日本図書館協会図書館の 自由委員会国際的な宣言「忘れられる権利」についてのIFLA声明

「忘れられる権利」についてのIFLA声明 (注1)

IFLA Statement on the Right to be Forgotten. 31 Mar. 2016


はじめに

 「忘れられる権利」は検索エンジン業者(あるいは他のデータ提供者)に対して、個人が自分自身についての情報へのリンクを検索結果から除外するように要求する手段に言及するものである。これは「リスト外にする権利」「無名にする権利」「消去する権利」「忘却の権利」とも呼ばれてきた。マスコミでは、この用語は相互に言い換えられて使われたり、あるいは法律的な見方を基盤として分化しているかもしれない。この文書では、「忘れられる権利」(right to be forgotten=RTBF)をこれらの概念やその適用について普遍的用語として使用する。 

  「忘れられる権利」についての裁判所の決定や法制化の目的は、個人がすでにインターネット上にあるその人自身についての情報検索・入手の困難化を認めることにある。「忘れられる権利」の現時点の適用では、その情報は情報源から除外されておらず、氏名検索による検索結果から辿れないように検索エンジン業者やウェブ作成提供者が対応している。一般的に公表された情報源では情報取得可能になっており、異なる検索エンジン(あるいは同じ検索エンジンでも異なる国のもの)を利用したり、あるいは「忘れられる権利」の決定が適用される特定の名前以外の検索語句を使ったりすれば見つけることができる。つまり、「忘れられる権利」の特定適用によっては、基本的に公表された情報は事実上適用除外されている。

図書館にとっての課題

歴史的記録へのアクセスとその統合

図書館と司書は情報へのアクセスを守り提供するものである。国際図書館連盟(IFLA)は、公のインターネット上の情報は公表された情報とみなしており、人々にとって、あるいは専門的な研究者にとって、価値があり、概して意図的な隠匿や除外、破棄は行われるべきではないと考えている。IFLAは歴史的記録における個人識別情報の保存を主張している。「忘れられる権利」の意図は、一般的に情報を破棄しない、あるいはインターネットを通じて獲得できるところから除外しないところにあり、それは公表された情報を見つけるのにさらに困難にするところにある。しかし、実際には、場合によっては情報を除外しているような影響がおこっている。

IFLA図書館員とほかの情報専門職にとっての倫理綱領(注2)では以下のように述べている。

「現代社会では、図書館と司書を含む情報関連組織団体とそこで働く専門職の役割とは、最大限に記録・記憶を利用し、情報を表現し、さらにそれらにアクセスできる手段を提供することである。社会的、文化的、経済的な豊かさにおける事業での情報サービスはライブラリアンシップの真髄であり、したがって司書は社会的責任を負うものである。」(前文)

 図書館員と他の情報専門職は、情報内容を組織化し提供しており、おかげで利用者は自分が求める情報を見つけることができる。「忘れられる権利」は、司法権力による履行であり、ビジネスや行政といった分野の公人について、氏名によるインターネット検索を曖昧にしようとする可能性があり、系図的歴史的検索では困難化するように言い渡している可能性もある。

情報への自由なアクセスと表現の自由

 国連の「世界人権宣言」(第19条) (注3)で表明しているように、IFLAは「いかなるメディアや限界をいとわず、情報や思想を探究し、受取り、知らせる」権利を支持している。情報への自由なアクセスの理想は、情報が取得可能な状況から除外されたり破壊されたりするところに敬意を払えない。インターネットの内容は、製作者が目的をもって更新し、あるいは除外すると消滅してしまう。しかし、このことは意図的に、あるいは命令されて改ざんされるインターネット上の検索結果とは区別すべきである。情報へのリンクが除外されると、多くの場合、これは情報へのアクセスの亡失ということになる。

 「忘れられる権利」を通じて情報へのアクセスを意図的に減じることで、もはや見つけられなくなった情報は、情報を公表する権利を有する書き手や出版社にとっては、表現の自由についての不満ともなる。

