図書館における障害を理由とする差別の解消の推進に関するガイドラインQ&A 2017年3月3日 日本図書館協会障害者サービス委員会   1 図書館の施設設備に関すること  (1)図書館の入口に段差があり、車椅子の人等が来られたときに手助けをしています。最近その回数が増えてきて業務に影響してきています。どうすべきでしょうか。  A 手助けが必要な利用者が多数来館される場合は、段差を解消するスロープの設置を図っていくべきです。スロープを設置するスペースがない場合には、簡易リフト(階段昇降機)などを設置することもできます。利用者の意見を聞きながら、根拠や経費を明確にし、粘り強く予算化を進めてください。  (2)盲人用誘導チャイムをつけているのですが、近隣からうるさいと言われ鳴らさないようにしましたが、よろしいでしょうか。  A 盲人用誘導チャイムは視覚障害者が安全に図書館の入口まで行くための音の道標です。原則として、開館時間中は利用者にも確認して必要な音の大きさのチャイムを付けてください。また、このようなクレームが出された場合はその住民と利用者の状況を伺い、最もよい方法を見つけていくことが大切です。必要に応じて近隣住民への説明やポスターによる案内掲示などをしましょう。  (3)3階建ての古い図書館なのでエレベーターがありません。どうしたらよいでしょうか。  A 階段は、車椅子使用者など下肢障害者、足腰の弱った高齢者、妊娠されている方などの図書館利用を妨げることになります。人手があれば車椅子を抱えて上り下りすることもできますが、安全な車椅子の持ち方の知識が必要です。利用者本人が、持ち上げられて恐怖心を感じたり、迷惑をかけているという気持ちから、図書館を利用されなくなることもあります。また、電動車椅子は大変重いので階段の担ぎ上げはできません。対策としては貸し出し用の車椅子を準備しておき、それに乗り換えてもらう方法もあります。  基本的にはエレベーターの設置を図っていくべきで、その実現のための予算確保に努力することが求められます。しかし、かなりの経費が必要で、建物の構造から設置できない場合もあります。階段の壁に取り付ける簡易リフト(階段昇降機)などの設置も検討することも含めて、利用者の意見を聞きながらできる限り対応してください。  (4)今度新しく図書館を建設する計画があります。施設設備面ではどのようなことに気をつけたらよいでしょうか。  A 障害者等の人たちのための施設設備の整備については、バリアフリー、さらにユニバーサルデザインの考え方が重要です。法律面では、建築基準法等で最低限満たす必要のある基準が定められています。さらに「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(通称・バリアフリー新法)が平成18(2006)年に施行され、廊下や階段、出入口、トイレ、エレベーター、駐車場などについて詳細な基準があります。さらに、法律や基準ではなくても、多くの図書館等では、さまざまな工夫をしてバリアをなくす取り組みを行っています。そのような図書館や公共施設を見学し、それを参考にするのもよい方法です。  そしてこれらの調査をもとに建築設備案を作成し、障害のある利用者を含む住民に見てもらい、さまざまな立場の方々からの意見を聞いて、できる限りの改善を図っていきましょう。例えば、廊下や階段の手すりで注意しなければならない点は高さや形状だけではなく、握りやすさや感触にも配慮が必要です。こういったことは「基準」だけではわかりません。  また図書館のさまざまなサイン(表示)は、既製品には満足できるものがないこともよくあります。工夫一つでわかりやすくなり、館内の雰囲気も変わります。  (5)図書館内外の視覚障害者誘導用ブロック(点字ブロック)の敷設の仕方について教えてください。足の不自由な人から館内の点字ブロックがあると歩きにくいと言われています。  A 点字ブロックには点状のブロックと線状のブロックがあり、その形状は日本工業規格(JIS)で定められています。敷設方法は、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(通称・バリアフリー新法)に示されています。各自治体でも「福祉のまちづくり条例」などを制定し、公共の建物についての独自の基準を持つところもありますので、合わせて確認してください。建物内については、階段の一番上と下の警告用点状ブロック以外の設置はかなり自由です。そのため、車椅子使用者や高齢者などの方々が通行しにくくないように、屋内用の高さの低い点字ブロックも考えられます。また、足裏の触感の異なるマットもあります。点字ブロックの色については、弱視者が視認しやすいように黄色を基本としていますが、周囲が似た色で分かりにくい場合は、点字ブロックの両側を10cmほど帯状に黒っぽくする方法もあります。  (6)健常者が使用しているので障害者が多目的トイレを使えず困っていると言われました。どのような対応が必要でしょうか。  A 以前は「障害者用トイレ」と称され、車椅子マークが付いているのが普通で、主に障害者専用のものでした。しかし、今は「多目的トイレ」「みんなのトイレ」として、さまざまな方々が利用されるようになりました。トイレの問題は深刻ですので、通常のトイレを利用できる方についてはご遠慮いただくように表示してください。しかし、内部障害や性同一性障害の方等、一見して障害者と分からない方の利用も考えられます。この点は注意してください。  (7)駐車場の一画を障害者用駐車スペースとしているのですが、いつもいっぱいで駐められないと言われました。どうしたらよいのでしょうか。  A 障害者用駐車場は便利な場所が多いので、障害者以外の方が利用しているケースは少なくないようです。駐車区画の路面表示や立て看板などで大きく目立たせるなど、運転席から判別しやすくする工夫も必要です。パイロン(コーン)を置くのは車椅子の方が利用しにくくなりますので避けた方がよいでしょう。なお、可能でしたら、障害者用駐車場とは別に、通常の駐車区画と同じ幅で高齢者・妊産婦向けなど優先駐車区画を設けることや、図書館から、フロントガラスに掲示する障害者用駐車カードを発行することもできます。   2 サービスや合理的配慮に関すること  (1)当館ではこれといった障害者サービスを行っていないのですが、どうすればよいでしょうか。  A すべての図書館で、「図書館における障害を理由とする差別の解消の推進に関するガイドライン」を参考にして、各館の実情に合わせた障害者サービス(合理的配慮の提供と基礎的環境整備を含む)を実施してください。障害者サービスの目的は「すべての人にすべての図書館サービスや資料を提供すること」で、誰もが使える図書館にすることを目指しています。  具体的には、まず障害者サービス担当者を決め、担当者を中心にサービスを企画・実施していくのがよいと思います。障害者サービスを学ぶには、いろいろな資料があります。さらに、研修会に参加したり、障害者サービスを実施している先進館を見学するのもよいでしょう。都道府県立図書館においては、市町村立図書館職員を対象とした障害者サービスの基礎的な研修会を行うことが望まれます(これは、基礎的環境整備の一つです)。さらに重要なことは、「多くの障害者は、図書館にどんな障害者サービス用資料があり、どんなサービスがあるかを知らない」ことへの対応です。待っていても障害者からの依頼は来ませんので、図書館がまずサービスを開始し、利用者への積極的な働きかけをしていく必要があります。できることから始めてください。  (2)当館の障害者サービスを受けるには障害者手帳の所持が条件になっています。これだといけませんか。  A 図書館利用者を身体障害者手帳や療育手帳の所持者に限るのは適切ではありません。図書館の障害者サービスの対象はいわゆる心身障害者ではなく、図書館利用に障害のある人たちです。本来図書館はすべての人が利用できるようになっていなくてはなりませんが、現実にはその利用ができない人たちが多くいます。その原因は障害者の側にあるのではなく、図書館のサービスにこそあるのです。資料やサービスを誰もが利用できるようになっていないのが問題です。  なお、著作権法37条第3項でいう視覚障害者等は、もちろん障害者サービスの利用対象者ですが、それがすべてではありません。さらに、録音資料を無料で送ることができる視覚障害者のみを利用者とするのはおかしなはなしです。図書館の規定が「障害者手帳の所持」「視覚障害者のみ」となっている場合は、できるだけ早く修正し、利用対象者の拡大をしてください。    (3)支援の必要な障害者に「急に来館されると忙しいときには対応できないこともありますので事前にご連絡ください」と言っていますが、よろしいでしょうか。  A 「障害者は事前に連絡しないと利用できない」としてしまうのは、不当な差別的取り扱いと見なされるおそれがあります。「障害者」に急に来られると対応ができない、と思ってしまいがちですが、障害者といってもさまざまな方がおられ、期待されるサービスもいろいろです。対応にかなり時間を要する場合もあれば、ほとんど時間のかからないこともあります。個々の配慮にそれなりの時間と人数を要する場合には、事前に来館日時の連絡を求めたり調整を行うことは不当な差別的取扱いに当たるわけではありません。どんなサービスがあるかの説明をした上でその方のご希望を伺い、すぐに対応できない場合は「申し訳ありません。少しお待ちいただくことになりますがよろしいでしょうか。」などとご理解をいただいて対応していくことが大切なのです。