リレーコラム:りてら式

りてらしき人生-旅は情報活用術の良い応用問題-

仁上幸治(早稲田大学図書館)

1.いざ沖縄へ
 2000年の全国図書館大会は沖縄の想い出で一杯だ。図書館利用教育分科会は「情報リテラシー支援の最前線へ―実例・教材・ノウハウの交流サロン―」というテーマで沖縄県青年会館で開催されて,参加者124名で大いに盛り上がった。8つのポスターセッションのひとつとして僕ら私大図協企画広報研究分科会は「共同利用パスファインダーバンクの研究開発-ツールの共有化と個別化の両立を求めて-」と題して研究発表を行った。主催者側委員であり発表者でもあった僕が,委員会と分科会の両方のメンバーおよび友人知人のでツアーを組んではどうかという話をしたら,「言い出しっぺが幹事」の法則で,ツアコン役を務めることになってしまった。今,その準備プロセスを振り返ってみると,情報リテラシー教育の貴重な教訓が含まれていたように思えてくる。

2.事前リサーチは航空券から
 まずは2泊3日の航空券とホテルを自前で予約するか,パックツアーを申し込むかの選択だ。航空券は,大会オフィシアルツアーの往復運賃3万7千円を基準に考えると,2泊分のホテル代をプラスした合計がツアー費用ということになる。宿泊費1泊7千円なら2泊で1万4千円,合計5万1千円。これがベースライン。旅行会社のパックツアーのパンフレットを集めて比較すると,2泊3日の価格はかなりバラついていることがわかる。航空券の値段は発着時刻が午前と午後では異なるし,早朝や深夜だとやや低価格の設定になっていて,早割もあるがキャンセル料のリスクも生じる。資料の向こうに旅行業界の経済の仕組みが見えてくる。

3.奥深いホテル選び
 ホテル選びは,当然ながらグレード次第だ。眺望の良い高層階を選べば高くなる。施設設備の差も大きい。大浴場あり,できれば露天で天然温泉,プール付きなら最高というのが個人的な希望条件だ(笑)。ホテル比較には,付加サービスのチェックも欠かせない。ウェルカムドリンク,プールサイドのトロピカルドリンク,館内の食事買物割引など,パンフレットの注の細かな文字までしっかり読めば,実にいろいろなサービスが付いていることがわかる。小さな差でも,ないよりはちょっとうれしいのが人情だ。

 

もちろん,同じ価格ならデラックスなほうがいいに決まっている。逆に言えば,使いきれない施設や付加サービスをカットして安く上げられればそれに越したことはない。どうせ夜は反省会等で遅くなるのだから,帰って寝るだけだろう。だったら,ゆとりの洋室ツインよりもワンランク安い和室4人部屋で十分だということになる。

 

ホテルの立地も重要。空港と会場からの距離は移動時間と交通費に影響する。空港送迎バスの有無も要チェック。反省会なども含めた行動計画しだいで深夜タクシーの心配もしなければならない。翌日現地図書館見学を予定するなら延泊料金やレンタカーの手配も調べておきたい。そんなこんなで,パンフレットやガイドブック,新聞の切り抜き,ウエブページのプリントアウトなどのマーカーや付箋だらけの資料の山ができていく。

4.すべては目的しだい

 勉強だと面倒くさいが,旅行の下調べなら全然苦にならないから不思議だ。工夫しだいでみんなの満足度もアップすると思えば張り合いもある。那覇市内に化石海水温泉の露天風呂とプール付きのホテルがあることを発見した嬉しさでさらにアドレナリンも増える。何よりやってみて初めてわかる旅情報もたくさんあって,調べる作業自体が楽しくなってくるのだ。ヘタすると本末転倒になる危険さえある。

 現地情報は,地図と首っ引きで会場の位置とホテルとの間の交通情報を集める。忘れてならないのが現地在住者情報だ。レストランやライブハウス,ビーチなどの最新情報は,東京在勤中に知り合って沖縄へ帰郷した友人に相談するのが一番確かだ。資料情報だけでは,商業的なバイアスを補正しきれないからだ。

