2005年4月4日

公共図書館の障害者サービスにおける
資料の変換に係わる図書館協力者導入のためのガイドライン
―図書館と対面朗読者、点訳・音訳等の資料製作者との関係

社団法人日本図書館協会 (障害者サービス委員会)

   目   次
T ガイドラインの目指すもの
U ガイドライン(提言)と解説
V 障害者サービスの基本的な考え方
W 図書館と図書館協力者やボランティアをめぐる現状
X 用語解説

 

T ガイドラインの目指すもの

  1 ガイドラインの目的と適用範囲
 このガイドラインは、図書館法に規定される図書館(以下、「公共図書館」という。)に向けたものである。公共図書館の障害者サービスを支えている職員、対面朗読、点訳、音訳等のメディア変換を行う図書館協力者等について、そのあり方を明確にすることを目的にしている。
 公共図書館では、すべての人の図書館利用を保障する方法として対面朗読や種々な障害者サービス用資料の製作を行っている。これらのサービスは、図書館の基本的業務である「資料提供」の一手法であり、本来図書館(あるいはその職員)が行うべきものである。
 また、この資料のメディア変換(製作)には高度な専門技術を必要とし、職員のみで行うのは困難であることも事実である。そこで図書館では、対面朗読者・点訳者・音訳者等に協力をあおぎ、この資料のメディア変換を行ってきている。
 ところで、昨今「図書館ボランティア」の導入が推奨され、障害者サービスにおいても、対面朗読、点訳、音訳といったメディア変換にかかる業務にまでボランティアの導入が進んできている。障害者サービスの誕生した初期の段階では、図書館に経験・実績が乏しいこともあり、ボランティアの自発的・献身的な力添えによりこのサービスが開始されてきた事例も多くあった。しかし、それは過渡的段階のものであり、障害者サービスにおいては、障害者の人権保障としての情報保障という側面からも決して望ましいものではないと考える。
 日本図書館協会では、障害者サービス委員会を中心に、公共図書館における障害者サービスのより良い発展を図るために、約3年にわたり資料の変換に係わる図書館協力者やボランティアをめぐる現状を分析・検討してきた。その結果、近年のボランティア導入の動きは、障害者サービスの根幹に関わる問題を抱えており、このまま進めば、障害者への情報保障の面で重大な結果を招く恐れがあると考え、これまでの検討結果、とくに図書館協力者の導入に関する基本的な考え方をまとめ、「ガイドライン(提言)」として公表することにした。ここに示した考え方を理解して頂き、図書館の現場で指針として活用し、サービスの充実に努めていただければ幸いである。
 なお当然の事であるが、このガイドラインはボランティア活動そのものを否定するものではない。図書館職員や図書館サービスを行う者が、障害者サービスの意味を正しく理解し、その上で図書館協力者やボランティアを活用してのサービスの充実を願うものである。私たちは利用者や図書館協力者・ボランティア等とも協力しながら、図書館の障害者サービスが真に利用者の利益につながるような望ましい方向に発展していくことを切に願うものである。

  2 ガイドライン全体の構成

 本ガイドラインは次のような構成になっている。
T ガイドラインの目指すもの
  ガイドラインの目的・適用範囲および構成を示す。
U ガイドライン(提言)とその解説
  対面朗読者や図書館協力者のあり方を7つの提言としてまとめ解説する。
V 障害者サービスの基本的な考え方
  本ガイドラインの基礎となる、公共図書館における障害者サービスの理念を詳述する。
W 図書館と図書館協力者やボランティアをめぐる現状
  現状分析を種々な例で説明する。
X 用語解説
 「障害者」「図書館協力者」「ボランティア」等の用語の解説を行う。

 

U ガイドライン(提言)と解説

1 対面朗読は、図書館の管理責任の下で、図書館の主体的事業として、図書館職員または対面朗読者(音訳者)が行わなければならない。たとえ図書館の管理責任の下でも、ボランティアで行うことはできない。
ボランティアや障害者等に朗読のための部屋を貸し出すことは、図書館が実施する対面朗読ではない。これは単なる施設使用にすぎない。