たまたま近くに来てふらっと立ち寄り利用することもできるのも図書館の良いところです。日頃から担当者任せではなく、どの職員も一定レベルの対応ができるようにしておきましょう。  (4)障害者が介助者なしで来館された場合、ずっと傍についていなければならないのですか。  A 障害者と言っても、本当にさまざまです。ほとんど一人で行動される方もおられれば、介助者がかなりサポートしないといけない方もおられ、期待されるサービスもさまざまです。「障害者にはいつもつきっきりでいないといけない」というわけではありません。一人で図書館まで来られたのでしたら、一人でかなり行動できる方は多くおられます。まずは、館内の障害者サービスについて説明をした上でその方のご希望を伺い、どのようにサポートしたらよいかを尋ねることです。その上で、つきっきりでいる必要がある場合にもよくお話を伺い、代替方法も合わせて検討します。すぐに対応できない場合でも、丁寧に説明をしてご理解をいただいて対応していきましょう。そしてこれも、日頃から担当者のみに任せていると適切な対応ができないことに繋がります。担当者以外も基本的な対応ができるように研修を行ってください。  (5)障害者から駅から図書館までの送迎を依頼されましたが、歩いて20分もかかり、職員も少ないことから過度な負担となります。どうしたらよいでしょうか?  A 図書館の最寄り駅としてその駅やバス停を紹介しているのであれば、そこから図書館までサポートが必要な方には可能な限り対応できることが望ましいでしょう。送迎については、障害者だけでなく、高齢者等にも必要なことがあります。  すぐには対応できない場合もありますので、必要な時はなるべく早めに事前に連絡をいただけるよう利用者に説明をしてご理解を深め、できるだけ対応できるように努めてください。 送迎が可能かどうかは駅からの距離や職員の状況、利用者の状況等により判断します。難しい場合は、ガイドヘルパーや福祉タクシーの案内をしたり、対応できる日時を相談する等して、何とか利用者が来館できるように工夫をしてください。  なお、最寄り駅からの視覚障害者誘導用ブロック、障害者用交通信号付加装置(音響信号機等)などの設置を関係機関に要望して設置を図っていくことは、基礎的環境整備の一環でもあります。また、福祉バスやタクシー券の利用等、その他の移動支援についても案内できるようにしておきましょう。  (6)よく利用されている障害者から、近くの郵便局に行きたいので介助をと依頼されましたが、お応えしないといけないでしょうか。  A 言うまでもなく、図書館は住民の求める資料や情報の提供などを基本とした図書館サービスを行うところです。また、その図書館を利用するための駅やバス停からの送迎やさまざまな支援もサービスに含まれます。  しかし、直接関係のない施設の利用については、図書館の活動とは異なりますので、ご理解いただいてお断りします。では郵便局の利用をどうするかというと、それは郵便局が責任を持って考えることです。郵便局に連絡して、利用者をそちらに繋いでください。  (7)視覚障害者からの問い合わせがあったときは、郵送などサービスが行き届いている県内の視覚障害者情報提供施設(点字図書館)の利用をお願いしています。利用者にとってもその方が便利だと思うのですがいかがでしょうか。  A 視覚障害者情報提供施設(点字図書館)は、点字・録音資料の製作と貸出、視覚障害関係情報の提供などを行う、視覚障害者のための専門施設です。県内に一つしかないところも多く、郵送サービスが中心です。一方、公共図書館は、地域の住民すべての人たちに資料や情報提供を行う身近な存在です。視覚障害者にとっても対面朗読や来館サービスなどを利用できるところであり、拡大資料なども含めたさまざまな資料や情報提供が受けられます。したがって公共図書館は、視覚障害者施設とは別に、公共図書館として本来行うサービスをすべての市民が利用できるようにしなくてはなりません。なお、公共図書館と点字図書館は、点字録音資料の製作や情報提供等で協力連携がなされています。  (8)視覚障害者に「パソコンを習得されては?」と言ったら差別だと怒られました。これは差別なのでしょうか?  A パソコンの習得を勧めること自体は差別とはなりません。ただし、特に中高年から視覚障害者になった方々にとっては、晴眼者のときは何もかも見て行うのが当たり前だったのに、画面は見えず、マウスは使えず、キーの位置も覚えて音声だけで操作する、ということは並大抵のことではなく、気持ちはあってもできない人も多いのです。簡単に「習得されては」と言われることで、そんな大変さすらも分かっていない、という気持ちが強かったのではないかと思います。