[特集]図書館と災害被害・その教訓


新潟県中越地震における
公共図書館の被災と復旧状況レポート

本誌編集委員会


 新潟県中越地震の被害実態については,新潟県立図書館のホームページにて状況がとりまとめられ,数度の更新によりその様子が報告された。今回,特集にあたって現地調査を行った背景には,これらの情報に加え,相当期間復興に専心された後再開にこぎつけた現地の担当者の生の声と元気さを全国の読者に伝えるべきだと判断したためである。取材は,西野,南田があたり事務局担当者が同行した。

 諸般の事情から日帰りの取材となり,十日町市,川口町,小千谷市に調査対象を絞らざるを得なかった。また,移動の際は現地の図書館関係者の多大なご協力を得て,雪多き国での強行日程をこなすことができたことをあらためて感謝とともに付記しておきたい。

 

十日町情報館(図書館)

◆図書館の概要

 1999年開館。建築面積3,138m2,延床面積4,499m2(地上2階・RC一部PC造)。内藤廣建築設計事務所設計。

 

◆被害状況

 2004年10月23日土曜日,午後5時56分に最初の大きな揺れが起きた。

 情報館(図書館)は開館日であったが土曜日のため午後5時で閉館していた。当時は館内に職員4名がいたが利用者はいなかったため,人的な被害はなかった。

 

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▲写真1.書架より落下・散乱した図書

 

 建物および付帯設備の被害としては,スプリンクラーの本体を支える鉛管のつなぎ目部分(ほぼ天井全体)の破損による水の飛散が最も大きく,つづいて防炎のため設置された上部間仕切りガラスの破断・落下(数か所)があげられる。スプリンクラーの破損による大量の水の飛散はほぼ床全体に及び,軽食コーナーはプールのような状態となった。開架資料(本,視聴覚資料)の半数(約4万5000点)は床に散乱し,このうち,約2万点と利用者用など30台近くの端末が特に酷い冠水被害を受けた。建物構造部分では,柱部分に細い亀裂が走っている。屋根部分に少しずれが認められ,豪雪地帯のため雪消えを待って大がかりな屋根修繕工事を行う予定であるが,いずれも致命的なものではない。

 

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▲写真2.地震時に破損したスプリンクラー(現在は復旧)

 

 

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▲写真3.スプリンクラー破損により水びたしとなった床

 

◆復旧活動

 復旧活動はただちに始まったが,散乱しなかった資料もかなりの湿気を帯びているので,散乱し水を吸い込んだ資料とともに,開架資料すべてを場所を移動させての乾燥,床(じゅうたん)の吸水および乾燥,建物付帯設備の復旧工事などが主な内容となった。資料の乾燥には最も神経を使い,扇風機などを動員し自然乾燥を心がけた。それでも7000冊以上の資料は使い物にならず廃棄処分となった。資料の乾燥・配架,スプリンクラー復旧などの内部工事の終了により,2005年2月1日から図書館を再開。

 

◆手当てと復興支援

 「激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律」第16条において,図書館などの社会教育施設の激甚災害に際しては,「建物,建物以外の工作物,土地及び設備の災害の復旧に要する本工事費,付帯工事費,及び設備費について」国から地方自治体に対し「その3分の2を補助する」との規程があり,これにもとづき厳しい財政状況下において一定程度手当てがされる可能性がある。しかし,水をかぶって使用不可となった資料費については,十分な手当てのめどは立っていない。また,図書館の再開が内部工事終了後予定どおりできた背景に,県内外から応援に駆けつけてくれたボランティア(延べ300名)の働きが大きかったことがあり改めて感謝したい。また,長野県が移動図書館「おはなしぱけっと号」を派遣して保育所等で読み聞かせの活動を行ってくれたことも大きな励ましとなった。

 情報館(図書館)そのものが館内に甚大な被害があり,被災者に対し閉館中は直接援助ができなかったが,駐車場を開放し臨時避難所として活用してもらったりした。また,被災された住宅に保存されていた古文書の散逸を防ぐため,古文書類の一時預かりなども呼びかけ活用されている。

 

◆今後援助を受けるとしたら

 水をかぶり利用ができなくなった資料の多くは,開架部分の実用書コーナーであった。取引業者(図書館流通センター)から,開館にあたって児童書を中心に新刊資料約2000冊の寄贈をうけ,非常に助かった。全国の図書館関係者からも実用書部門などの援助を期待したいが,援助にあたっては事前に相談をお願いしたい。

 