(解説)対面朗読は「閲覧」をすべての人に保障するための方法であり、本来図書館が自ら行うべきものである。職員が音訳を行う場合は問題ないが、外部の対面朗読者に依頼する場合は、図書館が行うべき事業を代行してもらうのであるから、それ相応の賃金なり謝金を支払う必要がある。
対面朗読は閲覧と同意義であるからすべての図書館で実施する必要がある。障害者や音訳ボランティアへの単なる施設貸出は図書館が実施する対面朗読ではない。

2 障害者サービス用資料の製作(点訳・音訳・拡大写本製作・DAISY図書製作等)は、それぞれ図書館に個人登録した資料製作者(点訳者・音訳者・拡大写本製作者・DAISY編集者等)または職員が行わなければならない。製作をボランティアに依頼することはできない。

(解説) 障害者サービス用資料の製作は、すべての人に資料提供を行うための手段である。資料製作を職員で行うことができればよいが、製作には高度な変換技術や専門知識を必要とし、外部の「資料製作者」に依頼することが多い。資料製作は図書館が行うべき資料提供の代行であり、かつ高度な専門技術を必要とするため、必要な技術を有している資料製作者が行わなければならない。資料製作は図書館が主体となり行うものなので個人登録でなければならない。賃金あるいは謝金が必要なのは前述と同様である。(グループへの委託は「提言4」を参照)

3 対面朗読者および資料製作者(以下「図書館協力者」という)は、図書館への個人登録を原則とし、その活動に対し相当の対価を支払わなければならない。 対価は、通例上謝金・報償費という形式をとることが多いが、その金額は交通費程度であってはならない。労働対価といえる金額でなければならない。

(解説)図書館協力者は高度な専門技術を必要とし、かつかなりの時間的拘束を受けることになる。さらに本来図書館の代わりに行うものであるので、その労働に対し賃金なり謝金を支払う必要がある。また、その金額は専門技術者に見合うものでなければならない。

4 図書館は、一定の技術水準を有する「資料製作グループ」「録音・点字図書等の障害者用図書出版社」「NPO法人」等に資料製作を委託することができる。ただし、委託先とは必ず契約関係を結び、相応の対価を支払わなければならない。

(解説)資料製作をボランティアを含め外部に委託する場合は、委託先ときちんとした契約を結び、委託費や製作経費を支払う必要がある。これは、情報の正確さや変換技術等、資料の「質」を一定水準に保つとともに、図書館における障害者への資料提供を、いわゆる恩恵的サービスとしてではなく、責任ある“業務”として、明確に位置付けるためである。また、図書館は資料製作マニュアルを用意し、出来上がりを評価する能力を持たなければならない。
委託先の選定に当たっては、資料製作能力、過去の製作実績とその評価等について十分検討しなくてはならない。無料または不自然に安い契約内容の提示には特に資料の質等を十分確認する必要がある。履行責任の希薄化などを伴うことがあり好ましい方法ではない。
 委託先には点訳・音訳等の資料変換技術にとどまらず、下記のような条件が求められる。
   1)製作した資料の品質を自らチェック・管理できること
   2)図書館が指定した納期内に製作できること
   3)図書館の「資料製作マニュアル」に従って製作できること

5 ボランティアグループ等からの障害者サービス用資料の寄贈を、図書館による資料製作としてはならない。
資料の寄贈受け入れは一般資料の寄贈の場合と同様に扱い、図書館が資料の内容や質を十分考慮して判断する。特に、障害者サービス用資料については、その質を十分検討しなくてはならない。

(解説)本来資料製作は、リクエストされたものの内、全国どの図書館にも所蔵しないものを製作する。図書館からの製作依頼によらない外部からの資料提供は「寄贈」であって「図書館の資料製作」ではない。
寄贈の受け入れは一般資料と同様、その資料内容等により受け入れを判断する。特に障害者サービス用資料については、その音訳・点訳等の変換の質などを十分検討しなくてはならない。校正のなされていないもの、点訳・音訳等に誤りのあるもの、内容の一部を割愛しているもの、表紙・目次・奥付等が付いていないもの等を受け入れてはならない。