個人のプライバシー

 「IFLA歴史的記録における個人識別情報へのアクセスについての声明(注4) で言及しているように、商業上の秘密情報と政府情報の安全保障と、その目標がさらに高いレベルでの公共善と対立しない限りにおいて、IFLAは生きている人のプライバシーを保護する必要性を認めている。図書館は利用者のプライバシーを守り、個人が利用した図書館情報源とサービスについての秘密情報を維持する。同じように、たとえ個人のプライバシーや、商業的秘密情報、あるいは国家的安全保障の名においてでも、個人的識別情報を含む記録を永久的に閉鎖状態にしたり破壊してしまうことをIFLAは支持しない。

 図書館は、公共善の支持者として、インターネットの状況下での個人のプライバシーについて関わることに神経を尖らしている。「図書館環境におけるプライバシーについてのIFLA声明(注5) では、インターネットから情報を得ようとする人々にとってのプライバシー、あるいはインターネット上でのコミュニケーションによる人々のプライバシーの必要性を考慮している。一般的に、公表された情報にアクセスしようとすると、インターネット上の情報によっては不公平に個人の評判や安全を損じていることを認識しており、そこでは事実ではなかったり、非合法あるいは違法で得られる情報であったり、あまりに個人的には神経にさわったり、もはや関係あるとはいえないほど偏見を生じさせたり、ほかにもありとあらゆることがおこりうるほどである。さらにIFLAはこういった状況と「世界人権宣言」との適合性について、以下のように述べている。

 「何人も、自己の私事、家族、家庭若しくは通信に対して、ほしいままに干渉され、又は名誉及び信用に対して攻撃を受けることはない。人はすべて、このような干渉又は攻撃に対して法の保護を受ける権利を有する。」(注6)

 国によっては、「忘れられる権利」は個人がその状況を主張する手段となっている。「忘れられる権利」をどういった適用で、どの程度なら図書館や図書館員が受け入るかは、情報へのアクセスについて一般的に図書館が懸念しているという面において、それぞれの図書館で、どのように適用されるか、という状況によるだろう。例えば、未成年が犯した犯罪や「私人」の性的暴露写真に言及するようなリンクを排除することは、ビジネス上の失敗や公人、例えば政治家や企業のCEOによって分別を欠くような言質、あるいは法廷命令や司法判断によって封じられたわけではない公の記録に言及するリンクを排除することよりずっと受け入れられるものと考えられる。欧州司法裁判所(the Court of Justice of the European Union(CJEU)) (注7)そのものが、2014年の裁定(注8) で、そういった「忘れられる権利」のそういった制限について提示しており、「忘れられる権利」が情報への自由なアクセスに反することとのバランスをとるものとしている。

 「そのデータの件名が疑問視される情報として入手できないように求められるかもしれないし、概して、そういった権利は、検索エンジンの検索手段提供者にとっての経済的な利益だけでなく、情報を見つけようとする一般大衆にとっての利益にも優先される。しかしながら、特別な理由、例えば公的な生活においてのデータ内容によってその役割が行われていると明確であるなら、検索結果リストに含まれるという理由で、その人が自分の基本的権利について繰り返すことは、一般大衆が疑問視される情報へアクセスし影響をもたらす人々の関心により正当化されていくので事例とはならない。」(「欧州連合基本権憲章」(注9) 第7章と第8章に言及している文章の97行目から引用)

国によっては、「忘れられる権利」の決定は、法制上あるいは司法判断による基準にもとづき、検索エンジンに対して行われるが、別の国ではリンクを除外するために司法命令が求められる。検索エンジンがリンクなどを除外するかどうかの判断をする際に、プライバシーと人々が関心を持っていることとの対立する課題を十分考慮しているかどうかは不透明である。

図書館専門職へのアドバイス

 IFLAは、そのメンバーに「忘れられる権利」について政治的な議論に参加することを求めているが、同時に個々の市民のプライバシーの権利を支持し、情報検索に関し個人を援助することも求めている。このことを効果的に運用するため、図書館専門職は以下のようなことをすべきである。


関連するIFLAの資料

「IFLA図書館員とほかの情報専門職のための倫理綱領」2012年8月12日
IFLA Code of Ethics for Librarians and Other Information Workers. 12 Aug. 2012.
http://www.ifla.org/news/ifla-code-of-ethics-for-librarians-and-other-information-workers-full-version
日本語訳; http://www.ifla.org/files/assets/faife/codesofethics/japanesecodeofethicsfull.pdf

