貸出業務へのコンピュータ導入に伴う個人情報の保護に関する基準

〔一九八四年五月二五日社団法人日本図書館協会総会議決〕 
  

   私たちは「図書館の自由に関する宣言 一九七九年改訂」において、「図書館は利用者の秘密を守る」ことを誓約した。さらに、一九八○年五月に採択した「図書館員の倫理綱領」においても、このことを図書館員個々の共通の責務として明らかにした。
 近年、各図書館においてコンピュータがひろく導入され、貸出業務の機械化が進行している。これに伴って他の行政分野におけると同様、個人情報がコンピュータによって記録・蓄積されることに、利用者の関心が向けられつつある。
 コンピュータによる貸出しに関する記録は、図書館における資料管理の一環であって、利用者の管理のためではないことを確認し、そのことに必要な範囲の記録しか図書館には残さないことを明らかにして、利用者の理解を得るよう努めなければならない。さらに、コンピュータのデータは図書館の責任において管理され、それが目的外に流用されたり、外部に漏らされたりしないこと、そのために必要な方策を十分整理することがぜひ必要である。
 コンピュータ導入は、大量の事務処理を効率的に行う手段であって、この手段をいかに運用するかは図書館の責任である。いかなる貸出方式をとるにせよ、利用者ひいては国民の読書の自由を守ることが前提でなければならないことを再確認し、その具体化にあたっては、以下の基準によるべきことを提言する。
一 貸出しに関する記録は、資料を管理するためのものであり、利用者を管理するためのものではないことを前提にし、個人情報が外部に漏れることのないコンピュータ・システムを構成しなければならない。
二 データの処理は、図書館内部で行うことが望ましい。
三 貸出記録のファイルと登録者のファイルの連結は、資料管理上必要な場合のみとする。
四 貸出記録は、資料が返却されたらできるだけすみやかに消去しなければならない。
五 登録者の番号は、図書館で独自に与えるべきである。住民基本台帳等の番号を利用することはしない。
六 登録者に関するデータは、必要最小限に限るものとし、その内容およびそれを利用する範囲は、利用者に十分周知しなければならない。
  利用者の求めがあれば、当人に関する記録を開示しなければならない。

 (附)「貸出業務へのコンピュータ導入に伴う個人情報の保護に関する基準」についての委員会の見解

日本図書館協会図書館の自由に関する調査委員会
〔『図書館と自由 第六集』日本図書館協会昭和五九年一○月二五日で公表〕
  
 日本図書館協会は、一九八四年五月二十五日の総会において「貸出業務へのコンピュータ導入に伴う個人情報の保護に関する基準」を採択した。
 この基準の検討過程で問題となった論点について、委員会の見解を表明しておきたい。

一 データ処理の外部委託について
   貸出しが図書館奉仕の中核的業務として確認されてきたなかで、貸出記録が資料の貸借関係終了後は図書館に残らない方式が、利用者の読書の自由を保障するために重要であることが確認され、ひろく利用者の支持を得てきた。
 この利用者のプライバシー保護の原則は、コンピュータが貸出業務に導入されることになっても、これまでと同様に守られなければならない。したがって、貸出記録が外部に漏れるのを防ぐためコンピュータによる貸出記録の処理は、本来図書館内で行なわれるべきものである。
 しかしながら、コンピュータの急激な普及に伴い、その保守・運用にあたる態勢が十分に整わないとか、大型機器採用の経済性を重視するなどの理由から、データ処理業務の一部を外部機関にゆだねたり、民間業者に委託したりする事例が生じている。さきに述べた理由から、貸出の処理を委託することは望ましいことではないが、過渡期において一時的にそうした方式を採用することが起こりうる。
 委員会としては、貸出記録の処理は図書館の責任において館内で行うことを原則とし、これを可能にする方式を追求すべきであると考える。
 もし、やむを得ず委託する場合には、委託契約等に厳格な守秘義務を明記することを条件とし、できるだけ早い機会に館内処理に移行するよう措置することを希望する。

二 貸出利用者のコードの決め方について
 貸出業務のなかでは、利用者をコードで表示するのが一般的であるが、基準ではそのコードには図書館が独自にあたえたものを採用することにしている。
 これは、貸出記録を資料管理の目的以外には使用せず、また貸出記録のファイルを他の個人別データ・ファイルと連結利用することを不可能として、利用者のプライバシーを最大限に保護しようという趣旨である。
 基準検討のさい論議された大学図書館等において学籍番号を利用者コードとして利用することは、この番号が教務記録その他学生管理に使用することを目的としたものである点からみて、委員会としては上記の趣旨にそわないものであると考える。