6 図書館の施設あるいは資料を使用しての、障害者に関連したボランティアの自主的活動については、一般の図書館ボランティアと同様に考える。

(解説)図書館ボランティアが図書館の資料や施設を使って行う種々な「自主的活動」を行う場合、図書館はこれを支援する。もちろんその対象者が障害者や高齢者等であっても同様である。図書館ボランティアの自主的活動は、図書館が主体となる障害者サービスとはまったく別のものである。図書館はその自主的活動に支援・協力するが、それが図書館の障害者サービスの一部を担うことはない。
図書館がボランティア(グループ)に自らの障害者サービスを無料または安価に委託するようなことがあってはならない。

7 ボランティアの自発的・献身的努力により一定レベルのサービスを実施している図書館があることは認識している。しかし、このボランティアによるサービスを到達点としてとらえることなく、あくまで緊急的・過渡的手段であり、速やかに上記(提言1、2)のような望ましい方式に移行するように努めなければならない。
(予算措置等の理由から概ね5年以内に改めていく必要がある。)

(解説)図書館職員および現在活動中のボランティアは、対面朗読や資料製作をボランティアで行うことの不合理について認識しなくてはならない。そのためには公共図書館の障害者サービスの理念(特に対面朗読・資料製作の意味)を学ぶ必要がある。具体的には優れた活動を行っている図書館の実例に学ことも大切である。

 

V 障害者サービスの基本的な考え方

 ここでは、本ガイドラインの基礎になっている考え方について詳述する。

1 公共図書館における障害者サービスの意味
(1)障害者サービスとは「図書館利用に障害のある人々へのサービス」である。図書館利用に何らかの障害のある人すべてが、その利用対象者となる。
(2)障害者サービスの目的は「すべての図書館サービス・図書館資料をすべての人に提供すること」である。すべての人が利用できるようにすることは、図書館としての責務であり、当然図書館が自ら行うべき仕事といえる。
   具体的には、図書館の個々のサービスがすべての人に利用できるようになっているかということである。つまり、障害者サービスは障害者を対象とした「対象別サービス」ではなく、(もちろん、「恩恵的サービス」でもなく)、図書館の個々のサービスをすべての人に提供するための手段であり、図書館サービスの基礎である。
(3)この目的を達成するための障害者サービスの手法として、概ね次の三つが行われている。
  1)資料を何らかの方法で利用者の手もとに届ける。
   郵送貸出、宅配、施設貸出、入院患者等へのサービス、受刑者サービス等   2)資料を利用者の使える形に変換して提供する。
   対面朗読、点字・録音・文字の拡大等の資料製作・貸出、字幕・手話入りビデオの製作・貸出、多文化サービス等
  3)図書館利用をサポートする。
   施設・設備の整備、コミュニケーション(点字・手話・外国語等)の確保等
 (本ガイドラインでは主に2)の部分が関係する。)

2 図書館サービスと資料製作
(1)公権力は共通善(コモングッド)を実現する任務をもち、それは公共サービスとして具現化される。
(2)社会教育行政サービスは公共サービスの一環であり、図書館は、その基軸部門である。
(3)地域住民への資料提供は、図書館の根幹業務であり、さらに活字読書困難な種々な障害者等がその利用者に含まれるのは当然である。
(4)以上のことにより、図書館は、その責任において利用に何らかの障害のある人に対し、図書館資料を点訳・音訳等その人が利用できる形にメディア変換をしてでも、提供を保障しなければならない。原本が図書館にあるのに、一部の人(障害者等)が利用できないのはおかしい。
(5)障害者サービス用資料の内、購入可能なものはごくわずかである。そのため自館で製作あるいは他機関に委託して製作せざるをえない。必ず提供するという姿勢が何よりも求められる。障害者サービスの基本である。