そのような利用者の気持ちに寄り添って、まずは、利用者が何をどうされたいのかをじっくりと聞き、それならどんな資料が利用できるのか、いっしょに探していくように心がけるとよいでしょう。  (9)当館では、対面朗読をする資料は所蔵資料のみとしていますが、手紙の代読や代筆もしてほしいと言われました。これらも合理的配慮に当たりますでしょうか。  A 図書館の対面朗読は閲覧をすべての人に保障するものであり、そこで読む資料は図書館資料またはそれになりうるものです。  具体的には、まずはどのような資料があるのかを探し、希望にあった資料があればそれを読むことであり、その資料が館内になくても、他館からの取り寄せなどによって探しだして読むこともあります。所蔵がなく利用者が持ち込まれた本や雑誌などの資料を読んでも問題はありません。  私的な手紙の代読や代筆は図書館ではできませんが、利用者への情報提供として、具体的なサービスをしているところなどを紹介するとよいでしょう。なお、手紙と言っても、行政からのお知らせや金融機関からの資料については、本来それらの機関が自ら情報提供について配慮すべきものです。図書館にとっては、公開された資料・情報の提供が主業務で、それらの利用を保障していくことが合理的配慮の提供であり、私的な手紙などはその対象に当りません。   3 資料について  (1)障害者用の資料はどのように入手すればよいのですか。  A 障害者用資料の入手方法は、購入・相互貸借による借受・インターネットからのデータのダウンロードの方法があります。また、全国どこにも存在しないものは自館で製作することもできます。  障害者サービス用資料にはさまざまなものがありますので、それぞれの資料の購入先を確認して、購入できるものは購入します。通常の価格よりも高いものも少なくないのでそのことも考慮して資料費を確保してください。「点字資料」は「サピエ図書館」等で検索し点字出版所から購入できます。「点字絵本」や「点字つき絵本」も数は少ないのですが各出版社から販売されています。  「録音資料」は音声デイジーなどがあり、いくつかの出版社などで扱っています(「図書館の障害者サービスにおける著作権法第37条第3項に基づく著作物の複製等に関するガイドライン」の別表3  ただし書該当資料確認リストなどを参照)。「大活字本」は株式会社大活字、埼玉福祉会、読書工房などが出版しており「マルチメディアデイジー」については(公財)日本障害者リハビリテーション協会の「ENJOY DAISY」を参照してください。「布絵本キット」はふきのとう文庫などで販売されています。  また、全国の公共図書館や点字図書館等にある資料を無料で借受することもできます。資料の検索は、全国総合目録ともいえる「国立国会図書館サーチ」や「サピエ図書館」で検索し貸出依頼をしてください。依頼はメールやファクシミリを使用します。「サピエ図書館」に施設会員として登録する(有料)と、オンラインリクエストをすることもできます。  インターネットから資料のコンテンツデータを直接利用するには、「国立国会図書館サーチ」と「サピエ図書館」のサイトからダウンロードすることが可能です。利用には認定登録もしくは施設会員になることが必要ですので、それぞれの機関にお問い合わせください。  (2)点字・録音資料は購入や製作はせず他館からの借受のみで対応していますが、よろしいのでしょうか。  A 障害者サービスの資料提供は、まずは他館からの借受で始められます。点字資料と録音資料については、全国の図書館資料を自館の資料のように使うことができ、借受資料をコピーすることも認められています。  ただし、販売されている録音資料があったり、出版社からテキストファイルが提供されている場合には、著作権法第37条3項による同じ形式の資料の製作やコピーはできませんのでご注意ください。販売されているものはそれを購入して提供します。  点訳や音訳などがされている資料は、膨大な出版物の一部にすぎません。求められた資料が点訳・音訳されていないこともよくあり、自館で製作できる、もしくは製作依頼ができるようになっていることは重要です。全ての図書館で点訳や録音などの製作をしなければならないわけではありませんが、力のある図書館ではぜひご検討ください。  なお、本格的に製作を始めるためには、図書館職員のスキルと一定レベルの図書館協力者の養成と確保が必要です。先進館を参考に進めてください。  (3)高齢者の利用者を想定して大きな文字の本を提供していますが、弱視の人からこの大きさの文字では読めないと言われました。どうしたらいいでしょうか。  A 弱視者の見え方はさまざまです。明瞭に視認できるゴシックなどのフォントであれば、高齢者向けの12ポイント程度の印刷物でも、ルーペなどの補助具によって読める弱視者は多くおられますし、視野が狭くて大きすぎる文字が読めない人もいます。