[特集]図書館と災害被害・その教訓


地震の巣の上の図書館

−幸運だった本の森厚岸情報館−

小杉元一


 厚岸町は,北海道の東,釧路市と根室市の間にあって,太平洋側に面した,人口1万2000人あまりのちいさな町である。厚岸湾,厚岸湖の周辺に市街地を形成し,漁業と酪農をおもな産業としており,環境問題に積極的に取り組んでいる。

 本の森厚岸情報館は,この厚岸町の町立の図書館である。情報館という名前には「既成の図書館の枠をこえた町の図書館を」という意向がこめられており,1996年に開設した。

 しかし太平洋側に面した道東の町ということは,周知のように,大きな地震の震源地をすくなくとも三つも抱えているということである。それは根室沖であり,釧路沖であり,十勝沖の震源地である。実際,それらを震源地とする震度5以上の地震を,ここ10年ほどで6回ほど体験している。1993年と94年に震度6の烈震,2003年9月は震度5強の十勝沖地震,2004年11月と12月には続けざまに震度5強と5弱の釧路沖地震,その余震と見られる2005年1月の震度5弱の地震があり,いかに地震の巣の上で私たちが生きているかということを思い知らされているといっていい。

 しかし,1996年に開設した本の森厚岸情報館は,最近のその4回の地震にもほとんど影響を受けることはなかった。震度5強の地震の後も,館内には,本一冊,床に落ちていなかった。ただ館内の壁面に,目を凝らして見なければわからない幾つかの亀裂が走っていたことを除いては。

 ほとんど被害を受けなかったのには,おそらく次のようなことが理由として考えられる。

(1) 1996年の建築ということもあり,1993年と94年の地震を教訓とした対策を施工法の中に取り入れたこと。

(2) 書架だけに限定しても,内部造作のひとつとして,傾斜型木製書架を採用し,床に転倒防止固定金具で固定していること。

(3) 木製書架は大半が4段型の低い書架であり,高いものでも6段型の書架であること。

 言うまでもないが,施設としての公共図書館にとって,書架の設置の仕方は地震の対策上からは,とてもおおきなポイントとなる。資料がどれほど書架から飛び出し床に散乱するかによって,資料の破損や後片づけにどれほどの日数がかかるかが決まるからだ。それだけではない。書架によっては,根こそぎ倒れて利用者にとって凶器となる場合もあるのだから。

 しかし施設の壁が崩れたり,天井が抜けたり,内部の機器が床に叩き落ちる状態があれば,どんな書架であっても無事で済むわけがないだろう。本の森厚岸情報館が今までの4回の地震で被害がなかったとしても,これからどんな地震を経験するかは誰にもわからない。むしろ,これまでが幸運だったと考えなければならない。また,これまでどれも夜間の地震であったが,ちいさな子どもたちがいる日中に起きることもあるのだ。もっと言えば,海に面した町ということで,津波の事態も想定せざるを得ない。これらを考えあわせながら,反省を含め,どんな備えが必要であるか,何が大事であるかを大雑把に整理してみた。

(1) 地震への慣れを持たないこと。特に日中の地震を想定して,利用者への適切な対応をマニュアル化しておくこと。

(2) 役場と連携し,防災計画やハザード・マップなどの資料を館内に常設展示すること。児童の総合学習でも活用できる資料を用意しておくこと。

(3) 館内の備品や機器などを平常時から点検し,固定していくこと。書架や棚の高い段には重い資料を置かないこと。

 備えあれば万全というわけでもないが,住民が利用する施設として,これらは当然対処しておかなければならないポイントであろう。自戒をこめて,本の森厚岸情報館の宿題としているところである。

 

(こすぎ もといち : 本の森厚岸情報館)
[NDC9 : 012.29 BSH : 1.地震災害 2.災害予防]

 

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図書館雑誌 2005年5月号

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