「IFLA歴史的記録における個人認識情報へのアクセスについての声明」2008年12月3日
IFLA Statement on Access on Personally Identifiable Information in Historical Records. 3 Dec. 2008.
http://www.ifla.org/publications/ifla-statement-on-access-to-personally-identifiable-information-in-historical-records
未邦訳

「IFLA図書館と知的自由についての声明」1999年3月25日
IFLA Statement on Libraries and Intellectual Freedom. 25 Mar. 1999
http://www.ifla.org/publications/ifla-statement-on-libraries-and-intellectual-freedom
日本語訳; http://www.ifla.org/files/assets/faife/statements/iflastat_ja.pdf
https://www.jla.or.jp/portals/0/html/jiyu/ifla1999.html


Last update: 31 March 2016 2016年3月31日最終更新
(注1)IFLA Statement on the Right to be Forgotten.31 March 2016 http://www.ifla.org/publications/node/10320

(注2)「IFLA図書館員とほかの情報専門職のための倫理綱領」2012年8月12日
IFLA Code of Ethics for Librarians and Other Information Workers. 12 Aug. 2012.
http://www.ifla.org/news/ifla-code-of-ethics-for-librarians-and-other-information-workers-full-version
日本語訳 http://www.ifla.org/files/assets/faife/codesofethics/japanesecodeofethicsfull.pdf
注;司書有資格者だけでなく、図書館で働くすべての者、ベンダーや図書館システム等で働く情報関連職者も対象としている。

(注3)「世界人権宣言」和文 外務省 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/udhr/1b_002.html
第十九条
 すべて人は、意見及び表現の自由に対する権利を有する。この権利は、干渉を受けることなく自己の意見をもつ自由並びにあらゆる手段により、また、国境を越えると否とにかかわりなく、情報及び思想を求め、受け、及び伝える自由を含む

(注4)IFLA歴史的記録における個人認識情報へのアクセスについての声明」2008年12月3日
IFLA Statement on Access on Personally Identifiable Information in Historical Records. 3 Dec. 2008.
http://www.ifla.org/publications/ifla-statement-on-access-to-personally-identifiable-information-in-historical-records
未邦訳

(注5)「図書館環境におけるプライバシーについてのIFLA声明」2015年8月14日
IFLA Statement on Privacy in the Library Environment 14 August 2015
http://www.ifla.org/publications/node/10056?og=30
日本語訳 http://www.ifla.org/files/assets/hq/news/documents/ifla-statement-on-privacy-in-the-library-environment-ja.pdf

(注6)「世界人権宣言」和文 外務省 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/udhr/1b_001.html
第十二条
 何人も、自己の私事、家族、家庭若しくは通信に対して、ほしいままに干渉され、又は名誉及び信用に対して攻撃を受けることはない。人はすべて、このような干渉又は攻撃に対して法の保護を受ける権利を有する。

(注7)欧州司法裁判所(the Court of Justice of the European Union(CJEU)) http://curia.europa.eu/ 

(注8)欧州司法裁判所(the Court of Justice of the European Union(CJEU))による2014年の裁定
「「忘れられる権利」の判決について知りたい」駐日欧州連合代表部の公式ウェブマガジン http://eumag.jp/question/f0714/
(2016年6月16日確認)によると、所有していた不動産の競売について現在でも検索結果としてでてくるのはプライバシー侵害であると、スペイン人がグーグルを相手取って提訴し、2014年5月に欧州司法裁判所が一定の条件下でグーグルなどの企業は削除する義務があると裁定をだした事例である。
ほかに参考資料として、今岡直子「「忘れられる権利」をめぐる動向」立法情報 2015年3月10日 p1−14 http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_9055526_po_0854.pdf?contentNo=1&alternativeNo=  (2016年6月16日確認) などがある。

(注9)EU基本権憲章と欧州人権条約 http://eumag.jp/feature/b0712/#table01
駐日欧州連合代表部の公式ウェブマガジン(2016.6.14.確認)
EU Charter of Fundamental Rights http://ec.europa.eu/justice/fundamental-rights/charter/index_en.htm


(日本語訳と注:井上靖代 2016年6月)

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