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2005年8月4日

社団法人日本図書館協会 

船橋市西図書館蔵書廃棄事件裁判の最高裁判決にあたって(声明)

 船橋市西図書館が2001年8月に「新しい歴史教科書をつくる会」の会員らの著書を集中的に除籍・廃棄し、著者らがこれに携わった職員と船橋市に損害賠償を求めた裁判で、最高裁判所第一小法廷は7月14日、船橋市西図書館の一司書職員が「公正に図書館資料を取扱うべき職務上の義務」に反して「新しい歴史教科書をつくる会」とその賛同者に対する「否定的評価と反感」から「独断で」廃棄したことは、公立図書館において著作物が閲覧に供されている著作者の、思想・意見等を「公衆に伝達する」「法的保護に値する人格的利益」を侵害するものであり、国家賠償法上違法と判示し、船橋市への損害賠償請求を認めました。

 日本図書館協会は、図書館の目的と社会的責任を表明する「図書館の自由に関する宣言」(1979年5月30日、総会決議。以下「宣言」)において、「図書館は基的人権のひとつとして知る自由をもつ国民に資料と施設を提供することを、もっとも重要な任務とする。」とし、かつて思想善導の機関として国民の自由を妨げる役割さえ果たしたことの反省にたって、「国民の知る自由を守り、広げていくこと」を図書館の責務としています。

 本件判決は、教育基本法、社会教育法、図書館法、地方教育行政の組織及び運営に関する法律等の関係条文さらに「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」を参照・引用し、公立図書館は、「住民に対して思想・意見その他種々の情報を含む図書館資料を提供して、住民の教養を高めること等を目的とする公的な場」であると位置づけました。

 これまで裁判所は、図書や新聞などの「閲読の自由」を憲法が保障する基本的人権と認知しています(東京拘置所の「よど号」ハイジャック記事抹消事件、最高裁昭和58年6月22日大法廷判決)が、知る自由を実際に保障する重要な機関である公立図書館については、「公の施設」(地方自治法第244条)と位置づけるに止まり、したがって資料の提供については施設の設置者の大幅な裁量権を認めていました(東大和市立図書館の犯罪少年本人推知記事閲覧禁止事件、東京高裁平成13年(行コ)第212号判決)。本件判決は、公立図書館の職員による独断的な蔵書の廃棄は国家賠償法上違法となると判示することにより、公立図書館は国民の知る自由を保障する「公的な場」であると憲法上認知したものと言えるでしょう。この点、本判決は「宣言」の基本的立場に同意するものであり、今後の図書館事業にとって重要な指針を示したものと言えます。

 図書館員の自律的規範を表明する「図書館員の倫理綱領」(1980年6月4日、総会決議。以下「綱領」)は、「図書館員は図書館の自由を守り、資料の収集、保存および提供につとめる」として、これを侵す「いかなる圧力・検閲をも受け入れてはならないし、個人的な関心や好みによる資料の収集、提供をしてはならない」としています。

 裁判で認定された司書職員の行為は、図書館職員による検閲ともいうべきことであり、「宣言」と「綱領」を踏みにじるものと言わざるをえません。その要因を排し、図書館に対する国民の信頼を回復し期待に応えるために、収集や除籍等の方針、基準、手続きを明文化して公開することは、図書館として運営の透明性を高め、説明責任に応える上で喫緊の取り組みです。また、図書館経営においては、図書館職員一人ひとりを図書館運営やサービス計画の策定、実施、評価の担い手とし、集団としての専門的能力を育む人事的配慮が基本に据えられるべきことを、今回の事件は改めて提起しています。

 今回の判決は、原告や社会全体からの当該職員と図書館に対する厳しい批判を代弁するものです。

 当協会は、このような事件によって図書館への国民の期待と信頼の根底を傷つけた責任を真摯に受け止め、全国の図書館と図書館員とともに「図書館の自由に関する宣言」と「図書館員の倫理綱領」を自律的に実践することを改めて表明します。

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