[特集]図書館と災害被害・その教訓


新潟県中越地震発生

−本当に起きてしまった−

久保田昌代


◆地震発生

 2004年10月23日(土)午後5時56分,新潟県中越地震発生。長岡市は震度6弱,震源地の川口町や隣村の山古志村では震度7を記録しました。本震の直後にも強い余震が続けて発生,なかなか余震が収まりませんでした。

 長岡市では,駅より東側の山側に近い地域で著しい被害が発生しました。

 長岡工業高等専門学校(以下,長岡高専)も,長岡市の東側,市街地が見渡せる高台にあります。校舎を造るにあたり,山を削り,低い部分にその土を盛り,敷地を造成したそうです。また,長岡高専の近くには断層があるという条件も重なり,大きな被害を受けてしまいました。

 

◆閉館後,けが人なし

 図書館にとって地震発生時間が,土曜日の午後5時56分であったことは,不幸中の幸いとしか言いようがありません。

 平日の開館時間は午前8時30分から午後9時まで,土曜日は午前9時から午後5時まで,平日の夕方と土曜日はアルバイトの学生1名が担当しています。平日だったら…。もう少し早い時間だったら…。地震後の図書館に入ってそう思いました。

 

◆被害状況

 まず,図書館の建物ですが,補修をすれば使用できるとの判定をうけました。しかし,図書館の南面にあり渡り廊下でつながっていた学生食堂や福利棟は,地滑りのため陥没し,取り壊すことになりました。地震直後は,図書館の基礎部分は剥きだし状態でした。壁面や床などにも細いひびが入っています。

 次に図書館内部ですが,2階にある書庫の書架はスチール製の単柱複式書架で,天つなぎ・床固定でしたが,全部連なって倒れてしまいました。書架の並び方向への揺れが激しかったのか,一部は窓ガラスを突き破り,図書が外に落ちてしまったものもありました。また,閲覧室と書庫との間のパーテイションを強く押し,破損・ゆがみ等の被害が発生しました。写真2のように,書架はまったく使用できる状態ではなく,撤去することになりました。新しく設置する書架は,揺れに強くするため複柱の書架にする予定です。

 閲覧室の木製書架についてですが,正直なところ地震対策を施しておらず,他の図書館に問い合わせをして,どのような対策をとるか検討している段階でした。現状としては,背あわせにして並べてあるだけで,地震によりほとんどが倒れてしまいました。その中に,背あわせにして頭をつないであるだけの書架があったのですが,これは転倒を免れました。

 

Image

▲写真1.陥没した渡り廊下:図書館の建物と食堂などをつなぐ渡り廊下が離れていってしまいました。

 

 参考図書用の低書架も,やはり転倒や移動がありました。これらの書架も背あわせにして配置してあるだけでした。

 

Image

▲写真2.書庫内:スチール書架はゆがんで使用できなくなりました。

 

 ラウンドケースについては,転倒はなく図書もほとんど落下していません。

 書架を再設置するにあたり,壁止め,床止め,頭つなぎなどの地震対策に万全を期すつもりです。

 

Image

▲写真3.閲覧室内・木製書架:頭をつないだものだけは倒れずにありました。

 

 次に1階にある集密書架の様子ですが,基礎部分には被害はなくレール等は無事でしたが,移動棚の部分がずれてしまい,開閉ができなくなりました。本震や度重なる強い余震で縦揺れがあったため,移動棚の下にも図書が挟まってしまいました。

 図書についてですが,落下の際に裂けたもの,挟まれてゆがんだもの,また,研究室で水浸しになったものや避難所で紛失してしまった等の連絡を受けています。

 現在,一部の図書を除き,閲覧室,書庫,集密書架の図書は,箱詰めして貸倉庫に預けてあります。分類番号順に秩序だって詰めたわけではないので,書架に戻す作業は大変な作業になると思います。

 

◆地震後の動き

 今回の地震の特徴である,度重なる強い余震のため,建物の被害判定がすぐにできず(調査した後で,強い地震が起こるため再度調査が必要),なかなか図書館内に立ち入ることができませんでした。10月29日長岡高専にも避難勧告があり,30日に長岡市内にある長岡技術科学大学(以下,長岡技科大)に事務部が仮移転し,その後12月20日高専復帰までお世話になりました。

