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[ 全国図書館大会 兵庫大会へ向けて 5 ]

期日:2008年9月18日(木)〜19日(金)
会場:兵庫県神戸市ポートアイランド内


阪神・淡路大震災を未来に伝える

−「震災関連資料」の収集・保存−

宮本 博


はじめに(「震災関連資料」生まれる)

 今年の全国図書館大会の会場となる神戸市周辺は,平成7(1995)年1月17日の早朝,激震に襲われました。図書館も大きな被害を受け,避難所になった館も多くありました。避難所は被災者への情報提供の最前線で,大量の情報が発信されていました。しかし,それらは“最新”という役目を果たすと直ちに廃棄されるものでした。このような状況に接した図書館員の間では,これらの情報が後に“震災”を検証する際の基本資料になるという認識が生まれ,早急な収集と適切な保存対策が求められました。そして,公共・大学・専門などの各図書館や各種の史料保存機関が連携し,震災に関連して生み出されるあらゆる情報(資料)を「震災関連資料」と位置付け,その収集・保存のための活動が展開されたのです。

 それから13年が経過した今,収集した資料を常設展示・公開している図書館を紹介します。

 

「震災関連資料」を展示している図書館

(1) 神戸大学附属図書館「震災文庫」

 阪神・淡路大震災が発生した同年の10月30日に,神戸大学附属図書館では,災害復興と今後の地震研究や防災対策に役立つことを願い,「震災文庫」(http://www.lib.kobe-u.ac.jp/eqb/)の一般公開を開始しました。

 

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 震災文庫は当初より,(1)資料の網羅的収集,(2)広く一般に公開,(3)インターネットの最大限の利用を運用方針として,資料収集と公開を行ってきています。

 収集資料には,当時の新聞やその後の出版物のほか,ボランティア活動の中で作成配布されたチラシ,開通間もない電車路線でのアナウンス録音など,震災当時にしか入手できなかった資料も多く含まれています。

 また,資料の一般公開は,公開のみならず,市民の方々からの多数の資料の寄贈にもつながりました。現在も寄贈を含め,年間1500点の資料を受け入れています。ただし,震災後10年以上を経過した今日,当時の記録を刻む生の資料の受け入れはほとんどなくなってきています。

 今後は,関連資料の収集を継続するとともに,これまで収集した資料に関する情報を広く流通させ,資料をより活用していただけるよう努力したいと考えています。さらに,新システムの導入によって資料一覧が見やすくなり,Googleマップによる写真表示も可能となりましたので,ぜひご利用ください。

(田原勝典 ※現在 : 大阪大学附属図書館)

 

(2) 神戸市立中央図書館「1.17文庫」

 神戸市立中央図書館では,これまでに阪神・淡路大震災関連資料について,図書3367タイトル(うち雑誌517冊),パンフレット類247タイトル,視聴覚資料173タイトル,ニューメディア資料48タイトルを収集してきました。

 

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 収集した図書資料は原則として2階の「1.17文庫」に配架して閲覧に供しています。また1階の児童コーナーにも,子どもたちが震災について身近に知ることのできるよう,震災関連の児童書を並べ,ホームページの「こどものページ」には,そのリストが掲載されています。

 資料の目録としては冊子目録を発行してきましたが,ホームページにも「震災関連資料リスト」を掲載しています。震災10年目にあたる平成17(2005)年には,目録のCD-ROM化(検索機能付き)を行い,同年2月に神戸市で開催された「災害と図書館」と題するシンポジウムの際,出席者全員に配布しました。このほか,図書・雑誌に収録されている震災関連のおもな論文・記事を検索するためのデータベースも作成しています。

 震災から13年たった現在も,市民主体のまちづくりの事例,復興から取り残されている被災者の現状,市民活動団体による自立支援,継続して発行されてきたかわら版の合冊版といった資料が発行されています。市民から寄贈される小説や詩句集にも,神戸の人が書いたものには,どこかに震災の記憶が含まれています。これからも被災地の図書館として,幅広く資料を収集し提供していくことの重要性を感じます。(問屋晶子)

 

(3) 兵庫県立図書館「フェニックス・ライブラリー」

 被災地の県立図書館として,資料の収集に努め,平成7年11月に「フェニックス・ライブラリー」を開設しました。図書,逐次刊行物,ビデオテープ,CD-ROM,CD,マイクロフィルム,スライド,地図,空中写真,避難所で配られた手書きのチラシなど,あらゆる種類の資料を収集しています。また,収集した資料の有効活用を図るために,以下の目録・索引類を作成しています。

 

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 (1)平成9(1997)年,収集した資料の集大成『阪神・淡路大震災関連資料目録』を刊行。(2)ホームページから「図書」「CD-ROM」が検索可能。書誌データに「阪神・淡路大震災」という件名を入力。(3)「震災関連雑誌記事索引」を作成。来年1月ホームページ上で公開予定。(4)地元の新聞各紙に掲載された関連記事索引をカード目録で作成。

 年々薄れていく阪神・淡路大震災の記憶ですが,世界規模で頻発する地震のニュースを見聞きするたびに記憶がよみがえってきます。これからは,収集した資料を多くの方々に利用していただくための環境作りを進めながら,資料の収集,整備に努力していきたいと考えています。

(藤井和佳音)

 

※「人と防災未来センター資料室」「人・街・ながた震災資料室」でも展示・公開されています。

おわりに(「震災関連資料」の今)

 あらゆる資料を収集している施設では,整理や活用面での苦労がうかがわれますが,ホームページ上での検索,CD-ROMの作成,デジタル画像での公開などの成果をあげています。多くの図書館では,郷土(地域)資料の1分野として位置付け,企画展示などを催しています。また,ボランティア団体では,積極的な資料展示と共に,街の被災と復興の記録を作る活動にも取り組んでいます。

 震災直後の混乱の中で生まれた「震災関連資料」は今も成長を続けています。各施設から発信されている情報や展示資料を通じて“元気な兵庫”の歩みを,ぜひ実感してみてください。

 

(みやもと ひろし : 兵庫県立図書館)
[NDC9 : 090 BSH : 1.阪神・淡路大震災(1995) 2.全国図書館大会 3.図書館−兵庫県]

 

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