日本図書館協会 > 図書館の自由委員会 > 国際的な宣言 > IFLA/ デジタル環境における著作権に関する国際図書館連盟の立場

デジタル環境における著作権に関する国際図書館連盟の立場

IFLA Position on Copyright in the Digital Environment

2000年8月21日 IFLAエルサレム年次大会で採択


 国際図書館連盟は,広く世界的な視野から,図書館と情報の仕事のあらゆる側面に関する調査研究に取り組み,支援し,調整し,また図書館情報業務のあらゆる側面についての情報を広く伝えるために,そしてこの分野における会合や研修を組織するために存在する国際的な非政府組織である。

 国際的な著作権論議の場において,国際図書館連盟は世界の図書館とその利用者の利害を代表する。著作権法は,図書館が行っていることの多くに影響を与えている。それは,図書館がその利用者に提供しうるサービスに影響を及ぼし,図書館が著作権ある資料へのアクセスを提供できる諸条件は情報探索の水先案内人としてどのようにサービスしうるかという態様に影響を与え,また図書館が行いうる効果的な保管,保存にかかわる諸活動の姿を決めてしまうことになりかねない。まさにこのような理由から,国際図書館連盟は国際的な著作権論議に参加する。

均衡のとれた著作権はすべての人びとのためのものである

 図書館員たちと情報専門職たちは,その利用者たちが得たい著作権ある著作物とそこに含まれる情報と思想へのアクセスのニーズを認識するとともに,それを支援しようと努めている。彼らはまた,著作者や著作権者がその知的財産にもとづき公正な経済的対価を得たいとするニーズも尊重している。著作物への効果的なアクセスは,著作権制度の諸目的を達成するために必要不可欠である。国際図書館連盟は,権利保有者に対して強力で効果的な利益保護を与えるとともに,創造性,革新,研究開発,教育と学習を促進するために,著作物に対し合理的なアクセスを与えることにより,社会全体の発展をうながす均衡のとれた著作権法を支持する。

 国際図書館連盟は,著作権の効果的な執行を支持し,増加を続ける地域的な遠くはなれた電子的情報資源へのアクセスを規整するとともに,それを容易にするうえで,図書館が決定的な役割を果たすことを認識している。図書館員たちと情報専門職たちは,著作権を尊重することを促進し,印刷媒体であるか,デジタル環境であるかを問わず,盗用,不公正な利用,そして無権限の利用から著作権ある著作物を積極的に保護するものである。図書館は,従来より,著作権法の重要性について利用者たちに知らせるとともに,その旨を教育するうえで,またその遵守を奨励することにつき,一定の役割をになっていることを理解してきた。

 しかしながら,国際図書館連盟は,著作権の過度な保護が情報と知識へのアクセスを不当に制限することになり,民主主義の伝統をおびやかし,社会的正義の諸原則に悪影響を与えかねないと主張せざるをえない。著作権があまりに強く保護されることになれば,競争と革新が制限され,創造性の芽が摘み取られてしまう。

デジタル環境において

 現在,デジタル形態の情報生産が増大し続けている。新しいコミュニケーション技術は情報へのアクセスを改善するうえでこれまでにない大きな機会をもたらしたし,技術の進歩により,距離が遠く離れていたり,あるいは経済状態に恵まれない人びとにとって,コミュニケーションと情報へのアクセスが改善できる可能性が拡大した。しかしながら,技術はまた社会を情報富裕層と情報貧困層の2層分化を促進させる可能性をもつことを,わたしたちは知っている。デジタル環境において,著作権ある著作物への正当なアクセスが維持されないとすれば,対価を支払うことのできない人々にとっては,情報アクセスを拒否する障壁がいま以上に大きなものとなってしまう。

 図書館は,情報社会において,あらゆる人びとのために,情報アクセスの確保に関し,重要な役割を演じ続けるであろう。適切に機能する国レベルと国際的レベルの図書館情報サービスのネットワークは,情報へのアクセスを提供するうえできわめて重要である。伝統的に,図書館は,今日にいたるまで,著作権ある著作物の複製を購入し,その保有する資料コレクションに加え,利用者に対し適切なアクセスを提供することができた。

 しかしながら,将来において,デジタル形態の情報へのアクセスと利用がことごとく対価を支払わざるをえないということになるとすれば,その利用者に対して情報アクセスを提供するという図書館の機能はきびしい制限をうけることになる。著作権保有者と図書館利用者との間の利害の均衡を維持するために,国際図書館連盟は以下の諸原則を確認する声明を作成した。

デジタルでも異なるところはない

 ベルヌ条約は,ベルヌ同盟の加盟国に対して,著作物の通常の利用と矛盾せず,著作者の正当な諸利益に損害を与えることのない,一定の特別な場合に例外措置をとることを認めている。

 1996年,世界知的所有権機構(WIPO)の加盟国は,デジタル環境に適合するよう著作権法を更新するべく,二つの条約を採択した。現行の例外的諸規定と,著作権制限諸規定がデジタル環境のもとで推進され,拡大され得ることを確認し,世界知的所有権機構加盟国は「デジタルの場合は別だ」という主張を否定した。締約諸国は,デジタル環境において,そのような著作権制限諸規定を推進し,それらを拡大し,またそれが適切な場合には新たな例外措置を創設することが許されている。

