第4回IFLA国際目録規則専門家会議報告
(4th IFLA Meeting of Experts on an International Cataloguing Code: IME ICC4)

永田治樹・渡邊隆弘・横山幸雄・原井直子・増井ゆう子

 IFLA(国際図書館連盟)ソウル大会(第72回総会)に際して,IME ICC4が韓国国立中央図書館を会場に去る8月16日から18日まで開催された。

 情報通信技術の進展により,図書館が扱う資料・情報が拡大し,また目録情報はデータベースとして維持されるようになって,図書館目録の様相は大きく変わった。さらにメタデータ(資料・情報を記述した情報)の問題が図書館以外のコミュニティで種々議論されるようになり,図書館界が逆にキャッチアップを試みなくてはならない問題も生じている。このような状況に対応すべく,IFLA目録分科会でもかねてから目録のあり方の再検討に着手しており,目録情報を新たな観点から分析することによって「書誌レコードの機能要件(Functional Requirements for Bibliographic Records: FRBR)」(1997年)などの成果をみている。そして,改めて「図書館目録における書誌レコードや典拠レコードに関する標準化の推進を行い,世界的規模で目録情報を共有する能力増強」のために,これまで目録規則の指針となってきたパリ原則(Statement of Principles Adopted at the International Conference on Cataloguing Principles,1961)の見直しを掲げて,IME ICCが始められた。

 第1回の会合は,ヨーロッパ地域の参加者を対象に2003年にフランクフルトで開催され,新たな国際目録原則覚書(Statement of International Cataloguing Principles)(以下“ICP”という)が作成された。その後,世界各地域でこの会議を開催し,ICPに対する議論を重ねて,最終的にこれに対する全世界の合意をつくりだすという計画で展開されている。

 第2回は,ブエノスアイレス(南米・カリブ海地域対象)で,続いて第3回はカイロ(アラビア語地域対象)で開催され,今回のソウルでの第4回会合は,アジア地域を対象として開催されたものである(アフリカ地域を対象に,第5回会合はダーバンで開催予定)。最終報告によると,ソウルでの会合ではアジア地域17か国61名の招待者のうち12か国44名の参加があり,IME ICC企画委員会メンバーを加えると16か国49名が参集したという。日本からは,11名が参加した。

 この会議は大別して四つに分けられていた。第1は,IME ICCに関わる問題の提示で,企画委員会のそれぞれのメンバーから,「国際目録原則覚書草案 : 概要」(B.ティレット:米国議会図書館),「国際標準書誌記述(ISBD) : 安定性を維持しつつ標準を更新する」(E.エスコラーノ : スペイン国立図書館),「FRBRの用語と概念」(P.リバ : マッギル大学図書館),「バーチャル国際典拠ファイル(VIAF)」(B.ティレット)という四つのプレゼンテーションがあった。

 第2は,アジア地域の各国からのカントリーレポートで,その国の目録規則の状態と,パリ原則および今回の原則案との異同をとりまとめたものである。カンボジア,中国,インドネシア,日本,韓国,ネパール,スリランカの順に報告された。これらについてはIME ICCのウェブサイト(http://www.nl.go.kr/icc/icc/papers.php)に掲載されている。日本からの報告は,永田治樹が日本目録規則(NCR)のこれまでの変遷をたどりつつ,その特徴点を紹介し,かつICPとの異同を説明した。

 第3は,五つのテーマに分かれたワーキンググループである。五つのテーマは目録規則の基本的あるいは今日的な課題である。また,ここではカイロ会議を踏まえてまとめられたICPとそれにともなう用語集案の検討がすべてのグループで行われた。ワーキンググループの議論については,本報告の後半の部分において,それぞれ参加したメンバーの要約を付した。

 第4のセッションは,ワーキンググループ会議の報告を受け,ティレット氏の進行による総括討論である。ここで問題となった事案は,さらに以前の会議の参加者も含めたメーリング・リスト上で続けられ,結論は全員の投票によって決する。また,それに基づき来年のIME ICC5までに,ソウル会議のICPが作成されることになる。その意味ではまだIME ICC4は終了していない。