3 公共図書館の対面朗読者・資料製作者はなぜ図書館協力者でなければならないのか?
(1)資料提供は図書館の基軸となる業務である。本来「図書館が行うべき」資料提供(その一方法である資料製作)を、無料のボランティアに依頼するのはおかしい。図書館あるいはその職員の代わりに高度な専門技術を有する者にお願いしているのであるから、そこに賃金なり謝金を支払うのは当然である。すでに図書館で活動している多くのボランティアは、図書館に代わって行っているというよりも、障害者のために行っているという誤解があるのではないか。
(2)対面朗読をボランティアに行ってもらうと、いくら図書館の責任で手配しているとしても、利用者としては「やってもらっている」という気持ちになってしまう。「やってもらっている」というのは、それ自体が図書館利用上の大きなバリアとなり、図書館利用を完全に保障していることにはならない。(恩恵的サービス)
図書館がきちんとお金を支払って一定水準の音訳者を手配することにより、気兼ねなく図書館利用ができるのである。(利用保障)
(3)資料製作には高度な変換技術を必要とし、合わせて時間的制約もクリアしなくてはならない。ボランティアがこの高度な変換技術を有していることもあるが、それを持続的・向上的に確保できる保障はない。資料製作者に対し、図書館がふさわしい対価を支払うことにより、その責任を明確化し、ある種の義務を負わせる必要がある。
(4)図書館が対面朗読者や資料製作者に賃金あるいは謝金を支払うことにより、職員と図書館協力者とのある種の契約関係が生まれ、そのことで図書館の指示により利用者の求めに則した資料製作が可能となる。いわば職員が利用者の声を代弁しているのである。

4 すでにボランティアにより実施している館において図書館協力者に移行できない理由
種々なサービスの中には、当初は緊急性や未発達等の理由からボランティアにより開始されるものも少なくない。しかし、それらのサービスも徐々に望ましい形に変化していくものである。例えば、聴覚障害者のための手話通訳や要約筆記等のサービスは、当初ボランティアにより開始されたが、現在行政主体のものについてはほとんどお金が支払われるようになっている。
では図書館の障害者サービスの場合は、なぜ望ましい方法に移行していけないのだろうか。その理由は次のようなことがあげられる。
1)図書館の障害者サービスへの理解が不足していて、「ボランティアではおかしい、ボランティアはありえない」という認識に欠けている。(図書館職員)
2)利用者自身の権利意識が薄く、行政への要求が弱い。「ボランティアではおかしい」ことを積極的に訴えていない。
3)現在活動しているボランティア自身が「ボランティアではおかしい」ことに気づいていない。
4)行政の財政難による予算化の難しさ。
しかし、実際のところどれだけの館が新規予算要求を行っているのだろうか。むしろ、永年予算化できている館が、逆にボランティアへの移行を強要され、それに必死に抵抗しているのが現状である。予算化するのが当たり前の状況を早くつくっていかなくてはならない。

 

W 図書館と図書館協力者やボランティアをめぐる現状

ここでは、図書館と図書館協力者、ボランティアをめぐる現状について、私たちの現状認識を示しておくことにする。

1 図書館協力者の現状
 対面朗読者や点訳・音訳等の資料製作者と図書館の関係をみると、現状ではさまざまな形態がある。このガイドラインにいう図書館協力者のように、賃金あるいは謝金を支払っているもの、交通費のみを支払っているもの、まったく無償のボランティアで行っているもの等さまざまである。1998年に日本図書館協会が実施した「図書館利用に障害のある人々へのサービス全国調査」では、謝金を支払っている館が78館(45%)、謝金と交通費を支払っている館が7館(4%)、交通費のみを支払っている館が3館(2%)、何も支払っていない館が85館(49%)となっている。
 図書館への登録についても、個人登録もあれば、グループとしての登録もあるなど多様である。

2 先進的ボランティア活動との連携
 ボランティア活動の基本的理念には、「自発性」「無償性」「公共性」「先駆性」等があると言われている。公共図書館の障害者サービスの中には、その端緒から先進的な活動を行っていた外部のボランティアグループ等に学びながら、かつ支援を受けながら発展してきた例もある。
 今後も、LD(学習障害)・ディスレクシア(読み書き障害)・知的障害・精神障害等、現状では図書館として十分には対応できていない新たな障害者へのサービスを推進していくためには、これらの先行する外部のボランティア活動との連携は欠かせないと考える。

