IFLAベルリン大会レポート
2003年度IFLAベルリン大会(2003年8月1日〜9日)報告
宮部頼子


 本誌10月号でも報告したように,第69回IFLAベルリン大会が8月1日〜9日の日程でベルリン市内の国際会議センターを主な会場として開催された。今大会からWorld Library and Information Congress(世界図書館・情報会議)という,内外の人々にその内容が具体的に伝わりやすい名称が付与された。参加者は133か国から4,560名であった。会期中はドイツ全土から参集したボランティア200名が,主会場での各種案内サービス,図書館見学ツァー時のガイド役等で活躍していた。今大会では参加証がカード形態になり,この個人カードを用いて会場内の特設端末から参加者同士のメールシステムにアクセスできる仕組みになっていた。参加者は毎日このシステムにアクセスして大会本部からの一斉通知を確認したり,友人・知人との連絡を円滑に行うことができた。このおかげで筆者は面識のない,大学時代の友人のお嬢さん(ドイツ在住)から「参加者名簿でお名前をみつけました」とメールをいただき,「それでは日独図書館・情報専門家の意見・情報交換会懇談会でぜひお会いしましょう」といった,うれしい驚きを経験できたのである。

 今大会の日本からの参加者は32名と決して多くはなかったが熱心な方々ばかりで,猛暑にもめげず連日精力的に各種プログラムに参加されていた。その意味では非常に充実したIFLA参加であったといえよう。また竹内日本図書館協会理事長が全期間参加され,精力的に各国関係者と密度の濃い「図書館外交」を繰り広げておられた。評議会において国立国会図書館の大滝則忠副館長とともに採決に臨まれたのをはじめ,日本からの参加者はもとより,諸外国の図書館協会関係者や参加者ともさまざまな機会を利用して積極的に交流されていた。そうした中で,今後の日本図書館協会の活動における国際交流の重要性を改めて認識されたようで,国際交流事業委員長としては大変にありがたいことである。併せて,2006年のIFLAソウル大会を射程にいれたさまざまな協力活動が,日本の図書館界に期待されていることを実感させられた大会でもあった。

 IFLA大会報告としては,総会決議等に関しては竹内理事長が,また,会期半ばに日本からの参加者のためにベルリン日独センターの桑原節子氏を中心に準備された「日独図書館・情報専門家の意見・情報交換会」に関しては,明星大学図書館の茂木眞理氏が報告されると思うので,ここでは主としてそれ以外の事柄を中心に報告したい。

 まず今大会のテーマ“Access Point Library : Media− Information− Culture”(アクセスポイントとしての図書館 : メディア−情報−文化)について大会準備委員長Georg Ruppelt博士はIFLA Express第1号の冒頭で,「図書館の多様な任務,すなわち過去と未来に関わる任務,を端的に表現しており素晴らしい」と語っている。ちなみに本テーマはドイツ語では“Bibliothek als Portal”「戸口・門としての図書館」と訳されている。博士はポータル(門・入口)の守護神である両面神ヤヌスを引き合いに出して,ベルリンの図書館に所蔵されている過去の貴重な資料/最新の資料,ベルリン市内の歴史的名所/最新の都市景観,そしてベルリンの街が背負ってきた重い歴史/1990年東西統一によって開かれた明るい未来,を対比させながらヤヌス像の悲しみと喜びの両面に重ね合わせて,今回のテーマに特別の想いを寄せている。

 開会式での基調講演はKlaus Gerhard Saur氏(Saur出版社会長,1992〜ミュンヘン国際青年図書館評議員,1995〜ドイツ書籍取引出版協会歴史委員長,2001〜ゲーテ・インスティテュート副会長)によって行われた。同氏は「図書館と出版社−パートナーシップ−」と題して,IFLA大会の歴史およびドイツ国立図書館の歴史,図書館と著作権の問題等に触れた後,情報化社会における図書館と出版社との共存・共栄の必要性を強く訴えた。