 アラビア語地域に対してはカイロ会議でとりあげられているためアジア地域といっても,IME ICC4は東アジアから中央・南アジア地域が中心となる。ただし,そのうち,英米目録規則を採用せず独自の目録規則を有し,また独自の出版慣行を受け継いでいる日中韓(CJK)各国の資料の問題が勢い議論の中心になった。われわれも,これまでICPで中心的ではなかったCJK資料の問題を表明することがこの会議の主要課題であるという認識に立ち,できるだけ発言に努めた。しかし,CJK各国の事情を反映すればいいというわけではなく,その前提として一般的な課題として提起するための論理の組み立て(例 : ヨミ表記)や,またCJK各国間での調整(例 : 姓名表記)が求められる。今後ともCJK各国が連携していく必要があろう。

 今回のIME ICC4は,オーガナイザーであるB.ティレット氏や事務局を担当したイ・チェソン氏(韓国国立中央図書館)の尽力はいうまでもないが,CJK三国が協力しこれを支えたともいえよう。そして,それには,昨年韓国国立中央図書館が開催した60周年記念のシンポジウム(Symposium on 21st Century Cataloging and National Bibliography Policy, Oct. 18.)によって培えた協力の経験が大きく役立ったと思う。また,この会議終了後に,CJK三国で懇談する機会があり,今後とも相互に交流を図り連携していくことが関係者の間で約された。

 

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▲第4回IFLA国際目録規則専門家会議の参加者

 

 

ワーキンググループ報告

WG1 : 個人名(Personal Names)

 VIAFなど典拠ファイルの国際的統合の動きを見据えて,個人名典拠の管理について各国の調和をはかることが本ワーキンググループの目標であった。メンバーは,韓国7名,中国2名,日本,フィリピン,インドネシア,カンボジア各1名の計13名で,グループリーダーは中国国家図書館の犇氏が務めた。

 議論は大きくは三点に整理できる。一つは,各国の文化的伝統と深く関わらざるを得ない,個人名標目の形式である。多民族国家であるインドネシアからは,多様な個人名に対応する規則の複雑さが報告された。また「姓名」の形を常用するCJK各国の中で,日本のみが個人名標目に「カンマ区切り」を採用している点が話題となった。さらに日本からは,中韓両国とは異なった事情を抱える「ヨミ」の問題を指摘した。

 二点目は,典拠レコードの国際交換とも深く関わる,同名異人の識別の問題である。とりわけ中韓の両国では同姓同名が極めて多く,厳密な識別を課すことは困難だとの指摘があった。

 三点目は「個人名」に限定されない問題になるが,いわゆる基本記入方式に対するスタンスである。CJK各国の規則がいずれも非基本記入方式をとるのに対して,フィリピン等ではAACRが広く採用されており,議論の中でたびたび基本原則の違いが話題となった。特に,ICPのいくつかの条項が非基本記入方式をとる立場から受入れられるものかどうか吟味されたが,最終的には両方式を容認しうる表現になっていると了解し,修正提案は行われなかった。(渡邊)

 

WG2 : 団体名(Corporate Bodies)

 団体名典拠に関する調和を図ることがねらいであるこのワーキンググループは,韓国5名(うち国立中央図書館4名),タイ,中国(香港),日本,マレーシア各1名,計9名の構成で,グループリーダーは香港のマリア・ラウ氏が務めた。

 1)ICP5.1.2.1.2(団体名に顕著な名称の変更があった場合は各実体に対応する典拠レコードを作成し「をも見よ」参照で関連付ける)に関連して,7.1.2.2(典拠レコードに不可欠なアクセスポイント)に相互参照形を含めるべきであるという提案があった。

 2)政府機関の標目を国名から始めること(5.4.1.1関連)については,CJK各国とも自国の団体名について非適用である実態が明らかになったが,ICPの趣旨に反しているわけではないとの認識で一致した。

 3)3.1.2との整合性,OPAC実装の現状等に鑑み,「出版または発行の年」は7.1.2.1(書誌レコードに不可欠なアクセスポイント)でなく7.1.3(付加的アクセスポイント)に置くべきであるとの提案が出された。

 4)草案の注記1と用語集の記号法の部分に,誤植の指摘があった。(横山)

 

WG3 : 逐次性(Seriality)

 メンバーは,韓国から3名,中国から1名,日本から2名の計6名と全部のワーキンググループのうち最小だった。原井直子がグループリーダーを務めた。

 各国の逐次刊行物に関する目録規則と運用の実態およびISBD(CR)との相違点について報告を行った後,ISBD(CR)のタイトル・チェンジに関する方針について適用可能かどうかについて議論した。日本では,すでにNCRはISBD(CR)に沿って改訂され,日本語タイトル資料についての追加規定を設けている。中国では,CCR(Chinese Cataloging Rules)との相違点について検討され,ISBD(CR)のままでの適用が困難として,タイトルの意味が変化するような変化を重要な変化と規定したいと考えられている。韓国では,ISBD(CR)の研究が始められたが,やはり適用は困難としている。各国において明らかにされた問題点を踏まえて,ワーキンググループ報告においてはタイトル・チェンジに関してアジア言語に対する配慮を要請し,引き続きメンバー間で調整をはかりながら具体的な提案を作成しISBD(CR)に提出するとした。