3 文部科学省(旧文部省)のボランティアをめぐる動向
 文部科学省では、下記のように、図書館を含む生涯学習分野へのボランティアの導入に積極的になっている。しかし、障害者サービスにおける図書館協力者、ボランティアのあり方に関しては検討が十分になされていないと推測される。
(1)1992(平成4)年の「生涯学習審議会答申」において、生涯学習とボランティア活動の関係が明確に示され、生涯学習の振興方策として、ボランティア活動の支援・推進施策が位置付けられることとなった。
(2)2000(平成12)年の『公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準について(生涯教育審議会社会教育文化審議会計画部会図書館専門委員会報告)』の「V.基準の内容の2.市町村立図書館 (6)ボランティアの参加促進」に次のような記述がある。
 「……高齢者・障害者等多様な利用者に対する新たな図書館サービスを展開していくために、必要な知識・技能等を有する者のボランティアとしての参加をいっそう促進するよう努めるものとする。」

4 自治体サービスとボランティア
 最近各地でボランティアグループによる自治体の広報紙や議会だより等の点字版、録音版の製作が行われている。それもボランティア(無償)という場合が少なくない。しかし、本来それらのものを発行し、すべての住民に提供する責務が自治体側にあることは明確である。それを無償でボランティアグループ等に依頼できる根拠はどこにあるのだろうか。当然、ボランティアなりNPO法人に委託するとしても、それ相応の委託費を支払うべきである。
 しかも、これらの方法で製作されている広報紙の点字版・録音版は抜粋版がほとんどであり、残念ながら住民のニーズを満たしているとはいえない。また責任ある校正がなされていないものさえある。
 これは、自治体に自ら製作する義務があるという意識に欠けていることと、グループへ何もかも依頼して済ませてしまおうとする姿勢に問題があるといわざるをえない。ひるがえって図書館職員はどこまで資料製作の意味を理解しているだろうか。自治体サービスという側面からも問い直してみることが必要である。

5 ボランティアから図書館協力者への移行
 現状では対面朗読や資料製作をボランティアに依頼している図書館は少なくない。しかし、その方法を望ましい形・到達点としてとらえることなく、あくまで緊急的・過渡的な形であると認識する必要がある。図書館(員)はボランティアの誠意ややる気に甘えてはならない。
 そして、できるだけ早く図書館が主体となった職員と図書館協力者によるサービスに移行していく必要がある。

 

X 用語解説

1 障害者
 「図書館利用に障害のある人」の総称。
 公共図書館の障害者サービスにおいては、障害者手帳を持つ身体障害者だけでなく、高齢者・学習障害者・施設入所者・入院患者・受刑者・外国人等、図書館利用に何らかの障害のある人を総称して「障害者」という場合がある。

2 資料製作者
 図書館からの指示により、点訳・音訳・拡大写本・ビデオソフトへの字幕・手話挿入等の、資料のメディア変換(製作)を行う者。図書館への個人登録を原則とする。
 資料製作は高度な専門技術を必要とし、また本来図書館が行うべき業務の代行であるため、その活動に対しそれ相応の対価を支払わなければならない。また、図書館においては資料製作者の技術向上のための定期的な研修を行う必要がある。
 例:点訳者、音訳(朗読)者、DAISY編集者、拡大写本製作者、布の絵本・さわる絵本製作者、字幕・手話付きビデオ製作者等

3 対面朗読者
 図書館からの指示により対面朗読を行う者。図書館への個人登録を原則とする。
 対面朗読者は、音訳技術に加え資料検索能力等高度な専門技術を必要とする他、利用者の読書のプライバシーを尊重する義務を負う。本来図書館が行うべき業務の代行であるため、資料製作者同様、その活動に対しそれ相応の対価を支払わなければならない。また、技術向上のための定期的な研修を行う必要がある。

4 図書館協力者
 上記の「資料製作者」と「対面朗読者」を合わせた呼び名。
 その活動には相応の対価が支払われるので、無償のボランティアはこれに含まれない。

5 謝金・報償金、対価
 「対面朗読者」「資料製作者」が行った活動に対して図書館から支払われる対価のこと。
 一般に「謝金・報償金」となっていることが多いが、本来は「労働対価」としての意味を持っている。そのため、交通費・弁当代程度の額であってはならない。

