏まえた現実的対応をするしかないのだ。だれかが正答を示してくれるわけではない。もっと主体的に論議してほしかった。

(にしごうち やすひろ : 荒川区立南千住図書館)

このページの先頭に戻る