文献紹介1

新しい図書館利用教育の基本的な実践書

―あらゆる図書館で使える―

戸田光昭(駿河台大学名誉教授)

文献:『情報リテラシー教育の実践:すべての図書館で利用教育を』
(JLA図書館実践シリーズ14)日本図書館協会図書館利用教育委員会編
日本図書館協会発行 2010年3月 180ページ 1,800円(税別)

読みやすく,よくまとまった実用的な入門書である。 目次を見ると難しそうな部分もあるが,読み方を間違えなければ,これほど役に立つ「図書館利用教育」の入門書は他にない。 本稿でその読み方を伝授します。

まず,1章「本書を手に取ったみなさんへ」は、必ず読まなければならない。分かり難い箇所があるかもしれないが,ていねいに,時間をかけて読む必要がある。この本の内容全体に対する導入であり,入門的な内容になっている。読み飛ばさないことが肝要である。場合によっては,赤鉛筆を手に持って,アンダーラインを引きながら読むのもよいであろう。
執筆者は,日本の図書館利用教育の先駆者であり,今でも第一人者の丸本郁子元委員である。時間をかければ必ず理解できる内容になっている。

次のステップとしては,最初から体系的に読みたい場合,2章「情報リテラシー教育をめぐる理論」へ進み,その文末にある「注・引用文献」を入手して詳細に読むのもよいが,すぐに実践効果を期待したい時は,Ⅱ部「実践編」の3章から9章のうち,自分が直接関係する実践例,あるいは興味のあるテーマ(実践例)を探して読むのがよいだろう。
 こうして読み進めれば,まさに実践的な入門図書としての利用価値が即効体感できる。

本書は,「図書館利用教育」を「情報リテラシー教育」へと発展させた内容の出版物としては,最初のものの一つといえるであろう。従来型の利用教育からこのように発展できたのは,館種を越えた内容になっているからである。
特に専門図書館では,情報の評価が重要であり,学校図書館ではメディアリテラシーが重要である。
これらを含めたリテラシーを指導,支援できなければ,これからの図書館機能を発揮することは困難である。

なお,追記すると,よい利用教育が可能な条件がいくつかあって,最初の条件は,もちろん,優秀なライブラリアンであるが,第二の条件はいわゆる「よい図書館」である。しかも単一の図書館ではなく,図書館の連携網が整っていることである。先日亡くなった井上ひさしさんの生前の最後の出版物の一つである『ボローニャ紀行』(文春文庫,2010年3月発行,単行本は2008年3月発行)には,ボローニャの女子修道院の建物を再生させ,移転してきた「イタリア女性図書館」が紹介されている。
これは,ヨーロッパに30以上ある「女性問題研究図書館」を束ねる本部にもなっている。すなわち,ヨーロッパ女性図書館ネットワーク(WINE)の調整本部になるという。このようなシステム(図書館ネットワーク)を有することが「よい図書館」の必要条件である。

以上

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