6 ボランティア
 自己実現のために個人の自主的活動として、社会や個人に貢献しようと活動している者のこと。同じ目的を持つ者が連携し合い、グループで活動する場合もある。
 無報酬が原則だが、活動に対する交通費程度の支払いは経費として社会通念上認められている。
 ボランティアの原語は、「ボルンタス」voluntas(ラテン語)で、意味は「意志」である。内心に生まれた善意を自分の意志として受け止めるというものである。したがって内発性(個人的なもの)と、自由性(しなくてもよい)が、内在的な二つの性質である。
 この語源から社会的に以下の四つの特徴が生まれる.
1)社会の中で、まだ顕在化してはいないが、「人間の尊厳」の視点から見逃すことのできない潜在ニードを先駆的に発掘し、社会的に顕在化させていく。
2)放っておけずに、やむにやまれず助けてしまう。つまり、「まず仕事在りき」である。したがって、経済的な裏打ちがないために「リスク」が付きまとう。そのため、実際には自己負担、受益者負担、募金、公費等で賄われている。
3)「いつでもやめられる」という内在的性質から、社会的存在としては恒常性に不安が残り、「通過集団」としての脆さをもつ。
4)ボランティアによってその必要性が社会的に認知された仕事は、専門化し、やがて職業として恒常化していく。これは例外を除き、多くの場合営利性をもたないので、公権力に引き継がれていくことが多い。

7 有償ボランティア
 ボランティア(自発性、無報酬性が原則)に対し、このように呼称される場合がある。  交通費以上の対価が支払われる活動をする場合はボランティアの概念とは矛盾する。有償ボランティアという表現自体誤り。

8 資料製作会社
 障害者サービス用資料の製作及び販売を主たる業務とする会社のこと。
 高度な資料製作技術を有しているが、残念なことにその会社数や個々の製作数は非常に少ない。

9 NPO法人
 「特定非営利活動促進法(NPO法)」に基づき、法人格を取得した団体のこと。  営利を目的とせず、社会的な使命を持った民間の組織で、「非営利団体」と呼ばれる場合もある。
 今後、障害者サービス用資料の製作を、このNPO法人との契約で行う場合も予想される。

10 公共図書館と点字図書館「視覚障害者情報提供施設」
 主に視覚障害者のための点字・録音資料の製作・貸出のサービスは、公共図書館と点字図書館が協力(全国的ネットワークの構築)して行われている。製作した資料や所蔵資料を国立国会図書館の「点字図書・録音図書全国総合目録」等に公開し、どの館の資料も電話やファックス等で申し込むだけで無料で借りることができる。
 このように、資料を製作し貸出すというサービスにおいては、両者は何ら隔たりのないサービスを行っている。しかし、そのサービスの意味・利用対象者・資料製作の根拠・方法等は明確に異なっている。
 公共図書館での資料製作の意味は、「すべての人にすべての図書館資料を提供する」ためのものであり、リクエストされたものを必ず提供するための手段である。いわば、原本の代わりとなる資料(=2次的資料)ともいえる。このリクエストされた資料を製作するということと、公共図書館には豊富な原本と読みの調査をする資料が充実していることから、比較的専門的なものや多分野の資料を製作している。また、その利用対象者も視覚障害者だけに留まらず、肢体障害者や寝たきりの人等、原本をそのままの形では利用できない人へと拡大しつつある。
 これに対し点字図書館は、視覚障害者への専門的な情報提供施設として、視覚障害者の福祉の向上を目的とし設置されているものである。
 実際の製作・貸出の状況は、そのかなりの割合を点字図書館が担っている。公共図書館も年々増加をしているがまだ少ないのが実情である。しかし、大切なことは公共図書館と点字図書館の製作・貸出量の割合の問題ではなく、資料の製作数が全体として非常に少ないということである。

  公共図書館と点字図書館の録音資料製作館数、製作タイトル数
(1) 公共図書館
 「日図協2005年全国実態調査」より 2004年度(2005年3月31日現在)
カセットテープ 製作館数164 3,496タイトル
DAISY   製作館数 28 738タイトル
 (2)点字図書館
 「日本の点字図書館21」より 2004年度(2005年3月31日現在)
カセットテープ 製作館数83 11,109タイトル(複本含む)
DAISY   製作館数80 11,686タイトル(複本含む)