文献紹介

公共図書館における「課題解決型サービス」の実例の紹介とともに,理論面での検討を行っている1冊
―文部科学省の協力者会議や審議会の報告・答申も合わせて参照を

春田和男(筑波大学大学院生)

文献:大串夏身編著『課題解決型サービスの創造と展開』(図書館の最前線3)
青弓社,2008,261p.2,000円(税別)

 本書のタイトルにある「課題解決型サービス」とは,地域の課題解決のために,公共図書館が資料,知識,情報を提供するとともに,関連する講演,相談会などを開催するサービスのことである。本書では,ビジネス,仕事,生活,健康・医療,食育などのサービスの状況や実際について報告するとともに,理論面での検討も加えている。本書は11章からなる。

 第1章では,大串夏身氏(昭和女子大学大学院教授)が,公共図書館において「課題解決型サービス」を提供する意義について論じている。

 第2章では,小林隆志氏(鳥取県立図書館)が,鳥取県立図書館におけるビジネス支援事業について紹介している。

 第3章では,宮下明彦氏(長野県図書館協会)が,上田情報ライブラリーにおける青年・女性のキャリアアップと就労支援,上田地域若者の自立支援の取り組みについて紹介している。

 第4章では,千種幹子氏(福岡県立図書館)が,幼児から高齢者まですべての世代の人々に利用される役に立つ図書館をめざす福岡県立図書館の取り組みについて紹介している。

 第5章では,中山康子氏(東京都立図書館)が,「健康情報サービス」の定義と内容を示したうえで,東京都立中央図書館の取り組みについて紹介している。

 第6章では,宮川陽子氏(福井県立図書館)が,福井県立図書館と若狭図書学習センターにおける食育情報の提供について紹介している。

 第7章では,中井康恵氏(鳥取県立米子工業高等学校)が,鳥取県立図書館による高等学校図書館への具体的な支援策,学校図書館と公共図書館の連携について論じている。

 第8章では,奥村和廣氏(東京都立中央図書館)が,公共図書館における法律情報サービスについて論じたうえで,東京都立中央図書館の取り組みについて紹介している。

 第9章では,桑原芳哉氏(横浜市中央図書館)が,行政支援サービスの定義とこれまでの取り組みの経過を示したのち,横浜市立図書館における「庁内情報拠点化事業」について紹介している。

 第10章では,大塚由良美氏(桑名市教育委員会)が,桑名市立中央図 書館における郷土資料の保存活用事例について紹介している。

 第11章では,山崎博樹氏(秋田県立図書館)と蛭田廣一氏(小平市企画政策部)が,公共図書館における地域情報の現状と課題について論じるとともに,小平市立図書館の取り組みについて紹介している。

 公共図書館における「課題解決型サービス」の重要性については,本書の第1章に書かれているように,文部科学省「これからの図書館の在り方検討協力者会議」が2006年に発表した「これからの図書館像―地域を支える情報拠点をめざして―(報告)」や中央教育審議会が2008年に発表した「新しい時代を切り拓く生涯学習の振興方策について~知の循環型社会の構築を目指して~(答申)」に示されている。本書とともに,これらの報告や答申も参照されることをおすすめしたい。

[参考文献]
  1. これからの図書館の在り方検討協力者会議「これからの図書館像―地域を支える情報拠点をめざして―(報告)」2006,94p.
    http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/18/04/06032701.htm
  2. 中央教育審議会「新しい時代を切り拓く生涯学習の振興方策について~知の循環型社会の構築を目指して~(答申)」2008,131p.
    http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/index.htm
    ([諮問・答申・報告]の2008年2月19日をご参照ください)
  
 

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