(文責・西野一夫(にしのかずお) : 本誌編集委員長,川崎市立中原図書館)

 

 

 

川口町図書館

 新潟県中越地震において震源地最大の震度7を観測した川口町は,十日町市・小千谷市等に隣接し,信濃川と魚野川が交わる場所にある。図書館は1980年に開館,町民文化会館の2階に設置され,延床面積219m2・蔵書冊数2万7000冊となっている。

 

◆被災直後の様子

 10月23日の午後5時56分ごろ,M6.8の激しい揺れが中越地方を襲った。

 川口町図書館では,開架書架の並ぶ部屋で資料を選び,別室の閲覧室で利用する仕組みになっている。このときは午後6時の閉館時間直前であり,開架室・閲覧室ともに利用者はいなかったが,貸出窓口を兼ねた事務室内の書棚が倒壊,貸出手続き中の利用者1名が軽傷を負った。開架室では真ん中に通路をはさんで平行に置かれたスチール製の書棚が,地震の衝撃ですべて横倒しになり,資料が散乱した。ガラスも数か所割れ,建物自体には大きな損壊はみられなかったものの,外部階段が一部破損した。

 なお,同じ建物の3階にある川口町歴史民俗資料館でも,展示ケースのガラスが割れ,地元荒屋遺跡出土の土器が壊れた。開館のめどはたっていないとのことであった。

 

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▲写真4.再配架のため別室に積み上げられた図書

 

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▲写真5.倒壊防止のためスチールの棒でつながれた書棚

 

◆復旧作業と復興にかかわる活動

 復旧作業の多くは,県の図書館協会の呼びかけによる応援や他県からのボランティアの協力で進められた。新潟県内から駆けつけた人たちが1週間にわたって作業にあたり,そのうち派遣されてきた司書が廃棄図書の選定を含めた除籍を手伝い,たいへん助かったとのことであった。また,延べ100人のボランティアが川口町災害ボランティアセンターから派遣され,開架室に散らばった図書を別室の閲覧室へいったん動かして積み上げ,書棚を元どおりにした後に図書を再度配架するという作業を行った。書棚の倒壊防止措置としては,書棚上部にスチールの棒を複数渡して金具で留め,それぞれを相互に支えている。県内からは,新潟市立沼垂図書館で取りまとめられた支援図書が寄せられた。

 図書館は地震直後,一時10人ほどが身を寄せる避難所として使われ,復旧作業を経て1月4日より開館した。取材時,来館者からは開館を待ち望んでいたという声が聞かれ,2月1日〜3月31日までの期間は,閲覧室を仮設住宅に住む中高生に夜間開放(午後6時〜9時)し,学習の場として毎日7〜8人が利用している。

 兼任職員1名での奮闘とあわせ,復旧までの過程には新潟県内から応援に集まった人や,各地から参集したボランティアの助力が大きく貢献している印象を受けた。

 訪問時にはところどころに住宅の一部損壊がみられ,長岡・小千谷・十日町・川口・山古志地区では地震で被災した100棟を超える家屋が雪により倒壊しているということであり,その増加が懸念される状況であった。

 

(文責・秦 秀文(はた ひでふみ) : 日本図書館協会事務局)

 

 

 

小千谷市立図書館

 

◆フロアに3人の利用者

 川口町図書館を後に越後川口駅から上越線で小千谷駅へと向かう。震災復旧工事のため特別ダイヤとなっており,約4時間ぶりの下り列車だが車内はガラガラだ。徐行運転で通常の3倍の所要時間がかかり,15分で次の小千谷に着いた。積雪はさらに増えて2m以上ありそうだ。小千谷市は今回の震災では,被害の中心地であり,ニュースなどでよく報じられた。タクシーで図書館へ向かう途中,商店街はシャッターを下ろしている店が多く,街は閑散としていた。しかし車内からみた限り,倒壊した建物などは見当たらなかった。

 小千谷市立図書館(延床面積1,658m2・蔵書冊数10万4000冊)では震度6強の地震に襲われた午後5時56分,図書館はまだ開館中で館内には職員,関係者を含め11人が残っていたが,フロアにいた利用者は3人(いずれも女性)だけだった。激しい揺れと同時に約8割の書架が将棋倒しとなり,児童コーナーでは窓ガラスが割れて破片が飛び散ったが,幸い利用者にけがはなかった。当時カウンターにいた職員が利用者に声をかけ,カウンター前に集まってもらい,大きな余震が治まるまでの間,1時間ほど様子をみたという。外を見ると電柱が傾き,電線が大きく垂れ下がって危険に感じ,どこに避難誘導すれば一番安全かと考えた。しかし実際のところ,気が動転してどうしてよいか判断できず,激しく続く余震の恐ろしさもあって動くことができなかった。

