IFLAグラスゴー大会レポート
2002年度IFLAグラスゴー大会(2002年8月18日〜24日)報告
宮部頼子


 本誌10月号において簡単な報告を行ったが,ここでは標記大会の概要および全体的な感想を述べる。また筆者が特に関心をもって参加した「教育・養成分科会」についても紹介したい。なお,全体会議を含む幾つかの分科会の模様は,本誌の他の参加者報告を参照されたい。また,本誌10月号で紹介した大会会場前での「移動図書館フェア」に関しては,『図書館の学校』11月号に横山英子氏の写真つき詳細記事が掲載されているので,関心のある方はご覧いただきたい。

 前回報告にもあるが,第68回グラスゴー大会は122か国,4765名の参加者で昨年のボストン大会に比べれば参加者数は幾分少ないとはいえ成功した大会といえるであろう。展示会場参加リストには142の団体が載っているが,残念ながら今回は日本からの参加はなかったようである。

 本大会参加にあたっては例年通り,日本図書館協会後援ツアーが組まれ25名が参加した。ちなみに日本図書館協会からは主として財政上の理由から正式代表参加はなく,国際交流事業委員会前委員長・現委員長・委員の3名は個人資格で参加した。その結果,ツアー参加者とは「つかず離れず」,「インフォーマル」「ある種曖昧な」形での交流を持つこととなった。このツアーのあり方は今後の検討課題であろう。ツアーの一部として大会参加に先立って,ロンドンに2泊して英国図書館・ロンドン市ビジネス図書館ほかの見学を行った。筆者にとってはスコットランドでの大会参加に先立つ格好のオリエンテーションとなった。この見学会は,準備段階から実施当日まで全面的にお世話くださった前委員長小泉徹氏の多大なるご協力の賜物である。ここに記して感謝したい。

 今大会の特色のひとつは,1927年エディンバラにおいてIFLA(当時はInternational Library and Bibliographical Committee,1953年改称)設立が宣言されてから実質上75周年記念に当たることである。大会テーマ“Libraries for Life: democracy, diversity, delivery”を反映した全体会,オープンセッション,ワークショップ,ポスターセッション,プレゼンテーション等の各種プログラムが実施された。今大会独自の企画としては移動図書館フェア,展示会場におけるモデル児童図書館設営,カーネギー記念プログラム,著者たちによる講演とサイン会,チャリティーマラソン(各国図書館員31名,地元ランナー43名参加で,収益700米ドルをケニアの図書館障害児支援に寄贈)などがあった。IFLA75周年記念に関しては大会参加者に「75th Anniversary」と「A BriefHistory of IFLA, 1927-2002」の資料が配布された。

 筆者が参加した分科会は主として教育・養成に関するものである。急激に進展する機械化に現場の図書館員がどのように対応しているかをめぐって興味深い発表がいくつかなされた。特に「中堅職員で機械化に拒否反応を示す人々をどのように適応させていけるかが現場で大きな問題である」という指摘が,複数の発表の中で見られたのが印象的であった。しかしわが国と違って専任職員減・非専任増の著しい現象はみられず,相対的には図書館専門職が社会的に認知されている様子がうかがわれ,いつものことながらうらやましい限りであった。「図書館専門職の急激な変化」と題したワークショップでは,英国における最近の専門職組織の改革が中心的に取りあげられた。具体的には,本年4月に組織されたCILIP(Chartered Institute of Information Professionals)とその認定基準,CILIPと図書館情報学教育・養成との関係について従来との比較において説明がなされた後,活発な質疑応答が行われた。英国ではこれまでLA(Library Association)とIIS(Institute of Information Scientists)の二大専門職組織がそれぞれの認定基準を保持してきた。しかし両者の大学コース認定作業における近似性にかんがみ,1999年にはこれらの認定作業がJAA(Joint Accreditation Administration)のもとに統合された。その後,LAとIISが2002年にCILIPを形成して合併されたのに伴い,JAAはCILIPの認定機関となった。しかしここにきてまた,QAA(UK Quality Assurance Agency of Higher Education)とCILIPの認定作業との近似性が指摘されている。CILIPは図書館類縁機関の認定基準をも射程に入れているので,既存の認定機関との統廃合も含めて英国における専門職教育と認定機関をめぐる状況は,今後も引き続き新たな展開を示すことが十分予想される。しかしながら現時点ではまだ,図書館関係者のCILIPに関する理解が必ずしも十分浸透しているとは思えない面もうかがわれた。それは参加者からのさまざまな質問にも示されていたといえよう。

 その他として以下に,会期中に配布されたIFLA Expressから幾つかの記事を紹介してみよう。

(1)カーネギー記念ワークショップおよび図書館見学:
会期中にはアンドリュー・カーネギーの業績を記念する各種の行事が開催された。カーネギーは米国で鉄鋼業により財を築いた後,1881年にグラスゴーからおよそ30マイルの郷里ダンファームリン(Dunfermline)に最初の公共図書館を寄贈している。その後1881年から1919年の間に,英語圏の12か国余において2,500以上の公共図書館と100以上の大学図書館を寄贈した。公共図書館のうち600館は英国内にあり,そのほとんどが現在でも利用されている。カーネギーはまた多くの慈善基金も設立し,オーストラリア図書館協会設立にも寄与している。ニューヨークのカーネギー財団は今なお最大規模かつ影響力の強い基金であり,近年はアフリカの図書館開発に積極的に協力している。8月22日には午前のワークショップ後,ダンファームリン図書館と博物館の見学が行われた。

(2)北朝鮮から初参加:
 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)のピョンヤンから2人の図書館員が初めてIFLAに参加した。1人は国立図書館館長代理,もう1人は北朝鮮の図書館協会のスタッフである。9日間の滞在中,IFLA参加のほかにロンドン/ヨークシャーでは英国図書館を訪問し,エディンバラでの国立図書館長会議にも参加した。国立図書館長代理は,IT部門,図書館・社会教育施設の長も務める。2000年の英朝国交樹立以来,北朝鮮から図書館関係者が英国を訪れるのは,昨年の博物館・美術館関係者の訪問に続きこれが史上初めてである。

(3)9.11のビデオ・ドキュメンタリー:
 これは2002年6月アトランタでのALA年次総会で初公開されたALA制作ビデオであり,ALAブースで紹介された。世界貿易センターと国防総省近辺では当時200名の図書館員が働いていたが,このビデオではマンハッタン地区の図書館が受けた被害状況の実態と,図書館員たちがいかにして個人としてまた専門職として立ち直っていったかを示している。

(4)「カンタベリー物語」のデジタル化:
 英国図書館は慶應義塾大学との共同プロジェクトで「42行聖書」デジタル化を行った。今度はそれに引き続いて行われる,チョーサーの「カンタベリー物語・カクストン初版」のデジタル化プロジェクトの紹介が英国図書館ブースにおいて行われた。

(5)IFLAインターネット宣言:
 最終日の協議会で採択された「IFLAインターネット宣言」には,「インターネットを通じた情報アクセスの原則」として,「他の中心的サービス同様,図書館・情報サービスにおけるインターネットへのアクセスは無料で行われるべきである」と盛り込まれており,特に開発諸国の状況に対する配慮が基盤となっている。