 その他の全体会議における講師と講演タイトルは以下のようなものであった。

 Rainer Kuhlen(コンスタンツ大学情報科学・教授) : 「知識マネジメントにおけるパラダイムの変化−協力的な知識生産のための枠組み」,Adama Samassekou(情報社会のためのワールドサミット準備委員会事務局長,前マリ文部大臣) : 「ワールドサミット−知識共有社会への最初の一歩」(筆者注 : World Summit on the InformationSocietyは,2003年12月10日〜12日,スイス政府主催のもとジュネーブで開催。基本原理宣言とアクションプラン採択の予定。第2回は2005年チュニジアの首都チュニスで開催予定。開発問題と2003年のアクションプランの見直しが主要テーマ。http:www. itu. intwsis),Jeanette Hofmann(ベルリン社会科学研究所インターネット管理研究班主任) : 「デモクラシーとグローバリゼイション」,Klaus Ring(読書財団理事長) : 「インターネットと紙媒体は交換可能な読書メディアか?」。

 恒例の図書館見学ツアーには,総合図書館8館,公共図書館3館,学術・研究図書館7館,専門図書館9館,政府・法律図書館1館,医学図書館1館,美術図書館2館,音楽図書館1館,歴史図書館3館,情報センター3館がリストアップされており,その他にも数多くの市内の図書館が随時IFLA参加者の見学を受け入れていた。

 筆者はThe America Memorial Libraryの見学に参加した。ここは1949年に西ベルリン在住のアメリカ人によって設立された図書館で,占領下およびその後の分割時代における最も重要な貸し出し図書館となった。現在は東ベルリン市立図書館と統合されてベルリン中央・地域図書館を形成している。案内役は在勤20数年という館内唯一のアメリカ人男性司書であったが,言葉の端々から1990年の東西統一から10年以上経過した今日も,ドイツ国内の図書館間の有機的連携が必ずしも確立されているとはいいがたい状況がうかがわれた。同様に図書館情報学教育に関するワークショップでも,ドイツにおける図書館員養成システムを簡潔にまとめることは,それが長い歴史を通じて形成された複雑な構造と多様性をもつだけに,非常に難しいということが強調されていた。現在ドイツでは10機関で図書館員養成教育を行っているが,1990年代半ばから新たなカリキュラム編成の努力が始まった。たとえばフランクフルトの図書館学校は閉鎖され,その講座はダルムシュタットの専科大学に移された。またシュトゥトガルトでは図書館情報大学と印刷メディア大学が統合された。国際化の進む現在では特に情報提供業務の分野では国際的に承認される教育基準の必要性に対応するため,図書館情報学修士の修了資格を導入し始めている。

 その他の主なトピックとしては以下のようなものが上げられる。

*グリム童話のストーリーテリング :
 大会終盤の8月8日朝,専門家によるグリム童話の英語によるストーリーテリングが披露された。この催しにあわせて,フンボルト大学図書館所蔵のグリム兄弟研究コレクションの一部が会場に展示された。あわせてグリム兄弟の生涯に関するスライドも上映された。

*Access to Learning Award 2003(ビル/メリンダ・ゲイツ財団による「2003年度学習へのアクセス賞」) :
 これはアメリカ国外において,情報への自由なアクセスに関して革新的な活動を展開した図書館ないし類縁機関に与えられる賞である。図書館・情報資源協議会が管轄しており,賞金は100万米ドル。今年度は低所得層のためのコンピュータ/インターネット無料アクセスに革新的に取り組んでいるケープタウンのSmart Cape Access Projectが受賞した。

*イラクの図書館状況 :
 8月5日には本年4月戦争勃発以降のイラクの図書館事情に関する最新情報を内容とする特別セッションが開催された。報告者は,UNESCO専門家ミッションの活動で最近イラクに赴いた Jean-Marie Arnoult(フランスの図書館調査官)。

*『IFLAFAIFE ワールドリポート2003,情報社会における知的自由,図書館およびインターネット』発売 :
 これは88か国(IFLA加盟国全体の58%)からの調査報告である。今回は図書館とインターネットに焦点を当てて,情報格差,フィルタリングの問題,利用者のプライバシー,経済格差,知的自由,倫理綱領などを盛り込んでいる。