 地震と同時に停電したが,非常灯が点灯したため,館内が真暗になることはなかった。「もし,あの地震があと1時間早かったらと考えるとぞっとします。たくさんの利用者が残っていなくて本当に良かった」と職員の方は当時のことを振り返り語られた。

 

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▲写真6.窓ガラスが割れて飛散したおはなしのへや

 

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▲写真7.書架が到壊した郷土資料室

 

 

◆建物,資料には致命的な被害なし

 建物の被害の概要は別表1のとおりである。この図書館は1978(昭和53)年に開館しているが,3年前にエレベーターを新設している。このエレベーターホールが今回の地震により母屋(図書館本体)からわずかに離れてしまい,天井がポッカリあいて隙間から青空が見えたという。また,隣接する市民会館の2階との間に設けられた連絡通路(渡り廊下)も危険な状態にあり,現在使用禁止となっている。このように増設,増築した部分と本体との接続部分に地震で大きな力が加わり破損,崩壊などの被害を受けているが,大改修を必要とするような被害は受けていない。

 

別表1.小千谷市立図書館の被害状況(訪問時)

1

エレベーター

新設部分が母屋から離れる

扉が破損し,天井ボードと照明器具が落下

2

窓ガラス

数箇所破損

3

誘導灯

数箇所破損

4

壁ひび割れ

数箇所

5

図書館碑

ずれて傾く

6

隣接施設への渡り郎下

破損大,現在使用禁止

7

書架

雑誌架2台,スチール書架14台破損

書庫の電動書架破損大

8

水道管

損傷大

9

トイレ・下水道管

下水道管の損傷大

現在トイレは使用禁止,タイルのひび割れ数箇所

 

 書架は転倒防止策が施されておらず,倒壊したため,余震などに備え,現在は連結して使用している(写真8)。なお,裾の広がっている木製書架は転倒を免れている。また,児童コーナーの窓ガラスが粉砕し,絵本の上に降り注いだため,これを丁寧に除去するのに苦労したそうだが,破損,汚損等によって廃棄した図書資料はないという。

 電気の復旧までには数日を要した。阪神・淡路大震災の際には,電気が復旧し通電した際に,ショートするなどのトラブルがあったそうだが,その教訓が生かされ,通電作業は慎重に行われ,トラブルはなかったという。コンピュータも端末が落下したり,固定していないサーバーが倒れたりしたが,心配されたデータやマシン自体にも被害はなかった。

 

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▲写真8.転倒防止のため連結された書架

 

 

◆復旧作業に250人のボランティア

 震災による休館期間は11月23日までの31日間におよび,24日から一部の利用を開始,12月1日からは平常どおり業務を再開した。復旧活動には図書館職員も動員されたため(別表2),隣接する小千谷小学校避難所運営業務に携わりながら図書館復興も並行して進められた。

 

別表2.復旧作業中の職員体制

1

地震発生〜10月末

全図書館職員が避難所運営業務に従事(避難者最大1,200人)

2

11月1日〜11月中旬

図書館の大半の職員が運営業務に従事

1〜3人の職員は交代で図書館の復旧作業にあたる

3

11月中旬〜11月末

避難所の勤務体制が縮小,3日に1回程度の勤務になる

避難所の勤務時外は図書館の復旧作業にあたる

11月30日で図書館職員の避難所勤務が修了

 

 また,期間中延べ250人のボランティアが図書館の復旧活動に携わった。「ボランティアの協力がなければ,このような早い再開はとても不可能でした」と職員の方は語られた。

 私たちが訪問した日にも,館内では補修工事がまだ進められており,3階の西脇順三郎記念室がまだ閉鎖中で,トイレが使用できない(隣接施設を利用)などの支障はあったものの,一般の利用には大きな影響はなく,平常どおり開館されていた。

 図書館として,今後の補修工事等の必要経費はまだ確定していないとのことだが,市全体で復旧に要する費用は膨大なもので,このために来年度の図書購入費は約50%削減される見込みとのことである。

*追記 3階の西脇順三郎記念室は,4月10日に再開した。

 

(文責・南田詩郎(みなみだしろう) : 本誌編集委員,朝霞市立図書館)
[NDC9 : 013 BSH : 1.地震災害 2.図書館(公共)−新潟県]

 

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図書館雑誌 2005年5月号

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