 学生については,本科5年生と専攻科生は12月6日から長岡技科大で授業・研究を再開し,2004年度中はそのまま長岡技科大に残りました。4年生以下は翌年1月4日から,長岡高専で使用できる教室,会議室などを使い授業を再開しました。

 図書館は,地震後から1月4日の授業再開まで閉館,1月から開館を再開しました。図書館の補修のため,大部分の図書を貸倉庫に預け,参考図書,一部の専門書,雑誌等を配架できるだけの学習図書館程度の機能でした。しかし,このような状態でも通常の月と同様の入館者数がありました。床も剥げ,寒い図書館ですが開館できてよかったと思います。その後2月14日から3月末まで,補修工事のため閉館しています。

 

Image

▲写真4.カウンター付近:スチール書架がカウンターに向かい倒れてきて,載っていた本はほとんど落ちてしまいました。誰もいなかったことが本当に幸いでした。

 

Image

▲写真5.破損した図書:棚の下敷きになったり,他にも多くの本が破損しました。

 

 

◆県内大学図書館の支援

 仮移転先の長岡技科大図書館では,利用者データを登録して,自大学の学生と同様に利用できるよう配慮していただきました。新潟大学や上越教育大学からも同様に利用できるとの声をかけていただきました。高専学生の出身地は,県内全地域(一部は県外)に及ぶため,地震で自宅に戻っている学生にとっては非常にありがたいことです。

 また,新潟県には県内の大学,短期大学および高等専門学校図書館で組織している新潟県大学図書館協議会があり,その中に「災害時における図書館協力等のマニュアル」があります。今回初めての適用となりました。連絡体制については,県内を上越・中越・下越地区に分け,地区連絡館を置き,その上に各地区を統合したセンター館を置いてあります。

 今回はセンター館の新潟大学が,中越地区の図書館と連絡をとり,また,図書館の被害状況を視察調査し,加盟館に被害状況や支援状況等について連絡してくださいました。

 協力体制としては,相互利用による支援があり「被災大学等学生の避難先に所在する各館は,利用について受け入れ支援するものとする」とあります。特に被害の大きかった,本校および長岡大学図書館は,このマニュアルに基づき,加盟館に学生の利用について配慮をお願いし,協力していただきました。

 その他に,図書を詰めるための段ボールやガムテープなどの支援物資,図書館補修後の図書の整理等,人手による支援の申し出も受けています(後日,県内11大学図書館から延べ33名の方のご支援をいただきました)。

 

◆技大・高専メーリングリスト

 長岡技科大主催で豊橋技科大,高専図書館が参加しているメーリングリストがあり,普段から意見・情報交換等また業務上の連絡に利用しています。今回も長岡技科大・長岡高専図書館の被害状況や提供できないサービスの状況を素早く連絡することができました。

 このように連絡体制を整えておくことは,とても大切なことだと,あらためて認識しました。

 また,みなさまからお見舞いや,激励のメールをいただき感謝しております。

 

◆長岡高専図書館の今後

 4月1日からの新図書館オープンを目指していましたが,図書の配架等に手間がかかり,実際には少しずれ込みそうです。

 自動ドア設置,冷暖房装置の更新,新書架の設置,天井の張り替え等,関係者のご努力で図書館はよみがえります。

 私たち図書館員は,本のない図書館,利用者と接することができない日々を経験し,日常のありがたさを再確認しました。学生たちからは,いつから図書館を利用できるのですか? いつから本を借りられるのですか? と質問を受けます。図書館の再開を待ち望んでいてくれるようです。今後は一新された施設同様,サービス面でもより一層の充実を目指し,図書館員一同努力していく所存です。

 新潟県中越地震に際しては皆さまからあたたかいご支援をいただき,心から感謝申し上げます。

*写真撮影・高橋愛美(長岡工業高等専門学校庶務課図書係)

 

(くぼた まさよ : 長岡工業高等専門学校庶務課図書係)
[NDC9 : 013 BSH : 1.地震災害 2.大学図書館−新潟県]

 

[ページの一番上へ戻る]


図書館雑誌 2005年5月号

Copyright (C) 1998-2005 Japan Library Association
All rights reserved.