適切な大きさの文字の本が販売されていれば購入を検討し、他館からの借受ができればそうします。  いろいろな弱視者のために、専用の各種のルーペや拡大読書器を用意しておくことも必要です。拡大読書器も、据え置き型だけでなく携帯型も多数出ています。ルーペなどもさまざまな倍率があり明かりが点灯するタイプもあります。利用者や専門家の意見を聞きながら充実させていってください。  (4)発達障害の利用者からマルチメディアデイジーの資料を利用したいと言われましたが、当館では製作していないので断りました。よかったでしょうか。  A マルチメディアデイジーの資料は残念ながらまだまだ少ないのが現状です。ただ、通常の資料と同様に販売や貸出も行われていますのでまずはよく調べ、他館からの協力も含めて貸出を図っていくことが必要です。自館が障害者サービス用資料を製作・所蔵していないことだけを理由に利用を断るのは、不当な差別的取扱いに当たると言ってよいでしょう。マルチメディアデイジーの資料は、公共図書館や視覚障害者情報提供施設(点字図書館)等が製作するものと、そしてわずかですが市販もされており、(公財)日本障害者リハビリテーション協会で購入が可能です。製作や所蔵されたものは、「国立国会図書館サーチ」や「サピエ図書館」の資料データベースで検索できるほか、ホームページでダウンロードサービスをおこなっている施設団体もあり、インターネット経由で利用できます。   4 その他  (1)差別するのはよくないので、障害のある利用者も他の利用者と同じように対応することを心がけています。そのため、一般の利用者にお断りしていることは障害のある利用者にも同様にお断りして一切区別をしていません。この対応でよろしいでしょうか。  A 「差別する」と「必要な区別をして対応する」とは全く異なります。一般の利用者でも、高齢の方に大きな活字の資料を用意したり、老眼鏡を用意することがあるように、さまざまな障害によって図書館の利用ができない方に、必要な支援をすることは当然のことで、それが「合理的配慮の提供」なのです。一般の利用者に対しては行っていないことを希望された場合は、すぐに断るのではなく、なぜなのかよく聞いて、図書館が合理的配慮をする必要があるのではないか、しっかりと検討できるように館内の相談体制を整えましょう。  (2)自治体の予算が厳しくなっており、新たに障害者のための設備やサービスのための予算要求ができません。図書購入費も大きく削減されてきており、障害者のために、と言っても「過度な負担」と思うのですがどうでしょうか?  A 障害者の情報環境は大変厳しく、図書館こそが頼りになる存在です。そのような中で、図書館が障害者等の利用を保障するのは大きな務めです。それほどお金をかけなくても可能なサービスが多くあります。ぜひ障害のある利用者とよく話し合って、積極的に取り組んでください。  施設設備を改善していくにはまとまった予算化が必要ですので、過度な負担と思われるかもしれません。しかしたとえば入り口に段差があるのでスロープにすることは、肢体不自由の人だけでなく、カートを頼りに歩くお年寄りにとっても図書館に楽に入れることにつながります。館内の表示を大きくわかりやすくすることは、弱視者だけでなく高齢者にとっても利用しやすいことになるのです。拡大資料を購入し排架すれば、弱視者だけでなく老眼鏡をかけなくても楽に見える、という人も利用します。これらは、高齢化、多様化する社会の中では「図書館に必要な対策」であって、過度な負担などでは決してありません。このように「一部の障害者だけのため」という考え方ではなく、長期的なことも含めて施設設備を見直し資料の充実に努めることは、地域社会の全ての人が利用しやすい図書館にするためにはぜひ必要であることを理解してください。  なお、新規予算化については、障害者差別解消法や「図書館における障害を理由とする差別の解消の推進に関するガイドライン」を根拠にしていただくのも方法であり、同規模の図書館の先進事例も参考になります。  (3)手話通訳・筆記通訳(要訳筆記)を外部に依頼する予算がなく、今までイベントでは手話通訳は付けていませんでした。今後は何か対応が必要でしょうか。  A 講演会などのイベントでは、手話通訳や要約筆記通訳(以下、「手話通訳等」)がないと聴覚障害者は内容を把握できず、事実上参加できないことになってしまいます。手話通訳等がいないので聴覚障害者の参加を断るとなると不当な差別的取扱いになる可能性があります。 手話通訳などは有料で派遣してくれるところがありますので、申し込み先を確認してください。  図書館が開催するイベントのほとんどは、聴覚障害者のような音声が聞こえない人には内容が分かりませんので、当初から手話通訳等を付けるか、または聴覚障害者から手話通訳等の要望があった時に付けられるよう用意をするべきです。