 国際図書館連盟は,教育や調査研究のように,公共的利益の範囲内にあり,公正な慣行に一致する諸目的に該当する場合には,図書館や市民に対して,著作物へのアクセスが認められ,しかも無償であるとする例外的措置が与えられなければ,対価を支払える人たちだけが情報社会の恩恵を享受しうるという危惧が現実のものとなりかねない,と断言する。このことは情報富裕層と情報貧困層との間の格差をさらに一層大きなものとするであろう。さらに言えば,著作権法上,視覚,聴覚,ないしは学習能力に障害をもつ人たちに対して,差別があってはならない。それをアクセス可能とするために資料の形式変換を行うことは,著作権の侵害行為と考えられるべきではなく,合理的な情報アクセスの手段と考えられるべきものである。

1.国レベルの著作権立法においては,ベルヌ条約に認められ,WIPO条約によって是認された著作権および著作隣接権に対する例外的諸規定は,著作権制限の認められた諸利用が電子形態の情報にも印刷形態の情報にも等しく適用できるよう,必要な場合には,改正されなければならない。

2.これら著作権制限諸規定の範囲を超える複製を対象として,行政的に単一の著作権使用料金体系が定められるべきである。

3.著作権ある資料の使用に付随する暫定的もしくは技術的複製は,複製権の対象範囲から排除されなければならない。

4.デジタル形式の著作物については,図書館利用者のすべては,対価の支払いまたは使用許諾を求められることなく,

情報資源の共有

 資源共有は,教育,民主主義,経済成長,保健・福祉,および個人の成長において,決定的な役割を演じている。それは,別な方法では情報を求める利用者,図書館,または国が利用できないであろう広範な情報へのアクセスを促進する。資源共有は費用節減のはたらきをするだけでなく,経済的,技術的,または社会的理由から,その情報に直接アクセスできない人びとに対して,利用可能性を拡大するはたらきをする。

5.研究開発または調査研究のような正当な目的のために,利用者に対して,デジタル形式の法的に保護された著作物へのアクセスを提供することは,著作権法のもとで認められる行為でなければならない。

貸出サービス

 非営利の公衆への貸出サービスは,伝統的に著作権法によって規制される活動とはされてこなかった。公衆への貸出サービスは,文化と教育にとって,不可欠である。貸出用所蔵資料の一部を構成し,また今後その一部を構成するあらゆる形態で蓄積されたすべての情報は,利用可能なものとされるべきである。一方,貸出サービスは,商業的に製品化された情報のマーケティングを助け,その販売を促進する効果をもつ。現実に,図書館は,あらゆる形態をとる情報の販売促進の触媒のはたらきをしている。したがって,貸出サービスに対して法的ないしは契約によって制限を加えるとすれば,図書館ばかりか,著作権保有者にとっても,不利益をこうむることになるであろう。

6.図書館が物理的実態をもち発行されたデジタル資料(たとえばCD−ROM)を貸し出すことは,立法によって制限すべきではない。

7.たとえば,使用許諾契約のなかに定められた契約上の諸規定は,図書館情報機関職員によって行われる電子的情報資源の適切な貸出サービスを阻害するものであってはならない。

保存

 図書館は,情報を収集し,保存する。事実上,情報と文化の保存についての責任は図書館情報専門職に属するものである。著作権法は,図書館が保存技術を改善するために新しい技術を利用することをさまたげてはならない。

8.図書館や公文書館が,保存に関係する諸目的を果たすために,著作権で保護された資料をデジタル形式に変換することを認める立法がなされなくてはならない。

9.また,電子メディアの法定納入制度を定める法律が制定されなければならない。

契約とコピー・プロテクション・システム

 著作権保護は,当然のことであるが,著作物の利用とあらたな著作物を生み出す創造性を促進するものであるべきで,それらを抑制するものであってはならない。著作権法は権利保有者に著作権に対する例外的措置と制限規定を乗り越える技術的または契約的諸方策に訴える権限を与えるべきではなく,また国際的および国内的な著作権立法において均衡の体系をゆがめてはならない。使用許諾契約は著作権法制を補完すべきものであって,それに置き換わるべきものであってはならない。情報の規制ではなくて,情報へのアクセスが著作物の利用を増大させる。実際,調査研究の示すところによれば,技術的保護によって過度に著作物の利用を規制することは,新たな著作物の生産を抑え,逆効果を招くということになっている。著作権侵害行為を防止する技術的措置の回避が出てくることは,避けられない。

10.国レベルの著作権立法を行い,権利保有者が利用者に対して使用許諾契約上の諸条件に関する交渉の機会を与えることなく,一方的に使用許諾契約を定める場合,著作権法に具体的に規定された例外的規定や著作権制限規定に限定を加えたり,それらを乗り越える使用許諾契約条項を盛り込んだときには,それらがどのようなものであれ無効なものとすべきである。

11.国レベルの著作権法は,技術的手段を通じてみずからの諸権利を守ろうとする著作権者の権利と,正当で侵害の意図をもたない目的でそのような技術的措置を回避する利用者の諸権利との問の均衡をとることをめざすべきである。

著作権侵害に対する責任

 もっとも,仲介者としての図書館は,著作権法の遵守を確保するうえで重要な役割を演ずるものではあるが,著作権侵害の責任は究極的には侵害者が負うべきものである。

12.著作権法は,その遵守を強いることが現実的,もしくは合理的でない場合には,第三者の責任についての明確な制限規定を明文で定めるべきである。

(山本順一 訳)


(『図書館雑誌』vol.94,no12(2000.12))


Latest Revision: January 25, 2001
copyright ©
International Federation of Library Associations and Institutions
www.ifla.org

このページのトップに戻る