 終期を予定しない継続出版物でありながら各々の部分に固有のタイトルを持つ資料の扱いについて,CJK各国にはこういった資料群が多いこと,これまでは単行資料として扱われてきたこと,定義上は逐次刊行物に該当することなどが確認された。書誌階層の問題にもつながる点である。また,タイトルの軽微な変化に関するデータ入力および表示方法,ISSNの国内センターと目録規則との連携などについて意見交換を行った。

 ICPの逐次性に関する内容や方向性については特に異論はないとした。ただし,FRBRの用語を使用しているというが必ずしも統一されているわけではないといった指摘があった。(原井)

 

WG4 : 統一タイトル−GMD(一般資料種別)と表現形レベルでの使用について(Uniform Titles−Proposals for GMDs and Expression-level Citations)

 統一タイトルに関わる確認に加えて,表現形および(または)物理的形態のレベルでのGMDの使用に向けて,新しいアプローチを具体的に示唆することが目標であった。

 メンバーは,韓国,中国,フィリピン,スリランカ各1名と日本3名の計7名で,酒井由紀子氏(慶應義塾大学)がグループリーダーとして討議をまとめた。

 ICPの統一タイトルを規定している条項の確認からスタートし,「独立したタイトル,名称・タイトルの複合体,または団体名,場所,言語,日付等の識別要素を付加することによって特定されたタイトル」であるとICP5.5にまとめられた中で,「名称・タイトルの複合体」における「名称」について,「団体名」「場所」との関わりも含めて,多くの議論が交わされ,用語解説中の一般的な定義とは別に,より明確な指示の必要性と文章の調整を提案した。

 また,アジア各国の文化的基盤の上に成立した聖典や古典籍について,それが作成された国において統一タイトルを用意する責任を負うべきであるとの共通見解により,この点に言及した新たな条項の提案を作成した。

 GMDについては,表現形に関わるGMDの検討を行い,用語解説の必要性,現在表現形の様式と体現形の形態との用語が混在したものとなっていることから,専門用語の調整や包括的なリストの必要性を提示した。(増井)

 

WG5 : マルチボリューム/マルチパート構造(統合と構成)(Multivolume/Multipart Structures(Aggregates and Components))

 メンバーは,日本から4名,中国,韓国,シンガポール,ネパールから各1名,計8名であった。グループリーダーは,韓国のユン・チョンオク氏が務めた。このグループのねらいは,書誌共有の方法を最適化するとともに,すべての著作を識別する原理の実現をめざすという,きわめて包括的な課題であった。

 カントリーレポートでもマルチボリュームの問題を書誌階層の問題として提起していたように日本の関心は高く参加者が4名もあった。そのうちの宮沢彰氏(国立情報学研究所)から,版による体現形と,「続・続々」といった出版物の体現形との対比例をあげて,FRBRモデルではCJK資料の出版慣行を必ずしも十分には反映できないといったきわめて重要な問題が提起された。しかし,この問題への理解が参加者によってまちまちであったため,議論は熱を帯びたが,実はそれをうまく消化しえなかった。この種の問題には,専門家の間でも相当な議論が必要であり,短期日では難しいと思われた。ただし,CJK資料におけるマルチボリュームの問題は,欧米のものとは違ってきわめて大きな問題だという点については,多くの出席者が了解した。

 後半の議論ではその大半を,ICPとその用語集のレビューに費やし,利用者重視の観点を前へ出すべきだなどといった指摘やいくつかの疑問はあったが,大方の部分については異論がないとした。ただし,用語集に“physical unit”の定義を入れるべきとの提案がなされた。(永田)

 

(ながた はるき : JLA目録委員会委員長,筑波大学大学院図書館情報メディア研究科,わたなべ たかひろ : 帝山学院大学人間文化学部,よこやま ゆきお,はらい なおこ : 国立国会図書館,ますい ゆうこ : 国文学研究資料館,以上JLA目録委員会委員)
[NDC9 : 014.3 BSH : 1.資料目録法 2.国際図書館連盟]

 

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図書館雑誌 2006年12月号

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