通訳者の手配には準備が必要ですので、「手話通訳、要約筆記通訳が必要な方は事前に〇日までに申し込んでください。」とすることは差別的な取り扱いとはなりません。なお、手話の分からない聴覚障害者も多くおられますので、講演会などではパワーポイントやパネルなどでわかりやすく表示する、などの配慮も必要ですし、逆に視覚障害者には、「見る情報」を音声で的確に補うことが必要になります。  また、通訳者手配を予算化する場合、各図書館が行うのではなく、自治体全体でプールするなどして柔軟な運用ができるよう工夫するとよいでしょう。  (4)当館は分館で、中央館には担当者もいて障害者サービスを行っています。そのため、障害のある方の利用についてはすべて中央館をご案内していますが、よろしいでしょうか?  A 障害のある利用者にとっては、担当者のいる中央館を利用する方がいろいろな情報が得られるのでよい場合もあります。しかし、中央館は遠くて行くことが大変な地域の利用者にとっては、地域の分館でも可能なサービスを実施できるように努力する必要があり、障害があるからといって最寄の分館を利用できないとしてしまうことは権利の侵害になりかねません。郵送や宅配サービスなら問題はありませんが、対面朗読をはじめ手話や筆談による相談など来館してのサービスを希望される場合は、近くの分館を利用できることが合理的配慮でもあるのです。分館での利用を希望される場合は、利用者とよく相談しながら、中央館と協力して事前の準備をしておけば実現可能なことは多くあるはずです。  (5)私のところは分館で、職員が一人か二人しかおらず、貸出の対応で追われている状況です。中央館では職員がもっといますので合理的配慮を提供できますが、同じ内容のものを分館でも提供しなければならないでしょうか。  A 分館が中央館と全く同じ内容のサービスを行わなければならないわけではありませんが、来館された障害者に対してのサービスはできる範囲で行うことが必要です。中央館と協力しながら、音訳協力者による対面朗読、レファレンスや簡易な読み上げ、障害者対応になっていない施設・設備の利用しにくい部分のサポートなど、できることは必ず行ってください。郵送貸出や宅配サービスなど来館を伴わないサービスについては中央館が一括して行うことが望ましいのですが、分館職員もそれらのサービスの内容を熟知して、利用者から問い合わせがあったときには対応できることが必要です。  (6)当館の窓口対応は委託になっており、すべてが委託会社の職員です。障害者対応については委託業務マニュアルには記載されていないため、職員が指示することができません。どうしたらよいでしょうか?  A 委託業務マニュアルに障害者サービスに関する項目がないこと自体が差別に当たる可能性がありますので、委託業務マニュアルには必ず障害者サービスに関する項目を入れ、窓口で適切に障害者対応ができるようにする必要があります。どうしてもすぐに障害者サービスの項目を入れられない場合は、次期の委託契約には必ず盛り込んでください。また、障害者サービスに関しては個々人の要求や支援・サポートが必要なことも多いのでマニュアルに書ききれないことも多くあります。すべてを窓口業務委託している場合でも障害者サービスについては職員が対応するなど、業務の遂行方法についても十分配慮して、誰もが利用できる図書館としての体制をしっかりと作る必要があります。  (7)障害者の方から、私たちへのサービスがないのは差別だ、館長と話がしたい、と言われました。このような意見に対しては、どう対応すればよいのでしょうか。  A その方は、何か腹立たしいことがあった可能性もありますので、「必ず館長に伝えます。」と明確に言うなど、まずは冷静に、利用者が言われることをしっかりとお聞きする必要があります。利用者が障害者のための資料や個々のサービスについてご存じない場合もありますので、利用者にわかりやすく明確に伝えることも大切です。また、具体的にサービスを受けていただき、不十分とされることがあればしっかりと受け止め、必要な合理的配慮について検討することを明確に伝えて理解を求めます。  館内の障害者やその家族からの相談、依頼に対しては、通常は一般カウンターで対応を行いますが、さらに障害者サービスの担当者による相談にも応える体制も必要です。一般窓口の段階でも、利用者に「私は利用ができないのだ」と思わせることのないよう、全職員が基礎的な対応方法を周知しておく必要があります。また、利用者からの依頼について、対応できない場合や調整に時間がかかるような場合は、利用者に状況をしっかりと説明して理解を求めると共に、館内でより専門的・総合的に判断・調整ができるように、責任者を中心に図書館全体で検討し対応していくことが必要です。