 事前リサーチの結果,ある程度資料が集まったら,プランの最終選択肢を絞る段階になる。参加希望者の意見を聞き,費用だけでなく移動時間,利便性などの情報を総合的に分析・評価する必要がある。整理された選択肢の中から最終的にどれを選ぶか,それが最後の大問題だ。どのプランもそれぞれに捨てがたい良さがあるから,実に悩ましい。目的や,それを達成する方法手段も制約条件も複数あるとなれば,選択する基準も単純ではない。何を重視するのか,優先順位をはっきりさせないといけない。やはり,行動日程を細かく煮詰めておくことが前提になる。そこまですっきり整理できてしまえば,あとは目的に合った最適プランを選べばよいだけだ。

5.問題解決と情報活用
 このように,さまざまなメディアを通じて情報を探索・入手,整理・分析,加工・発信することで,ツアーの決定、参加者の確認まで持ち込むプロセスを考えると,高校時代の伊豆大島クラス旅行を思い出さずにはいられない。旅行委員としてやったことはほとんど同じだ。パンフレットに書いた島の地図や観光スポットの解説は今でも再現できそうなくらい記憶も鮮明だから,よほど入れ込んで作ったのだろう。

 学生に情報リテラシーを習得してもらうには,修学旅行の計画作りや報告発表会が有効だということの根拠がこんなところにあったのだ。自分が興味があることには飽きずに主体的に取り組めるし,やってみると楽しいし,想い出を人に伝えたくなるし,そのためにはいろんな準備を積極的にしてみようと思ったりする。情報探索からプレゼンテーションまで,通して学べるのだから,教育効果は抜群だ。そのうえ,現地へ出かけてからも,時々刻々と次の行動を選択する決断力を鍛えられる。旅は,まさに「問題解決のための情報活用」の応用問題そのものではないかと今更ながら思い至る。

6.予想以上の収穫
 会場設営はみんなが異常なくらいのハイテンションでやり遂げた。分科会当日の講演も各発表も自分たちの発表も予想以上の大成功だった。主催者も参加者も完全燃焼の充実感に包まれて終了した。国際通りでの反省会と二次会で一同思いきりハジけた。

 運営上も貴重な教訓がたくさんあった。県立武道館の大会受付前の日図協のブースで「りてらしい」Tシャツ(「たのもしい・めざましい・すばらしい・りてらしい」の文字入り)を完売した経験から,気温が高く、スーツ姿で受付に現れる人が多ければTシャツが飛ぶように売れるというマーケティングの法則を発見できた。ALAのポスターやしおりなどの販売行為が禁止であれば,会場撤収協力者お持ち帰り方式でカンパを募る形にすることで撤収をスムーズに終わらせるコツを学べたことも大きな収穫だ。等々。

7.後日談と図書館利用教育の教訓
 アフターの見学会やリフレッシュタイムの濃密な時間は今でも夢のようだ。現地の首里城近くの友人宅での温かい心からのおもてなしは一同一生忘れないだろう。カメラ,携帯電話,買出し,レンタカーなどの手配に自主的に動いてくれたメンバーのチームワークも見事だった。感謝の言葉で羽田解散。ツアコン冥利に尽きる一瞬だ。

帰京後しばらくは,お土産で買い込んだシーサーと星の砂とヨナグニ花酒とトウフヨウなどを眺めてシミジミぼんやりしてしまったメンバーも多かったのではないか。参加者メーリングリストもできて後日,沖縄ツアー同窓会を開催した。沖縄料理屋に写真持参で集合だから,気分はあの夜の那覇の国際通りにワープする。今も沖縄のニュースや広告を見るたびに,リアルに蘇るあのツアーの記憶……。

 旅のプランニングは,多かれ少なかれ誰でも自分なりに実践していることだし,もっと一般化して,人生そのものが旅だと言えばちょっと陳腐すぎるか。もちろん,行き当たりばったりのブラブラ旅の良さは認めるとして,今回のような情報リテラシー勝負の計画実行型の旅にはそれなりの方法論があることは確かだ。CUEメルマガ用原稿だからとちょっと無理なこじつけっぽかったらすみません。(^^ゞ しかしまあ,一片の真実は含まれていそうに思えるので書いてみました。みなさん,どうでしょうか?

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